第2話 初めての女の子
俺は、ジェット機を改造した運搬用の小型飛行機に乗ろうとしていた。
操縦席は、基本的に1人でも操縦できるようになっているが、2人でも操縦可能だった。
今は、運搬用として荷物が詰め込まれている為、隣の席も物で溢れている。
なぜかペットが運搬荷物に紛れており、檻の中に入ったヤマネコが鳴いていた。
こういう野生動物も貴重な存在であり、王族などはペットとして飼育しているのだ。
俺の乗る飛行機は、高性能の戦闘機をベースに改良されている為に、相当長距離を移動する事ができる。
それでも、わずかなミスが命取りとなるのだ。
「郵便配達員などの飛行機乗りは、わずかなミスも許されない。
このプレッシャーを克服できるようにならないと、この星を支える重要な仕事はこなせないぞ。
中には、まれに女の子も生まれるらしい。
もっとも、私のような出来損ないでは、赤ん坊を産む事もできないがな。
見た目は、ほとんど男の子と同じだ。
スカイ、悪かったな……。
初めて見る女の子が私のような出来損ないとは……。
本当の女の子は、もっと魅力的な肢体らしいのだが……」
そう俺に語ったのは、10年前に俺が初めて見た女の子だった。
俺とその子は、農作物を作る仕事を一緒にする事で知り合った。
胸の突起物らしき物は存在せず、まるで男のような体つきだ。
彼女の名前は、『トラッシュ』と呼ばれていた。
一生懸命に働く8歳前後の女の子で、俺とは良く話をする仲になっていた。
俺は、農家の人から彼女が女の子である事を知って興味を持った。
格好は、農家の人達と変わらないが、着ている物は質が良い。
麦わら帽子や手拭いなどで、人工太陽の光から身を守っていた。
この星では、重力が逆になっているため、小型の人工太陽が設置されているのだ。
「よう、トラッシュ。
お前、女の子なんだってな。
凄い希少な存在らしいじゃないか!」
俺は、畑を一緒に耕していた彼女にそう言った。
彼女は、一瞬俺の顔を見たが、興味がないかのように無愛想に答える。
「ああ、一応な……」
「女の子って、子供を産めるそうじゃないか。
それに、男の子と結婚もできるみたいなんだ。
今は、まだ成長前だから分かり辛いけど、成長したら可愛くなったり、美女になったりするらしいんだ。
そうなったら、子供を産めるようになるらしい。
ただ、女の子は数が限られているから、相当の争奪戦になる可能性があるらしいけどな!」
「ふーん、私には関係のない事だ」
「関係あるよ。
数年後には、男の子と結婚して、子供を産めるんだぞ。
俺は、争奪戦とか嫌だから、先にお前と結婚するって約束しておこうかな。
そうしたら、優先的にお前と結婚できるもん!」
トラッシュは、農作業をやめて、何かを考えていた。
俺は、笑顔で彼女の返事を待つ。
きっと良い返事が帰ってくると思っていた。
「スカイ、お前は将来有望な奴になれるよ。
この星では、優秀な奴は空や海、自然界の物の名前を与えられる。
でも、私はそうじゃないんだ。
生まれた時からずっとここで農作物を作るのが私の仕事だ。
結婚もできないし、子供を産む事もできない。
出来損ないなんだよ……」
俺は、その言葉を理解できずにいた。
俺の夢を考えて、彼女がそう言ったものだと考えていた。
「俺も、お前と一緒にここで農作物を作ってやっても良いぞ!
ぶっちゃけ、俺には空を飛んだりとか、この星の重要な仕事をするなんて無理なんだ。
ここで地面を耕したり、お前と一緒にいる方が幸せなんだ。
上層部の奴らは、俺を教育させて、飛行機乗りにしたいらしいけど、俺のような緊張する性格では、わずかなミスも許されない飛行機乗りは無理だ。
それなら、ここでお前と一緒に結婚して、子供や農作物を作る方が性に合ってるよ。
お前さえ良ければ、俺と結婚して、子供を作って、ずっと一緒に暮らしたい。
将来、俺と結婚してくれないか?」
「ははは、じゃあ、来週の休日に私とデートしよう。
そこで私の秘密を教えてあげる。
スカイの告白の返事も考えておくよ……」
「本当か!
