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第4話 空賊との接触

 俺は、ゆっくりと危険と呼ばれる『スィネフォ』地区へ移動する。

 郵便配達も重要な仕事だが、燃料の確保や緊急着陸ができる地点も把握しなければならない。


 前に仕事をしていた人が記録を残しているので、そこを頼りにして荷物を運搬する。

 まずは、危険の少ない地域を回り、次第に人里離れた危険な地域へ移動していた。

スィネフォ』地区へ行ってみると、幻想的な光景が広がっている。


 数十年前までは、地球と同じように重力が安定しており、地殻の表面を建築物が作られていた。

 その名残である高層ビル群が、地表から突き出している。


 そのビル群の中を人が移動して行動していた。

 重力は逆さまになっており、空へ引っ張られるように人間へ重力がかかる。


 もしも、ビルの底が抜けたり、人間がビル内から出て行くなら、一瞬にして青空へ引き込まれて行くのだ。


 俺の飛行艇も、ビルから離れず、地表ギリギリを青空を下側に見ながら、低空飛行しているような状態だった。

 不時着する時は、ビル内部に止めなければならない。


 さもないと、飛行艇を止められる場所がなく、青空へ引き摺り込まれてしまうのだ。

 青空へ引き摺り込まれた場合には、もはや助かる方法はない。

 いくつかの予備エンジンと、補助燃料が命綱なのだ。


「凄い!

 これが青空なのか……。

 神秘的で綺麗だが、この星の最大にして最強の敵だ。


 空へ飛ばされる斥力が発生するようになって、地表の海や空気が四散してしまった。

 人類は、自分で空気を作り出すシステムを開発したが、この斥力と海だけはどうする事もできなかった。


 今では、地殻の裏側にある水を使って、小さな海と湖を作り出している。

 その水をなんとかやりくりして、生物や人類を養っているような物だ。

 人工の太陽と、その周りの植物によって、俺達は命を繋いでいる。


 そうは言っても、この地表周辺の地域がどうやって生活しているのかは分かっていない部分もある。

 物資や水が足りなくて、死滅した地域もあるのかもしれないんだ」


 俺は、とりあえず手頃な大きさのビルに不時着する事にした。

 この地域での不時着は難しい。

 飛行機の滑走路のような不時着は不可能に近い。


 ヘリコプターのようなホバークラフトで、ゆっくりと建物の内部に侵入する。

 比較的止めやすい場所になっているので、なんとか着陸することができた。

 建物の天井が地面になっており、周りの景色が木の根のように見える。


「さて、どうやって移動しているのかね?

 ここには、人がいると思うのだが……」


 俺は、ハシゴのような階段を上って行く。

 後から取り付けられたこの階段しか、今は使用されていない。

 昔の階段やエレベーターは、天地が逆転して使用不能に陥ったのだ。


 要は、このハシゴを見付けて登っていけば、いずれは人が生活している空間に辿り着けるのだ。

 俺は、飛行艇にワイヤーを取り付け、万が一建物が崩れても大丈夫なようにした。


 建物の外を見ると、雲一つない綺麗な青空が広がっている。

 背筋がゾックっとする様な不気味な光景だった。

 この建物の外へ出て行けば、一瞬にして帰らぬ人となるのだ。


 ビルの下の方は空気が薄く、酸素マスクをしていないと呼吸困難に陥る。

 俺は、とりあえず呼吸できる場所まで移動する事にした。

 厚い壁のある扉を開けて入れば、酸素は補給されるのだ。


「うわ、ビルは古そうだけど、扉は新しいな……。

 ヤマネコは、ここに放置しておくのも危険か。

 多少空気を取り込める容器に被せてと……」


 空気は、上から下へ流れて行く。

 普通に容器を逆さにして持てば、空気を確保する事ができるのだ。

 飛行艇の中は密閉されているので、しばらくは呼吸も問題ないだろうが……。


 俺は、荷物を確認するが、生物らしき物はヤマネコだけだった。

 ヤマネコが死なないように注意をして運ぶ。

 呼吸のできるところまで運んでやった。


「まずは、人を探そう!

 この人たちの生活習慣とかが分からないと、荷物の届けるのも困難な作業になる。

 安全に止まれるような場所や、空賊なんかも知らないのは命取りだ」


 俺は、ヤマネコをカナリア代わりにして、周囲の安全を確認する。

 檻の中にいて眠っているが、危険を察知した場合には役に立つだろう。

 超マイペースなネコだったが、無防備に腹を見せて眠る。


「コイツ、人懐っこ過ぎないか?

