秋月荊(あきつきいばら)
「や、止めろ! 私を殺すな!」
「ダメだ。お前を生かして置くわけにはいかない。ここで消す」
俺は目の前の男に対して拳銃を向けた。
「誰か! 助けてくれ! こいつは人殺しだ! シリアルキラーなんだ!」
俺は顔色変えず男に発砲した。
銃弾は男の頭部に直撃し、大量の血を流しながら倒れこんだ。
「さてと、次は誰を狙うか......」
そこで俺は目が覚めた。
やれやれ、人を殺す夢を見るなんて。
朝から最悪の目覚めだ。
俺の名前は秋月荊。私立メイトニック学園に通う高校2年生である。
母親は物心着く頃から亡くなり、父親は遠くに出稼ぎに出ているため、今は妹と二人暮らしをしている。
俺はリビングに移動し、テレビをつけた。テレビにはアイドルが歌っている様子が映っていた。
どうやら昨日のアイドルのライブを特集しているらしい。
「ずっきゅん! ずっきゅん! あなたにずっきゅん!」
センターの茶髪の女性が見事な踊りをしていた。
「あなたに〜」
「あなたに〜」
他の二人のメンバーも続けて踊った。
「あなたにずっきゅーん恋してる!」
三人は謎のポーズを決めた。
次の瞬間、観客がワァーと大声援並びに拍手を送った。
三人のアイドルは輝かしいスポットライトを浴びている。
俺はあまりアイドルには興味はないが、このアイドルは少し知っている。
確かこのアイドル名はスリーガールズ。
最近、人気急上昇中のアイドルだと、なんかの番組で見たことがある。
「みんな! 今日はライブに来てくれてありがとう! みんなのアイドル、伊藤奏衣です!」
かなえちゃーん! という声援が聞こえた。
「みんなのおかげでスリーガールズの日本武道館の初ライブ、大成功させることができました。」
今度は藍子ちゃーん! という声がテレビ越しから聞こえた。
たしか、このアイドルの子は秋元藍子だっただろうか。
グループ最年少、金髪のツインテールで大きいお友達の方々から人気だとかなんだとか。
「来週発売の私たちの新曲、天使の微笑みぜひ、みんな買ってね!」
新曲の宣伝をしたこのピンクの髪をした女性は渡辺麻依。
確か、アイドルで最年長の人だったと思う。
俺はアイドルの特集に興味はないので、チャンネルを変えた。
すると、シリアルキラーに関するニュースをやっていた。
「先日、私立メイトニック学園の生徒の藤崎綺音さんが何者かに殺されたようです。遺体は氷漬けの状態でバラバラになっていたとのことから、シリアルキラーの朝倉東の仕業ではないかと言われています」
どうやら、うちの学園の生徒が殺されたらしい。
それにしても、遺体がバラバラとは。中々エグい死に方をしてしまったんだな。
一応、葵のやつにも警戒するように言っておくか。
「おはよう、お兄さん」
妹の葵が眠そうな目をこすりながらリビングにやってきた。
葵は俺の一つ下で、俺と同じ高校に通っている。
「おはよう。葵、今日のニュースで知ったんだが、昨日うちの学園の生徒が殺されたらしい」
「ええ! 本当! それはおっかないね。シリアルキラーの仕業?」
葵はものすごく眠そうな状態とは打って変わって、興味津々に訊いてきた。
めっちゃ顔を近づけてきた。
透き通った葵の瞳が俺の顔を写していた。
「あ、葵。ちょっと、離れろ」
「ご、ごめん」
葵は顔を赤らめながら俺から距離を取った。
「殺された生徒の遺体は氷漬けでバラバラの状態だったらしい。容疑者は朝倉東の仕業ではないかとニュースで言っていた」
「朝倉東ってあの?」
「ああ」
朝倉東はこの辺りでよく出没すると話題になっていた。
チェルスハンドというマーダーフォースを持っていると言われている。
右手でどんなものも一瞬で凍らせる能力。
「兄さん、朝倉東を狩るの?」
「さぁ、どうしようかな。金にはなる。だが、命の危険まで犯したくはない」
シリアルキラーには懸賞金が掛けられている。
銃刀法違反が廃止された今、賞金狩りという職業が普通に成り立ってしまっている。
俺と葵はたまにシリアルキラーを狩るといったことをしている。
俺は某猫型ロボットのメガネの親友のように射撃が得意なので、もっぱらシリアルキラー狩りには銃器を用いる。
葵もシリアルキラー狩りを手伝ってくれる(というか無理やり同行してくる)のだが、葵は日本刀を使う。
葵は特技は剣道で、中学時代には全国大会に出場し、好成績を残したこともある。
高校に入学してからは剣道部には入部していないのだが。
「とりあえず、朝ごはんを食べよう」
「うん」
朝食を食べた後、俺と葵は学校に向かった。
「兄さん、昨日男子から付き合ってほしいって言われたんだけど、どう断ったらいいかな?」
「付き合ってみればいいじゃないか」
葵はものすごくモテる。
贔屓目で見てるのもあるかもしれないが、葵は美人である。
眼鏡を掛けていて知的な感じを醸し出しており(実際には違うのだが)、スタイルも良い。
「い、嫌だよ。兄さんといられる時間が減るもん」
「そうか、なら適当に好きな人がいるって言えばいいんじゃないか」
「なっ! 好きな人って!」
何かまずいことを言っただろうか。
「それじゃ、俺は教室に行くから」
「うん、放課後にまた!」
一緒に帰りやがれということか。
あいつ、友達いるんだろうか。
まぁ、俺もあんまり親しい友達はいない。
無理もない、俺と葵は学校のやつらからこう言われている。
シリアルキラー殺しと。
以前、俺と葵は一度だけシリアルキラー狩りで、シリアルキラーを殺したことがある。
シリアルキラーを殺したことはニュースになり、学校でも知られた。
それ以降、どことなく学校のやつらは俺から距離を取るようになった。
別にシリアルキラーを殺しても犯罪ではないのだが、人を殺めたやつなんかに関わりたくはないだろう。
当然の反応だ。
いつも通り授業を適当に聞き、昼休みに入った。
屋上に移動し、焼きそばパンを取り出した。
焼きそばパンは俺の好物の一つである。
パンと焼きそばという炭水化物の組み合わせが絶妙なハーモノーを生み出している。
焼きそばパンを頬張りながら空を見上げた。
空は青く、面白い形をした雲が空に漂っていた。
誰もいないこの時間、俺はとても気に入っている。
無心になっていると、後ろから声を掛けられた。
「す、すみません。秋月荊さんですか?」
「うわ! そうですけど、何か用ですか?」
無心というか、無我の境地に入っていたため、急に話しかけられてとても驚いた。
「驚かせてすみません。すみません。相談したいことがあってここに来ました」
「相談?」
「はい。姉の、藤崎綺音の仇を討って欲しいんです」