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(別話)ゴロムト大公国の闇 (前半)

トレアスサッハ家の過去編。かなり暗い話です。

人死に当たり前なので残酷描写に注意。

クール先生があーれーな目に遭います。

直接描写はないけどお察しいただけたらと。

いろいろ鑑みてこの作品をR15にしました。

長くなったので前後編です。

ほんとうはもっとさらっと流すつもりだったのにどうしてこうなった。

 

 ディムナが八歳の時である。

 ある日、母親のメイニルが行方不明になった。

 出掛け先から戻らなくなって一ヶ月後、幼いディムナは祖母のアネッサに手を引かれ、こう言われた。


「お前の魔力は本当に綺麗。これをお守りにするわね」


 それは、ディムナが祖母の誕生日にあげた魔水晶だった。

 祖母はディムナの魔力が込められた魔水晶を手に、消息を絶った。


 祖母がいなくなって翌日、母親が帰ってきた。

 父親に抱き抱えられ帰宅した母は、見るからに憔悴していた。

 やせ細り、自力で歩けないようだった。


「母様……」

「ディムナ……良かった、無事で…………」


 母親は息子が酷い目に遭っていると毎日聞かされ続けたそうだ。

 監禁され、鎖で繋がれていた手足首は赤く腫れて傷だらけ。

 精神的にも追い詰められて、絶望しか見えなくなってきた頃、祖母が助けてくれた。

 泣きながら話す母親が哀れで、そして今度は祖母が同じ目に遭っていないか心配で、ディムナはベッドに入っても眠れぬ夜を幾日か過ごした。


 母の足は弱っていた。精神も疲弊していた。

 時折、泣き叫び、子供のように泣きじゃくる母。

 監禁中、心臓に魔導具を埋め込まれたらしく、それが母の心臓を弱らせ体の代謝を悪くしている。転びやすく歩きにくい。かと言って歩かないと人は弱るばかりだ。


 伝い歩きをする母親を、横からそっと支える。


「ありがとう、ディムナ」


 にこやかに御礼を言うメイニルの顔を見て、ディムナは安堵した。歩く気力がまだある。ディムナはメイニルを支えた脇の下に、歩行補助用の杖を置いた。


「これに掴まって」

「まあ……これ、とっても使いやすいわ」


 母が使いやすいようにと、母の使い勝手にも合わせて長さの調整ができるようにした。脇を支えるクッションも海綿をいっぱい詰めて柔らかすぎず硬すぎず丁度良いものを作った、つもりだ。