 絶対に野生じゃないだろう……」


 俺は、しばらく危険な生物という事も忘れて、ヤマネコを撫でたりして緊張をほぐしていた。


 すると、ヤマネコが怒ったように威嚇した泣き声を出し始めた。

 寝ていたはずなのに、フーっと唸り、攻撃態勢を取る。

 俺の触り方が悪かったのかと思い、思わず敬語で謝ってしまった。


「ごめんなさい!

 出来心だったんです!

 あまりにも気持ち良さそうに寝ているから……」


 俺が丁寧に謝り、我に返ってヤマネコを見る。

 ヤマネコは、完全に俺じゃない別の方向を見て吠えていた。

 何もない一点を見つめて吠えている。


「これは、まさか人外の物か?」


 俺が冷や汗をかきながら、ネコが見ている一点に警戒していると、足音が聞こえてきた。

 どうやら俺達の方に向かっているようであり、その為にヤマネコが警戒し始めたようだ。

 コツコツという足早な足音に、俺は背筋が寒くなるのを感じた。


「せめて、人間であってくれ……。

 幽霊的な物は苦手なんだ……」


 この『スィネフォ』地区は、地殻変動と共に数万人が犠牲になった場所だ。

 地殻変動に対応する事ができず、孤独死や餓死者などが続出したという。


 緩やかに重力が変化したわけだが、人々は自分の身を守るのが精一杯の状況に陥り、共食いや生き埋めなどが発生していたようだ。

 その為、どの場所でも、そういうオカルト話が存在する。


 俺が祈るようにしていると、髪の長い女性が姿を現した。

 女性は貴重な存在であり、『島(二スィ)』の場合は、安全な場所に住宅が設けられて、王族関係者と結婚させられる。


 そして、子供を多く養い、優秀な血筋を残していくらしい。

 しかし、俺のような一般の男子は、優秀な仕事をして初めて結婚対象に選ばれる程度だ。

 郵便配達員という名誉ある仕事も、王族の女性が気に入らない限りは会う事さえ難しい。


 なので、『スィネフォ』地区で女性を探して、優先的に結婚するのだ。

 一応、郵便配達員などの仕事をして、女性を見つけた場合には、見つけた作業員が彼女と結婚する優先を得られるというのが基本だ。


 女性が相当嫌がったり、他の男性を選んだ場合のみ、配達員は彼女と付き合う事ができない。

 優秀な配達員ならば、数人の女性を『島(二スィ)』に保護してくる場合もあるのだ。


 現れた人物が女性であり、かなりの美人であった為、俺は薄ら笑いを浮かべていた。

 基本によれば、俺が彼女を保護すれば、結婚して子供を産ませる事も可能なのだ。

 歳は、俺よりちょっと上だが、見た事もないような体つきをしていた。


「あ、あ、女性ですよね?

 実は、俺は、『島(二スィ)』から来た郵便配達員です!

 一応、女性を見かけたら、保護しろと言われているのですが……」


 女性は、俺を見て一瞬ビックリしていたようだが、すぐに笑顔になってこう言った。

 笑顔が美しくて、一瞬ドッキリした。

 胸は、乳牛のような突起物は無く、山のような綺麗な丘が2つ並んでいた。


「いえ、私も郵便配達員ですよ。

 女性でも、数人はそういう仕事をしているんですよ。


 女王様の荷物とかでも、男性ではお届けできないものもありますから……。

 では、仕事に戻らせて貰います!」


「ご苦労様です!」


 俺は、女性の言葉をあっさりと信用する。

 はっきり言って、総監督以外は誰が郵便局員か知らなかった。

 自分が郵便局員と言われれば、信用するしかない。


 彼女は、自分専用の飛行艇を持っているようなので、あっさりと信用して別れた。

 俺とは違うところに停めてあるようで、ビルの上の方へ上がって行く。

 どうやら隣のビルから侵入して来たらしい。


「すいません、隣のビルへはどうやって行くんですか?

 実は、新米でまだ分からない事だらけなんですよ。

 できれば、飛行艇まで一緒に行かせてももらえないでしょうか?」


 女性は、ビックリした様子で固まる。

 俺の方を見て、冷や汗をかいているようだった。


「バレた?

 いや、本気で分からないだけか……。

 仕方ない、一緒に隣のビルまで行こうか。


 下手に断れば、宝石を奪われてしまうかもしれない。

 いや、コイツの宝物を奪って……。

 すでに手一杯か、欲張るのもダメだね!」


「あの、どうしました?」


「いえ、じゃあ、一緒に隣のビルまで行きましょうか?

 この荷物は、返還されたので、私が預かっているものですよ。

 宝石一杯の箱なんですけどね。


 王族の方に差し上げるように依頼されました。

 こういう品物もかなりの値打ちがあるんですよ。

 装飾品を身に付けれるのは、女の子の嗜みみたいですけどね……」


「そうですか。

 それよりも、お願いがあるんですが、良いでしょうか?」


「なんですか?

