半年に一回のバタークッキー
新年明けましておめでとうございます。
冬休み中、病気してたのですが今は治って元気です。
今年もエルフ萌えで宜しくお願いします。
魔導具定期メンテナンスは半年に一回くらいって嘘でしょう……。
前回のメンテナンス日は知ってすぐに恵まれたので、本当の本当にラッキーだったわけだ。私の転生特典【絶対幸運】いい仕事してますねえ。
でも半年に一回の逢瀬とか悲しすぎますよ。七夕のように一年に一回よりはマシかもだけど、半年もディムナさんに会えないなんて私に干からびろとでも言うのか。許せん。
誰に憤ればいいか、責任の所在はどこにあるのか、そんなのは決まってないが私が怒りを発する時、必ずと言っていいほどあの簾ハゲオッサンの顔が思い浮かぶ。
「オッサンめ! なぜエルフにしたんだ人間にしてくれれば今頃ボインかもしれないのに! 早く大人になりたぁぁいいいい」
理不尽な叫びとは分かっている。だけど叫ばずにはいられなかった私は、ここが泉の畔であることをいいことに、力の限り叫んだ。
目の前の泉はエルフ村の近くにあるため、私一人で遊びに来てもお目付け役には叱られない。村の近くだから、たまに他のエルフとも鉢合わせてしまうこともあるが、まあ、概ね一人になれる。ぼっちゾーンだ。だから、私の神器を誰にも見られず試すのにも丁度良い場所なのである。
『お前がエルフが良いって言ったくせに』
案の定、オッサンがのってきた。
脳内で勝手にメッセージを受信した。
「言ったけど決定事項じゃないもん。それより早くボインになりたい。何とかして」
『ええか。オッサンは青い猫型ロボットに似てるかもしれんが何でも叶えてくれる不思議なポッケは持っとらんぞ』
「私を殺したくせにい」
『事故死は運命だ。殺人ではない』
「ちょっと胸の成長を促すだけでもいいから」
『そんなに年を取りたければ神器を使えば良い』
「神器は寿命短くなるだけじゃん!」
『寿命と共に若さも削るはずだ。簡単に言えば、使えば使うほど老け込む』
「ぐああやっぱ嫌な神器だよこれ! 妖怪だよ!」
オッサンと脳内で会話を繰り広げながらも、膝に三代目タブレットちゃんを置いてお絵描きもしていた。
新しい漫画のキャラクターとか、アイデア沸いたら直ぐにメモれるよういつもタブレットを持ち歩いていた前世を思い出す。だからこれはもう、前世での癖みたいなものである。絵を描いていると落ち着くのだ。だから漫画家になったんだ。
ただ、前世では描いても本物になって出現するという摩訶不思議な現象は起こらなかったが。夢想はしたけども。
ちょいとそこんところ今世はひと味違う。アプリ【ペントゥラート】を使えば、描いたものが現実になるのだ。夢が叶う。ビバ転生記念。
百万回も転生よく頑張りました私。
前999,998回は覚えてないけどね!
