第五十九話 実技編《情報整理の後に》
実技編、サクッと終わるはずだったのに後三話くらい続きそうです。妙だな……。
「学園の生徒が魔剣の適合者……!?」
「レオが言うにはね」
魔物の襲撃とは別の意味で緊張感のある見張りを終えて。
三人で紅茶を飲みながら駄弁っている最中に爆弾を投下。
早朝から無駄に疲れさせるような話をするのは申し訳ないと思うが、隠しておくと後が怖いのでちゃんと伝える。
報・連・相は大事と存じますので。
「昨日、迷宮前で集合した時にさ、教師の中に一人だけ女子生徒がいたでしょ? あの人が適合者なんだって。あまりにも堂々と魔剣を腰に下げてたから、既に気づいてるかと思ってたらしくて言わなかったみたい。……で、誰だか知ってる?」
「……そういやいたな。なんでここにいるんだ、って疑問だったんだが」
炊事場のテーブルを挟んで向こう側。エリックは納得がいったように手を打ち、頷いてみせる。
どうやらカグヤも思い出してきたようで、空になったマグカップに紅茶を注ぎながら。
「彼女は高等部三年生、ノエル・ハーヴェイさんです。学園最強の冒険者であり生徒会長でもありますよ。しばらくギルド側の要請を受けて各地で活動していたそうですが、つい最近になって戻ってきたみたいです」
「…………待って、情報量が色々と多い」
受け取ったマグカップに口をつけながら考える。
一応、生徒会という組織が学園にあるのは知っていた。以前リーク先生の研究室を誤って爆破した時に、事情を聴きに来た事があったからだ。
そんな生徒会を構成する人員は大体が教師の推薦を受けた、実力と能力のある生徒。
もしくは卒業後の進路で有利になれるから、と。
学園内外でも名を馳せる数々の功績を積んだ憧れの人と共に、などと。
他にも理由はあるだろうが、総じて学年問わず強力な面子が自推して所属しているのが生徒会だ。故に、全員がやる気に満ち溢れた優等生たちである。
そして仕事内容は生徒から殺到する陳情の解決、学園行事の運営を補助するパシリ屋。言い方は悪いが、教師からも依頼が送られる特待生と似通った役職だ。
だからこそ多忙であり、生徒会をまとめる会長は相応の能力を求められる故に全生徒中最強。
様々な国家からギルドを通して依頼を持ち込まれるので、カグヤの言う通りあちこちへ引っ張りだこにされるのだ。
「でも、だとしたらなんで生徒会長が教師陣に混ざってたんだろう……試験の手伝いもさせられたりするの? 生徒会って」
「んー、いや、聞いたことねぇけどなぁ。向こうに何かしら事情があるんだろうが、ここで色々ああだこうだと考えても推測でしかねぇし」
エリックの言う通りだ。向こうもこちらと同じように認識しているのだとすれば、どういう立ち位置なのか。
同じ学園の生徒ではあるが、適合者として味方か、敵か。敵意も無ければ害をもたらす雰囲気も感じないというのだから、前者であれば個人的には気が楽だ。
しかし現状、顔を見合わせて意見を言っても真実は分からない。多少は警戒する理由になるがそれだけに固執するのは視野が狭い。
だからこそ、今は魔法の言葉で乗り切ろう。
「とりあえず実技が終わったら学園長に丸投げしよう。俺は全然知らなかったけど相手は生徒会長なんだし。何とか話してくれるでしょ、きっと」
「お前、面倒だからって全部ぶん投げんなよ……おおむね同感だけど」
「ただでさえ短期間に様々な問題が重なってますから。雁字搦めにされるのは勘弁願いたいところですね……」
三人で紅茶を飲んで、ひとまず議論が落ち着いたとする。
魔剣関係の情報だから重く受け止めはするが、最優先事項は実技試験で赤点を取らないようにする事だ。そこで躓いた瞬間、脳内で組み立てていた様々なプランが瓦解する。
シフトドライブに耐えられる新素材の開発。
子ども達の装備品の作成、入学金返済に必要な金策。
レオ主導による魔剣、異能を使いこなす特訓。
大まかに三つ、それぞれに案はあるが実行するには多くの時間が取られる。
だから赤点は取れない。手は抜かない。絶対に。
「……というかセリス起きないね。もう六時過ぎだし、割とガヤガヤ騒いでるんだけどな」
「思った以上に疲労が溜まってて、眠りが深いのかもしれねぇな。見張りの時も魔物の声よか、寝言の方が喧しかった気がしたぜ。“毒が~、毒が来る~”って」
「それ本人に言うなよ、たぶん悪夢を見てるから。カグヤ、悪いけど起こしてきてくれる? 俺はエリックと朝食の用意をしておくよ」
「分かりました。身支度が終わり次第、手伝いますね」
