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#4 害悪なる鋳薔薇姫

やっとこさ中間地点までやってきました。茨の処理は果たしてうまくいくのでしょうか?


 翌日ファルクはやけに早起きだった。エンヴィルを連れてアベルの屋敷ドアを叩いた。リビングにはアベルの祖父が暖をとっていた、軽く会釈すると吐き気がしそうなくらい長い大理石の廊下を歩き続けアベルの部屋の前までやってきた。時間はまだ昼を回るには遠く及ばない。

「おい。弾丸取りに行くぞ!」

 明るい声がアベルの書物が高く積み上がる部屋に響く。

「まだ、昼前だぞ?」

 眉間のしわをさらに深くして睨みつけながら自室のドアを開ける。前にはハルクではなくエンヴィルが立っている。

「エンヴィル?」

「すみません。かり出されちゃったんですよ。」

 ばつが悪そうに笑顔を浮かべると視線を上げた。先にはもと来た廊下を、ステップを踏みながら戻っていくファルクが目に入った。

「アイツ…。」

 何もかも飲み込んでしまう様な深いため息のあと上着を羽織り、自分の長剣をホルダーごとかっさらうと楽しそうなファルクの後を追った。エンヴィルはエリックの所へ行くと告げ、アベルと別れた。

 大通りを抜けると路地に入り、リンの店の前まできた。ファルクがいない所を見ると、もう既に中に入っているのだろう。

涼しげに入り口のベルが鳴ると怒号が飛び交う店内。

「コレを取りに来ただけだろう?」

 リンがファルクに弾丸の入ったケースと渡そうとした。瞬間にファルクがリンの細くて白い手を握る。

「その眉間のしわを何とかしてくれないかな?」

「受け取ってさっさと帰れ。色ボケ人狼!」

 リンのこわばったハスキーボイスが店内に響く。今日もオーナー夫婦は不在らしい。

 アベルがいい加減にしろと言いかけた瞬間店のドアのベルが涼しい音を立て、リンのマシンガンとは別の冷たい音がファルクの耳元に突きつけられた。

「その手をはなせよ。お客さん?」

 アベルよりも若干身長が高い退魔装束に身を包んだ青年がファルクの顳顬にライフルを突きつけて、冷たい笑顔を浮かべている。

「アレックス!」

 リンが名前を呼ぶと青年はニコリと笑って店のカウンターの内側に入った。

 彼の名前はアレックス・アトキンス。リンの悪魔狩りのパートナーである。

 ファルクがさも残念そうな顔をすると、アベルが言葉を発した。

「すまないな。昨日頼んだものを取りに来た。」

「ああ。出来上がっている。」

 リンはファルクに渡した箱とは別に木箱に入ったオーブを見せて確認をした。

「間違いなく炎だな。ありがとう、助かるよ。」

 アベルの浅い笑いを受けて、リンのこわばった顔が少しゆるんだ。

 アベルは踵を返し店のドアへ向き直った。ファルクはアレックスにしっしと言われすごすごと店の外へと出て行った。

「なんだ?何か不満か?」

「ああ不満だね。お前さんの眉間のしわといい、リンちゃんとの麗しい時間を邪魔したあの男といい…。」 

煙草に火をつけて舌打しながら文句を言っているファルクを背に大通りを横切ってエリックの店へ向かった。

           

 店にはアリーナがいて、槍の出来るのを待っている。作業しているエリックは誰の声も聞こえない。アベルの声すらも聞こえない。

「どうだ?」

「もうすぐみたい。なんだか私の為に徹夜して刃を鍛えてくれて。」

 ファルクとアリーナの会話に珍しくアベルがくちばしを挟んだ。

「アイツは、男所帯で育ったから、女性が苦手なんだ。それだけじゃなく女性の武器というのは細心の注意を払って作らなければならないというのもわかっているから、嫌だと言ったのだろう。」

「私も、あんな真剣なエリック久し振りに見ましたよ。アベルの剣を鍛えているとき以来ですね?」

 エンヴィルが楽しそうに奥からティーカップを持ち出すと、奥から元気に声が上がった。

「できた!」

 勢い良くエリックが作業場の扉を開いた。

「徹夜しちまったけど。出来ました!ちょっと持ってみて。」

 エリックの武器のデザインセンスにはいつも驚かされるエンヴィル。アリーナに打槍を手渡すと嬉しそうに椅子に腰をかける。

「軽い?でも刃先はしっかり重みがある…。」

「女性用は軽いだけでも重いだけだけでもダメなんだ。」

 アリーナは微妙な重さのさじ加減にも感心したが、それ以上に細かい細工のしてあることに目を奪われた。

「スゴくきれい…」

 刃先は目が覚める様なコバルトブルー持ち手の部分は滑りを止める為に彫刻がされている。とても一日でできる仕事ではないが、エリックはこなしてしまう。持ち手の後ろに法力の結晶をはめ込む為にホルダーがある。

