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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【五ノ章】納涼祭
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第六十七話 メイド喫茶に向けて《取材編》

《取材編》として四、五話くらい納涼祭中心の話が続きます。

青春しようぜ?

 正式ストーカーに付き纏われて以降、心労が溜まっていた。

 アカツキ荘で過ごす時間を除き、学園や依頼でいつもナラタの気配を感じる。怖いし、(うつ)病にそんな感じの症状があったはず。

 特にカグヤと一緒にいる時だ。登下校や食材の買い出しで物陰からの視線が槍で貫かれてるような、刃物で取り囲まれてる気持ちになる。

 しかもアイツ、女子寮の門限を越えて活動してないか? 自警団の夜間パトロールに参加してても見られてる気がするんだけど。


 おかげで特製石鹸の増量生産は出来たものの、ストーカーの目もあり(おろ)しに行けない状況が続いていた。

 変装してもバレるしアカツキ荘から一歩でも外に出た瞬間、視線を感じるのだ。

 デバイスで“麗しの花園”に、オーナー直通の連絡先でシュメルさんに通話したら“良い考えがあるわ”と。

 どことなく不安を感じる返答を最後に音沙汰が無いし、状況が色々と膠着(こうちゃく)している。


 悶々(もんもん)とした日常に息苦しさを感じつつも、朝も昼も夜も過ぎ去り──ジリついた太陽の熱が窓から差し込む、七組の教室。

 男女メイド喫茶企画の為に取られた一時限目。

 教卓に立ち、メイド服の入った紙袋を構える。


「えー、企画会議から三日が経ちましてメイド服の試着品が二着、完成しました。なので、誰かに試着してもらいたいんだけど……」

「その前によ、クロト。なんで他の組の生徒がいるんだ?」

「気にしないで。最近、俺に憑りついた悪霊みたいなものだから」


 隣で補佐してくれる実行委員のデールに応えながら、教室の隅にいるナラタに目をやる。

 制服の上に報道クラブの腕章を見に着け、恍惚(こうこつ)としただらしない笑みを隠さず、首から下げた魔導カメラで連射していた。

 そのレンズの先にいるのはきっとカグヤだけなのだろう。


 真面目に言うと、ナラタは納涼祭の広報資料集めで七組に来ている。各組の作業光景や出し物の内容をまとめる仕事で、運良く二年七組の担当になったのだ。

 そういった経緯もあり俺の取材許可を得るという判断に至ったらしい。ストーカーする前から常識的になってほしかった。


「気を取り直して、誰かメイド服を着たい人いる?」

「それって男女どっちも着た方がいいのかい?」

「うん。サイズは可変できるから誰でも合わせられるよ」


 手を挙げたセリスが興味津々に頷く。

 メイド服作成については全て俺がおこなっていたので、アカツキ荘のメンバーも詳細は知らないのだ。

 結果として工房に籠って夜な夜なメイド服を作る不審な男が出来上がった訳だが。レオと雑談しながらだったのでツラくはなかったけど。


「出来れば着てみたい! って立候補してくれると助かるんだけど……」


 部屋の隅から圧を感じる。なんとしてもカグヤにメイド服を着せろ、という圧が。

 納涼祭本番でいくらでも見れるんだからいいだろ。横目をナラタに向ければ、いやらしい顔でポケットから俺を脅す写真をチラ見せしてくる。丸メガネが怪しく光った。

 そうだった、脅されてたんだ、俺。

 自分の表情がスンッ、と真顔になったのが分かった。


「カグヤ、恥ずかしいかもしれないけどお願いできる?」

「構いませんが、私でよいのですか?」

「だいじょーぶ、一番最適だよ。状況的にも人物的にも」


 これは割と本気で思っている。七組女子の中で最もスタイルが良い二名の内、片割れがカグヤなので。

 ちなみにもう一人は生徒じゃないけどシルフィ先生。この二人、本当に別格の体型をしている。

 湯上がりの薄着でその場にいるだけで目に毒なくらい暴力的なのだ。

 余分な肉が付かず健康的に引き締まっている体が赤みを帯びてるのだ。

 思春期男子の抑えたい部分に右ストレートをぶち込むレベルでやべぇのだ。


 毎日毎日、俺とエリックは下唇ごと煩悩(ぼんのう)を噛み、極力視界に入れないよう立ち回る事を()いられている。

 だってさ、カグヤがサラシで胸を抑えてるのは制服の上から見ても分かるが、その膨らみが隠し切れていない時点でアレなのに薄着とかもう……もうっ!

