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ひとりヨリふたり  作者: 柴田 鴨
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友達

「ん、んん……」


意識が戻り、目を開けようとする。しかし眩しい光が差してきて、すぐには開けられない。

ゆっくりと時間を掛けて開いていくと、ぼんやりとした視界に一人の人影が映っていた。此方を覗き込んでいるように見える。


「あ…。良かった、目が覚めたみたいだね」


ほっとしているのが良く分かるくらいに目を細めて嬉しそうな笑顔を浮かべている。先程、私が気を失う前に話し掛けてきた男子生徒だ。

意識が段々とはっきりしてきて、少しずつ状況を理解し始め、私は屋上の床、日陰の下で横になっていると気付いた。日陰にいるということは、もしかしたら目の前の彼がここまで運んできてくれたのか。


「あ、あの…私…」


「…自殺、しようとしてたんでしょ?屋上に来てみたらさ、君が危ないところに立ってたからびっくりしたよ」


どうしてだろう。自殺しようとしたのは、彼の言う通り確かなのに。彼が屋上に来てくれて良かった、止めてくれて助かったなんて思っている自分がいるのも事実だ。


「ありがとう、ございました。…私、最近この学校で過ごす時間が辛くなって…。いっそ死んでやろうと思ってしまったんです」


ぼそぼそ、と小さな声で私が理由を述べていく間、彼はずっと真剣な顔をして頷きながら聞いてくれていた。初めて会った筈なのに、何故かこの男子生徒の前だと、何でも話してしまいそうになる。彼の柔らかな雰囲気がそうさせるのだろうか。

一通りの話を聞き終わると、彼は暫く考え込んでいる様子だった。そしてパッと顔を上げたかと思えば、私の手を取って笑った。


「君が辛い思いをしているっていうのが、よく分かった。…僕で良ければ、君の力になりたい。君の…友達になりたいって思うんだけど、どうかな?」


「…!…私の…友達に…?」


普通に考えたらとても急な話だ。彼と出会ったのは数分前なのに、赤の他人である私の力になりたいと言ってくれている。友達になりたい、とも。

でも、私は彼の事を何も知らないし、きっと彼も私の事を殆ど知らない。…何故、この人はこんなに協力的なのだろうか。


「うん。…ああ、自己紹介がまだだったね。つい気が急いてしまって。_僕の名前は篠田(シノダ)(リョウ)。3年生だ。君は?」


「…佐々(ササキ)幸奈(ユキナ)、2年生です」


「2年生か。僕の学年では見ない顔だから同学年ではないだろうと思っていたけど。…じゃあ、幸奈ちゃんって呼ぶけど、良い?」


幸奈ちゃん…か。この学校に入ってから初めて下の名前で呼ばれたかもしれない。

いつも名字でしか呼ばれた事ないから。


「ん、嫌なら佐々木ちゃんって呼ぶよ?」


「あっ、いえ!幸奈ちゃんでお願いします!」


「……ぷ。あはは!」


ええ!?な、なんで笑うんだろう…?


「あの…な、何か可笑しかったですか?」


「いやあ。なんていうか幸奈ちゃんも、もっと自分の気持ちを素直に言えれば、皆と打ち解けられそうなのになーって思ってさ」


「素直に…」


言われてみれば、確かに私はあまり自分の思っている事を周りに正直に話してはこなかった。

…素直になれば、この人みたいに笑ってくれる人がいるのだろうか…?


「じゃあ私は、篠田先輩って呼びますね」


「えー?なんか堅苦しいよ。凌さんって呼んで欲しいなー僕は」


「りょ、りょー…さん」


「うん。そうそう、それで良いのだ」


親指を立てて、にっこりと無邪気な笑顔を浮かべる凌さん。こんな人にもっと早く出逢えていたら、なんて思う。


「…ふふ」


「あっ!今、笑ったね。良かったー。幸奈ちゃんの笑った顔見れて」


あ…今の、無意識に笑ってた。

どうしてだか分からないけれど、この短い時間で随分と心が解れた気がする。

友達と笑えるって、こういう気分なんだ。





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