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来訪者

   4


 常識外れ、物語にしか存在しないはずの出来事が今まさに現実として身に起きている事を実感させられている。

 日も暮れ黄昏一色に染まれた住宅、道筋、空、そして、自分さえも……

 自宅への道中、肉体と精神に脱力が生じ、歩みの先に公園が視界に入る。

 ――休もう……

 ――、と独り言を呟き、公園のベンチに身を委ねる。

 はぁ~、と何回もため息を吐き出し、今後の事が悩みという形で脳裏に形を取る。


「どうすんだよ~……この体スッゲェー使い難いんだけど~」


 成長と共に育った自分身体、慣れ親しんだ身体の約半分の大きさにされ、その不便さには、この状態になった者のみしか味わえない。


『なら、此処で――死んでくれない?』


 ――!!


 聞き覚えのある声が背後から聞こえ、後ろに振り向いた瞬間に人影が目の前を通り過ぎる。

 ――が、顔を見る前に眼に止まったのは、少年と思われる人影が右手に持っている物。


「な、ななな、ナイフゥゥゥゥゥ―――!!」


 刃物であった。

 少年が手に持っていたナイフを見た瞬間、意識が飛びそうになる。

 殺され掛けた……けど何故だ?

 命を狙われる理由は、どこにも見当たらない。

 多少悪さをした覚えがあっても、それは高校や中学時代の時だ。

 大学に入ってからは、真っ当に生き、誠実に日を送っている。

 それに――……?


 思考が止まり、走馬灯を見始めた所、二時間前、栗花落(つゆり)彩桜花(いろは)の言葉が脳裏に静止する。

 この現象に於ける唯一の救い策。

 それは――同じドッペルゲンガー(じぶん)を殺す事以外の方法は存在し得ない事実。

 省略してこの状況、刹那の間推理し、推測し、有りと有らゆる可能性を考え出して、応えは、たった一つしかない。

 目の前の少年の正体は、誰なのか?

 それは、自分自身のドッペルゲンガー(ぶんしん)に他ならない。


「お前……賀上蓮(おれ)なのか?」


 恐る恐る尋ねる蓮の声は、恐怖に支配され、殺され掛けた事実はもちろん、早速現れたかもしれない自身に怖気づいた事の方が多い。

 振り向いた少年の姿は、フードを被っている所為(せい)ではっきりと見えないが、発する声、間違いなく自分だと断言できる。


『……覚悟しろ!!』


 蓮の問いを無視して、突進の構えに低い視線に身を屈み、手に持つナイフの刃先を(じぶん)に向ける。


 五年という曖昧な期限に焦りが生じるのも無理はないとはいえ、見つけたら速攻に攻撃を仕掛けるというのはどうかと思うところだが。

 そんな常識をこの状態で語っても仕方ないだろう。

 そもそもそんな常識は、子供同然の姿になった瞬間何処かに去ってしまった。

 近づく少年の速攻を紙一重(かみひとえ)でかわし、死の直面で忘れられた動物的反応速度を呼び起こす。

 驚いてか少年は、一瞬動きを止める。

 そのチャンスを逃さず一発のパンチを繰り出す――しかし――


 ――空振り……!?