「二つも……手作り?」

「へたでごめん」


 廃材を利用したから強度が心配だった。

 だから魔法で強化はしたけれど、八歳の子供にはこれが限界だ。

 他人が見たら、八歳でこれだけ作れれば十分だろうと感心する出来栄えだったが、ディムナ自身は納得してないようだった。


「嬉しいわディムナ。良い子に育ってくれて」


 抱きしめてもらえる温もりにディムナの心も弾んだ。


 *


 祖父のイーガンは怒り狂っていた。愛する妻を捕らえられて黙ってるはずがない。


 犯人は分かっている。ゴロムト大公である。

 今の大公はカザストラ家のオルモック・ガジニ・カザストラだ。

 このゴロムト大公国の絶対君主である彼は、以前からイーガンの行動を阻止しようとしていた。なぜならイーガンは大公の首を簒奪できる旗印だからだ。


 イーガンの出自はカザストラ家の傍流ではあるが、本家の人間が次々と謀殺され数が減ってしまった今、大公さえいなくなれば後継者になれる地位にまで登り詰めていた。

 だがイーガン自身に大公を継ぐ意思は無く、幼いが本家に残る公子もいるので、その幼児がゆくゆくは後継ぎになれば良いと考えていた。


 けれど情勢が悪かった。今の大公は評判が悪く、圧政を強いるので庶民の暮らしぶりは日に日に衰えていくばかり。

 ただでさえ寒冷な土地。インフラさえ凍りつく街。絶対的な君主が率先して指導しなければならぬ時期に、現大公は贅を凝らすことしか考えず執務を放棄している。

 これでは庶民も、君主に従うはずの貴族さえも呆れ果て、現大公を憎む始末だ。


 そんな事情でイーガンに白羽の矢が立ってしまったのである。

 本家の幼子などでは今の状況は直ぐに変えられない。カザストラ家の血族であればいい。成人したまともな思考を持つ君主が欲しい。

 急遽集まった諮問機関(コンセンユ・デタ)で、イーガン・デタイユ・カザストラは喚問を受け、暫定第一後継人として決まってしまった。


 当然、これらの動きをゴロムト大公が快く思うはずがない。

 イーガンを消すため謀略を巡らせ、ついに妻アネッサを人質として捕らえたのである。

 その前に娘のメイニルを攫い、その心臓に魔導具を仕込むという奸計も達成している。ゴロムト大公はイーガンの苦しむ姿を見たいが為に謀をしているかのようであった。


「良いザマだイーガン。我は君主なるぞ。血の薄い其方が出る幕ではないわ。下等な者共に誑かされよって……」


「黙れ! 妻を返せ! 娘を元通りにしろ! 貴様はどこまで地に落ちる気だ恥を知れッ!」


 二人の言い争いはヴェンプロッセ宮殿中に鳴り響いていたが、決着はつかなかった。

 ただ、イーガンが絶対君主に食ってかかったこと。これが周囲の目には希望に見えたのかも知れない。イーガンを後押しする勢力は高位貴族を中心にまとまり、行政は停止しているのに社交場ばかりが活発化していった。


 人間たちは、まとまっていった。

 だが、無頼な魔人などが徒党を組み、市街地を破壊して回るようになる。

 魔人たちは大公の手先だという噂が出始めた。

 実際にゴロムト大公は、自身の側近や警護に魔人を採用していた。


 魔人というのは、魔国から流れてきた魔人族や魔獣族の子孫、それから混血児などを指す。

 ゴロムト大公国では、市民権すら与えられていないはずの彼らが、我が物顔で街の風紀を乱し、荒らしていた。


 そんな中、イーガンとその娘の夫である島エルフ族のクールは、アネッサを助ける為に奔走していた。

 イーガンは貴族院へ働きかけ味方を増やし、大公の悪巧みも探っていた。いざとなったら証拠を押さえる為だ。

 クールは元旅芸人の仲間や島エルフ族の友を頼り、カザストラ家本邸の屋敷を探った。メイニルが監禁されていた場所は地下だったが、アネッサは希少種の島エルフだからなのか、そこまでのことはされていない。

 屋敷に軟禁されているというところまで情報を掴んでいた。


 ここまでで、ニ年掛かった。なんせ冬将軍の到来する真冬はまともに動けず、かといって春になっても残雪が積もり地面が凍るような厳しい土地柄である。

 十分に活動できるのは夏くらいだ。すぐに雪が降る。地上では吹雪になる前に連絡を取り合って、吹雪いてからは地下を通じて密書を回す。通信水晶は盗聴の恐れがあるため人の手で密書は運ばれた。


 こうして集めた情報を元に、クールは旅の芸人一座と一緒に、ゴロムト大公おわす宮殿へと乗り込んだ。

 いざという日の為に、宮殿からゴロムト大公が脱出する逃走経路を探ること、それからあわよくばゴロムト大公に気に入られ、本邸への出入りを許されるようになればと、美人揃いと評判の芸人一座へと紛れ込んだのだ。