楽しみにしているよ!」
俺は、無邪気にハシャイでいた。
あっという間に時間は過ぎて行き、ついにデートの日になった。
デートといっても、この近くの公園を散歩する程度の事だったのだが……。
俺とトラッシュは、休日の公園で待ち合わせをする。
俺は普段着で来たが、彼女は精一杯のオシャレをして来たようだ。
女の子らしい服装にようだが、胸は俺と変わりない。
「おお、トラッシュ、今日はフリル一杯の服で可愛い。
なんか、絵本で見たお姫様みたいだ!」
「ふふ、実は、スカイにプレゼントがあるんだ。
しばらくしたら、見せてあげるね!」
俺とトラッシュは、梅の花が満開になる公園をゆっくりと歩いて行った。
手を繋ぎ、トラッシュが引っ張る形で、公園の見所へ案内してくれる。
女の子特有の甘い香りがして、俺は彼女に見とれていた。
(確かに、トラッシュには男の子にない甘い香りや、可憐な仕草がある。
やっぱり女の子という生き物なんだ……。
俺と大して変わらないけど、なんか可愛く見えるよ……)
俺は、彼女の普段は見せない明るい笑顔を見る。
どうやら、この笑顔が彼女の女の子としての本当の姿らしい。
眩しいくらいにキラキラしていて、本当に光を出しているようだった。
「トラッシュ、君は本当に女の子なんだね。
すっごく可愛いよ!」
俺がその一言を語ると、彼女の顔が曇った。
感情のない笑顔を出して、力無く笑う。
言ってはいけない一言を喋ってしまったような罪悪感に包まれていた。
「ははは……」
「どうしたの?」
「いや、無知なスカイに女の子の事を教えてあげようと思って……。
まずは、私の胸を触ってみる?」
トラッシュはそう言って、公園のベンチに腰掛ける。
俺も、彼女に腕を引かれて、ベンチに倒れ込むように座った。
彼女の顔を見ると、顔を赤くして興奮している。
「ここ、私の胸があるところだよ。
本当の女の子は、ここがもっと柔らかくて気持ち良いの。
でも、私のオッパイは、あなたと同じくらいしかないでしょう?」
「うん?」
彼女が手で誘導するように、俺は彼女の胸を触る。
多少脂肪で柔らかくなっているが、確かに俺の胸と大して違いはなかった。
どうやらホルモンの影響で、女性特有の柔らかさはないらしい。
「次は、女の子なら誰もが持っている物だよ。
男性とは違って、何もないの。
そこも、布越しなら触っても良いよ」
「ちょっと濡れてる……」
緊張して汗をかいているのか、彼女の股は少し湿っていた。
俺は、おそるおそる彼女の股間を触る。
確かに、男性とは違って何もなかった。
「ふぁ、この奥にね、子供ができる子宮という臓器があるらしいの。
私にもそれはあるんだけど、その隣に付いている卵巣という臓器がないんだ。
生まれつきの病気らしくて、女性なら2つある臓器が、私には1つもないの。
試験管で生まれた人工の赤ちゃんだと、まれにこういった子供も生まれるの。
この卵巣がないから、私は出来損ないというわけ。
男性と結婚しても、子供を作ることができないんだ……」
「そうなんだ……。
でも、柔らかくて気持ちが良いよ」
「もう触っちゃダメ!」
彼女は、俺の手を叩くようにして、俺から触られるのを拒絶する。
服装を整えて、俺に説明を続けていた。
「確かに、この『島』では、女の子は重宝されて、王族や貴族と結婚させられる。
でも、それは子供を産めるのが前提なんだよ。
私のような子供ができない女の子は、トラッシュと呼ばれる出来損ないなの。
だから、結婚もできないし、子供も産むことができない。
スカイとは、どんなに愛し合っても結婚できないんだ。
だから、スカイは自分の夢を叶える努力をして。
あなたなら、郵便配達員になって、この『島』を越えた別の地域に行くこともできる。
そこでは、まだまだ女の子がたくさん住んでいるはずなんだ。
その子達を見付けて、スカイが気にいる子と結婚してね。
私の夢は、スカイの奥さんが生んだ子供を抱きしめられれば満足だからね!」
「そんな……。
それに、俺は郵便配達員なんて無理だよ……。
緊張する性格だから、肝心な所でミスをしてしまうんだ」
「うん、スカイが凄く緊張するタイプだっていうのは知ってる。
だから、その緊張を無くすアイテムをプレゼントしてあげる。
これ、開けてみて!」
トラッシュは、小さな箱を俺に渡して来た。
ペンケースくらいの大きさの小さな軽い箱だ。
可愛く包装されていて、大切な物が入っている事が理解できる。
「これ、何?」
「スカイへのプレゼントだよ。
だから、今開けて見て!」
トラッシュにそう言われ、俺は箱の包み紙をゆっくりと剥がしていく。
紙が破れないように、慎重に剥がすので、彼女はイライラしていた。
それでも、俺が明けるのを黙って見守る。
「わー、高性能ゴーグルだ!