そしてこのアプリ【ペントゥラート】は奥が深い。
使えば使うほど寿命を吸い取る憎いやつだけど、完成した絵を出力しないで保存しておけば寿命が減らないことに気づいた。
『ファイル→別名で保存』か『ファイル→上書き保存』である。
出力に寿命がかかるだけだったのだ。保存するだけなら寿命を捧げなくても良い。
そこで、せっせと食べたいものなど色々と描き貯めている。
貯蓄容量に制限はあるみたいだが、容量の表示をみても、まだ1%すら越していない。かなり余裕があるみたいで安心している。
貯めている食べ物は備蓄用である。絵なので腐ることもないし、緊急時にさっと食べれて便利だと思ったから、エルフが食べているものをスケッチしたり、前世で食べていたものも描いて保存している。
そうそう。エルフは菜食主義だと思ってないかね。違った。違ったのだよ。
普通に家禽を飼ってるし、森に狩りにも行くよ。
それから日本人の心の友、お米も作ってるよ! これにはヒャッホーした。
水田がどこにあるのかというと、なんと地下栽培である。
木の根よりも深いところに地下室を作り、様々な魔導技術の下で完全管理。天候に左右されず安心安全なお米を栽培している。おかげで麹に味噌に醤油や酢、酒もあるから、エルフ村すげえですわ。
転生してからこちとら日本食恋しいと思ったことないよ。なんせ私のお母さんの得意料理は和食だからね。毎朝お味噌汁の匂いで目を覚ましてます。幸せです。
もうここまでくると、どこかに私と同じ日本からの転生者が身近にいるんじゃないかと疑うよね。ええ、その通りです。
誰なのか確認はしてないけど……。
でもまあ、ハイエルフ様がすんごい怪しいな。
いつか聞いてみようと思いつつ、ハイエルフ様がなかなか帰還されないもんだから保留中だよ。
そんなことを訥々と考えつつ、私は泉の畔でスケッチをしている。
傍らではピエタが土を掘り堀りしている。ピエタは勇者の神殿で卵から孵った白緑竜の赤ちゃんである。
最初は神殿で育てられていて私が通っていたのだけれど、最近はピエタが私に甘えて離れない時もあったので、私と一緒に暮らしても良いことになった。
一応お父さんがハイエルフ様にお伺いの手紙を出したみたいなのだけど、まだ返事は届いてないらしい。水晶通話もしてみたそうだけど、繋がらないらしい。
どうしようってことになったが、ピエタの愛らしい仕草と表情に骨抜きになってしまった司祭さんたち満場一致の意見で、「リリィに懐いてるし大丈夫だろ」と私に預けてくれた。わーい。
ピエタは可愛い。まだ幼い竜だから飛べないけど、一生懸命に地面をほじくり返している姿を見ていると、つい描きたくなるよね。
容量もいっぱいあることだし、私はこの日、ピエタの行動を観察し、気合いを入れて模写しまくった。
あ、地面ほじって出てきた虫は描いてません。それどうすんだと思って見ていたら、ピエタったら食べるわけでもなく、ただ虫を口に入れてペッと吐き出して、足で踏んだり尻尾でバシバシしたり、よく分からない行動をしていた。
えーと。小さな虫にも命があるのでそれ以上いじめないように。
分かったかなピエタくん。
「ピエ!」
よいお返事だ。やっぱピエタは可愛いです。
クリーム色の鬣を撫でたり、顎を掻いてあげたり、肩をマッサージしてあげると、目を細めて悦んでくれたよ。
*
半年後――――。
次の魔導具メンテナンスの日、約束通りディムナと会えた。
黒髪の彼はすらっと背が高く素敵である。男爵の孫なだけあって気品のある出で立ちで、着ている服も首元がキッチリしているからか、とても上品だ。
そういえば初めて出会った時の、白髪フィンブェナフの時も、けっこう上等な服を着ていたような気がする。
はあ~どっちの彼も捨て難い。どっちの彼も素敵である。これは決して二股ではない。なんせ思い描く二人は同一人物だから。
