第1話 新人研修
俺の名前は『空』。
今日からこの星で名誉ある職業を開始する予定だ。
どんな職業かというと郵便配達員だ。
なんだと思う人がいるかもしれないが、この惑星『ウラノス』では、空軍以上に重要なポストになっている。
理由は簡単だ。
命の危険を伴うと同時に、星の住民全員にとっても大切なパイプラインとなっているからだ。
このパイプラインが無くなれば、物資の供給は滞り、何百人もの死者が出る。
電話やメールで情報交換をするだけなら問題ないが、この星の大半の土地が普通に歩く事も、車で移動する事もできなくなっている。
その上、貴重な郵便物を狙う空賊も存在するのだ。
それらから荷物と自分の身を守り、お客様までの食料から貴重品を届けるのが俺の仕事なのだ。
今日が仕事の初日であり、総監督からのありがたいお言葉があるという。
「ようやく研修期間も終わり、君には実践の仕事をしてもらう事になった。
本来ならば、私が付きっ切りで指導してあげたいのだが、なにぶん人手不足なのだ。
このところ、郵便配達員を襲う空賊が増えていてね。
指導するほどの知識もないというのが現状だ。
君が長年仕事を続けて、良い成果を出してくれれば、後輩を指導する立場にもなれるのだが……。
とにかく気を付ける事は、以下の3点だ。
まあ、君も良く知っている事柄ばかりなんだけどね。
その1
飛行機の設備は、各自配達員が責任を持って行い、不具合がある場合は絶対に飛行しない事。
下手に空を飛んでも、エンジンや機械が故障していれば、救助する事は不可能だ。
星の外まで飛ばされて行き、回収も救出も不可能になる。
飛行機と自分の命を守れるのは、パイロットの君しかいない。
その2
空賊が接触して来た場合は、臨機応変に対応する事だ。
一番ヤバいのは、君と飛行機が星の外まで飛ばされてしまう事だ。
そうならない為に、捕まる事も覚悟したまえ。
以上が、この仕事をする上での注意点だ。
最後は、この国の存続に関わる点での重大事項だ。
心して聞くように!」
「ゴクリ、最後は何ですか?」
「君は、女性という者を見た事があるかね?
この国では、女性という者は大変希少だ。
道徳観から重婚というものは避けているらしいが、そうなると出会いが少ないのが現実だ。
一応、人工的に子供を作っているが、やはり女と結婚してできた子供の方が元気が良いそうだ。
その為、成人した男性には、こういう法律ができている。
『女性であれば、犯罪者だろうと保護するように!』
我々が知っている女性は、王妃や母親くらいで、結婚できる可能性が低い。
この郵便配達員のメリットは、どんな場所に女性が住んでいるかを探し易い点なのだ。
情報交換をして、女性が住み良い環境を作り上げる事が、今のこの星の優先事項だ。
まずは、女性を見付けて結婚する事が先決だ。
なので、空賊でも、孤児でもお年寄りでも良い、女性を見かけたら保護区まで連れて来るように、という事らしい。
一応、頭の隅に入れておいてくれ」
「はあ、自分は、人工的に作られた子供の為に、女性を見た事がないのですが、どのような者なのでしょうか?
何か、具体的な特徴がありますか?」
総監督は、一瞬黙って考え始めていた。
どうやら数度見た事はあっても、男性と女性で、どこが決定的に違うかを把握していないようだ。
「あー、女性は、胸に突起物があるらしい。
そこで、子供を育てるミルクが出るそうだ。
女王陛下が子供を育てる時に、胸のところで何かをやっていた。
布に隠されていて、良くは見ていないが、子供の食事らしい。
乳をあげていると言っていたから、乳牛が乳を出すのと同じなのかもな。
おそらく、女性の胸には、男性の性器のような物があるものと思われる。
そこから子供の栄養分であるミルクが出るらしい。
私も女性に会う機会が相当少ないので、そこまでしか知る事ができなかった。
何か、胸に異常がある奴がいたら、女性と思う方が良いだろう」
「なんと、女性という者は、胸のところから排泄するのですか?
恐ろしいほど奇妙な生き物ですね。
なんか、見るのが怖くなって来ました」
「そうだな。
だが、物を生み出すというのは、綺麗なだけではない。
たゆまぬ努力と、幸運のようなチャンスが巡って来て、初めて生み出されるのだ。
そうした女性の奇妙な部分を受け入れてこそ、父親になれるというものだ。
そこを逃げてはいけない!」
「はい、女性というのがどんな奇妙な生き物でも、受け入れられる懐の広さを持つように努めます!」
「ああ、その域だ!
私は、主に管理ばかりをしていて、女性に会う機会も少ない。
なるべく多くの女性に出会い、私にも紹介の場を設けてくれ!
君は、記憶力も分析力もある。
必ず、この仕事と妻を娶る事ができると確信しているんだ。
1人でも多くの女性と知り合い、私も結婚できるようにさせてくれ!」
「分かりました!
では、行ってまいります!」
こうして、俺は総監督に見送られて、飛行機に乗り込む。
果たして、初の任務はどうなるのだろうか?
総監督は、熱い眼差しを俺に送っていた。
(頑張れ、スカイ!
年若く、カッコイイ君ならば、必ずや美女を数人連れて来れるはずだ!
ちょっと幼いくらいだって良いんだ!
君には期待しているぞ!)
総監督がそう期待するのも無理からぬ事だ。
実際に、この星の女性人口は少ない上に、会える女性は一部の上層部の奥様のみ。
普通の男性が結婚するには、星全体を回って探すしか方法がないのだ。