第22話 本当の黒幕登場!
俺とアビス姫は、女性が囚われているはずの扉を開ける。
重い扉だったが、別に鍵はかかっていなかった。
ギー、という音を立てて、扉を開くと大勢の女性がいた。
「女王様、どうやら何者かが侵入して来たもようです。
男達は、ほとんど1人にやられてしまい、残ったのは我々だけですわ。
いかがなされましょうか?」
「ふふ、怯えているの?
可愛い子ね、安心なさい。
1人は、私の知り合いだから戦闘にはならないわ!」
女性達の真ん中にいる女性が、すっと立ち上がった。
身長は、オーシャンと同じくらいだが、目はもっと鋭い眼光をしていた。
見つめられているだけで、魔法にかかったかのごとく動けなくなる。
「ぐわあ、なんて鋭い眼光だ!
俺の行動どころか、考えまで見透かされているようだ。
緊張して、身動きが取れない……」
「ふふ、別に何もしていませんよ?
ただ、どの程度の人物かと服装や行動から判断しているだけです。
どうやら格闘スキルはあるようですが、私と戦えるレベルではありませんね。
男のお前は、動かない方が良いですよ。
私が持っている銃で撃ち殺しますから……」
「ふん、そんな銃ごときで……」
俺がナイフを構えようとすると、腕に痛みが走る。
気が付くと、ナイフを持つ手に傷が出来ていた。
これは威嚇だが、本気ならばナイフを持つ手が使えなくなるほどの腕前だった。
「次は、外さない。
腕が吹っ飛んでも良いと思うなら、動くが良い。
私は、相手の筋肉の動きや目線で行動が読めるのだからな……」
「ぐう、そんな脅しに……」
俺は強がって反撃しようと考えるが、アビスがそれを制するように前へ進み出た。
俺の体に軽く触り、恐怖心を無くすように努めている。
「お母様、どこにいるかと思ったら、こんな所にいらっしゃるとは……。
最近の空賊を指揮していたのは、お母様ですね?
どうして、今頃になって現れたのでしょうか?」
「ふん、私を事実上追い出したのは、元々あなたの方ですよ?
まあ、幼い記憶なので定かではないのは仕方ないですけどね。
追い出した理由は、不要な人間を処分するかしないかという事による意見の不一致。
私はあなたに特別に目をかけていたけど、まさか島流しのように『雲』地区の中枢へ送られるとは……。
幼いながらも危険な小娘でしたよ」
「そんな事もありましたね。
妹を殺す所を目撃して、私自身も脅威を感じてしまったのでしょう。
その後は、そういう事態が起きないように、私自身も制度を変えさせてもらいました。
今では、生まれながらに体が不自由な者も、生きて生活を送れるレベルにはしてあります」
「ふん、自分勝手な事を……。
あなたがやっているのは、親切なように見えて、実は残酷な事なのよ?
どうせ、そうした体が不自由な者達は、疎まれたり憎まれたりするの。
ならば、最初から生の喜びなど与えない方が良いのではなくて?
どうせ周りも、最初は親切を装うけど、自分の身が危うくなれば、泣きながら処分する事になるのよ?
ならば、最初に残酷性を示して、一思いに殺した方が親切ではなくて?
私は、その方法で自分の手を血に染めつつ、この星を守って来たの。
中途半端な優しさでは、何も守る事は出来ないわ!」
「確かに、お母様の方法が懸命なのかも知れない。
自らを悪役として、一思いに不要な物を切り立つのは容易な事ではないでしょう。
でも、私は、トラッシュとして生活して、それでも生きていたいと思いました。
なので、たとえ不自由な者でも、生きて喜びを感じていきたいと思います!
ここには、そのトラッシュをさえ愛してくれた男性がいますから……。
私は、私のやり方でやっていきたいんです!」
女王様は、一瞬黙り、一時の沈黙が訪れていた。
しかし、その沈黙を破壊するような高飛車な笑い声が響く。
俺とアビス姫は、一瞬恐怖で身を震わせていた。
「あっははははははははははははははははは!
お前がトラッシュとなって、生活して、幸せや生きる喜びを感じただと?