私とディムナは、子連れ家族やエルフたちがワイワイやっている中心より外れた場所で、二人並んで座っている。
こうして並んで座っていても、また前のようにキスを……という雰囲気はない。
キスしたいのは山々ではあるが、私からとか……ほら、恥ずかしいじゃん。
てか無理ぽ。前世じゃ恋人いない歴イコール年齢だったんだよ。
恋する青春時代には漫画ばっかり描いてたから男の子とどうこうなんてなかった。
そりゃあドキドキするような男の子もいたよ。でも自分から告白とか出来なくて、憧れだけで終わった良き思い出しかない。
引っ込み思案で空想ばかり漫画とアニメだけが友達さ。
そんな喪女的私だったのに……なぜ今世ではこんなに恋に積極的なのか自分でも自分が分からない。
転生してハイテンションなのだろうか。転生ハイってやつだろうか。
恋って乙女の原動力になるのねってしみじみ思う。こんなことを考えるのは伊達に少女漫画家やってなかったということか。乙女心をキュンキュンさせるシチュばっかり考えていたからねえ。
そんな今日はバタークッキーを焼いてきました。
バターはハート牧場のモスメルハートさんからの提供です。
牛乳を毎朝手搾りして、殺菌に加工にエルフ村まで配達もしてくれるモスメルハートさんには頭が上がりません。おいしいよ牛乳。そのままでも勿論、加工されたバターやチーズも最高に美味。手間暇かけた愛情を感じます。
おかげでバタークッキーも香り高く仕上がりました。焼き立てなんかバターがじゅわっと口に溶け出してサイコーうまかったもんね。
冷えても美味しいと思う。ディムナに渡す分はリボンで飾って、メンテナンス終盤のティータイム時の今、そっと出してみた。
「会えるかも分からないのに作ったのか」
「会うって約束したじゃん。指切りもしたし」
「あれ、呪いだと思ったけど違った」
確かめてみたらしい。そういう魔法があるらしい。
乙女心あふれるいじらしくも微笑ましい指切りを呪いと疑って調べるとか、失礼極まりないな。
確かに指切りの発祥は女の執念ドロドロだけど、私に限ってそれはない。ライトなお付き合いを望んでます。まだ13歳だしね。
あ、そうそう、誕生日が来て13歳になったよ。
おめでとう私というかリリエイラちゃん。
「呪いじゃないもん。今日もこうしてちゃんと会えたのに、どうしてそんなこと言うの」
「………………………………」
無言で目を逸らされた。
目を逸らすってことはやましいことがあるってことだよね。
ディムナの視線を追ってみるけど特に何かを見てるわけでもない。ただ私の方を見ないようにしてるだけだ。
視線を逸らされて私はムッとする。どんな理由があるにせよ私が目の前にいるのに見てくれないのは悲しい。
こっち向いてよーと私はディムナに手を伸ばしかけて……途中で気づいた。
ディムナ、怪我してる。顎の下先、私から見て左の方。ちょこっと切ったような痕がある。ちょうどフェイスラインの下だから鏡見ても気付かなかったのかなあ。
「これどうしたの?」
私としては気軽な気持ちで、髭剃りで切ったの?くらいの気安さで声を掛けたつもりだった。
「――――っ! 触るな」
でもディムナは意外な反応を示した。体を仰け反らせてまで私の手を避けるし、手で傷口を覆って隠してからも苦虫噛み潰したような顔した。
ハリウッド顔が歪んでしまっても美形は美形なんだけど、そんな顔させてしまった私のほうが気後れする。
「ご、ごめんなさい……」
「いや……違う、触れたら君が汚れてしまうから……」
「へ? もう血固まってるみたいだし汚れないと思うよ」
「……………………」
そ、そういう意味じゃない……? またしても無言になってしまったディムナに、私はどうにも落ち着かない。
ディムナがそんなところを怪我したのも気になるし、痛ましそうな顔するのも気になる。
「すまない…………」
ディムナは立ち上がると踵を返してしまった。
何がすまないだあああ説明せんかいこらああ!