「ありがとう!」

 アリーナの心からのお礼と笑顔に戸惑うが、鼻の下をこすってどういたしましてと小声で呟いた。

 エリックの店を出ると四人は酒場へ向かった。

「月が出る時間にならないと、イバラは超えられません。」

 エンヴィルが口火を切ってそう言った。

「月が出れば燃やせんのか?」

 ファルクが煙草を吹かしながらエンヴィルに目線を流した。

「今日は満月です。もう一つ厄介事があります。」

「『イバラ姫』か?」

 アベルが低い声でエンヴィルに言葉を投げた。

「『イバラ姫?』」

 アリーナが天井が抜ける様な声でアベルに聞き返す。

「イバラの化身。まぁ、呪いの固まりみたいなダーカーです。」

「満月の夜は、異形のものの魔力が強まる事は、知っているだろう?」

 アベルがアリーナに目線を落す。首を縦に振るとエンヴィルの方に身体を向き直した。

「満月の魔力を大いに吸ってイバラの呪が動き出すんです。まぁ燃やしちゃえばいいんですけどね。」

 楽しそうに話すエンヴィルだが、瞳は冷たいものを讃えていた。眼鏡の奥の瞳は異形のもの。自分は今日、参戦できない。それをアベルに目で訴えているようだった。

「三人で、何とかするしかないからな。」

 アベルがアリーナとファルクへ向かって話を始めた。

「あんたは?」

 ファルクがエンヴィルの顔を覗き込むと鼻で笑うように答えた。

「私は別件がありますので。」

 そういうと椅子から立ち上がり酒場を出て行った。

「さて、着く頃には月が拝めるだろう。」

 アベルが席を立つと二人が後を追った。

 アベルが何かに気付くように一言漏らした。

「…アリーナ。俺はアベルで構わない…。」

 ファルクがその意味の重さにくわえていた煙草を落しそうになった。そしてそのとき初めて、アベルがアリーナを敬遠してはいなかったことに気付いた。アリーナはありがとうとだけ呟いて、彼の後を追う。


 夜に山中に入るのはよっぽどの手練でなければ危険極まりない。それは、熟練したダークハンターにしても同じ事だ。アリーナの家の山も例外ではない。いくらダークハントの名家と人間が讃えても、ダーカー達には全く関係のない事で、人間の近寄らない『試練の塔』の山は夜になればダーカーの宴会である。