 空気を殴るような感覚に駆られ、目の前の出来事は、理解の領域を遥かに凌駕し呆然と眼と口を開かせながら数メートル離れた少年に視線を向ける。

 かわしたのは間違いない、だが。


「普通の動きじゃねぇ」


 拳を振った瞬間かわし、数メートル先までの動作が何処にも存在していない。

 音もその姿すら、知覚できなかった。

 まるで、姿を消し、現れたかのように。


「どう、なってるんだ……?」


 まるで理解できない。けれど何処かでは解かっていた。

 人ならざる力、おそらく年齢は十代前半、それはたった一つの答えへと導いてくれる。


「お前……まさか――」


 蓮は、その先の言葉を失う。

 それを発するのが怖いなのかはわからない、ただ直感的に悟っただけに過ぎない。

 少年は、フードを外し姿を晒す。


「やはり、か……」


 思っていた通り、いや、それ以外考えられない、と自分と映し鏡のような少年を見詰める。

 少年は、姿を見せ付けた後、フードを目の前に投げ捨て、視覚を撹乱する構えで動き回り、隙あらば的確に急所を狙いを定めた。

 それを蓮はかわすが、眼で追いかけるのがやっとの事だ。

 けれど、その思いとは裏腹に頭は常に思考し続けていた。

 無理解の能力の正体を掴み取ろうと脳は、今まで発揮した事のない速さで思考を巡らせいた。

 かわされた時、現状の一部を切り取ったかのように全く記憶にない。

 一つ考えられるのは……

 再度(ふところ)を許した蓮は、間一髪、自分(かれ)の攻撃をかわし、再び攻撃を入れようとした瞬間、同じ現象が起きる。

 けれど今度は、蓮の眼は驚きの表情を浮かべず、(むし)ろ悟ったような面で()()を見入る。


「なるほどね、瞬間移動、か……」


 瞬時の動きを容易く覆す能力、しかし――


「けど、君が消えた訳ではない……ただ素早く動いたと解釈した方がいいかな――」


 蓮が発した言葉に驚く少年は、初めて口を開いた。


『ほ~、僕の能力の本質を暴いたとでも言うつもりか?』


 同じだ……声も喋り方も……

 無口と思いきや、とんだお喋り口調じゃねぇか。

 内心思いながら、けれど表情には出さずに、続ける。


「君の能力は、確かに瞬間移動、けれど消えて現れる類のやつじゃねぇ……そう見せかける事で相手を警戒させが故に、唯一の油断を誘い込む狙いだ――」

『対したもんだ、けれどまだ言ってないぜ……僕の能力の本質を、さ』

「ちょっと待て、今から答えてやるよ……こほん……君は、時間を、正確には、自分の時間を早める事ができる。しかも定まったスピードではなく、調節する事もできる」


 いよいよ感心すら覚え始めた少年は、口笛を吹き答える。


『凄いね~、流石は僕だ。君の答えに文句を付けるようで気が引けるんだが……君の説明では僕が消えたトリックは、まだ解けないんだけど~?』


 けれど、不適な笑いで蓮は、呆気なく少年の問いに応える。


「くくく、言ったろ……君の能力は自身の時間を操作出来ると――」

『――!!』


 驚愕を隠し切れない少年の気も知れず、蓮は応え続ける。


「――つまりだ。君は、相手の瞬きを見逃す事無く能力を発動、その刹那の時間を自由に動いた、と言う訳さ」


 的のど真ん中を射抜くが如く正解を導き出す。

 ブラボー、エクセレント、ファンタスティック。

 流石と言うべきか、よくも暴いてくれたと言うべきかを迷いながら、少年は、憤怒の眼差しを蓮に向ける。


『いや~本当に見事な観察力、いや、推理力というべきか。やはや、こんな短時間で僕の能力を見破るとは、思いもしなかったよ……けど――』


 目の前の少年が消え、瞬く間に僅か数センチまで接近していた。


『スピードで勝る僕には、能力がばれようがばれまいが対処できなきゃ……関係ないよね……それに、見破られた今、瞬きを気にしなくてすむ』


 無音のままナイフを使わなかったのが幸いしたが拳を腹の中心に打ち込まれる。


「ぶはっ!」


 勢い余って吹き飛ばされた先には、公園の象徴とも言える大樹に背中が直撃し、しばらく痛みによる硬直状態に陥る。


『終わりだ』


 少年は出来る限りの殺気を放ち右手でナイフを弄びながら血の気が引く笑みを浮かべて歩み寄る。

 数センチまで接近し、ナイフを振り下ろそうとした瞬間、ナイフが首筋に接触寸前で制止する。

 そして、少年は、背後にいる何者かに視線を送る。


『そこのお前こっちをじっと見てないでコイツ助けてやらないのか?先までコイツと一緒だったろ?』


 遥か上空、桜色の髪を風で右に揺らしながら月明かりに照らされながら言う。


「私の助けは不要じゃ。それに、ぬしよ。何に対してナイフを突き付けているのじゃ?」


 何!?と少年は、視線を戻すとそこには誰もいなかった。

 その代わりに木材を身代わりに置かれていうるだけ、まるで忍者の変わり身の術のように。


『何故だ?アイツは、どこに消えた!!』


 彩桜花は、苦笑し、少年が求める応えを言い渡す。


ぬしの後ろじゃよ」


 振り向いた瞬間に頬に打撃を喰らい、数メートル吹き飛ばされた少年は、状況が全く感知できていなかった。


『……何だ?……一体、何が起きた?……』


 認識できない状況を前に呆け面で痛む頬に手を当てる。

 瞬時に怒りが沸き立ち、雄叫びをするように叫んだ。


『貴様、俺に何をしあがった、答えろ!!』


 追い求める答え、納得できる答えを少年は求めた。


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