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一番軽くて死刑だ

資格入手と体調不良で更新が滞っておりました。

御待たせしてすみません。

「ひ。ひ、ひゃあああぁぁぁぁ!!」


 神父は悲鳴を上げ、そのままローズメイを突き飛ばして逃げようと体当たりを行う。

 それなりに体重のある成人男子である神父と、柳のような細い腰の女一人ぐらいどうとでもなる――しかし、彼はローズメイの事をあまりにも知らなさ過ぎた。彼女に暴力を振るえば……どれだけ手ひどい報復が待っているか、まるで知らなかった。


 その腕を伸ばしローズメイは神父の顔面を掴み上げる。

 

「ぐ?! ぎ、いたいたい痛い痛い!!」

「お前の母上も、子供達ももっと痛かったろう。孤児殺しめ」


 その光景は見ているだけしかできない村人たちにとっても一種異様な光景であった。

 絶世の美女が、一見自分より体重に勝る神父の顔面を掴み上げ、かるがると持ち上げる。

 神父はみしみしと頭蓋に食い込む指の痛みに悲鳴を上げながら懇願する。


「ま、待て、待ってくれ! 払う! 身代金を支払うっ!」

「誰が?」

「父がだっ!」


 ローズメイは大変疑わしそうな表情になりながら言う。

 

「本気で言ってるのか」

「あ、当たり前だっ! 俺の犯罪を父はいつも庇い立てしてくれたっ!」


 だが神父の証言にローズメイは――これは駄目だな、と見切りをつけた。

 貴族は民衆を呼ぶ時『民草』と真顔でのたまう。

 彼らにとっては民衆というものはほおっておいたら勝手に地面に生えてくる程度の存在でしかない。もちろん貴族にだって民衆がキチンと血の通った同じ生き物であると考える人はいるが……それに負けず劣らず、民衆をさげずむ考えのものはいる。

 そしてローズメイの見るところ、ビルギー=アンダルム男爵という神父の父親は後者のようだ。

 

 そんな人間にとっては、民草から血を分けた貴族が罵倒され、害されるなど我慢ならない事だろう。

 権力を用いて事件をもみ消すというのはあるだろう。

 しかし……一度廃嫡した人間を人質にとって身代金を要求したところで、果たして支払うだろうか?


 

 ないだろうな、とローズメイは思う。

 かといってこんな男を奴隷商に売り飛ばしたところで肉体労働には向かず買い叩かれるだろうし。

 

 ローズメイは、この神父を利用する事を諦めることにした。

 そのまま神父を地面に降ろす。

 

「おれは、血が嫌いだ」

「お、おおっ」


 彼女の言葉に命を助けられるのかと思った男は、喜色を浮かべた。

 しかし……と、ローズメイは両手を広げる。その五本の指でもって神父の両肩を掴み――ごきり、と音を立てて両肩の関節を外す。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」

「おれは、お前に復讐する権利はない。お前を裁くことができるのは、お前に殺された人々の親戚や縁者であろう。

 ゆえにおれはお前を殺しはしない」


 冷酷に宣言する。


「お前の全身の関節を外し、一人では排泄も出来ず、顎も外して発言さえもできないようにする。

 そしてお前の殺した孤児と、お前の母親の墓前でぬかずかせ、立て札を掲げてその罪をつまびらかにし、そして大勢の人々の侮蔑と嫌悪で人生の最後を染め上げ、軽蔑すべき外道として名を知らしめた後で、殺す。……殺さぬわけがないだろう?」