「…アリーナ。」

 アベルがアリーナの名を呼ぶと何かを放り投げた。アリーナの手にすっぽりとは入ったそれは、深紅の炎を讃えたオーブ。

「コレが法力の結晶?」

 アベルは質問には答えなかったが、アリーナにはそれが最高の返答である。

「アベル。昼間のようにはたどり着けんぞ?」

 煙草の煙を不機嫌に吐き出すと、いつもとは違う形相でアベルを上から見下ろした。


「全部は相手にしきれんな。強行突破に近い、雑魚を相手にしている暇はないからな。」

「俺様に任しな。」

 アベルはその言葉に強く頷いた。

「行くぞ!」

 山の中はダーカーの巣窟とかしていた。アベルは器用にダーカーの攻撃をかわすと、剣を軽く回し、向かってくるダーカーをもの凄い早さで切り落として行く。

 アリーナは打槍を丁寧にまるで、舞を披露するように振り回し、なぎ倒しながら、器用に木と木の間をすり抜けて行く。

「真打ち登場!お前ら、俺様の1発目の銃弾の音がなったら頂上の方へ駆け上がれ。振り向くんじゃねぇぞ!」

 ファルクは自分の胸元のホルダーからリボルバー式の銃を取り出し、見慣れない色の弾を装填した。

「いい夢見ろよ!お前ら!」

 そう言うと人間の目では確認できない早さで拳銃を構え、一度くるっと手元で回転させると一発ダーカーを打ち抜いた。

「Auf Wiedersehen ♪(さようならん♪)」

 弾丸は重厚な音を立てながらダーカーを貫いて行く。弾丸は一発で4、5匹のダーカーを貫いていく。ファルクの周りを固めていたダーカー達は霧散した。

「どうだね?リンちゃん特製光の弾丸のお味は♪」

 光の筋は数十匹いたダーカー達を一瞬にして消し去った。

「愛してるぜ♪」

 銃口の煙をふっと吹くと山頂の方へ凄まじいスピードで駆け上がって行った。

「ファルク!」

 アリーナの通る声が森の切れ目でファルクに声をかける。アベルが月明かりに銀色の髪を揺らして立っている。

「お待たせ。じゃあ御姫さんを倒しに行きますか。」

 空気が一瞬にして凍り付いた。昼間のイバラとは異なった様相だ。地面にしっかりと根付いていたはずのイバラが生き物のようにゆらゆらとそのとげを振り回すように揺れている。

「アリーナ。はめておけ。」

 アベルはアリーナに告げた。

 アベルは剣の柄の後ろに空いた穴へ、アリーナは槍の後ろにゆらゆらと揺れているホルーダーにそのオーブをはめ込んだ。

 ファルクはリボルバーをあけ、先ほどの弾丸とはちがう、真っ赤な弾丸を入れ直した。

「ファルク。」

 アベルがファルクの名を呼ぶと、ファルクは空砲を一発はなった。

 するすると布のこすれる様な摩擦音とともにイバラの中から人の影が浮き出した。髪全てがイバラで顔には魔族の紋章が浮き出ている。顔は整って入るが、目は明らかに人間のものではない。ふっと開いた口は真っ赤である。

 月明かりに照らされたそれは不気味に微笑むと、そのイバラを鞭のように使い、アベルの頬をかすめた。血を拭い丁寧に攻撃をよけながらアベルは本体へ近づいて行く。

 アリーナは槍で攻撃してくるイバラの鞭の雨を片っ端から切り落とし、空へ高く舞い上がり空中で一振りすると炎の刃が刃先から紡がれる。

「!」

 アリーナの放った炎を見上げたがアベルの存在に気付きイバラの姫君は向き直った。炎は、イバラの切っ先を切り落とし、その鋭さを失わせた。

 飛び上がったアリーナの足にイバラが絡み付き、地面に思い切り叩き付けられる。

「きゃ…。」

「アリーナ!」

 ファルクの声にニコリと笑うと、体制を立て直した。

 アベルは剣の切っ先をイバラの姫に突き刺して一歩後ろに下がる。苦しそうな歪んだ表情を眺めたが、すぐに再生してしまうそれをじっと見た。

(本体はコレじゃない?)

 アベルは腰に挿していた悪魔払い用のロザリオをイバラのそれに押し付けた

『ギアアアアア』

 なんとも表現しがたい声を上げ、胸元に付いた十字の焼き印を睨み、アベルの顔を睨みつける。

 アベルの付けた十字の焼き印がシルバーブルーの光を放ち、そのの筋が一本のイバラの茎を伝って地面に刺さっている。

「ファルク!」

「ほいさ!」

 アベルの呼びかけに待ってましたとばかりににんまり笑い銃を構えその光る先へ弾丸を撃ち込む。

 轟音とともに凄まじい青炎があがる。

 青炎を背に戻って来たアベルがファルクと手をバチンとたたく。

 アリーナはホッとした表情を浮かべ、イバラの燃え尽きるのを見ていた。

「まだ、本番はここからだ。」

 アベルの重い言葉が月明かりに照らされて、突き刺さるようだった。

 ごうんという重い音をさせて石ででできた扉をゆっくり押して開ける。

 中は以外にも静かで何か住んでいる様な気配はない。三人は細心の注意を払って中へ入り、扉を閉じた。

「懐かしいな。」

「そんな事言ってる場合じゃな…」

 口元に笑みを浮かべたファルクを叱咤しようとしたアリーナの目にあるものが飛び込んで来た。

「カイン!」

 呼ばれた青年は階段の踊り場をフラフラしている。こちらの存在には気付いてはいない。様子は明らかにおかしい。

「…何かが?」

 カインと呼ばれた青年の方へ向かおうとしたアリーナをアベルが静止した。

「カインが!弟が!」

「アリーナ、焦るな。様子がおかしい。」

 階段の後ろに回りしばらく三人は様子をうかがっていた。

鋳薔薇姫の下りは今でもありきたりだなと思ったり浅はかだったなと思ったり反省点ばかりです。

次にダークファンタジーに手を染めるときはもう少しひねった敵キャラを考えたいものです。

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