幕間 悲劇は終わらない
少しだけ、ほんの少しだけ先の──未来のお話。
──どうして、こうなってしまったんだ。
身体を蝕む激痛が意識を薄れさせる。
木材の弾ける音と、燃え盛る炎に照らされるステンドグラスの下で。
灼熱の揺らぎが、容赦なく襲い掛かってくる。
呼吸が出来ない。出来る訳がない。
身体が動かせない。動けない。
腹に刺さるナイフの感触が邪魔で、痛くて。
喉奥から血の塊を撒き散らすことしか出来ない。
這いずって、何とか火の手が回っていない壁へ背を付けた。
アタシたちの家が、あいつの帰る場所が燃えている。
ぼやけた視界に映る日常の全てが、灰になっていく。
ケガをしながら苦労して直した長椅子も。一生懸命磨いた女神像も。ガキどもの為に縫った服も。
ご飯を食べて、一緒に寝て、笑っていた──数えきれない大切な思い出が、消えていく。
──……生きていたかった。
アタシはあいつらの姉貴で、母で、中心だった。
身体の調子がおかしくなってからもそれだけは変わらず、ずっと頑張ってきたんだ。
……年頃の女らしいことなんて分からないし、やってみたいと思っても我慢してた。言い出せる訳がなかったから。
美味い物を食って、綺麗な服を着て、友達を作って、駄弁って──叶うはずのない絵空事を妄想していた。
だからエリックが羨ましかったし、いずれはアタシも……なんて都合の良い夢を見てた。
“普通の生活”ってヤツを味わってみたかったんだ。
──もう、無理か……。
身体に力が入らない。炎の揺らめきが視界を埋め尽くす。
せめて、天国に逝けたらいいな。毎日欠かさず、神様にお祈りはしてたんだからさ。
ささやかな願いと共に、頬を涙が伝った──。
少年は夢への歩みを止める。
暗い道の先にある光を目指していたつもりだった。でも、光は潰れ、燃えて、灰になろうとしている。
家族を奪われ、居場所を失い、取り戻せない。
何をすればいいのか、どうしたらいいのか。
分からない。分からない。何も……分からない。