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奇跡

 神門涼子の研究室で意識を失った蓮はおかしな夢を見た。

 己の分身が目の前に、命を奪おうとナイフで確実に心臓または、首筋、脇腹、と急所となりえる箇所のみ。

 それは、事実、現実でも起きている事だった。

 しかし、多くの場合、夢の中の自分は、己だけど己じゃない。

 記憶が飛んだり、作り出されたりしている。

 何せ、夢は、脳が人が寝ている間、今日一日の記憶を全て管理し、いらないものは、処理し、必要なもは、保管する。

 何とも神秘な作りであろう人間の体は。

 そして、蓮の話に戻り、彼は、今、体験した恐怖を味わっていた。

 しかも、何故怖かったのか知らずに、臨死体験をするかのような感覚に溺れる。


 ――ここは、何処だ?何故、彼は俺を襲うんだ?


 やはり、本当に何も知らずでいた。

 混乱する思考の中に聞こえる一つの声。

 その声が光となり、蓮を出口へと導く。

 手を伸ばし、例え遠くてもあの光に近寄ればきっとここから逃げ出せる。

 そう確信して、進む。

 進み続け、そしてあの光に手が届く。


「はっ!!」


 急な覚醒の所為で意識は朦朧(もうろう)、呼吸も激しく乱れ、目は天井を凝視して動けない。


「漸く目を覚ましおったのう、小僧」


 懐かしいとさえ聞こえる皮肉染みた口調と少し豪そうな声。

 記憶の定着が安定し、徐々に今の状況を把握する。


「彩桜花、か。間に合ったんだね…よかった……」


 あんな口調ができるまでに回復しているにホッとする蓮。

 突っかからない蓮を見ていた彩桜花は、小っ恥ずかしくなり、ふむ、とそっぽを向く。


「二人共、仲いいな」


 そんな二人を眺める瑠璃色の髪の女性。

 けれど、急に真剣な表情で蓮を見詰めなおす。


貴方(あんた)、どうしてあんな無茶な事をするの?!」


 意味不明な点を漠然とした言葉で伝えられても聞き手である蓮に取っては首を傾げることしか選択肢はなかった。

 その問いに疑問を抱いたのは事実だ、しかし、蓮は別の所に意識していた。

 それは、彼女の口調だ。

 認識されないのがドッペルゲンガー現象の特徴だ。

 しかし、神門から聞こえる声音は、心配しているという意思が感じられた。

 それは、医者の経験から基づく心配ではなく、もっと親しげな、友や家族を思う何か。

 それを思った瞬間、蓮は声を失った。

 まさか、と。

 ありえない、と。


「……えっ!……涼子、お前――だってあの時、知らないって……」


 涼子は、俯いた姿勢で顔をしかめる。

 研究者としての類い稀な才能を発揮した涼子がこの現象に関する資料で多くの知識を得た。

 短い期間でここまで調べ上げる人間はそうそういない。

 しかし、全くできない人間がいない訳ではない。

 だから自分に言い聞かせる為に嘘を言った。

 賀上蓮を知らないという嘘を。

 現象に於ける、対象者の肉体の変化、それに付き添う他の変動も熟知していた。

 それが、対象者の記憶が消えるという追加効果。

 だが、理由は解からないが、涼子は、蓮の事を忘れてはいなかった。

 しかし、いざ目の前にいる彼を見て、無性に胸が苦しくなった。

 その現象を受けた者がこんな身近にいた事へのショック。

 潰されそうな感情の渦を脱する為に、涼子は、嘘を言った。

 結果、蓮を傷つける事になったが、彼と離れた事によって心は少しばかりか楽になった。

 けれど、後に続く数時間の中で涼子はまた苦しみの感情に駆られる。

 罪悪感も加わり、余計に苦しむ事になった。

 だから、あの時、蓮が彩桜花を連れて来て、頼ってくれた瞬間に涼子は誓った。

 蓮が起きた時に、全てを話すって。



「そうか、大変な思いさせちまったな、涼子」


 納得した顔で、蓮は、子供の手で涼子を慰める為に頭を撫でる。

 いつかの高校時代のように。


「何故かは、解からんが、君の記憶ははっきりと残っている……しかし、貴方の本来の姿が見えないんだ――私の記憶にあるのは、全て、今の貴方の体型の姿だけだ」


 それを聞いた蓮は、手を胸に当て、着ているT―シャツを鷲掴みにする。


「それでもね、涼子。俺は嬉しいんだ。一人でも俺の事を覚えていてくれる人がいたってわかっただけで」


 まだ覚えていてくれる人がいる。

 それだけで蓮の心の中の空洞が満ちていくようだった。

どうも、神田優輝です。


 この作品の更新が大分遅れました。

 上手く、ネタが浮かばなくて、戸惑ってばかりです。

 しかし、何とか書けた所まで書けましたので投稿する事にしました。

 できるだけ、更新はしますが、おそらく二日以上掛かるかも......


 では、また次回、バイバイ

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