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何で俺が......

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 二〇一七年四月三日。二十歳の誕生日を迎えた賀上(かがみ)(れん)は、目を覚ますと真っ先に洗面所で顔を洗おうとして、半目でボーッとした頭で蛇口を捻りジャーと水が流れる音を聞いてた。

 そうっと両の掌を水に当て、濡れた手を爽快に感じながら違和感を感じ取る。震える手を顔に近づけぺたぺたと顔に触れる。


「な、何だ、この手は!……何だこのこの声は!!」


 と叫びながら驚嘆交じりの高い声で鏡に映る自分を見つめる。そこに映るのは、とても二十歳を迎えたばかりの男性の姿ではなく、むしろ幼く見え……


「……って、えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!……」


 幼く見えるどころではなかった。その姿は明らかに十歳を迎えた時の姿だった。

 何でだ、何でだ、と囁きながらショックを受けた顔で自分のベッドへ潜り込んだ。

 現状を把握しようにも昨日まで一八〇センチもあった体形が翌日には、一四〇センチ前後になっていた事実を受け入れる準備がまだできていなかった。

 手始めに着る服が全てLサイズの物ばかりで着てもガバガバ、ズボンが滑り落ちて、常に支えないといけない面倒くささ、食器や本がこの体形のせいで取れないので厄介極まりなかった事に腹立たせていた。

 恥ずかしい思いで家を飛び出し、近くのシックス・トゥエルブのコンビニで一四〇センチのSサイズのT―シャツとズボンを購入し、トイレを借りてその場で着替えた。


「どうすんだよ、これから……あっ、そうだ!」


 コンビニを出てすぐ右に回り、その先にある巨大なビルへ向かった。

 ビルの手前に看板が書かれていたのは《私立遺伝子研究大学(しりついでんしけんきゅうだいがく)

 そこに設置された研究所で働く一人の女性、蓮の友人、神門(みかど)涼子(りょうこ)は、研究員の中でも一番偉い人だ。


 ウィーンと中央扉をくぐり、真っ直ぐ受付口へ向かった。

 そこでは、若くて綺麗な女性が待ち受けていた。


「おはようございます。本日はどの者にご用でしょうか?」

「神門涼子さんに連絡をしてもらえませんか?」

「アポはすでにお取りになされましたか?」


 ゆったりとした会話に苛立ちを覚え、堪忍袋の緒が切れるような感覚に見舞われる。

 こんな事をしている場合ではないという思いが大きい分その気持ちが膨れ上がっていた。


「少々お待ちください」


 受付の女性がそう言うと目の前の受話器に手を伸ばし、右下の神門と書かれていたボタンを押した。


「……神門さん、受付の馬宮(まみや)です。賀上蓮と名乗る少年が受付から訪ねしているのですが……」


 長々と続く電話に待たせられるのは、心苦しいと思うが一歩前進した事が耐えるのに十分だった。

 受話器を切った女性は、残念そうな顔で口を開いた。


「申し難い事ですが……神門さんは、賀上様をご存じないとの事のようです……」

「………」


 受付の女性が発した言葉が余りにも途方なもないもので口を開いたままただただ立ち尽くしていた。


 ――……え……?