テントに向かうカグヤを見送り、火を起こしていた窯に鍋を掛けてスープを作り始める。とはいえ、手の込んだ物ではない。
昨夜、炊事場の片隅で仕込んでいた燻製肉を刻み、ざく切りにした野菜を鍋にぶち込んで蓋をして放置。塩気と旨味は肉から出るので、最後に味を調えればいい。
後は布に包んでいた硬いパン。それをエリックに切ってもらい、木のボウルに並べる。スープに浸せば柔らかくなるから食べやすいだろう。
他にもおかずを作りたいところだが、早めに消費しておきたい食材は既に加工済みだ。事前にカグヤから昼食用の食材を取り置いてほしいと言われていた為、これ以上は使えない。
いっぱい作ってるから、スープのおかわりで何とか空腹を凌いでもらおう。
「お待たせしました」
「ふあぁ……おあよーさん」
『キュッ、キュイ』
ぐつぐつと煮だつ鍋の様子を確認しながら、声がした方を見れば。
カグヤに誘導されて、ソラを抱いたまま半開きの目でテーブルに着くセリスが居た。やはり疲れが溜まっていたのか、まだ相当眠そうだ。
「ごめん……ぐっっっすりねちまってて、みはりできなかっ……」
テーブルに載せたソラに顔を埋めて、また寝息を立てようとする彼女の世話をエリックに頼み、カグヤと協力して昼の弁当づくりを始める。
葉物と木の実、ほぐした燻製肉を切り込みを入れた硬いパンに挟む。具沢山でギッチギチのサンドイッチだが、よく噛んで食べてほしい。
四人分の弁当を紙包みでまとめれば──準備はオッケー、朝食にしよう。
◆◇◆◇◆
「そういえば、昨日あれだけ槍を振り回したせいか、最後の方は手の平が痛かったんだよ。対策した方がいいかい?」
「うーん、滑り止めの皮を巻き付けたけど、急造だから粗があるし万能ではないからね。魔物素材を加工しないでそのまま使うのは厳しいし、手袋……鍋掴みを装着してみる? いや、さすがにダメか。すっぽ抜けるわ」
「荷物の中に何か……おっ? 良いのがあるじゃあないか。サイズも合うし、この指抜き手袋を借りるよ」
「んじゃあ、それを使って。家に帰ったらその辺も考えて装備を作らないとね…………あれ、そんなのバッグに入れてたかな……?」
◆◇◆◇◆
朝食を食べている途中、見張りが出来ず気に病んでいたセリスに昨夜のネタばらしを行い、近くにいたエリックがからかったせいでヘッドロックを受けるなど。
適合者の話もしたが俺達と同じ“学園長にぶん投げる”結論に至った。他者への遠慮が無くなってきているようで何よりだ。
簡素ながらもお腹を満たし、各々の準備を整えてテント前に集合。
「本日の探索は行ってない方の道を進む、ということで。頑張るぞー!」
「「「おーっ!」」」
右手を突き上げ、三人を引き連れて道を進む。
今日は二泊三日の中間地点。願わくば迷宮主のエリアまで突き止めて、明日にでも他のパーティと協力して討伐したい。
幸い迷宮内であればデバイスで連絡を取り合えるので、先に辿り着いてるパーティが居ればメッセージを出すはずだ。情報を共有できれば戦略も練られる。
実際、準備中に他のパーティから迷宮の情報が送られてきていた。時間が惜しいのでエリックに移動しながら確認してもらっている。
魔物が出た時の事を考えて俺が前に、セリスとカグヤが少し後ろに位置する形で囲む。
「これだけ水源が豊富な割に水棲系の魔物はいなくて、出現する魔物はどこも一緒みたいだな。違いはトラップの有るか無しかで、有ったとしても危険な物は発見されていない。……うーわ、サベージバイトが三体も待ち構えてる部屋とかあるらしいぜ?」
「素材の山じゃん……じゃないや。さすがに複数体のユニークに襲われるのは嫌だなぁ。同士討ち狙えば、多少の怪我を負うくらいでいけるか?」
「そもそも怪我するのが当たり前なのかい? いや、無傷で完封するのは厳しいだろうけどさ」
「隙を作る為にわざと攻撃を受けて拘束したりする人ですよ、クロトさんは」
「ああ、そっかぁ……」
なんだろう、何故か背中に視線が集中している気がする。
違うんだよ、本当なら俺だって余計な怪我を負わずに終えたいんだよ。でも自分に足りない物を補う為に、受け入れるべきリスクを考慮した結果が魔科の国での、というよりは今まで生きてきた中での諸々に繋がるのだ。
その都度もっと上手く立ち回れたのでは、と後悔する。けれどやらなければよかった、とは思わない。
程よく大胆かつ柔軟に身体を張る。これからもこの思考を変えるつもりはない。
だから、どうか許して……ジト目で見つめて、針の筵に立たせないで……っ!
