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毒口

「ただのネタだったのに……。」


ディスプレイに映る、何の変哲もない壁の画像を見ながら私はつぶやいた。



それは私がアップロードした四コマ漫画から始まった。


私は猫との日常漫画をTwitterにアップロードしており、それなりに読まれていてフォロワー数も多かった。


日常系をメインにしていた私だが、もともとはホラーやオカルトも好きで、一度作品に取り込みたいと考えていた。


そこで日常漫画に入れ込んだのが、「毒口」だった。


部屋の壁に邪気を出す毒口なるものがあり、それを猫が見て鳴いている、という内容だったが、これが思ったよりも拡散した。日常系漫画はノンフィクションである、というバイアスが無意識のうちに掛かるらしく、毒口は実在するものなのかという疑問や、あるいは私が幻覚を見ているのではないかという反応が多く見られた。


リツイートが増えるにつれ、毒口はテレビやパソコンを表しているのではないか、といった考察や、私の幻覚を疑うツイートが増えていった。次第に私に毒口の真実を問うリプライや、心の病を疑うリプライが大量に飛んでくるようになった。最初は反応を貰うのが嬉しかったものの、徐々に対応が面倒になったため、「これはフィクションであり、日常系漫画に不可解なものが紛れ込んでいることによる不気味さを楽しむ作品です」と説明したツイートを投稿することにした。


説明ツイートをきっかけに漫画への反応も収まり、また日常系四コマを投稿する生活に戻ったある日、前からTwitterで仲良くしていた「くしん」というユーザーから、思わぬところで毒口が広がっているという話を聞いた。


くしんさんは「ネットのある界隈で毒口が広まっている」というメッセージと共に、あるリンクを送ってくれた。リンク先は古めかしい掲示板だった。様々なスレッドが一覧になっており、新しくコメントされたスレッドが一番上に表示されるようになっている。リンクされたスレッドは「うちにも毒口が!」というタイトルで、一番上に私の四コマ漫画へのリンクが貼られており、続いて投稿者の家にも毒口があったという内容の画像が貼られていた。十人、二十人と続く画像、画像、画像……。ところが、どれにも毒口らしきものは見当たらなかった。


ただの家の壁の写真に「うちにもありました!」「これから出ている邪気はどうすれば祓えるでしょうか?」といったコメントが付けられている。不気味さを覚えた私は、それ以外のスレッドも見てみることにした。


一覧に表示されているスレッドは以下のようなものだった。


「某宗教団体から電磁波攻撃を受けています」

「家に昆虫型UFOがやってきます、どうすればいいでしょうか?」

「公安にオワレている、タスケテクダサイ」


……どうも危ない妄想に取り憑かれた人たちが集まる掲示板のようだ。


一応、毒口のスレッドを最後まで見ることにする。


スレッドをスクロールすると、そこには恐ろしい書き込みが並んでいた。


「毒口を作り出したのはあの四コマの作者です。作者を抹殺すれば毒口もなくなるでしょう。」

「作者は犬が苦手なようです。犬をけしかけてはどうでしょう。」

「作者はX駅前の商店街に出没する様子。」


私が黒幕にされている。しかも、過去のツイートを遡って居場所を特定しようとしている。背筋を冷やりとしたものが伝った。ところが話はここでは終わらなかった。次の書き込みを見て私は全身の毛が逆立つのを感じた。


「次の旅行ではT温泉に行くらしいです。」


それは、昨日私がLINEで話した内容だった。毎年何度か旅行に出かけており、次の旅行先について話していたのだ。ツイートはしていない。何故だろう……。


それからというもの、その掲示板には私のプライベートが書き込まれ、Twitterでも連日特定をほのめかすようなDMやリプライが届くようになった。「あの店私も知ってます!」「もしかして地元近いかもしれないですね。」といった具合だ。


どう考えても盗撮や盗聴をされているとしか思えない。彼らの攻撃を防がなければ……。



ここまでの文章は、私が友人のU子の部屋で見つけたものだ。


U子は学生の頃から絵が上手く、働きながら四コマ漫画をTwitterにアップロードしていた。そんなU子の様子がおかしいのに気付いたのは、彼女のツイートをまとめて読んだのがきっかけだった。


ある日彼女の四コマ漫画をチェックすると、彼女が盗聴や盗撮をされているという、これまでの内容とはかなり異なるものに変わっていた。最初は創作かと思っていたものの、ツイートを遡ると連日ほぼ同じ内容の漫画やツイートを繰り返しており、何かまずいことが起きている、と感じた。


そこで久しぶりに彼女に連絡を取り、部屋に遊びに行くことにした。やり取りをしている時はいたって普通だったものの、彼女の部屋に入って私はギョッとした。


部屋の窓はガムテープで目張りされ、壁には謎の記号が書かれた紙が大量に貼り付けられていた。さらに、部屋に入るなり彼女は「盗聴されてるかもしれないから、大事なことは筆談で」と書いた紙を見せてきた。


これはまずい、と直感した私は、彼女の姉に相談し、診察を受けさせることにした。何度か診察を受けた後、U子は入院することになった。


彼女の兆候に気付いた縁もあり、入院前の部屋の整理の手伝いをした際に見つけたのがこの文章だった。


文章はレポート用紙1枚に書かれていた。読んでいるうち、私はあることに気付いた。レポート用紙の左上にホッチキスの跡がある。この文章には続きがあるのではないか……。


散らかった床を探していると、果たして二枚目のレポート用紙が見つかった。そこには文章の続きが書かれていた。



彼らの攻撃に怯える毎日を送るうち、ある一通のメッセージがTwitterに届いた。そこにはこう書いてあった。


「あなたも、ひょっとして奴らに攻撃されているのではありませんか。私も攻撃を受けていましたが、彼らに対抗する仲間を作っています。」


その日から、私は彼らの仲間となった。仲間の対抗策が効いたのか、しばらくして攻撃は収まった。ただし、まだ油断はできない。彼らの攻撃に対して用心しなければならない。


XX年YY月ZZ日



レポート用紙の末尾には、1ヶ月ほど前の日付が書かれていた。


そういえば1ヶ月ほど前、私はある変化に気付いていた。U子のアイコンが、手抜きした似顔絵の女性が微笑んでいるものに変わっていたのだ。


妙に思ったのは、U子のフォロワーの中に同じような似顔絵のアイコンが複数いたことだ。その中には、U子に毒口の広がりを教えた「くしん」さんも入っていた。


さらに、最近気付いたのだが、U子と旅行に行く仲だったA子のLINEアイコンも、同じような似顔絵のアイコンになっていた。


その後暫くして、私はインターネット上に「久心教」という妄想グループが存在していることを知った。最初はネタで電磁波攻撃や盗聴などの話をしていたものの、途中から本気にする集団が現れ、過激化しているらしい。彼らの特徴は、皆同じような似顔絵アイコンを使っていることだ。



「くしん」さん……


U子と旅行に行く仲のA子……


似顔絵アイコン……


あなたには


真実が


見えましたか?


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