私は直ぐに彼を追いかけた。
ディムナは屋敷の方へ行く。彼は走っていないのに私は追いつけない。これはあれだ足の長さの差である。
悲しいことに私の身長は去年から一センチも伸びていないのだ。おかしい。成長期じゃないのか私は……。
ひいこら走ってディムナを追いかけて行ったら、玄関ポーチのところでディムナが止まった。ラッキー! 今の内に距離を縮めるぞ。
ディムナの前に誰かが居るようである。誰か知らんけどそのまま通せんぼしててくださーい。ダッシュで走って追いつけば、ディムナが足を止めていた理由が分かった。前に居たのはイーガンさんだ。ディムナの祖父、このトレアスサッハ家の当主でインスーロを支配する貴族、イーガン・トレアスサッハ男爵その人である。
「ディムナ待ってよお!」
「リリエイラ嬢?」
イーガンさんに気づかれた。けど知ったこっちゃない。私の目的はディムナである。
半年に一回しか会えないのに、ここで逃してたまるかの根性で、私は彼にアタックした。文字通り。
「――――ッ、リ、リリィ……」
背後からドーン。ディムナの腰を捕まえ顔面強打の勢いでへばりつく。
ふははは捕まえだぞおおお。全力疾走したから多少鼻息が荒くなるのはご勘弁を。直ぐに呼吸を整えますゆえ。
スーハスーハ ハァハァ……やばい。ディムナの匂いが、いい匂い……なんか清涼な匂いがする…………。
いやこれはわざとじゃないんだよ匂い嗅いだのは呼吸を正すためだよ。息吐けば自然と息吸うでしょ。そうするとディムナにくっついている私は自然と彼の匂いを嗅いじゃうのだ。
ラッキースケベである。ムフフ。
……じゃなくて、今はどうして逃げたか聞かないと。
「逃げたら追いかけるって言ったでしょ!」
針千本もって。もうこれ決定事項だから。
「ほう。これはこれは……情熱的なお嬢さんだ」
イーガンさんの言葉に刺が含まれてる気がするのは気のせいじゃないね。相変わらず親しくない雰囲気の人だ。
「お祖父様、この子は……」
「知っている。リリエイラ・ブロドウェン。珍しくも二つの名を授けられたエルフだ」
おおっと。イーガンさんの目が細められたよ。なにやら品定めされている気分だ。
私の名前のこと、曾おじい様からでも聞いたのかしらん。
エルフは基本ひとつの名前しか持たない。だから私のように二つの名前を持っている島エルフは珍しい。
リリエイラは産まれた時から病弱だったので、もう一つの名前ブロドウェンを授けたと親から教えられた。
これは「ひとつの名前じゃ弱いならもうひとつ名前をつけて強くしてしまえ」というハイエルフ様の伴侶である鬼神のお導きでこうなったらしい。
私としては「適当なことぬかすなこの鬼神。俺ルールか」とつっこみたくなるのだけど、両親は至って真剣に名付けたみたい。
それだけ当時は私の虚弱さに頭を悩ませていたということだろう。変な壺を買わされなかっただけマシである。
「こんにちは。イーガン・トレアスサッハ男爵様。私のことを存じ上げてくださっていて光栄に思いますわ」
ディムナを捕獲中なので挨拶の礼は出来ないけど、とりあえずの言葉は掛けてみる。
「そうだな。なかなか珍妙なお嬢さんだと心得ている」
はっはーん。この人、私に喧嘩売ってるね。
初対面からしてそうだったけど、私のこと気に食わないって顔に書いてあるよ。
喧嘩なら買うぞ。がるるるる。
「ディムナ、今日の仕事をサボった代償は大きいぞ。それに……その傷は失敗したのか?」
「いえ、最後までやりました。今日のは……後でやります」
イーガンさんが厳しく咎めるのに対し、ディムナは唇を噛み締め悔しそうに答える。
今日の仕事サボった? もしかして私との約束守る為にサボらせちゃった?!
傷が失敗ってどういうこと? でもディムナは最後までやったと、成功だと答えた。これってまるで――――。
「リリエイラ嬢。これ以上、我が孫には関わらないでもらいたい。女性は男を追いかけず、お淑やかにしているものです」
今度は私がイーガンさんに窘められた。
正論ぽいこと言ってるが本音は「うちの孫にちょっかいかけんなこのアバズレが」ぐらい言いたいのだろうな。
「ええ。ご忠告、痛み入りますわ」
私は素直に頷き、ニッコリ微笑んだ。
「分かればよろしい。来い、ディムナ」
要件は済ませたとばかりに、イーガンさんはさっさと屋敷の中へ入ってしまう。
ディムナが躊躇いがちに私の方を見たので、「お仕事頑張ってね」と彼の腰から離れた。
ここは我慢。我慢である。
「リリエイラ……」
去り際にディムナがまたキスをくれた。
今度は唇からちょっとズレて左頬に近いところだったけど、嬉しかった。