 同じ制服姿のセリスと横に並んで胸囲が一緒って……ダメだダメだッ、これ以上の妄想は身を滅ぼす! 可能性に殺されるぞ!

 ぶんぶんと頭を振ると、メイド服を受け取りに来たカグヤが声を掛けてきた。


「あの、どうかしましたか?」

「んんっ、なんでもない! とりあえずこれが一式ね」


 不審な行動をしてしまったが、紙袋から一着分だけ取り出して渡す。

 廊下に出ていくカグヤを見送り、ついていこうとしたナラタの襟を掴んで引き留める。仕事しろ。


「んで、もう一着は男子に試してもらいたんだけど……」


 暴れるナラタを押さえつけて教室を見回し、乗り気じゃない男子どもの顔を眺める。

 まあ、あの時はその場のテンションに流されて同意したんだろうし。冷静に考えれば女装なんて無理だし嫌な人もいるよね。

 仕方ないけど、想定していた反応ではある。ふう、とため息をこぼして。


「ぶっちゃけ女装とか本意じゃない奴の方が多いだろうから、まずは俺が着てみせる。ちょっとメイクもしてくるから遅れるよ」

「おう……ん、はっ?」

『えっ!?』


 そりゃ言い出しっぺなんだから率先してやるよ。七組中から上がる驚きの声を聞き流し、ナラタをデールに押しつけて男子更衣室へ。

 紙袋から出した手鏡に映る顔が笑う。クックック……元演劇部の力、とくとご覧じろ。


 ◆◇◆◇◆


 突然の爆弾発言にざわつく七組。

 男子も女子も顔を合わせて口にするのはカグヤとクロトの話。


「シノノメさんのメイド姿、楽しみだね~……アカツキくんはちょっと想像できないけど」

「確かに女装するのは抵抗あるが、だからって製作者本人がやるかぁ?」

「彼、なんだかんだ言って責任感あるから。せめてゲテモノな見た目じゃない事を祈ろう……」


 不甲斐ない話だが出し物の提案がされた日は少々暴走気味だった。

 改めて思い出しても酷い有様で、クロト達から向けられた生暖かい視線が忘れられない。忘れたい。忘れてほしい。

 不安から来る願望からも逃れるように頭を抱えていると、セリスが近づいてきた。楽しげに頬を緩ませながら、しゃがんで顔を机に乗せてくる。

 最近、姉貴が妙に可愛くなった気がする。前よりもっと好きになるからしゃんとしてほし……いや、そのままでいいか。


「クロトの奴、やけに自信満々だったねぇ。ありゃ期待していいのかね?」

「まあ、アイツ偶にわけわかんねぇ特技を披露するからな。手品に、両手でペン回しに、見ただけで体重が分かるとか……そういや、元演劇部だって言ってたっけな」

「演劇ってぇと、アレだろ? 劇団『ナルパラディス』とかいうのが有名なヤツだよな。新聞で読んだぜ、近々国外進出を視野に入れてるんだって」


 こてん、と首を傾げるセリスの言葉で記憶が(よぎ)る。

 国外遠征のメンバーにいた劇団トップスターの女子生徒。見る者を魅了する輝く者──ラティア。

 個性派ぞろいの魔科の国(グリモワール)分校でも知名度はトップクラス。合同依頼では命の危機に(おちい)る事態となったが、クロトの“虹の力”により救われた。


 別世界から来た為、存在を知らなかったクロトが相手でもすぐに打ち解け、会話に花を咲かせるなど。

 親しみやすい性格で、高ランク冒険者として女優として現在も精力的に活動しているとんでもないバイタリティの持ち主。

 多忙な事もあって依頼が終わった後に関わる機会など欠片も無く、言葉を交わしたのも数回程度だが、非常に良い笑顔でクロトと話していた姿は印象に強く残っていた。


