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#1気難しいダークハンター

気難しく、重い過去を背負ったダークハンターの青年の成長。

生きる目的を失っている彼がこれから何を糧に生きていくのか

俺は大きな間違いを犯したのかもしれない。

それはこれから起こることの前兆なのか、はたまた単に俺の考えが浅はかだったことなのかはまだわからないが…


 街の酒場の入り口で、入るか入るまいか悩みあぐねいでいる。

 彼の名前は、ホイス・アベル・カウフマンこの街一帯を収める辺境伯である。彼の傍らには方眼に紋を施した眼帯をしている少女がいる。彼女の名前はクラウディア・シュミットしかしながら、これは彼女の本当の名前ではない。アベルが付けた名である。

 彼女は言葉を発しない、いや発せない。

 アベルとクラウディアが出会ったのはほんの三日前の事である。


「何でお前はいつも、そんな面してんだよ!」

 決して愛想の良い方でないアベルに怒号を飛ばすのはお世辞にも品行方正とは言えない彼の名前はファルク・ホッヘバイン。酒場の一番奥の席を陣取って酒を煽っている。アベルのダークハント仲間である。

 アベルの家は、辺境伯であるとともに悪霊払いやダークハンターとしても名をはせ代々その役割を担って来た。

 ファルクは大きな氷の入った琥珀色の液体を口の中に流し込みながら、アベルの眉間のしわについて説教を垂れている。

 ダークハントは客商売。愛想がいい方が客受けもいい上に仕事の依頼も増える、そんな事はどの世界どの商売でもそうだと思うが、アベルには苦手な者のうちの一つだった。

「まったく。また、黙りかよ!これから客が来るのによ!」

「…客が来る割には、お前は飲み過ぎだ…。」

 ファルクの手元からグラスをひったくる。

「!」

 アベルは腕が立つダークハンターである。しかし接客が苦手、無愛想、話ベタの三拍子である故に粗雑なのを承知で客受けのいいファルクと仕事をしている。

 アベルは爵位について身分をどうのを考える質ではないが、自分の扱いが雑過ぎるのではないかと時折思うことがある。

 一方のファルクは、アベルの眉間のしわについてもう少し減らせないものかと、本気で考えていた。

 酒場の雰囲気は嫌いではない。大概の人間がアベルを勘違いする。うるさいのが苦手ならば、ファルクと組んで仕事などもってのほかだ。

「言う事は言うんだよな。カウフマンさんは。俺様の酒の量より、お前の顔はどうにかならないのか?客が怯える!」

「…失礼だな。生まれつきだ。」

「そうじゃなくてだな…。」

 冗談の通じなさすぎにはもう慣れたが、アベル自身が渾身の冗談だと思って話していることは、この先誰もが知り得ぬ事実である。

 酒場の扉が、静かに開く。場違いな光を纏った金髪碧眼の女性が静かに入って来た。

 周りの男達が声を掛けようと立ち上がったが、胸元の飾りを見て皆引いていく。彼女の胸元には代々ダークハントを生業とするニコラス子爵家の家紋が輝いていた。彼女の名前はアリーナ・ニコラス

 しばらく辺りをきょろきょろと見回していたが、無骨なファルクの顔を見つけると表情を和らげて、近づいて来た。

「おいでなさったぜ。」

「…!」

 アベルはアリーナの顔を見て驚いた。何故に同業者の人間が自分の客になるのかと。

「ファルク!」

 彼女はファルクの名前を口にすると、微笑みながら近づいて来た。彼は以前ニコラス家でダークハントの修行をしていた時期がある。

「久し振りね。何年ぶりかしら?」

「お前さんが、学生だったから十年近く前かな?」

 アリーナの視線がふと下に下がる。不機嫌そうに壁の隙間を眺め目線を傾けているアベルに向けられた。楽とも怒ともいいがたい表情を浮かべている。それもそのはず、カウフマン家とニコラス家は爵位自体はカウフマン家が上だが、ダークハンターとしての実績はニコラス家の方が古く、アベル自身仕事をする上で必要なことでもないため気にしていなかったが、祖父の代までは地位や実力にはうるさく。彼女の家もまた彼女の両親が、敵意とまでは言いがたいがあまりカウフマン家にいい印象を持っていない。

「こんばんは。」

 アリーナの挨拶に顔を見上げて答える。

「…こんばんは。」

「本当に愛想のない奴だな。アリーナ、座って話を聞くぜ!」

ファルクがアリーナへ座るよう促した。

「…ニコラス家の人間が俺に何のようだ?」

「おい。アベル!…。」

 アベルの人当たりの悪さに啖呵切ろうとしたが、アリーナが静止した。

「いいの。私の家にいい印象を持っていないのは両親の古い考えのせいなんだから。彼を責めないで。」

「お前の家の事情はそれなりに理解している。それはそうと、仕事はなんだ?」

 話を切り出したのはアベルだった。いつもは黙って聞いているアベルが口を開いたのでファルクは少々面食らった。

「悪いな。コイツ根は悪い奴じゃないんだが表情がとぼしくてな〜。」

 アリーナはふふっと鼻で笑うと本題に入った。

「『試練の塔』から弟が戻らないの。」

「…?」

「『試練の塔』ってニコラス家からダークハンターの称号をもらうアレか?」

 アリーナの家にいたファルクは事情に詳しい。ニコラス家の称号はファルクも持っている。

 ニコラス家では外部からのダークハンター志願者を受け入れ育成している。育成終了にはニコラス家からの称号がもらえる。公的な称号ではないが、彼女の胸にかかっているそれがその紋章である。仕事を請け負うための一つの信頼の証となる。