 悲鳴を上げそうになる神父に、さも心外そうにローズメイは応えた。

 ローズメイは両腕を神父の顎にかけ、ぐ、と力を込めて言う。


「文句はないな?」

「??!!~~~!!!!!!」

「おれはもちろん神々のように正しい裁きの下し方などは知らぬ。

 しかし六人も殺しているのだろう? それも子殺し、母殺し。まさに人道に対する最悪の罪を、二つもだ。

 ……どう考えても、一番軽くて死刑だ」


 もちろん――神父には山ほど文句があったに違いない。

 しかし顎の関節を外され、ろくに言葉を発することもできなくされた神父は、苦痛の悲鳴をただ音として張り上げるしかできず。

 ローズメイはそのまま顔色一つ変えずに神父の五体の間接をバラバラに外していき。


 シディアと悪漢達は最初と同じく前供養の為に両手をあわせ、神父様の自業自得ともいえる無残な姿にお祈りを捧げ。

 神父の悪辣で非道な行為を知り、憤った村人たちも、その罪の報いを受けて激痛で上げる悲鳴に、やはり同様に祈りを捧げるのだった。




「……むぅ」

「この服とかどうでしょう、ローズメイさまっ」


 生贄騒動に決着を付け、村へのしばしの逗留が許された二日ほどの後――ローズメイは、自分に付き従うシディアに請われるがまま服を身に着けていた。

 片田舎の村では華美な装束など望むべくもないが、それでもローズメイは差し出された女ものの服に懐かしささえ覚えていた。

 今まで纏っていた衣服は醜女将軍ローズメイ=ダークサント専用の特注品であり、腹の辺りが樽のように膨らんでいるような代物ばかり。普通のサイズの衣服がきちんと着れることに、不思議な感慨さえ抱いていた。


(……さ、さすがローズメイさま。おへその辺りが凄いことになってる)


 バディス村にて食客のような立ち位置に収まったローズメイ。そんな彼女に対してシディアはまるで侍女のように付き従うことが許された。

 元々生贄として見殺しにされたに等しいシディア。村人もその事実には負い目を感じており、好きなようにさせてくれる。


 ローズメイの肉体は、美しかった。

 例えて言うなら高名な芸術家が魂を込めて削りだした彫刻が、暖かな肉と魂をもって動き出しているさまを目の前で見ているようなものである。

 細く引き締まった腰周りと豊かな胸元の落差は、見ているシディアが女としてのライバル心など起きようもないぐらいの完璧さ。そして見事に六個に割れた腹筋は指でなぞりたくなる。


 しかし、そんなシディアに対してローズメイは渋い顔。

 シディアが好意で村の女性衆から借りてきた丈の近いものを借りてきたから、大人しく着せ替え人形の如くとっかえひっかえ着替えをしていたが、本人はやはり違和感を覚えていた。

 今まで動き易いものばかりを着込んでいて。いまさらスカートを履くと。


「……股の風通しがよいな」

「はぁ。まぁスカートですし」


 などと、あまり女性らしからぬ感想を漏らし。

 シディアに怪訝な顔をされるのだった。


 そんな風に衣服の着替えを(主にシディアが)愉しんでいた二人。

 しかしシディアの希望とは裏腹に、結局ローズメイが選んだのは、比較的丈の近い男性用のズボンだった。シャツの胸元が多少苦しくはあったが、そこは変わりが無いので諦めておく。

 これまで体に巻きつけるようにして纏っていたマントは、今度は本来の用途に使うだろう。


「ふふっ」


 ローズメイは、今まで服の変わりに使っていたマントを取り外し、少し面白そうに笑う。

 将軍として纏っていた真紅のマント、今度指揮官として身に着ける機会はいつ来るのだろうか?



「お客人様。お邪魔します」

「あ、村長様、いらっしゃい」

「ああ、シディア。ローズメイ様の細やかな事を頼んですまないね」

「いいんです。もうあたし、この方に仕えると心に決めました」


 与えられた一室で、ローズメイは村長の来訪を受けて……家を貸し与えられている食客の分際でありながら家主のような堂々とした振る舞いで、椅子に腰を下ろした。


「どうぞ、かけてくれ。

 シディアを救い、あの神父を懲らしめたことを感謝してくれるなら、その対価は情報でいただきたい」

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