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エルアラメインの魔女第一話(ある冒険者の事情)

アルナロックは青の大陸から伝わった魔法により栄えた強国だった。


代々の国王は良く君臨し、国力を多いに高めた。


だが、アルナロックに戦乱の兆しがある事をほんの一握りの者が知っていた。


この冒険壇は一人の若者と一人の少女の物語である。


物語はアルナロック西方のエルアラメインから始まる。


俺は憂鬱だった。そこは何度行っても憂鬱だった。俺の職業が傭兵で、そして魔法戦士だからだ。


魔法戦士と言っても、俺が使える魔法はライティングやスリープと言ったレベルの低い魔法ばかりだ。一方、剣士としての腕前には自信がある。俺を負かせる戦士はそうざらにはいないだろう。実際、負けたのは俺の剣の師であるヤンベルグシュタット位だ。


では魔法戦士では無く、戦士となれば、良いだろうと誰もが思うだろう。


正直、出来るものなら、そうしたい。


だが、そうはいかない事情がある。それは、俺が魔法学校を出ているからだ。


この国アルナロックでは、魔法学校を出た者は全て、魔法ギルドの支配下に置かれる。ギルドに登録無く、この国で魔法を使うことは禁じられている。破れば重い罰が待っている。


俺は15歳の時に魔術の才能を見出され、魔法学校に入った。しかし、全く才能が無く。ほんのわずかな魔法だけ習得して卒業した。


俺の様な残念な魔法使いは少数だがいる。俺達の様に魔法に全く才能が無い魔法使いの職業は魔法戦士なのだ。


魔法学校は剣術も教える。護身術としてだが、俺の場合、こちらが本業になるのは間違いないので、必死に学んだ。


最初は魔法戦士としてギルドで仕事をもらい、他の戦士や魔法使いと共に戦う事に誇りすら感じた。何故なら、魔法が使える戦士は便利な事この上無い。


最初の頃、俺と組んだ傭兵隊は皆、俺に感謝したものだった。


しかし、傭兵隊のレベルが上がるにつれて、俺の魔法は全く役に立たなくなる。そして、皆の尊敬は落胆へとかわっていく。一方で、最初、足手まといの魔法使いは、絶大な力を発揮する。


魔法学校を出てから、何度も傭兵隊を転々とした。熟練した傭兵隊に俺は必要無いのだ。又、人々が俺達魔法戦士に嘲りや、同情を持っている事を学んだ。


そんな中で、又、憂鬱な時が来た。俺は新しい傭兵隊に入る為、エルアラメインの魔法ギルドを訪れた。魔法ギルドでは、俺達魔法戦士は目立つ。魔法学校を出た者は青い五芒星の描かれたマントを羽織る。


普通の魔法使いはローブ等装備は軽い。しかし、事実上の戦士である俺達魔法戦士は重い甲冑や大刀を装備する。華奢な魔法使いの中に重装備の戦士が混じると目立つ。その癖、青いマントだけは同じなのだから、始末に悪い。又、嘲りと同情を受けるのだろう。


魔法ギルドで先ず登録をする。新しい傭兵隊が気の良い奴らばかりだと良いのだが、そう思いつつギルドのおやじに話しかける。だが、最悪な回答が来た。


「魔法戦士の求人は無いよ。ここらの傭兵隊は皆レベルが高いから、あんたら魔法戦士に仕事は無いよ。気の毒だが、他の街に行ってくれな。」


これまで、これ程ひどい扱いのギルドはなかった。さすがに腹がたったので、おやじに文句を言う。


「本当に確認したのか?台帳も見ず、答えるなんて、いくらなんでもひどいじゃないか。せめて、台帳を見てくれ。」


「いや、本当に無いんだ。最近は見た事が無いんだよ。悪く思うな。嘘だと思うなら、おや?」


おやじは驚いた様な声を出す。


「すまない。本当に見落としていた。あるよ、求人が。だが、本当に今日の朝迄は無かったんだ。信じてくれ。」


俺はおやじの言う事は訝しいんだが、求人がある事自体には安堵した。


「ある事はあるのだが、条件があるんだ、もし条件にあわなければ勘弁してくれよ。」


「で、どんな条件なんだ。」


「王都の魔法学校出身で、25歳の魔法戦士だとさ。意味が分からないな。あんた条件に合うのか?」


「俺は王都の魔法学校出身だ。歳は確か先日25歳になった。」


「本当か?お前さん運がいいな。驚いたよ。じゃあ登録するかい?」


断る理由等ある訳も無く、承諾し、登録を済ませた。


この日はここまでだった。ギルドのおやじが手配を済ませてくれたが、求人の相手は明日会うとの事だった。


この日は馬小屋で1泊した。


次の朝、汗だくでおきた。又、嫌な夢を見た。いつもの魔法学校時代の夢だ。魔法の才能の無かった俺にとって、魔法学校は当然居心地の良いものでは無かった。この日もいぢめられた夢を見た。魔法でなぶられる夢だった。忘れたい事程忘れられないものだ。


