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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【四ノ章】借金生活、再び
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第五十九話 実技編《いざ、迷宮へ》

今回、クロトの弱点その2が判明します。

 朝早く、空がようやく白みだした頃。

 諸々の道具を詰め込んだ大きなバックパックを背負い、人気の無い道を歩いて地下の迷宮(ダンジョン)保管施設に向かう。

 実技内容を発表した際、場所の詳細は伝えられていた。既にいくつかの七組パーティは建設されたばかりの門前に集まり、思い思いに雑談を交わしている。


 集合時間には遅れていないが、どうやら俺達が最後の一組だったようだ。シルフィ先生を含む教師陣も全員揃っている。

 何故か生徒が一人だけ──見たところ上級生──教師側にいるが、どこか気まずそうに明後日の方向を向いていた。気になるけど、考えても仕方ないか。


 とにかく今日から三日間、七組総出で一つの迷宮を攻略するのだ。

 常に魔物の襲撃を警戒し、安全を確保。目的に対する姿勢や正確な情報の取得。

 時には他パーティと協力して活動することもあるだろう。何も分からない未知のエリアで、限られた時間でどれだけこなせるか。


 俺達の行動次第で実技の点数は大きく変わるはずだ。でも大丈夫、焦る必要は無い。

 これだけの人数で一斉に動くのは物々しい気もするが、気負い過ぎないで。柔軟な思考と判断を持って、リラックスした状態で挑もう。

 エリック達と顔を見合わせて、開かれた石造りの門をくぐり抜けた──。


 ◆◇◆◇◆


 門が閉められ、前を向けば。迷宮らしい薄緑色の岩壁と魔力結晶の塊が各所から生えた通路。

 その奥には光が差し込んでおり、近づくにつれて涼し気な風と水の流れる音が反響してきていた。


 人の波に乗って通路を出て、まず視界に飛び込んでくるのは異常なほどに輝く結晶がまばらに散らばった広場だ。

 突出した岩肌から染み出したような結晶を鑑定スキルで見たところ、どうやら光属性の魔素が濃い為、魔力結晶が影響を受けているようだ。

 天井は高く、洞窟内だというのに昼間のように明るいおかげで、視界の確保は難しくない。


 そんな結晶に照らされ、壁面上部から流れ落ちる滝がいくつもの水路を生み出している。反響していた水流の音の出どころはこれか。

 その結果、植物も繁殖しているようで。水辺の近くには大小の木々にコケや雑草が生い茂っている。後で薬草の類があるか確認してみよう。


 周囲を見渡せば先ほど出てきた通路以外に東西南北、四方向へ繋がる道があった。遠目から見ても分かるくらい明るいので、広場と同じ結晶が生えているのだろう。

 それぞれの入り口はどれも地下に向けて傾斜があった。水路もそちらに続いており、音から察するに穏やかな流れは徐々に激流と化している。もし落ちたらもみくちゃにされて“どざえもん”になるのは確実だ。


 以上の観察から総合的な判断を下すとすれば──洞窟という本来であれば陰鬱な空間にそぐわない、清廉な森が掛け合わされた迷宮と言える。

 しかし綺麗な景観に惑わされてはいけない。恐らく洞窟と森、双方の特徴を持つ魔物が生息していると予想される。


 だが、重要なのはそこではない。

 いくつか採取した薬草を抱えて、覗き込んでいた水路から離れて。

 散り散りに探索を開始するパーティを見送りつつ。

 マッピングの仕方をおさらいしている三人の下に駆け寄って、ビシッと手を挙げ注目を集める。


「えー、ここで皆さんに大切なお知らせがあります」


 首を傾げる面々の顔を流し見ながら。


「今回の迷宮探索──俺、あんまり役に立たないかもしれません……」

「「は?」」


 弱々しい宣誓を告げた。


 ◆◇◆◇◆


「「カナヅチぃ!? お前が!?」」

「なんだか意外です。クロトさんなら問題無さそうに思えますけど」

「俺だって苦手な物はいっぱいあるよ。乗り物とか怖い物とかマズイ料理とか……」


 判別のついた薬草をバックパックに仕舞って、力無く項垂(うなだ)れる。

 自己申告の通り。情けない話だが実はそう、泳げないのだ。

 昔はそのせいで大変な目に遭った。小学校行事にあった沢下りで流され遭難しかけたり、夏休みには海でバナナボートから振り落とされ水難事故一歩手前までいって……思い返せばよく死んでないな、俺。

