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エルフに優しい異世界でお絵描きお菓子作りスローライフ  作者: 風巻ユウ
ワン・リトル・ツィグ

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鬼神 vs 牡牛

 

「鬼神じゃん。こんなとこでどったの」

「どうしたは俺の台詞だリリ……なんだっけか? それとそっち、うちの末の息子に似てるお前は誰だ?」


 はい? 鬼神、今なんつった。

 私の名前を覚えてないのは、まあ仕方無いとして……なんせ最後に会ったの五年以上前だし。それより何よりフィンのことなんつった?

 鬼神とハイエルフ様の子供は過去に数十人以上はいるはず。殆ど亡くなってるはず。残っている子供で末息子がフィンに似てるって……それってもしかして……。


「ジジイ?」


 フィンが怪訝な表情を浮かべている。


「なんだ孫か。そんな気ぃしてた」


 うああああ誰か嘘だと言って鬼神がフィンのじいちゃんだなんて……!

 そして末の息子ってのがクールさんなんだね。知らなかったです。

 今更、気づいたけど、クールさんのあのウルトラドラマティックハイスペな美貌はハイエルフ様に似ている。ほんと今更。

 鬼神とは似ても似つかないな……鬼神は鬼というだけあって角生えているし髪の毛真っ赤だし目つきなんてヤクザそのものだ。

 二メートル越えの高身長で130センチくらいの私を見下げてくるぞ。こっわ。

 あと、鬼のパンツはいいパンツなのかは知らないけど、虎柄な腰巻とか見るからに高品質素材な服を着ている。鬼神は金持ち。羨ましい。


「お前らこんなとこまでデートに来たのか。酔狂だな」

「ジジイこそ、こんなとこで何してる。住んでるのか」

「おうよ。あっちに家があるぜ」


 本当に住んでんのかい。ここは前人ほぼ未到な火山島じゃないのか。

 鬼がひょいひょい現れるなんて、やはりここは鬼ヶ島だったのだ。


「で、お前らは何しに来たんだ早く答えろ十秒以内に答えろ。答えないと、ここら一帯焼け野原にすんぞ」


 はあ?! 相変わらず傍若無人だなこの鬼神。


「出来るもんならやってみろ。その前に首を斬ってやる」


 ちょおっとフィンさんまでなに挑発に乗ってんの?!

 感じたくないけど血筋を感じちゃうよ。あんたらやっぱ血縁だわ。


「わあ。この孫かわいくねえ」

「かわいがってもらった覚えもない」

「えー可愛がってやったぜ。すっげえ小せえ時に……あれ? よく生きてたな」

「覚えてるなら話が早い。あの時に受けた傷を今万倍にして返してやる」

「おお。ちょっと吹っ飛ばしたくれえで根に持つな」


 鬼神よ、あんた幼いフィンになにしたの。

 本当に昔から変わらない無神経さですな。


「恨みじゃない。仕返ししたいだけだ。丁度良いからここで決着をつけようか」

「別に構わねえけど……十秒経ったぞ」


 そう言って鬼神は右手のひらに魔力を凝縮し始めた。

 え、本気でここら辺を焼け野原に……?


