第23話 オーシャンの記念日
俺とアビス姫は、空賊の飛行艇を使い、宇宙空間で浮遊している飛行艇をけん引する。
2機ほど見付かり、1機ずつ回収して行く。
「空賊の飛行艇は、いずれお母様が他の星に移動する手段としてお返しします。
それまでに、この星で使う飛行艇を大量に確保しておかなければ……。
いくら星を上手く管理すると言っても、何があるかわかりませんからね」
「なるほど、もしもここが危険な状態になった時は、住民と一緒に避難するわけか。
それなら、住民全員が脱出できるような設備も整えておかないとな……」
「それだけではありません。
新婚旅行や普通の旅行にも使用可能にする事ができます。
まずは、飛行艇を大量に用いて、『雲』地区をより安全にする必要が最優先ですけど……」
「うーん、それなんだが……。
やはり飛行艇で行き来するというのは燃料だけでなく、安全面でも良くない。
なんとか、陸上で移動できる手段はないだろうか?
いくらなんでも、飛行艇を数十機飛ばし続ければ、数機が行方不明になる可能性は高いし、トラブルにも対応できない。
良く準備されたパイロット達だけなら良いが、新人では危険かもしれない。
いくつか『島(二スィ)』と『雲』地区を徒歩や車で移動できる通路を作りたいのだが……。
それができれば、開発はどんどん進んで行くはずだ!」
「うーん、それはオーシャンさんが先行していった方が良いですね。
どの場所が作り易いか、必要か不要かも具体的な意見が聞けますから。
良し、オーシャンさんを『雲』地区開発担当者にしましょう!
やはり星全体が一致団結してこそ、良い発展が見込めます!」
笑顔で笑うアビスだったが、殴られた事によって顔が腫れていた。
痛そうに顔を押さえて笑う姿を見て、思わず傷付いた顔に触れてしまう。
俺は、優しく顔を愛撫していると、彼女が反応していた。
「ふえええええええ、どうしたんですか?
そんな優しく撫でられたら、興奮してしまいます!
ああ、顔の腫れを見ていただけですか……」
「だいぶ腫れてるな、痛いよな?」
「うーん、殴られた所よりは、口の中を切った所が痛いですね。
まあ、さすがに、この顔で結婚式はしませんけど……。
みんなが心配しちゃうだろうし……、イチャイ……」
「じゃあ、3ヶ月後に延期しよう!
それなら、お母さん達もまだこの星に残っているだろうし、アビスの顔も元の状態に戻っているだろう」
「うん、ありがとう♡
しばらくはデート三昧の日々だね!
2人で、『雲』地区も一緒に行こうね!」
「元々結婚式だった日は、オーシャンさんが『雲』地区代表になったお祝いパーティーでもしようか?
さすがに、他の人達も準備しているんだし……」
「良いですね♡
なんだったら、サプライズプレゼントも付けますよ!」
「いや、お前のサプライズプレゼントって、結構トラウマになるし……。
俺は、しばらく立ち直れなかったぞ!」
「そうですか。
まあ、今回はお見合いパーティーみたいな感じにしますよ!
誰と付き合いたいかとか聞きたいですからね!」
「オーシャンさんもこの星では良い年ですからね。
そろそろ身も固めないと、子供が作りにくくなるか……。
よし、頑張って結婚をサポートしよう!」
「あ、私が全面的に指揮をとります!
オーシャンさんがスカイに惚れられても困りますし、私の方が知り合いは多いですからね。
本音を言うと、オーシャンさんとだけは戦いたくはありません。
実際の戦闘でもそうですし、恋のライバルとしても勝つ見込みがないからです。
大人の色気というのは、意外と強力なのです!」
「確かに、あのバストは凄いと思う。
近くにあると、凝視してしまうよ!
思わず手が出そうになるからね……」
「うー、それだからスカイには、オーシャンさんとは極力近付いて欲しくないのです。
人間には、パーソナルスペースというのがあって、恋人や妻と認めた人物以外には近付く事をしない事があります。
お互いにそれを意識し合えば、浮気などを回避する事はできます。
スカイは、極力私の近くに居て、他の女性には近付かないようにして下さい!」
「ふふ、俺との結婚が遅れて、不安を感じているのか?
可愛いね、アビス。
俺の目には、君との結婚しか見えていないよ!」
俺は、彼女の頰に優しくキスをする。
彼女は顔を赤くして、ポコポコと俺の胸を叩く。
どうやら照れ隠しをしているらしい。
「うー、とにかく、オーシャンさんも誰かと一緒になって、幸せになって欲しいです!