 化粧をして舞台衣装を着込み、大公の前で演劇を披露する。それは歌い仕立てのオペラのような劇で、クールは舞いながら散っていく花の精霊の役を演じた。


 果たしてクールはゴロムト大公の目にとまることができた。

 事前に調べた通り、ゴロムト大公は大のエルフ好きなのである。長い尖り耳を晒してれば、必ず目を引くと思ったのだ。そして留めに魅了の魔法をかけた。

 精神干渉系の魔法はクールの得意とするところだ。


「数々の美妓をみたが、其方ほどの才色兼備はまたとない。我の舘でも舞いを披露してくれぬか」


 好色そうな笑みを湛えた大公からの誘いに「はい。喜んで」とクールは妖艶な笑みで答えた。

 そのままゴロムト大公に手を取られ本邸へと共に帰宅する。屋敷の結界は大公が通る時は一時解除される。解除されている間に仲間たちが忍び込む手筈なのだ。


 寝所へ招かれた。こうなることは覚悟の上だ。

 寝所に篭っている間に仲間たちが逃走経路や秘密の部屋など、屋敷中を調べてくれている。この屋敷の警備状況も把握済みである。所詮は無頼な輩たちしか警備していないので、袖の下を渡せば事は進む。


 明け方――――。クールは寝所を抜け出した。

 舞台衣装ではなく隠し持っていた普段着を着込み、すっかり花の精霊ではなくなっている。仲間たちが付けてくれた印を辿り目的の部屋まで。

 部屋の中にはエルフの女性がいた。


「――――クール?!」

「義母上、逃げよう」


 寝ていたところを起こしてしまったから、かなり驚かれたが、アネッサは見たところ外傷もなく弱ったところも見られない。

 ゴロムト大公から無碍にされていなくてよかった。


「クール、駄目。私は逃げられない」

「どうして? 今なら大公は寝てる。見張りもこちら側だ」


 脱出するなら好機だとクールは主張するが、アネッサは首を横に振る。

 その振動でアネッサの白亜麻色した髪も舞った。


「駄目。私が逃げるとメイニルが殺される。心臓に埋め込まれた魔導具が爆発する仕掛けになってる」

「そんな……! 本当か? それは……そんな魔導具が」

「ある。血の絆(サン・リギーオ)……先代ゴロムト大公妃の秘宝がそう」


 クールがショックを受けている間に、アネッサがクールの手を取った。


「これ使って、あんただけでも逃げて。私は、もう一つの対なる魔導具を探し出すまでは、ここから逃げない」


 アネッサが渡したのはディムナの魔力が込められた魔水晶だ。

 ディムナの力強いけれど混沌とした、まだまだ不安定な魔力が、水晶目一杯に詰められている。

 確かに息子の魔力の波導を感じて、クールは魔水晶を握り込んだ。


「分かった。いつか必ず助け出す。だから……――――!」


 バンッと扉が勢いよく開いた。開いたのは見知らぬ男だ。大公ではない。ここの見張りの男だろう。

 動きやすそうな服装と鍛えられた体躯。武器は持っていないみたいだが、均等に配置された筋肉の盛り上がりを見れば、その全身が凶器と言っても過言は無いだろう。どうみてもパワーファイターだ。


「よお。かわいこちゃん。寝やのお勤めは済んだのかあ? そんなとこに居ねえで俺とも遊ぼうか」


 見知らぬ男は部屋にずかずかと入り込んで、クールへと迫る。

 手を出される前にクールは素早く横に避け、部屋の入口へとダッシュした。

 だが行く手を阻まれる。


「どけッ」


 クールは無詠唱でその男の脛を狙い風操魔術を使う。風の刃が相手を切り裂くはずだった。しかし男は避けもしないで、それを肉体のみで弾いた。魔力の込められた攻撃を素肌で弾いたのだ。弾いたと同時に伸ばされた手がクールの肩を掴もうとしたが、寸前に体を捻って躱し、床に手をついた。

