第三十話 美術館の警護《後編》
「とりあえずそこの黒づくめピチピチスーツ共は縛り上げといて。あと武器も壊して、一ヶ所にまとめておいてくれるか? 手間を増やして後処理の人に面倒を掛けるのも申し訳ないし」
『──!』
葉が揺れる。トレントが伸ばした枝が魔銃を粉砕して通行の邪魔にならない場所に積み上げていく。
戦意を失った強盗犯は蔓で縛り、魔法の詠唱もさせないように猿轡を噛ませて雑に転がした。
頭から落ちたり、エビ反りで拘束されて跳ね回っていたり。時々、カエルの潰れるような音が聞こえるが、首が折れていなければ問題無しだ。
念の為にポーションを持たせたサイネに後ろを歩かせているので、余程の致命傷でない限りは大事にはならない。
「後は……とりあえず、この二人は治療しないとな」
眼下に倒れ伏す、無理の無い姿勢で拘束された三下とルガー。
三下は外見こそ打撲と擦り傷しか負ってないように見えるが、魔法防御力の無い装備に魔法を直撃させられたので想像以上にダメージは深刻だ。
ルガーは言わずもがな。ピチピチスーツの各所が擦り切れ、“円芯撃”を受けた腹部は青黒く変色していてとても痛々しい。
苦痛に満ちた表情で呻く二人を、魔力強化した目で見つめる。
「魔力は……二人ともBランクくらいか。無駄にあるな──だったら、アレやるか」
二人の魔力残量を確認し、僅かに出血している部分に触れる。
ドクン、と。一際強く、心臓が脈を打つ。
前に一人だけ……というか、自分にしかやった事が無いので成功するか不安だ。
《レッド・リカバリー》
相手の魔力を通して本来の血管の位置から正常な肉体をイメージし、その通りに身体が治るように、血液の性質を変化。
人が持つ自己治癒力。身体を治そうとする力を、相手の魔力を消費させて促進させる。
通常であれば治癒に時間の掛かるケガであっても、この魔法を使えばいとも容易く完治させる事が可能だ。
しかしその分、熱や痛みが発生するので血液に治癒力促進の他に、鎮静作用を持つ成分を生成できるようにしておく。
……俺が言うのもあれだが、この世界の魔法って現代医学に喧嘩売ってるよね。便利だけど。
大体、この魔法だって肉体の大切な部分に強引にエンチャント掛けて改造してるようなものだし。
最近になって治癒速度もコントロール可能になった。急激な肉体の変化による副作用は少しの倦怠感と空腹を感じるくらいだから致命的って程でもないし。
──そういえば、リーク先生が言ってたな。
『魔力の扱い、血液魔法の理解不足……その他にも要因はあるだろうが、お前は本来の力で魔法を操れていない。そもそもその魔法は戦闘に向いていない。本質はもっと別の──根本的な部分にあるだろうな』
含むような言い方で肝心な部分は話さなかったけど、あの反応は絶対何かに気づいてた。
一般的な目線から見ても俺の魔法の効果は他属性の回復・治癒魔法より異常らしい。
しかし参考になるかもしれないと渡された人体解体新書を読んでるけど、いまいちピンと来ない。
治す時は血管の位置とか、血液から肉体の記憶を読み取ってイメージした方が正確だし……やはりよく分からない。
「クロトさん!」
徐々に回復していくルガーと三下を見下ろしていると、背後から声を掛けられた。
振り返ると、美術館で育った小さいトレントが蔓でグルグル巻きにした強盗犯を運んできていて、その横をカグヤ達が歩いていた。
丸っこく、可愛らしい外見の──正確に言うと玉ねぎみたいな身体に短い手足があって、頭の頂点から苗木を生やしている──トレントが大人を抱えて行進する姿は中々シュールな光景だ。
「カグヤ、そっちは何ともなかった?」
「はい。クロトさんのおかげで警備員の方や展示物に影響はありませんでした。──お見事です」
「いや、俺一人の力で出来た訳じゃないよ。サイネが手伝ってくれなかったら襲撃に間に合わなかったし、カグヤ達が目星を付けてた侵入経路に置いてたルーンも発動してたんだから。あの見取り図が無かったら、ここまで完璧なカウンターは出来なかった。むしろ、お礼を言いたいのは俺の方だよ」
頭を掻きながらそう告げると、カグヤはパチパチと瞬きをして、そして柔らかく微笑んだ。
「……杞憂、でしたね」
「何が?」
「いえ、何でもありません。……美術館内に侵入してきた強盗団はトレントが捕縛して運んでいます。魔物特有の悪意を感じなかったので、トレント達は危害を加えるような存在ではないと警備員の方に説明しましたが、それでよかったですか?」
「助かるよ。あいつらは俺の“指示”で動くようにはなってるけど、知らない人から見たら驚異の対象でしかないからな。下手に手を出すと敵対する可能性がある」
《ファーマー》と呼ばれる、全ての作物に何らかの能力を与える力を持ったクラスのコムギ先生が育てたトレントだから温厚な性格ではあるが、過度にストレスを与えるとやんちゃをやらかす。
