「 」
地下のフロアで一晩中続いたパーティーが終わり、駅に向かって歩く。
霧の中に消えていくビル群。その曇りを払うように歩くとその中に現れるのは、繁華街の抜け殻。
夜という冗談のような乱痴気騒ぎが終わり、やがて朝という現実が現れる。しかしその間には乱痴気騒ぎでも現実でもない、都市の曖昧な仮死状態が横たわっている。
小雨で濡れた路上にはいくつものゴミが落ちていて、それはドローンで捉えた廃遊園地の残骸を思わせた。
周りにいるのは草臥れたキャバクラ嬢、カラオケ店から出てきたらしい言葉少なな大学生グループ、そして私と同じクラブで一緒に朝まで過ごしていた客の幾人か。
ここにいる全員、ファッションも、名前も、抱えてる事情だって違う。だけど、私たちの表情はどこか似ていた。全員疲れていたし、誰もポジティヴなものを持ち合わせていなかった。
皆、車が来ない車道をぼんやりと見つめながら、守る意味のない信号が青に変わるのを待っている。
銀行は明かりこそ灯っているけど自動ドアは死んでいて、並んだATMに客を入れることはしない。そのATMに繋がる金庫の中には大量の紙幣と貨幣が入っている。
あと数時間もすれば銀行が開いて、紙幣も貨幣も激しい出入りを引っ切り無しに繰り返す。
駅前まで辿り着くと、必ず電車の発車メロディが遠くから聞こえる。その瞬間、やっと日常に帰り着くことが出来たのだ、といつも思う。
私は非日常に憧れるが故に繁華街に飛び込み、そこにあるパーティーで踊っているのに、この音に安心するのは何故なのだろう。
この街に繰り出してから聴く音の中で、一番退屈で聞き飽きた音のはずなのに。
改札を潜って駅のホームに向かう。
ホームには疎らだけど人がいる。
ふらついたサラリーマンか、私と同じようにどこかのクラブで遊んだ帰りのような若者のどちらかが殆どだった。
私はその中に、キャスター付きのスーツケースを従えて立つ一人の女性を見つけた。
たぶん、彼女は早起きをして、始発でここまで来たのだろう。
これから電車に乗って、おそらくこの先の大きな駅で乗り換えて、新幹線か特急列車に乗るのだろう。
何のためにそんな遠出をするのか、正確なところは分からないけれども、ファッションから想像するに旅行ではないだろうか。
私が過ごしたイベントは終わったけれども、これからレジャーを始める人がいる。このホームの上には既に何かを終えた人だけでなく、これから何かを始める人がいる。
その事実に、なぜかひどく安心してしまった。
疲れているせいだろうか。
やがて、電車が霧の中から現れた。電車の中を確認するが、当然の様に空いている。この様子だと確実に座席に座ることができるだろう。
そしたら私は眠ってしまうかもしれない、と思った。
でも、可能であれば電車の中では体を休めるだけに留めたい。家に帰って、ちゃんと横になって、しっかりと眠りたいと思った。