「そう。弟が出かけて行ったのは三日前。帰りが遅いので、使いの者をやったの。でも、彼らもみんな帰ってこなかったわ。」

「…それで俺達に弟を救出しろと?」

「早い話がそういうこと。家のハンター達も手薄で、外に頼むしかなくて…。」

 弟の身を案じてか、自分のふがいなさにか。アリーナは目線を下に落とした。

「塔に何か巣食ってやがるんだろうな・・・。」

 アリーナの肩をポンとたたいてファルクがつぶやく。

「…」

 アベルは何も言わずにしばらく二人のやり取りを見ていた。

「…俺は帰る。」

 そう告げると、椅子の音をさせて立ち上がった。

「おい。アベル!」

 アリーナは何も言わずにアベルを見据えている。

「仕事の話は終わったのだろう?」

 そういうと二人には目もくれず。酒場を後にした。街の明かりはすっかり消え入り真っ赤な月が爛々としていた。

「もう満月か…時間的に余裕はなさそうだ。」

 ため息をこぼしながら深く言葉を紡ぐと、家の方へ足を向けた。

 一方ファルクとアリーナは決行の日を定め、酒場を後にした。

         *

「こんばんは。」

 屋敷の門に手をかけたアベルに話しかける。白い影、桔梗の様な深い紫の人間のものとは違う髪が夜空に映える。

「…ああ」

「お仕事の帰りですか?ご苦労様です。」

 丁寧に話しかけ、ニコリと笑うと手元に握っていた袋に草の束を入れた。彼の名前はエンヴィル・ノノリアン。

「…そう言うお前は何をしているんだ?」

「今日は月がきれいですから、月光で薬草の採集です。」

「…」

 反応に困るアベル、別に呆れている訳ではない。彼は話べたなのである。

「ははは。私は異形の者ですから夜目は効きますからご心配なく。」

 にっこり微笑む彼はヴァンパイア。ヴァンパイア族は悠久の時を生きる。しかし千年に一度身体を入れ替えなければならない。魂は朽ちないが、身体には寿命があるのである。特殊な霊木に自ら変異し、樹木の生長とともに新しい体を手に入れる方法が彼らの一般であるが、気の生長に長い年月を費やすため一部のヴァンパイア達によって人間の身体から魂を抜き取り傀儡として利用する方法が編み出された。その方法というのが首にある動脈に牙で穴をあけ人の魂をそこから抜き取り食した後、直接自分の魂を吹き込み乗っ取るというものである。

 ヴァンパイアの中では禁呪とされていて、当然共存しているものからの反発も少なくなかった。エンヴィルも反発するものの一人である。エンヴィルの様なヴァンパイアは、その特異な容姿を能力でカバーし人間の中にとけ込んで生活したり、山中や森林など人気のない場所で生活をしたりしている。

 アベルはエンヴィルの笑顔の真意を悟った。

「今日は仕事の依頼を受けに行ったのだ。」

 言葉の前にはいつもの様な沈黙の時間はなかった。こういう時は何か頼み事をするときというのを彼は知っている。

「何か私に用ありですか?」

 月の下で特異な目の色が囁いた。

 アベルはアリーナからもたらされた仕事の話をエンヴィルに余す所なく伝えた。彼はしばらく目を伏せて答えにたどり着いた。

「たぶん。その塔はいつもは使われていないのでしょう?ニコラス家の試練は有名ですからね。おそらく人の体を傀儡にしようとしているのではないですかね?」

 アリーナは話さなかったが、アベルは知っていた。ニコラス家の試練の塔は年に一度しか扉を開けない事を。

「手を貸してもらえないか?たくさんの人間が帰ってこないのだ。」

 エンヴィルは眼鏡越しにアベルの深い藍の瞳を覗き込んでいた。しばらくの沈黙のうちに彼が口を開いた。

「私にできる知識の教授は致しましょう。ただし、同士討ちをさせるつもりですか?アベル?」

 エンヴィルはヴァンパイアの理を無視して人を傀儡とすることはないと断言できるあ、最悪の場合でない限り自分の同種族に敵意を抱いてはいない。その事はアベルも重々承知で依頼をした。いつもは快く話を聞き入れるエンヴィルもこの時ばかりは様子が少し違って見えた。

「すまなかった。月夜の薬草採集邪魔したな。」

 ふっと笑うとアベルは屋敷の門をくぐっていった。

 部屋に入るとファルクの放ったミミズクが法電報(魔法電報)を携えていた。ミミズクはアベルが受け取ったのを確認すると闇に消えて行った。

 手紙を広げるとファルクの姿が現れた。

「決行は明日の正午だ!ニコラス家の試練の塔の前で!」

 手紙はそれだけ伝えると消えた。

「あのバカ!」

 アベルが舌打したが、ファルクに聞こえる訳がない。もう今日は寝よう。明日も早い…

長々書きましたが、過去作品のリメイクですので当時を知る人は過去作品との差を楽しんでいただけたら光栄です。

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