「そ、それよりも階層を跨ぐ道を見つけたとか、そういう報告は無いの?」
「パッと見た感じはねぇな。やっぱり昨日話した通り何層かで分割されてる訳じゃなく、迷宮全体が下部にあるボス部屋の方に続いてるのかもな」
決して無いとは言わないが、ニルヴァーナではあまり見られないタイプだ、と。
「探索し切れてない現状、安易に決め付けるのはよくねぇが……未探索の迷宮という部分も含めて、攻略難易度は高い部類に入るな」
「そりゃまた、なんでだい?」
「理由は多種多様なんだけど、簡潔に最悪の場合を言うと──迷宮主が部屋を出て徘徊してる可能性があるんだよ」
セリスの疑問に答えながらアロマの香り、魔物除けの効果が薄れていることをハンドサインで知らせる。
いつでも武器を抜けるように意識を切り替えてから、カグヤが俺の後に続けるように言葉を重ねた。
「私達が普段探索している迷宮は他の冒険者が先に攻略しているので、情報が既に開示されています。完全にとは言いませんが、その情報があるからこそ私達は比較的、安全な形で探索を行えるのです」
「あぁ……つまり、手付かずで未知だから危険で難易度が高いってこと?」
「当たり前っちゃ当たり前だがな。んで、階層が無い迷宮だともう一つ、気がかりな問題が発生してさらに難しくなる。クロトが言ったみてぇにな」
デバイスを仕舞ったエリックが促すように声を掛けてきた。
意図せず迷宮についての解説になっているが知っておいて損はない。自分なりに噛み砕いて理解しようとしているセリスに向けて。
「迷宮に出現する魔物は階層ごとに種類が増減するけど、階層を跨いで移動することはないんだ。各層に生まれた魔物は、そこが縄張りだと認識しているから大きく離れて動かない。ユニークモンスターも同じだ」
だけど。
「迷宮主は違う。迷宮の王とも呼べる奴らは、最奥の部屋で生れ落ちる。でもふとした拍子に最奥から抜け出して迷宮内を練り歩き、魔物を食い散らし、蹂躙しながら階層を上がってくるんだ」
「んん? 狭い迷宮ならともかくそんな簡単に…………あっ」
お気づきになられましたか。
上階への道を見つけない限り下層をうろちょろしているだけだが、この迷宮には階層が無い恐れがある。加えて、迷路のように道が入り組んでいる訳でもない。
緩やかにではあるが、坂の有る道を進めば入り口に辿り着けてしまう。それが分からないほど魔物は愚かではない。
特に障害もなく、スルスルと上がってきた迷宮主と曲がり角でばったり、なんて事例もあるのだ。
「クロトが言った通り、こうやって歩いてる最中に主と鉢合わせる可能性が十分に有り得る。相手のサイズにもよるが出会ったら大抵、大暴れするから道が崩落する」
「そういった事故を防止する為、主を討伐した後に最奥部と通路を遮る扉を建築します。迷宮の入り口に扉がありましたね? あれと同じ物です」
「なるほどね、だから難易度が高いって訳か。そりゃ実技試験にも選ばれるわな」
先頭をエリックと交代して、納得がいったように頷くセリスの隣を歩く。
「だから実技内容が発表された時、みんな叫んでたんだよね。探索済みじゃなくて未探索の迷宮が対象だったから、危険度爆上がりじゃん! って」
「恐ろしいことに主の移動に伴い、各層で生まれた魔物も縄張りから離れざるを得ない、となる状況も考えられますから」
「ははぁ、そういう訳か……案外、二泊三日っつぅ期限もそういった要素込みでの目安なのかね?」
「だろうな。七組総出の大人数で、パーティごとに点々とではあるが迷宮に滞在する分、主に勘付かれる確率も上がっちまう」
敵影なし、と。