それは、他の者がアビスの演劇を見ているようなものだ。
結局は、お姫様として敬われ、元々のトラッシュの生活を感じる事はない。
それどころか、お前には報告せずに、多くのトラッシュ達を殺しているだろうな。
お前は、自分の手を汚す事が嫌だからと、他人に汚れ役を押し付けているだけに過ぎぬ。
私は、自分でそうした者を葬っていた。
せいぜい100人弱といったところか。
そいつらが死ぬ瞬間を覚える事が、私のせめてもの償いだった。
だが、お前は自分の手を汚すのを躊躇い、他人にその汚れ役を押し付けて、何人死んだかも分からない様にしているだけだ。
実際に処理している者は、お前だけには真実を告げぬだろうな。
これがお前のヌルさが招いた現状だ。
女王様とは、時に同じ人間とは思えぬほどの冷酷さも必要になってくるのだ。
お前の管理能力では、この星も未来は無いな……」
「くう、そんな……」
「実際、この星には未来は無いぞ!
人工太陽に頼り切りの生活をしているだろう?
管理システムに爆弾が取り付けられただけで死滅するような星だ。
どうだろう、このまま星を捨てて、新しい星で生活しないか?
ここには、この星の数10分の1の人が乗り込んでいる。
すでに、安全な星も調査済みだ。
お前達さえ望めば、その星で子孫を作り、王族として生活する事が約束されているぞ。
こんな綱渡りのような星は捨てて、お母様と一緒に生活しようじゃないか!
再び、親子仲良く暮らそう!」
女王様は、そう手を差し出して、俺とアビス姫を誘惑する。
ここまでが、彼女の計画だったらしい。
この星の欠点を明らかにして、他の星へ移住する目的のようだ。
アビス姫の決断によって、俺がどこで生活するかが決まる。
彼女は一旦深呼吸をして、こう語り出した。
「私がまだあなたのように決断力がない事は認めます。
まだまだ女王としても勉強不足かも知れません。
それでも、私にも貫き通さねばならない信念があります!
住民の為に、女王などの支配者がいるのであって、女王の為に、住民がいるのではありません。
彼らがこの星を捨てて、別の星へ移住するならば、私も同行していきますが、私が住民を捨てて、他の土地へ移住する事はできません。
住民から見捨てられ、ただの人となった場合のみ、私は女王を止めようと思います。
しかし、私を支えて、助けてくれる人がいる限り、たとえ綱渡りの危険な星だとしても、住民が減少していこうとも、私は人々を助ける為に尽力し続けます!
これが私の信念であり、上に立った者の責務だと感じます。
なので、私の力の及ぶ限りは、体の不自由な者も幸せに暮らせる世の中を作りたいです。
それが私の全てなのです!」
アビス姫の覚悟を聞き、女王は沈黙していた。
そして、母親らしい表情になり、明るい笑顔が沈黙を破る。
「ふふふ、さすがは、この星を支えるだけの事はある姫ですね。
この不安定な星を支えるのに必要なのは、確固たる信念です。
そのお前の信念が、綱渡りのような星の土台を、強固な物に変えるでしょう。
これが、現女王としての最期の教えとアドバイスです。
本当ならば、ここで消えて、別の星に移住するのが正解ですが、やはり母親ですね。
娘の晴れ姿を見てみたいです!」
「言っておきますけど、あなたの空賊のせいで、私達の結婚はしばらく延期ですよ!
せっかくの花嫁の顔が腫れていては、一生に一度の晴れ舞台が台無しですからね。
さすがに、腫れ舞台では出られません!」
「うふふ、あなたとも和解したいし、王子になるスカイ君とも知り合いたいわ。
移住計画は、数年後に変更します。
今は、お姫様の引き継ぎを最優先事項にするわ!
『雲』地区では、まだ捜索も行き届いていないし、移住に必要な人材も揃っていない。
最後に、郵便配達員のスカイ君に良い事を教えてあげるわ!
空に落ちていった機体は、実は回収できるのよ。
パイロットは、さすがに空気やら、宇宙空間による紫外線で死ぬけど、飛行艇などの機体は無重力によって宇宙を彷徨っているの。
そうした機体ならば、けん引によってサルベージ可能よ!
人間だけは遺体を引き上げる事になるけど、飛行艇の再利用は問題なくできるわ。
私との戦闘で手放した機体も回収して帰りましょうね!」
俺とアビス姫は、女王のアドバイスによって、今まで紛失していた飛行艇などをサルベージする事に成功した。
俺が空賊との戦闘で失った機体もあり、再び使用する事ができるようになっていた。