 物質へ干渉することにより、その物質自体を崩壊させる業を発動させる。


「"瓦解しろ"」


 手を付いた箇所からビシビシと罅が入り、男の足下が崩れていく。

 足を取られた男はバランスを崩し「おおっ!」更に床は崩れ穴が空いた。

 男の足下周りだけきれいに穴が空き、その落とし穴に男は体勢を崩したまま下の階へと落ちていった。


 クールは直様、逃走経路を変えた。出入り口ドア前の床は崩れ去っているので、アネッサがいるベッドの向こうにあるガラス戸から脱出しようとしたのである。

 先を読んだアネッサは鍵を開け、外へと続くガラス戸をも開けてくれているところだった。


「すまない義母上」

「いいから早く逃げて。あの男はあれくらいじゃ死なない」

「随分と頑丈なやつだ」

「魔獣族とのハーフよ。鼻が利く」

「道理で……」


 ゴロムト大公の子飼いだろう。鼻薬はきかないのに、本物の嗅覚は鋭いとは厄介だ。調べきれなかったのが悔やまれる。

 侵入した仲間たちは無事だろうか。気にはなるが、今はここから脱出する方が先だった。


「俺からは逃げらんねえよお」

「――――ッ!」


 唐突にクールの長い白髪が引っ張られた。引いたのはあの男だ。魔獣族とのハーフというだけに、目つき鋭く獣じみた犬歯を剥き出しにしてニタアと嗤う。


「ぐ……ッ」


 背後から首を絞められてクールは呻いた。


「オズワルドやめて! クールを放して!」

「無理だあ。侵入者は殺す。お館様の命令……だけど、こんな美人エルフ殺すの勿体無えなあ」

「ならやめて! やめなさい!」

「ま、殺す前に楽しむのはいいよな。よし、そうしよう」


 オズワルドと呼ばれた男は、下卑た笑みを浮かべ舌舐めずりまでして、今腕の中に捕獲している獲物を見やる。

 クールは首を圧迫されて声も出せない。抵抗したいが、どんどん脳への酸素供給が減り、遂には腕が動かせなくなった。


「─っ、だめ! やめて! やめて! 私の弟なの、たった一人の弟なの! やめてええ」


 アネッサはたまりかねたように感情を吐露した。

 イーガンに嫁ぎ、15歳になった娘の婿になったのは弟のクールだった。弟であるばかりか義理の親子にまでなれて、思えばあの頃、娘夫婦が仲睦まじく孫まで産まれた頃は幸せな日々だった。


「なんだあ。姉弟でお館様のお手付きなんかよ」


 オズワルドは嘲笑い、貶した。

 ゴロムト大公がエルフに執着しているのを知っている。大公はエルフとの子を望んでいるのだ。


「お姫姉ちゃんは追ってくんじゃねえぞお。そろそろお館様も起きる時間だ」


 オズワルドはクールの首を抱えたまま、先程も落ちた穴へ向かって飛んだ。


「やめてええええっ、クール! クール! 嫌ああぁぁっっ!!」


 悲痛な姉の叫びが、朝日が差し込む邸宅内に、木霊した。


 *


 父親が殺されたと祖父イーガンの口から聞かされたのは、ディムナが十歳になった頃のことだ。


「そんな……クールが……? お父様、嘘でしょう……?」

「嘘ではない。すまない。私の力不足だ。遺体は大公の土地に埋められてしまったから……戻らない」

「まさか、そんな……クールが……クールが死ぬわけ、ないわ……」

「すまないメイニル…………っ」

「嘘よ、嘘おぉ……!」


 イーガンに頭を下げられ、夫の訃報の事実を知ったメイニルは、その場に崩れ落ち、うずくまってしまった。


「母様……」

「ディムナ……あぁぁぁ…………」


 時が経ち、漸く精神も安定してきたところだったのに追い打ちをかけられてしまったメイニルの心はボロボロだ。また、塞ぎ込みがちになり、食事の量も減ってしまった。


 暗鬱とした日々。

 この国の天気のように、常に心が雪雲に覆われて、心が病んでいきそうだ。


「もう、この国には居られない。荷物を纏めなさい」


 第一継承者の亡命。

 ゴロムト大公国の公位を巡る争いは、オルモック・ガジニ・カザストラの一人勝ちで終わった。


 花神連合王国に渡ったディムナたちは、ゴロムト大公国の最高位貴族ということもあり、王宮内に匿われることになる。

 父親が死んでから、イーガンはディムナに魔術の高等教育を受けさせた。

 その上で、ディムナにはイーガン自ら魔術戦闘の厳しい指導と特訓も課した。


 ディムナは十歳だ。ゴロムトの貴族は十歳から爵位を継ぐことが可能だ。

 陰謀策略が渦巻くゴロムト大公国宮殿内では生き残ることの方が難しい。幼子でも跡目を告げるよう規定されたものであった。たとえ愚かと思われる規定であろうと、ゴロムトの貴族として生まれたからには遵守するものである。