朝、朝食を済ませて魔法ギルドに向かった。魔法ギルドで依頼人に会う約束だ。


「よう、ラッキーな魔法戦士。よくきたな。待ってたよ。」


ギルドのおやじが軽く言う。


「来るに決まっているだろう。他に仕事が無いのだからな。」


「まあ、怒りなさるな。俺がラッキーと言ったのは別の意味だ。」


別の意味?俺は一瞬、怪訝に思うが、深くは考えなかった。


「まあ、会えば判るよ。もう先方は来ているよ。客間で待っている。早速会いなよ。お前さんがOKなら、直ぐ契約だ。」


おやじに案内され客間に入り、待ち人を見た瞬間、驚いた。おやじが言った意味でのラッキーについても驚いたがもっと驚くべき事があった。ちなみにおやじの言ったラッキーとは先方が非常に美人だった事だ。


彼女は魔法戦士の様だった。魔法のかかったショートソードに皮の甲冑を装備している。だが。。。


彼女は青いマントを羽織っていなかった。ありえない話だった。少なくともこのアルナロックでは。。


俺の驚きはまだ続いた。彼女は唐突に話した。


「もしかして、ガウディ?ガウディでしょ?」


確かに俺はガウディという名前だ。しかし、何故、俺の名前を知っているのか、一瞬判らなかった。


しかし、ふと、思い出した。そう、彼女が誰なのかを思い出した。


「フェンディかい?あのおてんばのフェンディか?」


「誰がおてんばよ?怒るわよ。誰のおかげでおてんばになったと思うの。」


彼女は俺の子供時代の幼なじみだった。何時に頃からか、王都で一緒に遊んだ。とても良い思い出だ。何故今迄思い出さなかったのだろう。あんなに良い思いでなのに。本当に嫌な事は何時までも忘れられないのに。


彼女とは15歳迄の付き合いだった。俺が王都の魔法学校に入学し、寄宿舎に入ってから一度も会っていなかった。俺の家は貧しかった。1人少ないだけで家は助かる。魔法学校は無料なのだ。そして、俺の夢は王立魔法兵団に入り、両親に楽をさせてやる事だった。むろん、はたせなくなったが。。。


「悪い、つい昔の感じで話してしまったよ。ごめん、ごめん。すっかり美人になったんだな。見違えたよ。」


「あら、急に調子いいわね。判った。許してあげる。まあ、あなたなら調度良かったわ。」


「お二人さん知り合いだったのか?まあ、つもる話はあるだろうが、とりあえず、契約を先にさせてもらえないか?その感じならお互い依存は無いのだろう?」


俺はおやじの存在を忘れていた。


俺たち二人は契約を済ませるとひたすら話した。まるで10年の年月を埋める為の様に。


昔の冒険やいたづら等だ。ひたすら話していたら、すっかり夕方になった。そして、気がついた、仕事の話だ。


「そういえば、契約の話とお互いのスキルについてはなさなきゃ。もう夕方だよ」


「いやだ。私もつい夢中になっちゃた。ごめん、ごめん。じゃ。先ずはスキルから。私は魔法戦士。レベルは9よ。」


「それなんだ。最初驚いたよ。君は青いマントを持たないじゃ無いか?魔法学校を出たら青いマントを装備する事を義務付けられているはずだ、君は何故魔法戦士なんだい?」


「簡単よ。私は魔法学校を出ていないの。独学で魔法を学んで、でも本当は剣の方が得意なの。普段は戦士として登録しているわ。今回は依頼内容から魔法戦士として登録したの。」


「そんな事があるんだ。初めて知ったよ。確かに魔法学校を出ていなくても魔法を使える人はいるからな。驚いたよ。」


「俺は魔法戦士、レベルは3だ。最近全然成長してないな。」


「あなたは、あなたよ、気にしちゃ駄目よ。それより契約内容を伝えるわ。ミッションはエルアラメインの森の魔女を捕らえる事よ。最近エルアラメイン周辺で悪さを始めたらしいの。依頼人はエルアラメインの領主、シュツットガルド公よ」


「シュツットガルド公か、かなりの臆病者との噂だな。だが、庶民には優しいそうだから俺は好感が持てるな。しかし、エルアラメインの森の魔女か、ちょっとおかしいな。王都で学んだ記憶では彼女は庶民を救う良い魔女との事だった」


「それが、悪さをするから、捕らえて詰問するのよ。討伐では無く、捕らえるのはその為よ。


「判った。ミッションは了解した。明日は手始めに近くの森でモンスター狩りをしよう。先ずは戦いの連携確認だな。」


「了解。お願いします。」


俺たちは宿に泊まった。もちろん別々の部屋だ。こんなに楽しい気分になったのは久しぶりだった。


彼女の方がレベルが上なのに、だまって俺の方をリーダーとして認めてくれた。


だが、俺も自信はあった。レベルが上がらないのは、魔法が上達しないからで、戦士ならレベル9の者にも負けた事は無かった。彼女はレベル9だから、戦士としても魔法使いとしてもレベル5位という事になる。


だがレベル9の魔法戦士を初めて見た。俺と同様、大抵の魔法戦士は傭兵団を転々として、あまりレベルが上がらないものなのだ。やはり、魔法に対するトラウマがあり、傭兵団にとけ込めないのだ。レベルを上げるには多くの経験が必要なのだ。


その日の夜、俺は久しぶりに魔法学校の夢を見なかった。代わりに少年時代の楽しい夢を見た。


こうして2人の魔法戦士の物語が始まった。そして、2人にはこのアルナロック未来を左右する大きな冒険が待っている。今、アルナロックに時代が変わる風が吹いている。その中心にこの2人がいる事を誰も知らない。

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