 モジモジしてないで答えてください!」


 女性は、凛々しい姿でそう言う。

 宝石の入った箱を抱えているが、声や姿は美しかった。

 俺の方がオドオドしてしまっている。


「あの、ですね……。

 その、胸を、ちょっと触らせてくれませんか?


 俺、ここまでハッキリとした女の子には会った事ないんです。

 王女様やトラッシュは、そこまで大きくなかったし……」


「はあ、ダメですよ!

 確かに、女性の中では大きい方のEカップですけど、そう簡単に触らせませんよ!

 こういうのは、結婚する男性にだけ触らせるものです。


 おいそれと、出会ったばかりの男性に触れさせる事はしませんよ!

 まあ、女性をあまり見た経験がないので分からないかもしれませんけど……。

 次からは、良く知り合った仲の女性にのみ触れてください!」


「はあ……、でも、トラッシュじゃあ、そんなに大きくないかも……。

 ところで、あなたのお名前はなんですか?

 出身は、『スィネフォ』地区ですか?」


「名前は、オーシャンです。

 海という物に関係ある名前が付いていて、『スィネフォ』地区の出身ですよ。


 地殻変動が起きる前は、普通の家庭だったらしいのですが、地殻変動が起きた時に、両親が私だけを逃がすようにして亡くなりました。


 私が3歳の時だったので、今は23歳くらいですかね。

 あなたは18歳前後だから、地殻変動の時にはまだ生まれてませんよね。

『島(二スィ)』とかいう地域に住む、王族の親族といったところですか?」


「ああ、一応、一番下っ端で、優秀だからこの地位に付けただけですけど……。

 今日が初任務なんです。

 名前は、スカイと申します!」


「ふーん、若くて優秀だと、さぞおモテになるんでしょうね?

 もう彼女や婚約相手がいるとか?」


「いえいえ、女性との付き合いは、数えるほどしかありません。

 一応、彼女だとは思う人もいるんですけど……。

 その、ちょっと複雑な事情で……。


 それよりも、オーシャンさんも珍しいですね。

スィネフォ』地区で、郵便配達員とは……。

 女性だから、てっきり保護されているものだと思っていました」


「あー、飛び回るのが好きだからね。

 これでも、男性から求婚される事はあるよ!

 ウザいから切ってるけど……」


「へー」


 俺達が話していると、オーシャンの荷物が零れ落ちた。

 カランというガラスが落ちる音がして、オーシャンは振り返る。

 物々しい装飾をした小型のダイヤモンドが地面に落ちる。


「おっと、これは、一番大切な宝石なんだよ!

 もう少し慎重に扱わないと……」


 オーシャンが宝石を拾おうとすると、ヤマネコが肉球を巧みに使い、宝石をキャッチする。

 そのまま流れるように食べてしまった。

 どうやらエサと勘違いしたらしい。


 あまりの手際の良さに、俺もオーシャンも注意する暇さえなかった。

 食った後で、喉に詰まらせないかと心配したが、そこはなんとか大丈夫だった。

 取り出すには、自然に出て来るのを待つか、手術するしかない。


「ちょっと!

 私が目を付けていた宝石を……。

 このクソネコが!」


「大丈夫です。

 あのくらいの大きさなら、消化もされずにそのままネコからクソと一緒に出て来るでしょう。


 オリーブ型の宝石なので、どこかで詰まる可能性も低いです。

 10時間ほどしたら、郵便局の方へ届け出ますよ。

 オーシャンさんの元に届く頃には、殺菌されて、綺麗な状態の宝石に戻っていますよ!」


「いや、それは、そうだけど……。

 じゃあさ、このネコを私が大切に飼うという事でどうだい?

 ちゃんと、エサやりとか、水とかあげるからさ……」


「いえ、俺の彼女にあげる予定だったので、それは譲れません。

 彼女は子供ができない体です。

 せめて、このネコと一緒にいる事で、その悲しみを和らげてあげたいのです!」


「くう、なら、一緒に仕事をするというのはどうだい?

 どうせ、研修なんて受けていないんだろう?」


「え、良いんですか?

 オーシャンさんのプロのテクニックを直に体験できるなんて……。

 手取り足取り、よろしくお願いします!」


「なんか引っかかるけど、よろしくね!」


 俺とオーシャンで荷物運搬の仕事をする事になった。

 彼女の飛行艇に牽引される形で後に付いて行く。

 実は、数個ほど、『スィネフォ』地区での荷物が残っていたのだ。


スィネフォ』地区を熟知している彼女のおかげで、1時間ほどで今日の作業が終了した。

 俺は、すっかり彼女を信用し始めていた。

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