第12話 サプライズプレゼント
俺は、1人でアビス姫の屋敷へ行く。
実は、あれから毎日荷物を届けに来たが、全部アビス姫が応対して来た。
セクシーなパジャマや下着姿などの誘惑を受けて来た。
時には、新しい下着や服を買ったなどで試着した姿を見る事もあった。
俺は屋敷の中へは入らずに、外から見るだけだったが、それでもトラッシュと同じ顔で可愛かった。
胸は、トラッシュよりも数段大きく、女性特有の良い香りも漂っていた。
まれに、高い香水なども買ったらしく、匂いを嗅がされたりもした。
俺の反応が素っ気ないために、彼女はいつも不機嫌になっていたようだ。
(今日は、仕事では無く、パーティーとして来たんだ……。
中まで入らないといけないよな……。
果たして、アビス姫の誘惑に抵抗できるだろうか?
トラッシュと同じ顔で、あのオッパイと香りは反則だ!
彼女の性格が悪いのが幸いして、俺の心を掴んではいないが、長時間一緒にいたり、お酒を飲んでいたらどうなるかは分からない……)
俺が不安になって屋敷に入るのをためらって、門の所で立ち止まっていると、オーシャンに背中を叩かれた。
彼女もパーティーに参加するようで、胸に宝石のネックレスを付けていた。
格好もこの前トラッシュが選んだワイン色のパーティードレスであり、 黒い髪の毛を綺麗なポニーテールにまとめていた。
とてもじゃないが空賊には見えず、高貴な気品が溢れている。
「よお、スカイ!
緊張で入れないのかい?
実は、私もなんだ……。
こんな格好は緊張してダメだね……。
ふう、場慣れしてない私では、1人では入れなかったんだ……。
トラッシュも昨日はどこかへ出かけたみたいだし……」
「トラッシュがどこへ?
いつも農場にいるんじゃないのか?」
「さあ?
このパーティーのお手伝いメイドとかじゃないの?
あのメイド服があったって事は、アビス姫は、彼女に給仕をさせる気満々だろうし……」
「そうか……。
それにしても、宝石が取り出せて良かったですよ!
匂いもしないようですね!」
俺は、オーシャンの胸元のネックレスの匂いを嗅ぎ、綺麗になっている事を確認した。
思わず彼女に近付いてしまったが、程よい香水の香りで我に帰る。
ゆっくりと彼女から離れて、トラッシュの顔を思い浮かべていた。
「嫌な事を思い出させるんじゃないよ!
もしも臭いが消えてなかったら、ヤマネコを調理しているところさ……。
幸いにも、トラッシュがなんとかしてくれたけど……」
「それは良かった!
では、パーティー会場に向かいますか!」
「ああ……」
王宮のパーティーといっても、20人ほどが集まる小規模なパーティーだった。
来ている大半の者が男性であり、女性は3人ほどしかいないようだ。
1人は、オーシャン。
もう1人は、トラッシュとアビス姫の母親。
最後に、アビス姫が登場する予定だ。
どうやらトラッシュは本当に呼ばれていないらしい。
裏方で作業をしているのかと見回して見るが、それらしい姿はなかった。
俺がパーティー会場の周囲を見回していると、アビス姫が近付いて来る。
「スカイ!
会いたかったのです!
さあ、私の隣で食事をしなさい!
本来ならば身分差で、あなたと私は一番遠い席だが、今の私達2人がお互いに納得しているのならば婚約しているも同然です!
誰も文句は言いません!」
アビス姫は俺に抱き付き、俺の腕に自分のオッパイを擦り付け、恋人同士のような関係を装っている。
好戦的な態度で、オーシャンを見て、好戦的にこう喋りかけた。
「そこの女は、最近『雲』地区から派遣された空賊ですね!
私は物分りが良いのです。
お前が望むなら、私と友人になってやっても良いですよ!」
美しいピンクのパーティードレスに身を包み、華麗に立ち振る舞う。
フリルが所々取り付けられ、動く度にふわっとスカートが広がっていた。
オーシャンは、アビス姫を見て驚いている。
「おお、トラッシュと全く同じだ!
本人じゃないのか?」
「ふふ、見た目こそ多少は同じですが、価値は全く違います!
美しさ、気品、オッパイの大きさ、どれを取っても私は一級品なのです!