 ともかく考えられるリスクはちゃんと打ち明けた方がいい。


 特に戦闘での立ち回り上、俺やカグヤは派手に動き回る。もちろん足場の確認は欠かさないつもりだが、万が一が起きる可能性は無視できない。

 さっき覗いていた水路は割と深かった。あれがずっと続いてるのだとしたら、うん……ダメだね、終わるね。

 もし水路に落ちたら、泳げない上に浮かないので救助は必須。だが時間は掛かるし、装備によってはミイラ取りがミイラになる危険性もある。


「ぶっちゃけ《ディスカード》の溜め池も子ども達には悪いけどだいぶ警戒してた。イタズラで蹴落とされてたら水死体が一つ出来てたかもしれないからね」

「こえぇよ……」


 ひとまず拠点となるキャンプ地を求めて広場から西の道を進む。

 うっすらと緑のコケが生える岩の足場。そんな道に沿って続く水路は他の所と比べて流れが比較的穏やかだ。

 水流の反響で声が聞こえなかったり、魔物の足音や鳴き声も判別できないのは危ないからな。仮に落ちても途中で岩に掴まれそうだし、こっちの道を選んで正解だった。

 あっ、風属性の魔力結晶が落ちてる。爆薬の補充に使うから拾っておこう。


「ですがクロトさんの故郷では水泳の授業があったと言ってましたよね? だとしたら多少は……」

「それねぇ、身体の傷を晒すから自主的に休んでたんだよね。見る人によってはトラウマになるからさ」

「「「ああ……」」」


 納得がいったのか、三人はそっと目を逸らした。

 魔物の気配を探ってはいるが、先行していたパーティが既に片付けていたようだ。道端に積もる灰の山に魔法の着弾した跡を見て、戦闘があった事実を知る。

 素材はちゃんと回収されているようで何がいるかは分からないが、灰の量から察するに小型の魔物だろう。


「だから戦闘になったら……いざという時は近接で頑張るけど、基本は皆の後ろから爆薬で支援する危険物お兄さんになるよ。投擲する前に忠告はするけど気を付けてね」

「ふむ……では私が前衛に出るのでエリックさんとセリスさんで連携を組み、打ち漏らしの掃討をお願いできますか?」

「任せろ。んで、クロトは無理の無い範囲で俺達のサポートをする、っつぅ役割でいいだろ」

「だねぇ。手数が減るから気張っていかないと……待てよ?」


 二つの分かれ道に差し掛かり、他パーティの足跡が無い方を選んで進む。

 期間中に攻略を完了するには探索範囲を広げなくてはならない。出来れば同じ道を通らず、新しいエリアを開拓していくのが効率が良い。

 手付かずな分、魔物の潜伏には神経を尖らせないといけないが。

 安全を確認しながら水路から離れた壁際を歩いていると、セリスが不意に手を叩く。


「それなら後ろでアタシがどう動けばいいか指示してくれないか? クロトは目が良いんだろ? 色々と気づきやすいだろうから、何かマズイ所があれば指摘してもらえるとありがたい」

