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ひとりヨリふたり  作者: 柴田 鴨
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告白

やっと待ちに待った放課後になって、私は号令が終わると同時に教室から飛び出して行った。

とにかく早く凌さんに会ってお礼が言いたい。凌さんのお陰で私は、死ぬかもしれない崖っぷちから救われたんだから。会ったら、これまで募ってきた想いをも全てぶつけるつもりでいる。

そう、告白ってやつを生まれて初めてするのだ。


「ふふっ…凌さんがこの格好見たらビックリしちゃうだろうなぁ…楽しみ」


きっと殆ど様変わりした私の姿を見て彼は驚くだろう。そんな想像をすると自然、口元が緩まってしまう。



屋上への階段を駆け上がり、少し重たい扉を開いてみるとまだそこには誰もいなかった。

流石に来るのが早過ぎたのだろうか?もう少しすればやってくる凌さんを待つ間にドキドキで心臓が破けてしまいそうになる。早く来て欲しい。


数分待っていると錆びた音を立てて扉が開き、その先から待ち侘びた彼が姿を現した。

私は心の底から湧き上がる好奇心でいてもたってもいられず、勢いのまま駆け寄った。


「凌さん!あの…ど、どうですか?私の格好。凌さんのアドバイスを元に色々変えてみたんです」


「…うわあ、凄い。一瞬誰だか分からなかったよ、幸奈ちゃん!随分良くなったじゃない!」


凌さんは初め、目を丸くして見ていたが、少しして私だと認識するや否や明るい表情になって顔を近付けてくる。あまりにも距離が近くて、本当に心臓が張り裂けそうな程胸が高鳴ってしまう。


「本当に…ありがとうございました。凌さんのお陰でクラスにも友達が出来ましたし、世界が180度変わって見えるようになって…。感謝してもしきれないです」


「そんな、僕は何もしてないよ。君は…君自身の力で変わったんじゃないか。凄いと思うよ、頑張ったね幸奈ちゃん」


私より少し大きいその手で、優しく頭を撫でてくれるのが気持ち良くて、嬉しくて。なんだか込み上げてくるものがあった。

今、この瞬間に伝えなければ。


「っ…凌、さん。その…大切なお話があるんですけど、聞いてもらえますか?」


「ん?まだ何か悩み事があるのかな。僕で良かったらいくらでも…」


「悩み事なんかじゃありません!私……私は、凌さんの事が…好き、なんですっ…」


遂に言ってしまった。頭の中がグルグルと回って、一瞬が永遠に感じてしまう。

お互いに何も喋らない時間が続くのが寧ろ心苦しく思える。嫌なら嫌だと直ぐ言って欲しい。どんな返事でも受け入れる準備は出来ている。



「____僕も、幸奈ちゃんの事が好きだよ」


「…!!」


やった。まさか、両想いだなんて。


幸せが体中を駆け巡っていくのが伝わる。


嘘みたいだけど…現実、なんだよね?


「こんな風に言うのは失礼かもしれませんが…。冗談、じゃないですよね?」


「冗談なわけ無いじゃないか!僕は本当に幸奈ちゃんの事が大好きだよ。以前までの君も、勿論今の君もね」


これは、夢じゃないらしい。

無意識に涙が溢れそうになって、必死にそれを笑顔で止める。


「凌さん…大好きです!」


つい嬉しさのあまり彼に抱きつく。気持ちを伝えた事で、これからは遠慮せず堂々と凌さんに会えるようになる気がして喜びが弾けそうだ。


「幸奈ちゃん…。あのね、僕からも大切な話があるんだ。聞いてくれるかな?」


また私の頭を撫でながら、落ち着いたトーンで話し掛けてくる。


「はい…?何でしょうか」


彼からの大切な話とは何なのだろう。もしかして、ここから結婚指輪が出てきちゃうような展開になるのだろうかという妄想が浮かび、勝手に頬を染めてしまう。

少し間を空けて開かれた口から出る言葉に耳を傾ける。










「ずっと、君みたいな人間を探していた。………僕と一緒に死んでくれる人間をね」




「…え?」




いま、なんといった?




しぬ?





「夏休みに君と会った時、僕の父親は有名な会社の代表取締役だって言っただろ?クラスの奴らがそれに対して何かと言ってくるって事も。僕はね…それがずっと苦痛だったんだ。皆、勘違いしている。僕が裕福で、豪華で何不自由無い生活を送っていると。…実際は違う」



今にも泣き出しそうな顔で語り出す凌さん。やはりまだ状況が掴みきれてなくて、内容が頭に入ってこない。



「僕は次男だ。だから、父親は相続権のある長男にばかり力を入れてこれまで育ててきた。母親も同じ。塾や習い事にも、長男の為ならと何でもやらせた。当の本人も小さい頃からやらせれば何でもこなすような天才肌だったから、両親も長男に期待しているんだ。…そう、逆に言えば次男である僕なんかは相手にもされない。家の中では完全に厄介者扱いだよ。正直なところ…家にも学校にも僕の居場所なんて無いって…ずっと思ってたんだ」



「凌、さん…」



今迄明るく振舞ってくれた彼の本心を聞いて、所々共感出来る節があったのも事実だった。




「でもね、そんな中で…飛び降りようとしてる君に出会った。僕はあの時君と同じように死ぬつもりで屋上に行ったんだ。諦めかけて一人でね。最初こそ『なんでこんなタイミングで』って、君を見た瞬間に思ったよ。ただそれと同時に、共感の思いが湧いてきて…つい声を掛けてしまったんだ。……やっと見つけたって思った」



「それならどうして…私にあんな風にアドバイスをくれたんですか?一緒に死にたいと思ったのなら此処まで時間を掛ける必要は無かったんじゃ…」



「あえて時間を掛ける事で信頼関係を得てから、同意の上で死のうと考えてね。今さっき君が僕の事を好きだと言った瞬間に、完璧に僕を信頼したと悟った…だから、この告白をしようと決めたんだ」



…ああ、この人は。

私を救って一緒に死ねる相手に仕立て上げるのが本来の目的だったんだ。



「救われたと思っていたのに……利用されていただけだったんですね、私は。__でも!凌さんの存在価値は、お父さんの家柄で決まるものじゃありません!私はそう信じています!だからっ…」



「お前なんかに俺の何が分かるっていうんだ。話を聞き齧ったくらいで知ったような口を利くな」





凌さんの目は、冷たく私を見下ろした。

これまで一度も見た事が無いくらいに深い闇を持った瞳に、もう恐怖しか覚えられなかった。




「生きる価値さえ無かったお前に価値を与えてやったのは誰だ?俺に礼をするのは当たり前だと思わないか…?」




気付いたら、すぐ後ろはもう床なんて無かった。




視界を青く広がる空に向かされる。




私の体は為すすべもなく重力に引かれていく。




凌さんは………笑ってた。









悲しみ、喜び……安心感?




それは、どんな笑顔なの?











胸糞悪い終わり方でごめんなさい。

地面にはトランポリンやらクッションやらがあるとでも仮定してくださいね。

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