「駄目! アホなことすんな鬼神! ここへは珪藻土を採りに来ただけだよ! フィンは私を心配してついてきてくれたの!」


 私が叫ぶように訴えれば、鬼神は凝縮させてた魔力を一瞬で消した。

 ふほ~う。やれやれだぜえ。あんな、とてつもない魔力塊を放り投げられたら湖が蒸発しちゃう。生き物が棲めなくなっちゃう。


「珪藻土ってあれか。藻の化石とかいうやつで、シリカ純度が高いから濾過助剤に使われてるっていう……」

「珪藻土を知ってるの?! 鬼神のくせにインテリぶって生意気な……!」

「リリなんとかは俺をどういう目でみてるんだ。そんな子だったか? つか、珪藻土とか言い出してる時点で、おかしな子供か」


 う。鬼神の鋭い視線が私を射抜く。あれは疑いの目だ。


「ジジイ、リリィに手を出したら本気で屠るぞ」

「フィン、鬼神を挑発しないの。あれはあれであんなんだけど強いんだから」


 今度はフィンを抑えなきゃ。フィンの腕に抱かれたままの私は、そのまま彼の胸に手をやって、ぎゅっと上着を握り、鬼神に殺意向けるのを止めた。

 フィンも神がかり的に強いんだけど、鬼神はそれ以上に年季が入って強いんだ。

 さっきの魔力塊を見ただけで分かるだろう。あれだけのエネルギー体を一瞬で生成して一瞬で消したんだぞ。

 あの調子で神器も持ってないのに神の御業を連発してくるから。伊達に『神を名乗る者』じゃないんだよあれは。


「…………ちっ」


 よし。苦虫噛み潰したような顔だけどフィンは矛先を収めてくれた。

 どうどう。落ち着け。今は敵わなくともいつか仕返ししような。何されたか知らないけど。


「へえ。変わった子だとは思っちゃいたが……」


 ひ-ん。鬼神が私を観察しまくってるよ。あ、これ私の魔力を探られてるわ。

 前、クールさんにもこうして鋭く観察されたことがあったなあ。

 あの時クールさんのこと修羅の国の人かと思ったけど、あながち間違いじゃなかったみたい。

 目の前の鬼神、そしてクールさん。親子だって言われたことに納得。

 二人共あの目つき尋常じゃない。


「ねえ鬼神、探るの無駄だからやめた方がいいよ」


 転生特典【絶対防護】があるから探れないはず。

 なのに……「え?!」防護を破られた。

 私の魔力が勝手に情報を渡し始めたのが分かる。

 どええええ?! あっさり私を護る結界壊すとか理不尽でしょ! 【絶対防護】の絶対って意味無視すんなー!

 だいたい、個人情報の漏洩を防ぐ法律とか無いんだよこの世界。秘密を守りたければ自分で頑張るしかない。

 それにしたって何も言わず勝手に情報抜き出すのはセクハラ! パワハラ! 横暴上司! 最低よ鬼神! と、心の中で罵っても、それこそ私の方が無駄だった。


「酷い……最悪…………」


 涙がぼたぼた落ちる。上司からパワハラされて給湯室で静かに涙を流すOL気分だ。

 逆らえなくて悔しくて流す涙である。

 私が泣いたら、突然に魔力が逆巻いた。フィン?!


「お。空間魔術か。空間ごと断裁するとは……やるなあ」

「エリを泣かせた」

「そりゃ不可抗力だ」

「殺してやる」


 待ってええ待ったってええええここでドンパチしちゃ駄目だって言ってるでしょうが! この二人どんだけ似たもの同士なの?!

 私が制止の声をかける暇もなく、二人は何処かへ転移しちゃって目の前からいなくなった。


 ――――どこ行った!? 目で追うより先に耳に響いた爆発音。


 ドッカンドッカンお空に花火が咲いてますわ。きれ~い……じゃない。あいつら止めないと火山島まで破壊されちゃう。


 私は駆け出した。風操魔術で足を軽くしてクレーターの方、高い山まで走る。

 なるべく二人の近くへ行って声を飛ばそうとしたけど、声を出すどころか変な熱風と冷たい風が混ざり合ったものが私の頭上を通り過ぎてクレーターへと落ちた。


 ――――ぎゃー! 地形変えんなバカぁぁ!


 尚も光の祭典は大空の彼方で続いている。稲光みたいなのが走ったり、閃光が爆発したり……ファンタジア?

 こりゃあ二人へ声届けても止まらない気がする。

 でもここでやきもきしてたって何も変わらない。私は三代目タブレットちゃんこと神器を鞄から取り出して時操魔術を使おうとした。神を名乗る者たちには効かないだろうけど、周りの時を止めれば火山島を守れると思ったからだ。


「使わなくても大丈夫ですよ」


 私が神の御業を選択しようと指を出したその時だった。まだ時は止めてない発動直前、私の手に重なる白い手が。

 誰? あ――――。


「ハイエルフ様?」


 そこに居たのは、優しく柔和に微笑むハイエルフ様だ。

 ほああ地獄に仏、女神様降臨やあ。


「ハイエルフ様! ふわああんん」

「落ち着いてリリエイラちゃん。大丈夫だから、ね」


 いきなり泣いて取り乱した私の肩を撫でて、慰めて下さるハイエルフ様。尊い。その優しさに感動。また感涙しながら神器をストップさせた。

 ハイエルフ様が来たならもう安心だ。長い髪、長い睫毛は上品な白亜麻色をしていて、動作も優美である。その菫の花の砂糖菓子のような瞳は、力強く意思が煌き、私の心から不安を拭い去ってくれた。


「アスタロさ~ん、お昼ご飯できましたよお」


 空中に向かってハイエルフ様が声を飛ばす。音声拡大魔法ですね。これならきっと空にいる二人へ伝わる。

 しかし、お昼ご飯で釣るとか……鬼神は犬ですか。


「ディムナ君も連れて降りて来てくださいな」


 あ、ハイエルフ様はフィンの本名知ってるんだね。そりゃそうか。鬼神の伴侶ってことはフィンのおばあちゃんである。御年一万歳以上のおばあちゃんだけど、見た目が若々しいし、年老いたイメージはない。さすがハイエルフ様。


 ハイエルフ様の鬼神を呼ぶ声は、あくまでたおやかで決して張り上げたものではない。これで鬼神が食いついたとしたら、鬼神はやっぱ犬である。

 そして犬は目の前に現れた。


「おう。ハル、腹減った。飯食いてえ」

「はい。沢山作りましたから皆さんで食べましょうね」


 鬼神は素直にこくこく頷いている。躾がよろしいようで。

 てか、鬼神、お前その手に持って引きずってるボロクソなものなんだフィンか?!