 聞き間違えたのではないかと驚愕を覚える蓮。受付の女性、馬宮は、自分の目の前にいる白々としている少年を苦笑しながら見守っていた。

 力になれなくてすみませんと伝え、けど帰ろうとする蓮を呼び止める。


「あっ!ちょっとお待って下さい、蓮様!」


 何事かと思った少年は、言われるがままに歩みを止め、また受付の女性の方へ向かった。


「先程は、神門さんは、蓮様をご存知ないと言いましたが、会わない(・・・・)とは、言っておりません。十階層にある遺伝子研究ラボラトリーでお待ちしているとの事です」


 少年は、色目を変えて急いでエレベーターに乗り十階層行きのスイッチを押した。


 チンと到着音が鳴り、エレベーターの扉が開くと同時に飛び出し、一心不乱に遺伝子研究ラボを隈なく探した。

 左右に振り向きながら扉の真上の看板を確認しながら足早で通り過ぎる。

 ようやく、五、六面を過ぎた頃に遠くから何やら長い題が載っていた。

 蓮は、眼をを細めて近づいてみるとそこには『遺伝子研究ラボラトリー』と書かれていた。

 扉の前に立つと一方では、緊張感が体全体を流れ回る。

 知り合いであるはずなのに神門涼子が自分を知らないと聞いた瞬間から何かがおかしいとは、気づいているが何の確証が持っていない以上調べる必要がある。

 恐る恐る扉を開けると後ろ姿の長い瑠璃色の髪をした女性がデスクに向かって何かの資料を漁っていた。


「あの~、神門さん……で、すよね?」


 荒々しくデスクを指で叩き始め、苛立てている事を示していた。

 そう言えば、とふと蓮は思い出す、小学校時代から彼女は、短気で苛立ちを覚えるとああして指で机に向かって叩く癖がある事に。


「あーあもう見つからねじゃねぇか!」

「相変わらず嵐のような女だな、涼子は」


 声を聞いた涼子は、机に指を叩くのを止めて、ゆっくりと後ろに振り向く。


「何で、名前を知ってんだ、坊や」

「俺だよ、賀上蓮だよ。高校で一緒にいた……」


 今の容姿では、見分け付けないだろうと思った蓮は、あえて名前と何時頃の付き合いかを発言する。


――しかし……


「ん~ん、身に覚えがないね。すまないな、坊や」


 驚きを隠せない蓮は、口も閉じれないまま立ち尽くす。


「ははは、冗談キツイぜ……涼子……」


 しかし、涼子が放つ目付きには、本気の眼差し以外の何もなかった。


「嘘……だろ、こんな、事があるのか……?」


 言いたい言葉も見つけ出せず、思考を停止させ、しおれながら黙り込んだ。

 哀れみの眼を向けていた涼子は、少年の姿を見て何かに気づいたかのように目を見開く。


「おい、坊や。まさかドッペルゲンガー現象(・・・・・・・・・・)になったのではないだろうな」


 無気力ながら蓮は、顔を見上げる。

 涼子が放った言葉が何なのかを思い出す。


 ニュースで出てきた事のある『ドッペルゲンガー現象』とは、もう一人の自分が忽然と現れ、ひょうんな事に自分の姿が若返るように幼体化する事だ。しかも、これは、二十歳前後に起きる事と現象に掛かった者は、彼らの存在自体がこの世から消えると日本人研究者が発表したそうだ。人間の脳に障害が起きる訳でもなく、ただこの現象に掛かった者への記憶や思い出が全てなくなると言う事らしい。

 この現象が日本にしか発生している事と、誰かの仕業による物か、事故に於ける現象なのかも未だ不明確である。


 その説明を再び涼子から説明された時は、何故思い出さなかったかと頭を抱える。


「――以上、現時点で知っている情報だ。他に質問があるなら言ってみな」


 少年は、話を聞いてはははっと悔しい混じりの乾いた声で笑い始めた。


「……何で、俺なんだよ!……何故こんな事になったんだ!」


 遂に我慢仕切れなかった少年は、研究室から飛び去り、遺伝子研究大学を(あと)にした。

右往左往街を走り回る。

 目的地もなく、ただ自分の中にある不満を発散するように街中から猛獣のような雄叫びが聞こえた。

どうも、神田優輝です。


 今作が三つ目となりましたが、最初にこの話を作ろうと思ったのは、テレビを見ている時にアニメによく出て来る自分と同じ顔をした人間が現れる、という設定で『ドッペルゲンガー』ですね。その設定を根本的から変えようかなと思い立った訳です。


 短いあとがきですが、今後も物語は、内容も盛りだくさんにしますので楽しんで読んでみてください。可能であれば感想も書いてもらえたら嬉しいです。


 では、また次回まで、バイバイ!!

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