曲がりくねった道を覗き込んだエリックの合図で進み、行き当たった小部屋の手前で停止する。背後から顔を出して見れば、どこか見覚えのある結晶が中央に鎮座していた。
周囲にある、輝きを放つ照明代わりの結晶とは明度が違う。擬態したサベージバイトだ。
「素材だね」
「せめて生物として認識しろ。とはいえ、バレないように通るのはリスクがある……倒すか」
「おっ、ならアタシが先に仕掛けるよ。昨日のリベンジと行こうじゃないか」
胸を張って前に出たセリスが槍を構える。その両手には、朝食の時に相談されて貸した指抜き手袋を着けていた。
散々好き勝手に素材を剥いだ上に食料として炙った大変美味しい相手ではあるが、ユニークであることに変わりはない。
何より初遭遇だったから仕方ないとはいえ、セリスは自身の油断で負傷するところだったのだ。雪辱を晴らしたいのだろう。
先手必勝、ユニーク死すべし。
セリスの身体に魔力が巡り、仄かに光を纏う。魔力操作による肉体強化だ。
まだ制御が甘いため体外に魔力が漏れ出しているが、エリックと同様に妖精族である彼女の魔力総量はAランク相当。早々に魔力切れを引き起こすことはない。
強化された握力で構えた槍が軋む。
右腕が引き絞られ、一瞬の溜めの後。大股に開いて踏み込んだ左脚が地面を揺さぶる。
槍を投擲する気だ。自身の武器を手放すことになるのであまり褒められる攻撃手段では……ごめん、俺もよくやるから何も言わない。
後ろめたくて視線をずらした先で。
射出する槍を持った右手の手袋には、幾何学的な模様が浮かんでいて──あっ。
「セリス、ちょっと待っ」
「シッッ!!」
止める間もなく。
矢の如く放たれた一条の槍が空気を裂き、甲高い音を響かせて。
吸い込まれるようにサベージバイトの中心に着弾し──爆散。
灰と素材をばら撒きながら、槍は勢いを止めず岩壁に衝突し、そのまま突き刺さった。
「「「えっ」」」
困惑する面子の中で一人だけ、不可解な現象に心当たりのあるエリックがこちらに顔を向けてきた。
尋常ではないほど瞬間的に強まった握力、腕力。
魔力操作だけで引き起こされたとは考えにくい馬鹿げた威力。
どれもこれも覚えがある。逃げるように、静かに天を仰ぐ。
……間違って、エンハンスグラブ持ってきちゃった。
◆◇◆◇◆
「うえぇ……さっきの一発ですっげぇ疲れたんだけど」
「まだ身体が魔力に慣れていないからですね。魔力を一度に多く消費すると倦怠感が生じますので、マナベリーを食べれば多少は楽になるかと」
「袋に余りが入ってたっけ……あったあった。ん~、甘くて美味しい!」
「ごめん、よく考えずに工房の物を放り込んだせいだ。家を出る前に再確認しておけばよかったな」
「まあ、おかげで特に目立った消耗も無くユニークを倒せたんだ。手に入った素材の質には目を瞑るとして。槍が損壊してた訳じゃねぇし、結果的には良い方だ」
「そうだねぇ……とりあえずtype‐0は回収で。不意に魔力を流した時の周囲への被害がとんでもないことになる」
「異議なし」
◆◇◆◇◆
結局、セリスには鍋掴みで槍を振ってもらうことになった。個人的に爽快感抜群なtype‐0を気に入っていたようで、不服そうに頬を膨らませていたが。
周りへの安全面を考慮していないので封印です、と言えば渋々頷いてくれた。
気を取り直して探索を再開。共有した情報の通り、先に進んでも目新しい魔物の姿は無い。
照明代わりの水晶、時に激しさを増す水路、背の低い草木、湿ったでこぼこ岩肌の通路。代わり映えのしない一本道だ。