 イーガンはディムナを一人前の男としての扱いをした。ただそれだけのことだ。


「父親を殺した奴等が憎いだろう。憎いなら殺せ。恨みを晴らしてやれ」


 祖父の命令には逆らえずというよりも、ディムナ自身、確かに父の仇をとりたい気持ちもあったので、言われるまま命じられるままに転移魔術で故郷のゴロムトへ。

 転移先は以前まで住んでいた屋敷だ。

 売りには出さず、イーガンが厳重に結界と封印を施し、見た目こそ廃墟みたいな屋敷になってしまったが、その実はゴロムトの内情を探る為の拠点地となっている。

 この日から拠点を中心に、父親の殺害に関わった魔人たちを殺していく仕事が始まった。


 ディムナの得意魔術は空間系魔術である。

 空間を()()()ことにより人体を切断する技は、暗殺に向いていた。

 人目に触れず淡々と作業のように暗殺をこなすようになったディムナ。

 誰にも見られないのが鉄則のはずだった。だが、ある時、街角で少女が暴漢に襲われていたので、咄嗟に助けてしまう。


「ひいっ、汚い……!」


 返り血を浴びたディムナを見て、助けた少女が悲鳴を上げた。

 その悲痛な叫びと怯えた目は、ディムナの心に楔を打った。


 ――――俺は汚れてるんだろうか?


 助けてもらったディムナに御礼を言うどころか暴言を吐き、避けて走り去ってしまった少女の後ろ姿を見つめ、ディムナは疑問を持つ。

 返り血を浴びてしまったのは失敗だった。

 いつもなら一瞬で首を落とすか離れた距離で人体を切断するだけのところを、今回は少女を庇った所為で、間近で切り刻んでしまったのだ。血が跳ねる角度を計算する隙も無かった。

 少女には血が飛ばないよう庇ったわけだが、それでも怯えられてしまった。


 ディムナは酷く落ち込んだ。


 それからは、ゴロムトの街を歩くようになった。

 真の敵は父を殺した輩と、その取り巻きの魔人たち。そしてゴロムト大公その人であるが、街にも悪人は溢れている。

 店先で暴れるやつら、麻薬に溺れるやつら、その売人。こそ泥にスリに強盗や誘拐など、悪いことをするやつらの犠牲になるのはいつも、ただ平穏に暮らしたい一般市民だ。

 ディムナ自身、正義を振りかざしているつもりはなかった。ただ、ゴロツキを見かければ不快な気持ちになるので、止められなかっただけだ。

 増して、対抗する手段をもたない弱い人間を狙う卑怯者どもが多い。多すぎる。


 ――――許せない。


 ゴロムト大公国の首都ゴロムト。

 ゴロムトの街角に、ふらりと現れて乱暴狼藉を働く魔人の首を刎ねる魔人より魔人らしい、"怪人"が現れるという噂が流れた。

 目撃者の証言から、その怪人の見た目をとって『暴虐の白い牡牛(フィンヴェナフ)』と渾名されることになる。


 祖父のイーガンはディムナについたその渾名を否定することなく、逆に利用することにした。

 普段は人前に出ることがあれば変装するよう勧めた。特に貴族の社交場でイーガンと共に居るときは祖父と同じ髪色瞳色にした。


 祖父の命令に逆らうなんて考えなかった。考えもしなかった。


 あの少女に出会うまでは――――――――。


後半に続きます。

後半もこんなかんじです。

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