河童の小太郎(創作民話 4)
その昔。
ある村に、小太郎という名の河童がおりました。
小太郎は両親や兄弟らと、河童淵と呼ばれる池で暮らしています。
この河童淵は村人が田んぼに水を引くために造った溜池で、そばには湧き水の出る泉があり、河童淵に絶えず水を注ぎこんでいました。
小太郎たち河童の家族は村人たちとも仲が良く、この溜池を借りて住まわせてもらっていたのです。
ある年のこと。
湧き水の量が少なくなり、それにともない河童淵に入る水も減ってゆきました。
小太郎の家族はたいそうこまってしまいました。
このままでは河童淵の水が枯れてしまい、いずれ住めなくなってしまいます。かといって、ほかに住めるような場所もありません。
同じように……。
村人たちもたいそうこまっていました。田んぼに水が引けなくなってしまったのです。
そんなある日。
庄屋が河童淵を訪れて頭を下げました。
「のう、河童殿や。このままでは、ワシらは飢えてしまうことになる。すまないが、どうか力を貸してもらえんだろうか」
「わかり申した」
小太郎の父は快く庄屋の頼みを引き受けました。
これまで長い間、村人には河童淵に住まわせてもらった恩義があるのです。
ですが一方。
恩を返すには、家族のうちのだれかが犠牲にならなければなりません。
「小太郎、オマエが皿をさし出すのだ」
父は小太郎に申しつけました。
頭の皿を失うことは、小太郎ら河童にとっては命を失うことになります。
けれど、このままでは村人が飢えるだけではありません。河童淵の水が枯れてしまえば、父や母、そして兄弟たちも住む場所を失ってしまいます。
小太郎は覚悟を決めてうなずきました。
翌日。
小太郎は庄屋の屋敷に出向きました。
庄屋の前に座り頭を下げます。
「どうぞ、わたしの皿を奉ってください」
頭の皿は湧き水の出る泉に奉納されます。そうすれば湧き水が増えると、村では古来より語り伝えられていたのです。
ですが、庄屋は首を横に振りました。
「それにはおよばん」
「わたしのものでは不足とでも?」
「いや、そうではない。先に、オマエの父が皿を置いていった。オマエがここに来るのを見届け、頭から皿をとったのだ」
庄屋はこのとおりだと言って、父の皿を小太郎に見せました。
「父が……」
「父は言っておった。もう小太郎は一人前だと。残った家族を守ってくれるだろうともな」
「では、父はオレをためそうとして」
小太郎は父の気持ちを知って泣きました。
父ははじめから家族の犠牲となり、自分の皿をさし出すつもりだったのです。
「それほどの覚悟があれば、かならずや家族を守れるだろうからな」
最後に、庄屋は小太郎にわびました。
「オマエの父には、まことにすまぬことをした」
皿を失って死んだ父は、その後、村人たちにより手厚く葬られました。
今でも河童淵には河童が住んでいるといいます。
そして湧き水が枯れると、河童の皿が泉に奉納されるといわれています。
小太郎の皿も捧げられたと伝えられています。