「雲の上の存在みてぇなラティアと専門的な分野でやり取りが出来る奴だし、期待……っつーか、おもしれぇことにはなるんじゃねぇの」

「メイドな上に女装の組み合わせだもんな。いやー、怖いもの見たさな部分はあるが、ちょっと楽しみ……ん? その言い分だとエリック達はラティアと顔見知りなのかい?」

「ああ、そういやまだ言ってなかったか。グリモワール分校の生徒の事は」


 簡単にでもいいが、何から話したもんかね。

 ワクワクした目のセリスに頭を悩ませていると、教室の扉が開かれる。分かりやすく全員の肩が跳ねあがった。


「……皆さん、どうかされましたか?」

『せ、先生かぁ』


 困惑した表情の先生に全員が安堵の息を漏らす。

 そういえば職員室にプリントを取りに行ってから、会議に参加するって言ってたな。クロトの発言が衝撃的で忘れかけてたぜ。

 しかし入ってすぐの位置に居た、ナラタとデールに説明を受けている彼女の背後から。


「えっと、シノノメ・カグヤ……着替えてきました……」


 控えめな声と共に赤面したカグヤが顔を出す。ピタリ、と空気が引き締まった。

 ひょっこりと出した頭には鈴の付いた簪の邪魔にならないよう、可愛らしい意匠が施されたホワイトブリムを着用している。

 反応がなくて困ったのか、意を決して飛び込んできた。


 青が入った黒い布地の長袖ワンピース。些細な動きでも風を含みヒラヒラと揺れる、足下まで長さがある白いエプロン。

 それぞれの裾はフリルのように緩く波打っていて、随所に薔薇(ばら)に似た花々の刺繍(ししゅう)が施されている。非常に凝ったそれは、傍から見れば高級なレース生地に見えるかもしれない。


 清楚かつ洒落(しゃれ)た見た目であるが特に目を引くのは、花の刺繍のように肘や腰回り、胸の部分にあるリボンだ。

 大なり小なり。真面目で近寄りがたさがあった服に、馴染みやすい蝶々結びのおかげで可憐さが加わっている。

 身体の起伏を表には出さない。けれど個々の部分で見せつけてくる大人らしい清廉さと、少女のような無垢(むく)が掛け合わされた完成度の高いメイド服だ。

 恥ずかしながらも完璧に着こなしているのがカグヤという事もあり、静まった七組の熱が再燃する。


『うおおおおおおおおおおおおおッ!』

「マジかアイツ、やりやがった!?」

「信じてたぜクロトォ、お前はやれば出来る奴だって!」

「うっそ、かわいい……えっ、アレを私達が着るの……難易度高くない?」

「か、カグヤさっ……んぶ、は、鼻血が……!」


 それぞれが良い反応を見せて──過剰な奴もいるが、気にしないでおいて。

 黒板の前で縮こまるカグヤにセリスと一緒に近づく。じっくり見つめる俺達の視線を受けてか、居心地が悪そうに身を(よじ)る。


「先程、更衣室から出てきたカグヤさんと鉢合わせまして。共に教室に戻ろうと提案したのですが……」

「いざとなったら羞恥の方が勝った、と」


 隣に立つ先生は頬に手を添え、静かに頷く。

 その視線の先では興奮気味なセリスが、無言のままカグヤを中心にグルグルと回り観察し始めた。鼻に詰め物をしたナラタも参加し、カメラで連射している。

 クロトからは取材という名目で弱みを狙ってるやべー奴と聞かされていたが、単に仕事熱心なだけじゃねぇか? コイツ。


「あの服を作ったのはクロトさんですよね? 寝ずに工房に籠るのはいかがなものかと思いましたが。あれだけ素晴らしい衣装を作りあげるとは……素直に感服します。ところで、彼の姿が見えませんがどこに?」

