第19話 捕らわれたアビス姫
俺とアビス姫が両想いになると、近くにいたオーシャンが冷やかす。
内心は嬉しいようだが、自分はフリーなので複雑な表情だ。
「おうおう、私を無視して2人の世界に入っているんじゃないよ!
一応、ジュース勝負の勝敗の理由を聞きたくないのかね?
まあ、今の2人にはどうでも良いかもしれないが……」
「勝敗は、俺の愛が通用したという事だ。
愛の力で、無敵のアビス姫を打ち破る事ができたんだ!」
「あー、そういうのはいらないから……。
私、科学者系ですよ?
ちゃんとした結論がないとイライラします!
愛の力とか言われても、力関係を多少強めるだけで、明確な勝利の条件が説明できないと嫌でしょう?
私は、ちゃんとした勝敗理由を言いたいタイプなのです!」
アビス姫は、笑顔でその言葉に応えていた。
「まあ、8割形の恋愛は、心理学的に説明ができますからね。
愛とかで片付けられても、実際には嫌いなタイプはどこまでいっても嫌いなタイプのままになりますからね。
むしろ、愛とか調子の良い事言っている人の方が、人間をゴミ扱いし始めますからね。
愛とか言っている割に、自分に益となる人には優しく接して、自分に害となる人にはゴミのように接しますから……。
それなら、明確な理由で拒絶する方が愛がありますよ!」
「まあ、そうかもね……。
本来のアビス姫は、性格がキツイけど、スカイ的には受け入れられるのかな?
両想いになったわけだし、しばらく結婚は延期してみたら……」
オーシャンの言葉を遮るように、アビス姫は言葉を重ねて、彼女の掻き消していた。
「でっ、勝敗を分けた理由はなんでしたか?
見た目的には、スカイのジュースが不味そうでしたけど」
「スカイのジュースは、野菜も入っているがミックスジュースだったよ。
栄養分にも気を配っており、味もあっさりしていて美味しかった。
アビス姫のは、ただのオレンジジュースだったが、粒が多過ぎた。
もう少し飲む人の気持ちも考えていれば、良い勝負になったかもしれないが」
「つまり、スカイのジュースが圧倒的に美味しかったと……」
「ええ、素人レベルではね!」
こうして、俺とアビス姫は正式に付き合いだした。
しばらくは仕事が溜まっているのでデートはできないが、結婚式後は新婚旅行へ行く事になった。
それまで夕方だけが、俺とアビス姫のデート時間となっていた。
休みの日は、式の準備でデートどころではない。
アビス姫も結婚式の招待状を書くのに苦労していた。
「うう、やはり1週間後というのは無理があり過ぎたかしら?
やる事があり過ぎて、デートって雰囲気じゃない……」
「まあ、結婚式の後は、ずっと一緒だ!
それまで我慢してくれよ!」
俺とアビスは軽い口づけをして、その日のデートを終えた。
俺は自分の家に帰り、アビスはキスの余韻に浸っていた。
俺と最初にデートした公園で、ベンチに座り昔を思い出していた。
「ふふふ、あの頃の絶望感がウソみたい!
あの頃は、スカイが郵便配達員になれるかどうかも絶望的で、彼と結婚できるなんて不可能だと思ってた。
それが、数日後には結婚して、1年後には子供もできるかもしれないなんて……。
トラッシュ救出作戦を実行して良かったわ!
まあ、数人の人間は傷付けてしまったかもしれないけど……」
「その数人の中に、俺様は含まれているか?」
突然背後から聞こえる声に、アビスは後ろを振り向こうとした。
相手は、それを許さず、彼女の動きを止めて、声を出さぬように口を塞いでいた。
アビスの脳裏に久々に感じた恐怖が襲ってきた。
「お前は、以前私が振った男性の中の1人か?
何をしに来た?」
「ふう、『雲』地区の代表者・空賊団の団長を忘れているのは勘弁して欲しいぜ!
部下の前で啖呵切って告白したのに、お前は見向きもしなかったな!
復讐でお前を殺すのは簡単だが、それじゃあ俺様の気が済まない。
まあ、相変わらずお美しい姿で俺様は嬉しいぜ!
お前を俺の妻にするのが楽しみだ」
「ひいいい……」
空賊団の団長は、アビス姫の耳を舐めてぐっちょっという音を立てる。
アビスは完全にビビって震えていた。
不意を突かれ、口を塞がれて拘束される。
「ひっひっひ、良い具合に可愛くなっているじゃないか!
だが、俺様を蔑んだ報いは受けてもらう!
この星を破壊して、お前に絶望を味合わせてやるよ!
愛する者の死を前にして、それでも気丈でいられるかな?
その後は、俺様の飛行艇で他の星へ行って移住する。
後は、そこでしこたま俺の子供を産んでもらう予定だ」
「そんな事、させるか!」
「くっくっく、良いぞ!
その頑なに俺様を拒絶する姿がたまらなく萌える!
だが、自分の星と愛する男を失った絶望感を知った時はどうかな?