なんなら、あそこにいるお母様に聞いてみてください。
トラッシュなど、お母様の目からしてみたら、いないも同然なのです!」
アビス姫が指差す方向には、トラッシュやアビス姫と似た感じの女性が立っている。
年齢は40代といったところだろうか?
質素なデザインの服を着ているが、紛れもなく彼女達のお母さんだった。
「ふーん、お姫様に似ているね。
ドレス自体は、私のデザインと似ているようだが……。
向こうは、紺色のドレスのようだが……」
俺とオーシャンは、アビス姫と共に母親らしい女性の元へ近付いていった。
話しかけられる距離まで近づくと、アビス姫が彼女の母親に向かってこう尋ねる。
「お母様、この人達が私に似た人を見たと言ってきたの。
あなたの娘は何人いるんですか?」
「まあ、面白い事もあるものね。
私の娘は、アニス姫ただ1人だけですよ!」
「ふふ、ほらね。
トラッシュなど、私と比べる事さえできません!
あの子は、女の子としての重要な機能を失っているゴミですから……」
俺は、アビス姫に怒りを抱いていた。
トラッシュは、俺の大切な恋人なのだ。
それをゴミ呼ばわりは、聞き捨てならない。
「アビス姫、あなたは確かに綺麗だし、女の子としては魅力的だろう。
オッパイが大きくて柔らかく、子供を産める事も分かる。
だが、心はトラッシュの方が綺麗で魅力的だ!
俺は、トラッシュと結婚するつもりだ!
そりゃあ、子供はあなたの医療技術による助けが必要かもしれないが、俺はトラッシュと一緒になりたいんだ!
この星で酷く扱われている彼女を幸せにしてあげたい。
あなたのような王宮の生活は無理だとしても、笑顔にさせてあげたいんだ。
だから、俺とあなたの結婚はできない!」
俺がそう言うと、アビス姫は不気味な笑みを浮かべていた。
一瞬見えたそれを扇子で隠し、俺にこう語りかける。
怒りではなく、心の底から笑っているように肩を震わせていた。
「ふう、困りましたねぇ……。
スカイがそんなにあの子の事が好きだったなんて……。
でも、大丈夫ですよ。
私もスカイにプレゼントを用意しているのです。
それを見れば、スカイも私の事を好きになるでしょう。
私は、スカイの事を心の底から愛していますからね♡」
俺は、その言葉を聞き、アビス姫の笑顔を見る。
悪意ある雰囲気を感じ取っていた。
アビス姫の笑顔で閉じていた目が少し開き、半目で俺の表情を窺っている。
「ふふ、サプライズプレゼントは楽しみにしていて下さい。
まずは、料理でも食べて楽しみませんか?
とても美味しい料理ですよ♡」
俺とオーシャンは、アビス姫に誘われるままに、彼女の案内した席へ行き、大きなテーブルとイスが並んでいる食堂の中央へ辿り着いた。
俺達はイスに腰掛け、料理が運び込まれるのを待つ。
元々この部屋の中には、鎧かぶとやら、謎の彫刻像のような物に布がかけられて置いてあった。
室内の温度は、上がらないように空調設備がされており、俺達パーティー参加者が快適に過ごせるようになっていた。
しばらくすると、アビス姫の準備したコース料理が運ばれて来る。
目の前のテーブルに、前菜やスープが順々に運ばれて来ていた。
どれも今まで味わった事にない素晴らしい味の料理だった。
どうやらアビス姫が特別に用意したコース料理らしく、俺とオーシャン、アビス姫しか食べる人物がいない。
他の人達は、同じ会場でビッフェ料理を楽しんでいた。
それでも、観客のように、俺達の食事に注目し始めていた。
「おお、このサラダは美味しいな!
盛り付けも抜群で、食欲をそそる。
それに、コンソメスープも中々の味だ」
「ふふ、メインディッシュは、もっと素晴らしい物ですよ!
ぜひ、スカイには存分に味わって欲しい物ですね♡」
「メインディッシュはなんなんだい?
凄く気になるんだけど……」
「うふふふふ、とても美味しい肉料理ですよ!
サイコロステーキなんて、素敵じゃないですか?」
「うお、肉が柔らかくて美味しそう……」
「絶対に美味しいはずです♡」
オーシャンとアビス姫は意外に意気投合している。
俺だけが、トラッシュがいなくて飽き始めていた。
周りにいないかと気になり、辺りを見回していた。
「スカイ、何か、気になっているようですね。
くすくす、辺りを見回してどうしたんですか?」
「いえ、別に……。
料理は、とても美味しいですよ……」
「ふふう、次に出て来る料理は、私も調理を手伝ったのですよ!