「司令塔って訳か。セリスだけじゃなく全体を見れるんだし、いいんじゃねぇか?」

「妙案ですね。地形の把握も済ませたい所ですから、今日の戦闘ではそのように動きましょう」

「あっれ、なんだかいつの間にか責任重大? いや、異論はないけどさ」


 無闇に前へ出て水ポチャするよりはマシか。

 足を止めずに作戦会議を終えて、それぞれのポジションを意識しながら。

 冷えた空気を肌で感じつつ、緩やかな傾斜の道を歩いていく。


 ◆◇◆◇◆


「あっ、キノコが生えてら。これ食える?」

「興味津々なのは分かるけど初見の物を躊躇なく手に取るなよ。ついでに言うとそれは痺れる成分が含まれた毒キノコだから、魔物の罠とか状態回復のポーションに使う」

「なぁんだ、食えないのか。じゃあこっちの葉が渦を巻いてる草は?」

「それも毒草じゃなかったか? 確か睡眠作用を及ぼす成分があるヤツで、魔物の動きを鈍らせる毒が作れたはずだぜ」


「えー、これもダメか……面白い見た目してるのになぁ」

「というよりセリスさん、先程から採取物がことごとく毒性植物ですよ」

「ピンポイントで選んでるよね。隣のは食用キノコなのに避けてるし」

「逆に毒性のある物の判別を無意識でしてるのはすげぇと思うぞ」


「でも早い内に鑑定スキルを習得した方がいいんじゃないかな。いつか素材袋の中に、しれっと毒物が紛れ込む事態が発生するかもしれない……」

「私達が最終確認している為、未然に防げている訳ですからね」

「だな。空いた時間にでもスキル習得に専念してもらって、なんとか……」

「なあ、このカエルはどうだ? 孤児院でも食ったことはあるが、こんなにデカいのは見た覚えがない。こりゃ食い応えも相当──」

「「それ猛毒」」

「…………早急に対処しましょう」


 ◆◇◆◇◆


 毒物判別処理班のような扱いを受けて、不満げなセリスを(なだ)めながら。

 歩き続けて数十分。特に魔物と遭遇することもなく、そこそこ開けた空洞に出た。

 ここにも輝く結晶があり、分岐した水路が集まって出来た池に反射しているせいか、入り口の広場よりも明るい。よく見れば水草や魚の影も確認できる。


 地面もそれなりに広く、食用可能な野草の類も生えていた。池が四割、地面が六割ほどだろうか。

 入り口から適度に距離が離れていて水と食料の確保も出来る上に、先の方には二股に分かれた道がある。

 十分な魔物対策を施せば休憩地点として最適な場所になりそうだ。


「よし、ここをキャンプ地とする!」

「早めに準備して探索を再開するか。にしても、魔物の痕跡こそ見掛けるが姿を現さないな」

「他パーティの戦闘音に引き寄せられているのかもしれませんね」

「迷宮には魔物の抜け道みたいなのがあるんだっけか。それで移動してるってことかい?」

「そうじゃなかったらここまで楽に来れなかったし、可能性としてはあり得るね」


 野営地用の巨大テント──モンゴルの伝統的な移動式住居(ゲル)のような形──を設営。

 男女の仕切りを立てて寝床も作り、水場の近くは冷えるので熱源として火属性の魔力結晶に細工を施して、いくつかテント内に吊り下げる。これなら寒さで目を覚ますこともなく、ぬくぬくと眠れるはずだ。


 納得の出来に頷きつつ外に出ると水生生物を調べる為にか、三人が釣り竿を作っていた。

 エリック主導の下とはいえ、セリスは慣れない作業に四苦八苦している。時折危なっかしい所もあるがカグヤが的確にサポートしているので大丈夫だろう。


 その傍らで、バックパックから簡易錬金術セットを取り出す。

 火を起こした焚き火の上に三脚を立てて。敷いた金網の上に置いた小さな釜へ、水と採取した様々な薬草を刻んで投入。

 かき混ぜて、コポコポと泡立ったら。淀んだ色味の液体をろ過装置に流して不純物を取り除く。


 抽出した液体がビーカーに溜まったら風属性のエレメントオイル、花のエッセンス、凝固剤を適量混ぜて口の広い鉄製の容器に移す。

 固まり始めたら短めの糸を中心に刺して少し放置すれば──魔物が近寄らなくなる“厄除けのアロマ”の完成だ。


『魔物の認識を阻害する結界道具は高いからこれにしよう』


 昨日、ちょっとでも出費を抑えようと思って進言した結果、見事に聞き入れられたので。折角だから自作すればタダだよな、という安直な思考を持ってレシピを覚えてきたのだ。

 アロマを道の前に置いて火を点ければ風属性の魔素によって匂いは運ばれ、魔物はこの近くから離れていく。

 ちなみにエッセンスを加えないと、エグくて臭くて吐き気がするという三コンボでとんでもない目に遭う。閉所空間だと尚更酷いことになる。というか前に試したらなった。


「よし、釣竿も出来上がったぞ。昼飯の調達も兼ねて釣ってみるか?」

「そっちは三人に任せていい? 俺は錬金術で炊事場とお風呂場を作っておくから。終わったら参加するよ」

「そんなことまで出来るのかい!? 錬金術ってのはすごいねぇ」

「クロトさんの爆薬の使い方が特殊なだけですので、他の錬金術師(アルケミスト)の方と比べないようにしてくださいね」

「ああ。突飛な言動で周りを困惑させるのが得意だからな」

「おかしいな。割と褒められてもいいはずなのに、他者からの評価が著しく低い気がする……」


 だって教師が見回りして点数を決めるんだよ? なら無言で納得させるくらいの野営地にしたいじゃないか。ここに住んでも構わない、って思える出来栄えにしてやるのだ。

 三人の生暖かい視線を感じながら、バックパックの中身を漁る。

 先ほど取り除いた不純物に、魚が好む粉末剤を練り合わせた釣り餌を渡して。

 土属性の爆薬と“刻筆”を手に、俺達はそれぞれの仕事をこなし始めた。

おまけ“ボウズだけは嫌だ”

エリック「おっ、かかったかかった」

カグヤ「私もです。中々大きいですね」

クロト「いいね。ってか今のところ二人しか釣れてなくない?」

セリス「同じ餌を使ってるはずなんだけどねぇ……いや、こっちも来た!」

クロト「嘘だろ、俺だけボウズは嫌なんだけど……待ったセリス。その魚、ヒレに毒があるからリリースして」

セリス「こいつもかよ! アタシさっきから毒持ちばっかりじゃねぇか!」

エリック「この迷宮来てからずっとだよな。そういう縁があるとしか思えねぇよ」

カグヤ「もはや一種の才能ですよね……」

セリス「ちくしょー!」


作者の思考

“現実でキャンプやりたい欲求を文章で発散するしかねぇ!”

“だから設備もキャンプ場レベルの万全な物にするね!”

なんて完璧な理論武装だぁ……。

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