「うわあああ鬼神のアホーウ! フィンになんてことすんの!」

「気絶させただけだから生きてるぞ」

「当たり前だバカーア! フィンの息止めたらアンタの息も止めてやんだからああ!」

「リリエイラちゃん、どうどう」

「そんなに泣かんでもいいだろ。こいつ若いんだから平気だって」


 泣き叫んでいる私をハイエルフ様が慰めてくれる。ハイエルフ様のフォローがなかったら鬼神の息止めてやるところだ本当に。

 やろうとしたって敵わないだろうけど、やってみることが大事。フィン、いつか一緒に仕返ししような。この傍若無人セクハラ鬼神に。

 あれだけドンパチしていたのに無傷で埃のひとつも被ってない鬼神に、今は怖くて近づくことすら無理だけど、いつかやってやろうな。ぐすぐすズビー。鼻水でるわ。


「リリエイラちゃん震えてますよ可哀想に……。アスタロさん、後でお説教です」

「するなら夜がいいぜ」

「そういう意味で言ったんじゃないですよ」

「子作りの話じゃねえの?」

「どう聞いたらそんな勘違いできるんですか」


 リア充の話なんかどうでもええですよ。

 私は寝床にポイッと放り投げられたフィンに縋り付いた。

 雑に投げんなアンポンタン鬼神!


 ハイエルフ様と鬼神のおうちは石造りの一軒家だ。火山島のどこにあるのかは分からない。私も鬼神に捕獲されて強制転移しただけだから。

 ハイエルフ様は単独で転移だ。すげー。この人もやっぱ只者じゃないな。


「フィーンンンン!」

「すぐに治してあげますからね。あらら腕曲がってるじゃないですか」


 なんでだー。どこをどうやったらこんな骨バッキバキにできるんだろう。

 着ていた服はボロボロだし、上着なんかほぼ無いぞ。どこに消えた……?

 フィンの整ったお顔だって血まみれ。満身創痍な上にとどめでボディブロー食らわせて、それでも気絶しなかったから理力で神経をなんちゃらしたとか…………鬼神が笑いながらえぐいこと言っておるわい。


「死んでない?! それ、普通だったら致命傷であの世逝きだよ!」

「辛うじてセーフだ。もし死んでたら蘇生してやっから、泣くな」

「気軽に最高位の神の御業を行使しないでくれるかな?!」


 蘇生もそうなんだけど、ハイエルフ様が今使われている治癒魔術も大概チートだ。

 この世界で治癒が使えるのは花樹神殿の神官だけと決まっている。

 神官は治癒の素養がないと神の使徒として神殿に仕えることができないのだそうで。

 それにしたって、ただの神官じゃここまで強力な治癒は施せない。

 ハイエルフ様が治癒魔術をかけると骨や内臓損傷まで治るみたいだ。普通は表在的な怪我しか治せないのに。


 前から思ってたけど、ハイエルフ様も神の名を名乗る者なんだろうか?

 神器、理法門は管理してるだけだというし……。

 もしかして鬼神より強いんじゃ……と思う時もあるのだ。まさに今。


「きちんと詫び状書いて下さいね。クールとメイニルちゃんと、あとイーガン君にもですよ」

「へいへーい」

「お返事はきちんとしましょう」

「はーい」


 渋々、三通の手紙を認める鬼神。あの鬼神が幼児扱いだ。ぷぷぷのぷ。

 そしてあのイーガン・トレアスサッハ男爵様をも子供扱い……ハイエルフ様パネェ。



(蛇足)


その頃――――。


「ピ~エ?」


白緑竜のピエタは、ひとりでいることに気づいた。

周りをキョロキョロ見渡しても誰もいない。

今まで土堀りと虫探しに夢中になっていた。

ここはインスーロとはまた違った土で虫も違う。だから夢中になっていた。


でも気づいたら、ぼっちである。


「ピエ……」


寒風だけが吹き荒ぶ。

ピエタはリリエイラの顔を思い浮かべた。

美味しいお菓子をいっぱいくれる大好きなリリエイラ。


どこ? リリエイラ……。


ピエタは羽を広げて空へと飛んだ。


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