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#3恋人の願いは人として生きた証

仏頂面のカウフマン氏彼の過去にも色々あったのです。

 アリーナとエンヴィルをエリックの店へ送り届けると、ファルクは率先して歩き始めた。

「…どこへ行くんだ?」

 半分不機嫌とも取れる言い草だがアベルは本当に行き先を知らなかった。

「まぁ、付いて来な。」

 アベルはファルクの二歩ほど後ろを歩き、ファルクは後ろの事等気にもせずにずんずん歩いていく。街の中の大通りを横切って路地へ向かう。どうやら町外れへ向かっているようだ。しばらく歩くと、ガラスで出来た出窓に遣い羽が売りに出されている店の前で、ファルクが立ち止まった。

「ここだ。」

「…遣い羽等どうするのだ?」

「いいからいいから」

 ファルクは道すがら加えたタバコの灰を振り払い、くわえ直した。

 ドアを開けると涼しいベルの音と共に鉄を思わせる冷たい音が、ファルクの顳顬に突きつけられた。

「何の用だ?」

 男性のものとは違うハスキーな声が静かに向けられた。

 アベルは声の主の方へ目線をやるが、ファルクに助け舟を出す気は全くないようである。

「頼み事に来たんだ!その物騒なもんを下げてくれないか?」

 ファルクに銃口を突きつけたのはリン・アスクアットこの店のオーナーの下で悪魔ハンターをやっている。

 リンは眉間のしわをそのままに店のカウンターの中へ戻って行った。

「で?用件は何なんだ?」

「めずらしいな。アンタが店頭に立ってるなんて!」

「今日はオーナー夫婦が出かけているのだ。用件は?」

 どこかで見た事がある?

「その眉間のしわをやめてくれないか?きれいな顔が台無しだ!」

「用件は?」

 リンは用件をさっさと言ってさっさと帰れと言わんばかりにファルクを壁際に追い詰めていく。

 ファルクはそんなに身長の低くないリンの顎を取ろうと手を伸ばした瞬間先ほどよりも重く冷たい気配に気がついた。

「それ以上近づいたら、アンタの首ごと用件をぶっ放す。」

 彼女の右手にしっかり握られたのは、先ほど向けられたベレッタではなく、連射式のマシンガンである。

 見かねてアベルが間に入る。

「すまないな。用件は弾丸に炎の魔法を込めてもらうのと、炎の法力の結晶を作ってもらう事だ。」

 アベルが助け舟を出したのは、どちらかと言うとファルクではなくリンの方にである。

「ちぇっ」

 ファルクは舌打ちをして一歩下がった。

 リンはアベルの顔を覗き込み何かを確認すると頷いた。

「弾丸は、アンタのその銃用でいいのか?法力の結晶はあなたの武器にだな?」

「もう一人分もお願いしたい。武器は今制作途中なのでな。」

「わかった。明日の昼間には間に合うように用意する。くれぐれも気をつけて…」

 炎の魔法というだけで彼女には彼らが何と対峙するのかがわかってしまった。リン・スクアット彼女はこの国で唯一最高位の称号ケテルを持った魔法師である。アベルが顔を見た事があるのは事実で、彼女は元国家魔導士。

「コレを持って行くといい。」

 彼女はそう言うと自分のウエストに付けていた小さなバックから紐の様なものをアベルに差し出した。

「これは?」

「法錠だ。私の法がこもっている。いかなる異形のものもこの紐は切れない。コレがないと、おそらくそいつらにみな引きちぎられてしまう。」

「ありがとう。では明日の昼間にまた…」

 アベルはファルクの首根っこを掴むと勢いよく店の外へ飛び出して行った。

「アベル!」

 邪魔をしやがって!という用な物言いでアベルに食って掛かる。

「あんな絡まれ方をしたら俺でも同じ反応をするぞ。」

「お前は女じゃないだろう?」

「そう言う問題じゃない。」

 アベルがファルクの膝の後ろにけりを入れて、大通りの方へ向かった。

                          

エリックは店でアリーナの武器と奮闘していた。アリーナの腕の長さを測ったり、法の結晶をはめ込む場所を計算したり、打槍なのであまり軽く作る訳にも行かないが、女性用という事でかなり真剣に槍の先を磨いていた。

 店のドアがガラリと開き、大男が入って来た。

「あ!アベルさん!」

 眉間にしわを寄せていたエリックに笑顔が一瞬宿った。

「どうだ?」

 一言アベルがエリックにかけた言葉が、かれにとっては最高の労いになったのは言うまでもない。

「頑張ってくれてますよ。アベル、あなたは明日の為に早めに戻った方がいいのでは?」

 エンヴィルの言葉にアベルは頷いて、エリックとアリーナに明日とだけ告げ、店を出た。

 外はすっかり暗くなり、月が不気味な色で囁いている。

「…明日は満月か…良くない事が起きなければいいのだが…。」

 満月の前の不安定な月の形を見ると、昔の辛い記憶が蘇る。

「クラウディア…。」

 アベルの口から女性の名前が足下の水たまりの中に揺らめきながらこぼれ落ちて行くようだった。

                   


 アベルの住むこの国ザンクトゾイバー帝国には他の国にはない特徴があった。二つの人種が諍いなく暮らしている。一つはアベル達のような法力を持たない神人族、もう一つはリンの様な魔力を宿した魔法族。

 歴代の皇帝も魔法族で、国外で虐げられてきた魔法族に称号を持たせて統治していた。又、他国にはない力故、魔法族を狙い度々他国が攻め入って来たが皇帝の加護を受けた魔法師達が寝返る訳もなく、帝国は勝利を収め続けていた。

 アベルの幼なじみは魔法族であった。彼女が亡くなったのは彼がハントを始めた頃十年以上前の話。

 アベルはファルクと組む以前彼女と組んでいた。期間はさほど長くはないが…。彼女が十六になり帝国から魔法師の称号をもらってすぐパートナーとなった。

 彼女の両親はアベルの両親と同じくダーカーハント中に命を落とした。天涯孤独になってしまった彼女を不憫に思ったアベルの祖母が養子として彼女を迎えた。

 ある日、アベルは本業の悪魔払いで彼女との落ち合う時間に遅れてしまったため彼女はその間に一人で業をなしていた。しかし、彼女が思う以上に相手が厄介だった。相手は人間の身体を探していたヴァンパイアだった。

 アベルが彼女の元に着いたとき、彼女は魂を抜かれヴァンパイアの魂を入れられていた。アベルは彼女の魂を取り戻そうと彼女が相手にしていたヴァンパイアと戦ったが、逃してしまった。

 彼女は分の身に起こる事を理解してアベルに自分を殺すように声にならない声で懇願した。

 アベルは、そんな事は出来ないと何度も首を横に振った。彼女の遠のく意識は最期にはっきりとした言葉を放った

『帝国の魔法師として、ダークハンターとして、人間として最期を迎えたい。』

 自分の魂は魔力を宿している。だから悪用される…だから…

 アベルは涙を止められなかった、自分はなんと無力で小さいのだろうとそんなアベルの頬を伝う涙を彼女が拭き取って最期にもう一度声を出した。

『私は、あなた共に。』

 アベルは彼女の白いのど笛に剣を突き刺した…

「…嫌な月だ…」

 アベルは昔を振り返る事を止め、胸の中に下げる彼女のロザリオを軽く握った。

各々キャラクターの背景は追々掘り下げてまいります。

もちろん女性キャラも掘り下げていきますよ

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