なぜなら、オーシャンさん、あんまり男性に興味ない気がします。
意識させないと、自分からは発展しないタイプかも……」
「それはあるかもな。
バリバリの仕事人間風だから、恋愛関係には疎いのかもしれない。
そして、男の方も彼女の能力が高いために遠慮してしまいがちになる。
多少強めに誘った方が良い場合もあるからな。
美人だからといって、必ずしも男がいるわけではない。
美人に対して、切り込むくらいの積極性が必要だ!」
「そうなのよ!
それを私が代表して頑張ってみようと思う。
でも、そう上手くいくかどうか……」
俺達は、パーティー会場を整え、結婚式を行おうとしていた当日を迎えていた。
結婚式を延期する事は、パーティー参加者には伝えたが、どんなパーティーかは伝えていない。
俺とアビス姫による、オーシャンのお見合いパーティーが始まった。
彼女は、時間通りにパーティーに参加する。
忙しい時間を調節して来てくれたのだ、なんとしても成功させなければ……。
「どうも、今日はあんたらの結婚式が見られなくて残念だよ。
まあ、その痛々しい顔では仕方ないけどね。
ゆっくり養生しなさいよ、次の機会に期待しているわ!」
「私達もちょっと急ぎ過ぎてる感があったから、丁度良いのかもしれません。
私は、スカイとのデートでとても充実した日々を過ごしています。
今日もその1つですよ。
オーシャンさんも『雲』地区の代表者に決まりましたし、これからもよろしくお願いします!
その発表のパーティーにしたんですよ!」
「あら、私が主役だったとは……。
楽しみにしているわ。
では、会場でお会いしましょう!」
オーシャンさんは、俺達に挨拶をして会場へ入って行った。
会場は、アビス姫の自宅であり、数百人が食事やダンスを楽しめるほどの大きさを誇っている。
今回のパーティーは、空賊などもいる為に、二百人ほどの規模になっていた。
囚われていた女性や女王も参加して、相当数に上っていた。
事前にいろいろ調整していたので、その人数にもなんとか対応できていた。
「ここで、特別なイベントがあります!
オーシャンさん、会場の前に来てください!」
俺が食事をしていると、アビス姫がマイクを握り、そう語り出した。
「ふん、悪趣味なサプライズが来たかな?
こちらも対抗できるサプライズを用意している。
アビス姫に、本当のサプライズを教えてあげるよ!」
オーシャンは、ニッと不敵に笑い、こう呟くながら前の方へ移動していた。
コツコツと靴の足音が響く。
オーシャンのセクシーな肢体が、ステージ上に現れた。
「さて、お姫様、私に何をしてくれるのかな?」
「ふふん、あなたもそろそろ良い歳です。
なので、ここでお見合いパーティーに変更いたします!
年齢の近しい男性を集めたので、交友を深めて下さい!」
アビス姫がそう言うと、三十代以下の男性が多数現れた。
どうやら全てオーシャンの恋人候補らしい。
オーシャンは、一通り男性を見渡していた。
「ふん、やっぱりロクでもないサプライズだね。
結婚が延期になって、スカイが浮気しないように、先に釘を刺しておくわけか。
私が誰かと付き合えば、アビス姫は安心というわけだ。
その乙女な計画に乗ってあげるよ!
この前、私にプロポーズして来た奴もいるんだろう?
とりあえず、そいつと付き合ってみるさ!」
「オーシャンさん、本当に俺と付き合ってくれるんですか?
長年女の子を見た事も少なかったけど、生きてて良かった!」
オーシャンの言葉に、俺の上司の総監督が身を乗り出していた。
年齢は多少上だが、がっつくように迫って来る。
オーシャンは多少引き気味になっていた。
「とりあえず半径2メートル以内には、言葉をかけて許可を貰ってから入りなさい!
突然背後を取った場合は、反射的に射殺するかもしれないからね!」
「ははは、優しいオーシャンさんがそんな事するわけないじゃないですか……。
冗談が過ぎますよ!」
総監督がオーシャンに触った瞬間、バンという銃声が聞こえた。
俺が注意して見ると、総監督の足のつま先の前方に、煙が立ち上っていた。
床に銃弾が撃ち込まれ、総監督が固まったまま動かなかった。
「言わんこっちゃない。
レディーに近付く時は、もっと慎重に行動しないとね……。
謝って射殺しちゃうぞ♡」
「ひえええええ!」
オーシャンは、銃を仕舞って満足そうな顔をする。
どうやら総監督の事を男と認識したようだ。
ここから良い交際がスタートしていく事だろう、たぶん……。




