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5.真紅の瞳


 破壊、破砕、そんな言葉が似合うオーガの一撃が、何度も地面を揺らす。

 辺りの木々は大振りな攻撃の余波でなぎ倒され、即席の広場ができている。



「そーろそろ、エルシィも逃げきれたか……?」



 右に左にと体を動かすが、それも段々と鈍い動きになっていく。

 怒りに飲まれた雑な攻撃を避けることは容易い。だが、それは万全の状態の時の話だ。

 疲労が動きを阻害し、遂にはオーガの攻撃に当たってしまう。



「ぐっ……!」




 視界が揺さぶられ、肉の潰れる音がした。

 凄まじい速度で吹き飛ばされたキースは、木の幹へと叩きつけられる。

 殴られた左半身と、打ち付けた背中が酷く痛んだ。痛覚だけがキースを支配し、辛うじて漏れる息は途切れ途切れだ。



「く、そ……こんな所で────」



 目の前がチカチカとし、意識が朦朧となる。潰された左半身は既に何の感覚もなく、喪失感だけがそこにあった。殴られた際に剣は取り落としてしまい、オーガの近くに転がっている。

 流石に今回はダメかもしれないな────キースは痛みに歪む顔を、下手くそで引きつった笑顔で彩る。

 特に才能がある訳でもない自分が、よくもまぁ2年間も冒険者を続けられたものだ。自嘲的な表情を浮かべたまま、キースは自分の頬を伝う何かを感じた。



「ああ、俺は────」



 キースの全てを壊す、強烈な一撃が世界を揺らした。






 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈






 死を実感したのは初めてだ。

 今まで生きていたのだから、当然と言えるだろう。

 自分という存在が段々と薄れていき、やがて何も感じなくなる。

 そして、急速に引き寄せられる感覚がして、キースは目覚めた。



「……えっと……ここは、死後の世界ってやつか?」



 暗く、じめじめとした空気。

 土の香りが鼻につく。光る苔のようなもののお陰で、辛うじて視界が確保されている。

 所謂遺跡という他にない場所に、キースはいた。

 思わず口に出してしまう程におかしな場所だった。オーガと戦闘をした森ではなく、偶然助けがきて街まで運んでもらった訳でもない。誰かに運ばれたのだろうか。



「……いやでも、体の感覚とか普通にあるしなぁ。俺の左手、しっかり動くし」



 答えの出ないまま潰されたはずの左半身を動かす。殴られた直後はただ熱い鉄を押し付けられたような感覚だけだったが、今ではすっかり元通りである。すぐには完治することがない程にぐちゃぐちゃに潰されたはずだが、後遺症なども感じない。

 ぺたぺたと左腕を触っていると、鈴を転がすような声が聞こえてきた。



「起きたのね。気分はどうかしら?」

「うぉっ!?」



 聞こえたのは丁度背中側、キースは突然のことに驚き、素早く振り返る。



「あら、そんなに驚かなくてもいいじゃない。失礼ね」



 薄暗い中でさえその輝きを失わない白髪に、血を思わせる真紅の瞳。

 想像を絶する美少女が、心外だと言わんばかりに頬を膨らましていた。

 身を包むのは夜の闇を落とし込んだような漆黒のドレス。下品にならない程度に飾り立てられたそれは、彼女の高貴さを表しているようだった。



「驚くに決まってんだろ! 突然声かけるのやめろよ」



 キースは突然現れた少女を警戒していた。

 冒険者である彼にとって、それはとても当然のことであり、生きるために必要なことであった。

 ただ、そこには腰に括りつけた鞘だけがあり、肝心の剣は存在しなかった。オーガに吹き飛ばされた時に落としていたのを、今更ながらに思い出す。


「……ねぇ、剣を抜こうとするのやめてもらえるかしら? 私は貴方に敵意なんて持ってないわ」

「……っ、よく見ていることで。だけどよ、アンタの言うことを鵜呑みにするほど人間ができていないんでね、距離ぐらい取らせてくれよ?」



 そう言って2、3歩後ずさりする。

 お互いの距離はそこまで離れてはいない。大きく踏み込んで剣を振るえば届くかどうか、と言った具合だ。



「まぁいいわ。……それと、私はアンタなんて名前じゃないわよ。ちゃんとした名前があるのだから、親しみを込めてオルティス、と呼んでほしいわね」

「オルティス……か、わかったよ。家名が無いみたいだし、畏まらなくてもいいよな? ちなみに俺の名前はキースだ、一応名乗っておくぞ」

「ええ、貴族なんかではないわね。よろしくね、キース」



 微妙な距離感での挨拶は、妙に親しげなオルティスのせいで非常に不思議なものになる。

 キースとしては初対面でもあるし、名前以外は何もわからない。街で挨拶をしているわけでもないため、警戒するなというのが無理な話だ。



 キースとしては、素性の分からない者と行動は共にしたくない。そのため、まずはここがどこかを聞くことにした。



「なぁオルティス。ここはどこなんだ? もしかして、死後の世界だなんて言わねぇよな?」



 オルティスはクスリと笑い、真紅の瞳を細める。



「そうだと言ったら……?」

「まぁ……諦めるな」

「あら、潔いのね?」



 目を丸くして驚くオルティスに、キースは肩をすくめて笑ってみせる。



「だって、死んじまったものはどうにもできないだろ? 俺の運もそこまでだったって話だ」

「……そう。まぁ安心していいわ。貴方は別に死んでなんかいないもの」



 そう言って、オルティスは1つの時計を取り出した。

 カチカチと時を刻むソレは、妙に引き寄せられる感覚を与えてくる。



「それは……?」



 思わずキースは尋ねてしまう。

 時計だと言われればそれで話は終わるし、恐らくただの時計でしかないだろう。

 そう思っても、キースは尋ねずにはいられなかった。

 すると、オルティスは何故か傷ついたように顔を歪めた。



「……え、と……時計。そう、時計よ。そして、これから貴方を助けてくれる道具ね」

「俺を……?」

「ええ、貴方を。死にかけていた所を助けたのもこの時計なのよ?」



 キースは思わず自身の左腕に手をやっていた。

 潰され、感覚を失っていたはずのものが、すっかり元通りになっている。

 しかし、そんな奇跡みたいな事象を起こせる道具があっていいのだろうか。

 無くなったものを一瞬で元通りにする等、聴いたことがない。キースはどこか胡散臭い話だと感じ、胡乱気な視線をオルティスに向けた。



「ありえないと思うのはいいわ。でも、本当の話なのよ? 実際に使ってみるとわかるはずよ」

「使う……っていうとなんだ、俺でもその道具は使えるのか?」

「さっき言ったじゃない。貴方を助けてくれるとね」



 コツコツと歩み寄ってきたオルティスは、キースに時計を差し出す。

 カチカチ、カチカチ────時計は刻む。

 キースは無意識に手を伸ばし、時計を受け取る。



「時計を握って、私の言葉を復唱して」



  オルティスの真剣な眼差しにキースは頷き、空気が緊張感で包まれる。

 張り詰めた糸のように頼りない雰囲気の中、オルティスは口を開く。



「時を戻して」

「────時を戻して」



 瞬間、世界は巻き戻った。

キースが手に入れるのは、時間操作系統のチートになります。詳しいことは次回以降で判明します。

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