「女装する為に男子更衣室に行きました。少し遅れるみたいっす」

「なるほど、そうでし…………えっ、女装?」


 真顔で、正気を問われる声音で聞き返された。

 そりゃそうだ。教え子がいきなり女性の恰好してくるなんて言われて、平静でいられる人は少ない。距離の近い生徒であれば尚更(なおさら)強烈だろう。

 ふらつき、額を押さえる先生になんと答えればよいか迷い、頭を悩ませていると。


「なんかすっごい騒がしいな。ああ、カグヤが戻ってたからか」

『ッ!』


 扉が開き、聞こえてきたクロトの声。咄嗟に全員、窓の方に顔を向ける。

 いくらアイツが得意げにしていても基準が分からない。もしトンデモメイクにミスマッチな姿を見せられたらトラウマになる。

 カグヤですらクロトとメイド服の組み合わせに嫌な予感を抱いているのか、誰よりも早く視線を逸らしていた。

 時折、(さげす)むような目線をクロトに送るナラタですら冷や汗をかいて明後日の方向を見ている。


「なんだなんだ、揃いも揃ってそっぽ向いちゃって。ちゃんと見てくれなきゃ感想も聞けないでしょ」

「ま、まあ、その通りなんだけどよ……」

「本番になったら男子は全員女装するんだから慣れとかないとダメだよ。……じゃあ、俺が合図したら一斉に見よう。死なば諸共だ」

『うっ……』


 既に決定事項を覆すマネは出来ず。

 恐怖と好奇心でせめぎ合う心中に深呼吸を落とし、手を叩く音と同時に振り返る。


 ──そこに居たのは、男ではなかった。

 首から下。カグヤと同様にメイド服に身を包み、普段着の如く着こなしているのはまだいい。

 だが、顔。自分でもコンプレックスと言っていたパッとしない顔は薄化粧が施され、軽めのアイシャドウにより少しきつめの目つきに。

 唇は(うる)みを帯びた暖色系の色味をつけていて小ぶりに見える。

 頭には茶色長髪のウィッグを付けていて、編み込んだハーフアップのお団子にメイドキャップ。

 背中に流すように帯を下げており、どこか優雅さを感じさせる。


 体の前で組んだ両手の爪には強く主張しない程度にマニキュアが塗られ、指や手の甲はクリームを用いて男らしさが隠され、細く流麗に見える細工を施していた。

 それどころか体全体がシュッとしているというか、身長こそ変わらないが明らかに肩幅が狭くなっている。

 胴も締められメリハリのある肉体に妖艶(ようえん)さが宿り、カグヤとの違いをまざまざと見せつけていた。

 品格の差すら感じる立ち姿に口を(ひら)けない。

 最低を予想していた脳が最高を受け入れられない。

 男であり女である。分かってはいても、そう思えてしまう未知の存在に、全員が驚愕していた。


「……散々文句や不満を(つの)らせてた割には、みんな見惚(みと)れてるじゃん」


 イヤになるほど似合う呆れ顔を浮かべ、クロトはニヤリと笑った。


 ◆◇◆◇◆


「ねえねえどんな気持ち? 不穏に感じてた女装が予想外に出来が良くてどんな気持ち?」


 教卓に立ち、腰に手を当てて。硬直から戻ってこない七組の連中を煽り、見渡す。

 男子は信じられないのか目を(こす)り、女子に至っては赤面したり鼻息を荒くしている。年頃の女の子がしていい顔じゃない。

 アカツキ荘の姉弟(きょうだい)は何故か互いに抱き合いながら、カグヤは感心した様子でじっと見てくる。

 先生は酷く動揺しているのか、赤くなったり青くなったりと顔色が安定してない。体調不良かな?

 カグヤに夢中だったナラタも頬を引き()らせ、おぼつかない手元から落っことしそうになったカメラを持ち直す。


 想像以上に好評なようでよかったよかった。まさか“麗しの花園”の方々に頂いた化粧品がこんな所で役に立つとは。

 迂闊(うかつ)に女装とか口走ったせいで、面白がったシュメルさんにあれやこれやと渡されて。

 便乗した嬢と共に受けたレクチャーがこうして活用されるなんて……世の中、何が起きるか分からんものだ。


 まあ小さい頃から母さんに女の子らしい服を着させられたり、人手不足の演劇部で女形(めがた)の役を徹底的に叩き込まれたり。これまでの経験の下地があったおかげでもあるが。

 中学・高校では気色悪い、死ねとか酷い言われようだった事を考えると、なんだか複雑な気持ちになる。

 特に中学時代の女子。演劇披露で女形の正体が見破れなかったからと言って、刃物投げ付けたりするか?