愛するスカイの為にね!」
アビス姫がそう言っていると、メインディッシュのステーキが並べられて来た。
彼女は、俺とオーシャンにナイフとフォークで食べる方法を教える。
さすがに、方法を知らなければ、上手くステーキを食べる事はできない。
「なんとか、上手くステーキを食べる事ができるようになったぞ……」
動きはぎこちないけど……」
「ふふ、美味しい?
もうそろそろ全部食べ終わる頃だし、本題に入りましょうか?
あなた、トラッシュと一緒になりたかったのよね?」
「ああ、結婚して幸せにしてあげたい!」
「そう、でも残念ね……。
今、あなたが食べ終わったのがトラッシュよ?
うふふふふふ……」
「バカな……。
味は、普通の牛肉のようだったが……」
「じゃあ、もう一つサプライズプレゼントよ!
これは、トラッシュの剥製よ。
私が衣装を合わせるのに使おうかと思ったけど、スカイにあげるわ!
愛撫でも、抱きしめるでも好きにしなさい!」
先にも述べたように、部屋の中には、謎の彫刻像のような物に布がかけられていた。
俺達には見えないように、鎧やら絵画と一緒に並べられていた。
俺達は、アビス姫に支持されて初めて気が付く。
「ふふ、愛しのトラッシュとのご対面よ!」
アビス姫が布をゆっくりと取り払うと、生きているような姿のトラッシュが硬直したまま立っていた。
俺は、思わず彼女に駆け寄って行く。
パーティー参加者も思わず、ゾッとしていた。
周囲に騒つく音が聞こえている。
「おっと、壊れ易いから注意してね!
せっかく作った等身大の私がぶっ壊れてしまうわ♡
冷静になった後に近付きなさい!」
「これがトラッシュなら、さっき食べた肉は何なんだ?」
「あら、剥製の作り方をご存知ない?
内臓やらをくり抜いて、防腐剤で加工するのよ!
そうすれば、老けることも無い素晴らしい剥製が完成するわ。
私の自信作よ、スカイにあげるわ♡
ふふふ、可愛がってあげてね!」
「うわあああああああああああ!」
俺は、あまりの出来事に気分が悪くなって、発狂していた。
嘔吐しそうになるところを、アビス姫に気絶させられる。
周囲に危険が及ぶ以上、アビス姫も護身術は身に付けていたのだ。
「あらあら、せっかくのトラッシュを吐いちゃいやん♡
せっかく一つになったんだもの、肉の一欠片まで消化しないとね……。
でも、スカイが剥製に愛を注ぐのも納得できないわ。
私も胸糞悪いし、焼却処分しちゃおうかな?」
メイドに指示を出し、トラッシュの剥製を焼こうとするアビス姫に対して、オーシャンが語り掛ける。
トラッシュの剥製を守ろうとしているようだ。
「あんた、性格最悪だね!
ここまでスカイを精神的に追い詰めて、何しようってんだい?
トラッシュの剥製は、燃やさせないよ!」
「ふう、さすがに、この剥製を燃やしたらヤバイか……。
ここまでにしておこうかしら……。
じゃあ、オーシャンさん、引き続きパーティーを楽しんでいってね。
私は、スカイを看病しつつ、婚約の手続きもしておくから……。
私がスカイの悲しみを癒してあげるのよ♡
うふふふふふ、いずれは、スカイも私を理解してくれるわ♡」
「ふう、変なお姫様だね。
私も人のこと言えないけど……」
オーシャンは、俺とアビス姫が寝室に入って行くのを見届けていた。
メイド数人に運ばれて、俺は謎の部屋へ寝かされて行く。
トラッシュの剥製は、食堂に飾られたままだった。
オーシャンとパーティー参加者を残して、俺達は早めに退場して行った。
アビス姫は、パーティー参加者に冷酷な目を向けて、クスクス笑いながら会場を後にする。
異様な空気が、パーティー会場全体に漂ったままだった。
誰も騒がず、アビス姫の冷酷さを噛み締めているようだ。
冷酷なお姫様のサプライズによって、会場はシーンと静まり返っていた。