これ、高いんじゃないのか?」
「うん、飛行機乗りには必須のアイテムだって聞いて買っちゃった!
しかも、これには特別な効果があるんだよ。
このゴーグルを身に付けていれば、緊張もしなくて、どんな状況でも冷静に対処できるらしいよ。
そういう特殊な能力もあるから、スカイにはぴったりだっと思って買ったんだ!
これを、身に付けて飛行機に乗りなさいよ。
それでも無理だと思ったら、他の生き方を考えても良いけど……。
スカイは、やっぱり空の上で生活した方が良いよ。
地上は、私が農作物を育てて、みんなの食物を供給してあげるからさ!
私達、結婚はできないけど、間接的には良いパートナーになってると思うよ!」
俺は、ゴーグルを見つめて考えていた。
郵便配達員になって航空機に乗るというのは、生半可な覚悟ではできない。
様々な特殊訓練を経て、ようやく辿り着けるエリート中のエリートなのだ。
俺は、貰ったゴーグルを身に付けて、飛行機乗りになる覚悟を決めた。
不思議となんでもできるような気分になり、緊張もなく、冷静に物事が見れるような感覚に襲われていた。
「分かった!
俺は空を飛んで、この世界を見てみたい!
そして、トラッシュの夢も同時に叶えてやるよ!
何年かかるか分からないが、俺の子供を作って、トラッシュに抱かせてやる。
難しい仕事だが、このゴーグルがあればできそうな気がして来たよ!
トラッシュは地上を世話してくれ。
俺は、空の安全と人々の生活を守る事にする!」
「うん、お互いに頑張ろう!」
「じゃあ、俺は航空機の勉強をするから帰るな!
時間があったら、ここに来て農作を手伝うからよろしくな!
お前のプレゼント、大切に使わしてもらうからな!」
「うん、私はもう少し公園に残るよ……。
バイバイ!」
「バイバイ!」
俺は、トラッシュと別れて、駆け足で家に帰っていく。
今までは、緊張で飛行機に乗れないと諦めていたが、彼女から貰ったゴーグルをかけると集中力が増していた。
どんな問題も、冷静に対処する事ができる。
俺は、大切に管理しつつも、いつもゴーグルを身に付けていた。
気が付けば、学校で一番の成績を取り、エリート街道を進んでいた。
俺は知らない事だったが、トラッシュは俺と別れた後もしばらく帰らなかった。
公園のベンチに座り、声を殺して泣いていた。
「はあ、本当は、スカイと結婚して、子供が欲しかったよ……。
でも、仕方ないよね。
私は、出来損ないだもの。
スカイを愛する資格もない。
私が普通の女の子だったら、相思相愛になれたのかな?
いや、無理だったか……。
そうなったら王族の人に娶られて、結局はスカイと会う事もなかった。
トラッシュとして生まれて、農作物を作っていたからこそ出会えたんだ。
少しの時間でも、スカイと恋人になれて嬉しかったよ……。
スカイ、あなたは可愛い女の子を見付けて、結婚して、子供をたくさん作ってね。
私ができなかった事を、もっともっとたくさん経験してね。
スカイが命を繋ぐ農作物なら、私が頑張って作るからさ……」
その後は、俺とトラッシュは偶に会うくらいで、別々の目標を追いかけていた。
俺は航空機の勉強を続けて、5年ほどの修行を経て、晴れて今の仕事をする段階になった。
今日の初任務を開始し始めた年齢は、18歳であり、彼女も同じ歳になっていた。
彼女も大きく成長していたが、やはり他の女の子とは違うようで、胸は俺と変わらないくらいしかなく。
髪もシュートカットの黒だった。
長袖の服を好んで着るようであり、いつもフードを被って顔や体型が見えないようにしていた。
俺と話す時でもフードを外さず、ずっと顔を隠していた。
俺は、彼女が農作業をしているために、日焼け防止としてそうしているのだと思っていたが、実は女性として成長しない体を隠していたらしい。
その為、俺は18歳になった時でも、女性の体を良くは知らなかった。
俺は、彼女に貰ったゴーグルを装着して、飛行機に乗り込む。
飛行機のチェックを入念に済ませて、必要な荷物もチェックをする。
このゴーグルがあるからこそ、俺は最強の飛行機乗りでいられるのだ。