 警察沙汰にはならなかったけど、気づいたら転校してたんだよなぁ……と。湧き出てきた嫌な思い出に蓋をして、パンッと手を叩き注目を集める。


「俺でもこれだけ変われるんだから皆も出来るよ。メイド服を人数分用意できたら女装の指導もするからよろしく」

「この期に及んで、メイド喫茶に異を唱えるようなことは言わねぇけどよ……!」

「お前ッ、見た目そんなんで男の声だと頭ン中こんがらがるんだって!」

「年上お姉さん風から発せられるトンチキの声に、は、吐き気がっ……」

「酷くない?」


 椅子から立ち上がり指差してくる男子勢。

 女子は受け入れ始めていて、自分がメイド服を着た姿を想像しているようだ。

 まあ、男子の言い分も理解できる。後ろ姿を見て女性だと思って声を掛けたら男だった、みたいな残念感があるのは確かだ。


「面倒だが、しょうがない。先生、ちょっと声出してもらえますか? あーって」

「は、はい。あー……」

「ふむふむ」


 シルフィ先生の声を聴いて喉に手を置く。

 演劇で高い音が出せるようにと指導を受けた声帯模写。教える時の顧問がガチ過ぎてドン引きした覚えがある。

 再現できる声の種類は少なく、先生の自然と耳に入る透き通った声には程遠いがそれでも多少はマネできる。

 久しぶりにやるから勝手がちょっと難しいが……こう、かな。


『こんな感じか? どう、少しは似てる?』

『ッ!?!?』


 少し低めのハスキーボイスが。

 今日一番の驚きを引き起こし、七組を震撼(しんかん)させた。


 ◆◇◆◇◆


『じゃあ会議はずっとこの声で進行するよ。まず最初にメイド服の量産なんだけど、これは裁縫が出来る人にお願いします。材料費は学園側に請求すればいいので問題なし、服の型紙は何枚か持ってきたから後で渡すね』

「一応フリーサイズだから誰が作っても誰でも着れるんだよな?」

「ですね。このリボンで身体に合わせて可変が利きますから」

「へー、そういう細工が仕込まれてるわけか。ダボつかないで動けるし、柔らかい雰囲気で親しみやすさもある……考えたもんだねぇ」

「うぐっ……似合ってる、似合ってますけど。近しい声で話されるのは精神的に厳しい……!」


『女装メイクに関しては俺が教えて自分で覚えるか、もしくは女子に頼んでしてもらうか。……日頃の恨みもあるだろうから女子に任せてもいいんじゃないかな?』

「……いいね、面白いじゃん」

「折角のお祭りなんだから、おめかししなきゃいけないもんね。腕が鳴るよ」

「私達だって恥ずかしい思いをするんだから、これくらいはやってもらわないとね」

『女子のメイド姿が見れるなら、泥だって化粧に変えてやる……!』

『お前らの道を外れてもゴールまで突き抜ける精神は尊敬するよ、マジで』


「ところで喫茶店で出すメニューはどうすんだい?」

『いくつか案は考えてきたよ。あまり凝った物ではないけどシュークリーム、パンケーキ、スコーンやクッキーを紙袋に詰めて売るとか。他には見栄えの良いスイーツ系で攻めていきたいね』

「パンケーキはともかくシュークリームは難しくねぇか? 初心者は失敗しやすいって言ってたろ」

『まあ、慣れないと厳しいから無しでもいいかな、とは思う。もちろん皆の意見を聞いてから最終的なメニューは決めるけどさ』

「料理の材料を仕入れるルートを考えなくてはいけませんね。安売りを狙うのも一つの手ではありますが……」

『ああ、それはアテがあるから交渉してくるよ。上手くいけば牛乳に卵に小麦、果物や他の食材もタダ値同然で手に入ると思う。期待してて』


「…………なんか、クロトがいるから、物事が上手くいってるような気がしてならねぇんだが」

「ようこそ、デール。アカツキ荘の全員が抱いた感情の極致へ」

「アタシは交友関係の広さにビビったよ」

「そういう所がクロトさんらしいと思います」

「彼が手助けした輪が広がり続けて、様々な人の心を動かしていますからね」

「──周りの人から聞く限りはまともなのよね、彼」

『なんか言った? ナラタ』

「クソ似合ってる女装写真を構内掲示板に貼っていい?」

『口が悪いな……ダメだよ。納涼祭本番の衝撃が薄れるから』


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