表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【三ノ章】闇を奪う者
54/349

幕間 悲劇は終わらない

 少しだけ、ほんの少しだけ先の──未来のお話。

 ──どうして、こうなってしまったんだ。


 身体を蝕む激痛が意識を薄れさせる。

 木材の弾ける音と、燃え盛る炎に照らされるステンドグラスの下で。

 灼熱の揺らぎが、容赦なく襲い掛かってくる。

 呼吸が出来ない。出来る訳がない。


 身体が動かせない。動けない。

 腹に刺さるナイフの感触が邪魔で、痛くて。

 喉奥から血の塊を撒き散らすことしか出来ない。

 這いずって、何とか火の手が回っていない壁へ背を付けた。


 アタシたちの家が、あいつの帰る場所が燃えている。

 ぼやけた視界に映る日常の全てが、灰になっていく。

 ケガをしながら苦労して直した長椅子も。一生懸命磨いた女神像も。ガキどもの為に縫った服も。

 ご飯を食べて、一緒に寝て、笑っていた──数えきれない大切な思い出が、消えていく。


 ──……生きていたかった。


 アタシはあいつらの姉貴で、母で、中心だった。

 身体の調子がおかしくなってからもそれだけは変わらず、ずっと頑張ってきたんだ。

 ……年頃の女らしいことなんて分からないし、やってみたいと思っても我慢してた。言い出せる訳がなかったから。


 美味い物を食って、綺麗な服を着て、友達を作って、駄弁って──叶うはずのない絵空事を妄想していた。

 だからエリックが羨ましかったし、いずれはアタシも……なんて都合の良い夢を見てた。

 “普通の生活”ってヤツを味わってみたかったんだ。


 ──もう、無理か……。


 身体に力が入らない。炎の揺らめきが視界を埋め尽くす。

 せめて、天国に逝けたらいいな。毎日欠かさず、神様にお祈りはしてたんだからさ。

 ささやかな願いと共に、頬を涙が伝った──。


 少年は夢への歩みを止める。

 暗い道の先にある光を目指していたつもりだった。でも、光は潰れ、燃えて、灰になろうとしている。

 家族を奪われ、居場所を失い、取り戻せない。

 何をすればいいのか、どうしたらいいのか。

 分からない。分からない。何も……分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