お前は、ただ可憐に泣く、ただの小娘になっている事だろう。
まずは、己の無力を味わってもらうか。
下手に抵抗されてもつまらん!」
「何を……」
彼女が抵抗しようとすると、その男は彼女の服を一瞬にして破り捨てた。
彼女の白い肌が露出して、上はブラジャーだけにされてしまった。
男のあまりの力強い腕力によって、彼女の体が小刻みに震え出している。
その首筋の白い肌を、男は舐め始めていた。
「くっくっく、良いな、綺麗な白い肌だ!
だが、あまり時間も無いか……。
本来ならば、もう少しお前の体を楽しみたかったが仕方ない。
続きは、星を壊す工作をしてから、この星を脱出した後にしよう!
楽しみは取っておくべきだし、お前が俺様には勝てないという事を示しておく事もできる。
まあ、下着姿になってだいぶ大人しくなったが、抵抗できないようにはしておくか。
ロープで縛って、しばらくはこの星を案内してもらうぞ!
お前に取っては、最後のデートといったところだ。
存分に楽しんでくれよ!」
男は、持っていたロープで彼女の両手を縛る。
彼女が力強い事を知っていたのか、かなり強引に縛り付けていた。
彼女自身がか弱い女である事を自覚させるような、力付くの縛り方だ。
「ああ、痛い……。
やめて、もう少し優しく縛って……」
「ふん、優しくしたら、お前が逃げ易くなるだろう?
格闘スキルの高い事は知っている。
お前が逃げるチャンスは与えないぜ!」
彼女は必死で抵抗していたが、ついに男によって捕らえられてしまった。
後ろ手に両手を縛られ、ムリヤリ歩かされている状態だった。
男は、無抵抗になった彼女を連れて、飛行艇で星の中枢へと移動する。
人工太陽が見える程度の位置で飛行艇を降りて観察し始めていた。
アビス姫も連れ出され、案内させられている。
「ふーん、これが人工太陽か……。
こいつのおかげで、この星は外側から光が入って来なくても人々が生きていけるわけだな。
逆に言えば、こいつさえなくなれば、この星の住人は死滅する!」
「何をする気なのよ?
人工太陽は、そう易々とは壊せないわよ!
超高温で、近付く事さえ難しいんだから」
「確かに、人工太陽自体を破壊するのは無理だろう。
だが、それを制御している管理システムは、そこまで強く作られてはいない。
爆弾1つで破壊されるレベルだ。
それが壊されれば、人工太陽は質量が大きくなって消滅する。
光が無ければ、植物も酸素を出す事は不可能。
数時間後には、この星は死の星と化すわけだ」
「甘いわね。
だからこそ、管理システムも人が容易に近付けないように、紫外線と高温の熱風で守られているのよ。
近付くには、専用の防護服が無ければ、近付く事さえできないわ!
残念だけど、爆弾があっても取り付ける事は不可能なのよ!
あなたのずさんな計画では、人工太陽は破壊されないわ!」
男は、手に巨大な大砲を持っていた。
それを管理システムの装置に撃ち込むらしい。
「バカね、ここで管理システムを破壊したら、私もあなたも死ぬわよ。
人工太陽が暴走して、この辺一帯は灼熱の地獄になる予定だからね!」
「ふん、そんなヘマはしないよ!
この先端には、時限爆弾が取り付けられている。
俺とお前が脱出した後で、時限爆発するように時間がセットされている。
これが取り付けられれば、後数時間後には、この星は死の星となる。
お前は黙ってみんなが死ぬのを見ているが良い!」
「いやああ、やめて!
そんな事をすれば、本当にこの星は死滅してしまうわ!」
アビス姫は、大砲を奪おうとして、男に体当たりを仕掛ける。
男をぐらつかせる事はできたが、すぐに態勢を立て直されてしまう。
男は、アビス姫の顔を殴り、地面に叩きつけた。
「ふん、黙って星が死ぬのを見ていろ!
時限爆弾発射だ!」
「ちょっと、待ちなさい!
取り引きを……」
「うるさい、時間稼ぎをしようとしているのが見え見えなんだよ!
この星ごと、愛する男も消え去るが良い!
俺様をコケにした罰だ!」
「いやあああああ!」
アビス姫は、男の大砲を止めようとするが、時限爆弾は容赦なく発射され、管理システムの装置に取り付けられていた。
そこまで行くには、専用の防護服で近付き、爆弾を処理しなければいけない。
時限爆弾が取り付けられたのを見た彼女は、力無く崩れ落ちた。
この状況で爆弾を上手く処理できる可能性はかなり低い。
爆弾が爆発して、死の星になるカウントダウンが始まっていた。
「ふん、ようやく大人しくなったか。
もっと早く俺様の前でそういう表情をしていれば、この星も消えずに済んだというのにな。
まあ、もう後の祭りと言ったところか。
さあ、俺様とお前は飛行艇で脱出して、他の星へ行くんだ。
無抵抗になったのは良いが、動けなくなるのは勘弁して欲しいぜ!
お前も、自分の命が大切だろう?」
アビス姫は、今いるのが自分が良く使っていた家である事を知っていた。
そこには、郵便配達員であるスカイと連絡が取れる無線が備わっている。
緊急連絡用であり、特定の人物に声を伝える事が可能だった。
アビス姫は、不用意に近づいて来る男に、脚を使って攻撃する。
急所に膝蹴りが決まり、男性は地獄の苦しみを味わってのたうち回っていた。
彼女はその隙を突き、一目散に無線のある場所へ向かう。