休憩を挟みながら探索を続けているが迷宮主の問題がある為、警戒を怠る訳にはいかない。しかし常に視界の情報が一定だと、慣れと飽きで動きが鈍る。
そんな環境で、短期間とはいえ迷宮内で生活している以上、ストレスが溜まるのも当然と言えよう。道中、瞬間移動の手品を披露してセリスの気を紛らわせているが、あからさまにため息が多くなっている。
そういった意味でもお昼時というのはありがたい。弁当を食べて気分をリフレッシュして、午後からも頑張ってもらわなくては。
マッピングした地図を眺めて、そんなことを考えていると。
流水の音が通路内に響く中、微かに声が聞こえた。
「あれ、なんか人の声がしない?」
「え? 全然わからん。気のせいじゃないのかい?」
「……いえ、クロトさんの言う通りです。この先に何人かいますね」
首を傾げるセリス、周りへの警戒を強めたカグヤを見てから。
耳を澄ませれば水の反響に掻き消されることなく、小さく聞こえる声。
次いで耳朶に染み入るのは、金属の打ち合いに爆発音。
この迷宮に居るのは七組の生徒と見回りの教師だけ。となれば……他のパーティが魔物と戦闘していることになる。
これまでの探索では感じなかった明確な変化。それに気づいた全員が顔を見合わせて走る。
「ほとんど一本道だったが、どうやら分岐の集合地点があるみてぇだな!」
「やっぱり階層の無い迷宮だったんだね……っ、苦戦してるようには聞こえないけど、とにかく急ごう!」
次第に大きくなっていく戦闘音の元へ向かい、本日何度目かになる小部屋に辿り着いて。
視界に入ったのはボロボロの状態で魔法を撃ち、武器を持って立ち向かう一つのパーティと遭遇し過ぎて何の感動も湧かない、傷を負ったサベージバイトだった。
思わず真顔になる。本当にお前、ユニークモンスターなの? エンカウントし過ぎじゃない?
アブソーブボトルを装填済みの長剣を両手で構えて、グリップを三度回す。
青と黄の線──水と雷、好相性の属性が刀身に奔り、光芒を散らした。跳び出すように駆けて間合いを詰める。
突然の乱入者に息を呑む音を無視して、狙い澄ました一撃をサベージバイトの首に叩き込む──衝撃の瞬間、レバーを握って振り抜いた。
水属性の魔力によって威力を高められ、範囲の増した稲妻の如き斬撃が一閃。轟音を響かせ、身体を焼き切った。
「お前の敗因はたった一つ……そう、たった一つのシンプルな答えだ……」
灰が降り積もる中、紫電が弾ける長剣を鞘に納めながら。
「ぶっちゃけもう見飽きた。悪く思うなよ」
「勝手に先行して横やり入れた挙句カッコつけてんじゃねぇよ!」
「ぶべぼぉ!?」
脇腹に突き刺さるエリックの飛び蹴りで派手に転がった。
おまけ“やたらと充実した休息地”
シルフィ「さて、そろそろ見回りに行きますか。他の方々も出発しているようですから、私は……クロトさん達の方に向かうとしましょう。手を抜いていると疑っている訳ではありませんが、とても気になりますから……ええ、決して他意はありません」
数時間後。
シルフィ「…………良い香りがすると思えばアロマが焚かれていて、テントも迷宮の環境に適した細工が仕組まれていますね。その近くには屋根の無い広い炊事場に、複数人でも入浴できるお風呂場。間違いなくクロトさんの手による物ですね……快適過ぎる気もしますが、まあ試験内容を考えれば問題は……今の轟音はなんでしょう? この先の道から響いてきたようですが……」
その後“クロトが何か仕出かしたのでは?”という確信と好奇心と危機感から湧いた、悶々とした気持ちを胸に残したまま、とりあえず迷宮を出るシルフィであった。




