たとえ彼が変わったとしても私は好きだった
本日は十二月二十四日。
よって、クリスマスイブでもある。
私は仕事を終え、重い鞄を肩にかけ、最寄り駅のホームに降り立つ。
改札口を通過し、一歩外に出ると、イルミネーションが点灯されており、ロータリーの真ん中に大きなクリスマスツリーが飾られ、視界は駅前なのにも関わらず、一気にクリスマスモードに切り替わった。
私、安藤 理彩は十二月が大嫌い。
その理由は二つある。
一つ目はクリスマスイブが私の誕生日であり、毎年のようにケーキは「クリスマスケーキ」と「誕生日ケーキ」をセットで一個済まされてしまうから。
二つ目はちょっと恋愛事情でいろいろあって……。
「はぁ……クリスマスなんか来なくていいのに……」
私は鞄を持ち変えたり、冷えきった手を擦ったりしながら、彼が来るのを待っていた――。
*
私には幼稚園からの幼なじみがいる。
その人は佐々木 誠くん。
彼は幼い頃から協調性があり、地味で人見知りの激しい私と違って正反対の性格だから、釣り合わない。
私と誠くんは恋人同士ではなく、ずっと友達みたいな関係でいたかった。
私達は中学まで一緒に過ごしていたが、高校は別々の高校に進学。
確か彼と再会したのは高校二年生の今頃だったと思う。
「理彩? 理彩か?」
「誰?」
「俺だよ。おまえん家の近くの」
「も、もしかして、誠くん!? どうしちゃったの!?」
外は暗かったが、幸いにも街頭がついていた。
久しぶりに再会した誠くんは制服を着崩し、髪色は黒髪から茶髪に染めている。
一方の私は髪色は黒髪のまま。
高校に進学したら視力が落ちてしまったため、眼鏡をかけているため、学校のパンフレットに載っている人みたいにきっちり着ているいかにも優等生といった雰囲気だ。
この状況だと、チャラ男と地味系女子の残念な再会じゃん!
「本当に久し振りだな。理彩、さっきは驚かせてごめんな。俺、高校デビューしてみた」
「そうだねー。って、いくらなんでも変わりすぎだよ!」
「あはは。理彩は昔から優等生タイプだからな」
「まぁ、誠くんはチャラくなっちゃったけどね」
「理彩もスカートを短くすればいいじゃん」
「私が通っている学校は誠くんみたいな服装をしている人、いないもん」
「そ、そうなんだ……」
彼は珍しくモジモジしているせいか、私は「今度はどうしたの?」と問いかけた。
「り、理彩、俺はおまえのことがす、好きだ!」
突然、誠くんから告白されたので、「……ごめんなさい……」と即答する私。
その当時は一年生の頃からつき合っていた人がいたため、彼の告白を断ってしまった。
「そうだよな……理彩にも気になる奴やつき合っている奴の一人や二人いてもおかしくないよな」
「本当にごめんなさい。じゃあね」
私は誠くんをおいて足早に家の中に入る。
さっき見た彼の少し寂しそうな表情が頭の中に貼りついてしまい、なかなか離れてくれない。
たとえ、誠くんの外見が変わったとしても私は好きだったのは変わりなかったから――。
*
あれから、一年生の頃につき合っていた彼とは高校卒業を期に別れ、社会に出てから数年間はクリぼっちだったんだけどね。
「今、思い出すとあの頃は懐かしいな」
私がふとこう呟くと同時に「おーい!」と私に向かって手を振ってくる人影があった。
その人影は男性で、人混みをかき分けながら私のところに近づいてくる。
「理彩、お待たせ! 待った?」
「誠くん、ぜんぜん待ってないよ」
「マジで?」
「う、うん」
「あ、あのさ……数年越しになっちゃったけど……」
「ん?」
「理彩、俺はおまえのことが好きだ! そして……誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう」
その台詞はあの頃も言っていたけれど、それに加えて誠くんは今日が私の誕生日だということを覚えていてくれていた。
私はそれだけでも嬉しかった。
しかし、今回はまだ続きがあるらしく、上着のポケットからごそごそと何かを取り出す。
「それと…………俺と一緒に幸せな家庭を作っていきたいと思っている! もしよかったら、この指輪を受け取ってほしい! 嫌なら、前みたいに「ごめんなさい」と言っても構わないから!」
イルミネーションを背景に誠くんは地面に跪き、指輪の入った小さな箱を私に差し出した。
これはおそらく彼なりのプロポーズなのかもしれない。
「ち、ちょっと待ってよ!」
「…………」
ここは駅前なので、たくさんの人が集っているため、正直恥ずかしいと思っていた。
彼は黙ったままずっと同じ体勢で私の返事を待っている。
今は周囲の視線を気にしている場合じゃない。
「こんな私でよかったら、喜んで」
私はその箱をそっと手に取り、満面の笑顔で告白の返事をした。
「理彩、ありがとな!」
「いえいえ」
私達はたくさんの視線を浴びながら、ギュッと抱きしめた。
最後までご覧いただきありがとうございました。