それを諫めるのがルガー達に無双していたデカトレントであるが、現在サイネを引き連れて仕事中なので、今はあまり刺激しない方が良い。
幼体とはいえ数十匹のトレントを相手にするのは厳しいのだ。というか無理。
「ん?」
小さいトレントによってぽいぽい投げられていく強盗団を眺めていると、袖を引っ張られた。
下を見ると一仕事を終えたトレントがつぶらな表情をドヤ顔に変えて葉を揺らしていた。
憎たらしい。でも可愛い。
撫でてやると嬉しそうに身体を震わせる。
羨ましそうにしていたカグヤと一緒に撫でるとさらに震えた。
……和む。
「アッハッハ! こりゃ確かに愛いねぇ。一匹くらいなら持ち帰っても構わないかい?」
「や、やめなよ。うちの寮に連れてったら大変な事になるって……」
「ちょっとー! 人が働いてるのに何遊んでるのー!? こいつら運ぶの手伝ってよー!!」
ぶんぶんと腕を回して叫ぶサイネを尻目に、俺たちはトレントと触れ合っていた。
悪ふざけも程々にしてサイネの手伝いに回り、点々と転がされた強盗団も集め終わった。
合流した警備員が警察に通報し、軍の本部にもカグヤが連絡したので、今頃は事務処理に追われているのではないだろうか。
それらのやりとりをただ黙って見ていた強盗団。心なしか少しやつれていて、あの周辺の空気だけ淀んでいるように見える。
デカトレント達が逃げられないように周りを囲んでいるだけなのだが。
ともかく、これで一息つけるかと思ったところで、幼体トレントを抱えたサイネが口を開いた。
「……やっぱり変だよ。あいつらの持ってた魔銃、少し差異はあったけど企業の間で最近出回ってる最新鋭の物だ。ゴロツキ程度にあんな物を調達できる伝手もお金もあるとは思えないよ」
「そうなのか?」
「さ、サイネの言う通りだ。魔銃は所有者の魔力を動力にして弾丸を発射するけど、その構造は複雑で、中身は精密部品で詰まってる。上物であれば一丁だけで数十万は下らない……それを個人じゃなくて集団で所有していたとなれば、かなりの出費になるはずだよ」
「マジか……じゃあ調査する為にも壊さないほうがよかっ──」
レビルの言葉に驚きながらも、山積みになった魔銃の残骸から部品の一つ──魔力加工された銃身を手に取り、
「……やられた」
思わず、唇を噛んだ。
「どうしかしましたか?」
「ルガー達の中に操術師はいなかった……となると、魔銃にルーン加工を施したのは別の奴の仕業か。連中の大本、かなり用心深かったみたいだ。ご丁寧に時間経過で発動するように自壊と劣化のルーンを刻んでやがる」
カグヤの問いに答えた直後。
銃身から放たれていた淡い燐光が次第に薄れていき、そして腐食が始まった。
赤が混じった茶色。変色は急速に進み、銃身だった物がボロボロと崩れ落ちていく。
魔銃の残骸も例に違わず。黒光りする冷徹な凶器は、風に吹かれて瞬く間に朽ち果てた。
その光景を見た野次馬がざわつき始め、どこから情報を聞きつけたのか、企業の記者達がカメラを構える。
「……面倒な奴らが来やがったな。みんな、一旦美術館に入るぞ」
即座にシャッターを切る音と弾ける光が無遠慮に叩きつけられる──思わず舌打ちして、突然の事態に硬直した四人を連れて美術館内に戻った。
地球では嫌な経験しかしてこなかったのでブン屋は苦手だ。遠慮が無く、真実を伝える気も無い奴らの対応なんてしたくもない。
警備員が無事に騒ぎを収めてくれる事を祈るよ。
「び、びっくりしたぁ……今のってルーン文字の効果が発動したの?」
「ああ。自壊と劣化は簡単なルーン文字ではあるけど、時間差で、しかもその二つだけで自動発動させるのは至難の業だ。バレないように文字を隠蔽してる事を併せて考えても、術師の技量が相当高くないと出来ない」
仮にルーン文字を書き換えるとしても、どちらかを書き換えた時点で残った方の文字が発動するようになっていた。
文字の並列削除も考えたが俺には難易度が高すぎる。そもそも気付くのが遅かった為、削除途中で自壊と劣化が始まっていただろう。
必要最低限の刻印で、複数の能力を物体に保持させる技量を持った操術師。リーク先生レベルの実力者とみて間違いない。
「ルガー達が襲撃に成功していても、途中で文字が発動してただろうな。武装が無くなったあいつらを捕まえるのは万全に武装した警備員だけで事足りる」
「皆、凄く警戒してたもんね。あんなガチガチの鎮圧武装なんて初めて見たよ」
サイネは出入り口に向かって走る警備員を一瞥してからそう言った。
「魔銃を渡した奴からしてみれば、ルガー達はただの捨て駒だったのかもしれないな。……魔銃を渡した相手がどんな奴か、そしてそいつが目的も無くこんな事をするかは分からないけど」
「確かに…………うーん、強盗団を利用した企業の実戦性能テスト、とか?」
「ありえない話ではないと思いますが、そんな事を捨て駒として考えている強盗団にさせますか? それこそ冒険者や軍に依頼すると思うのですが……」
「考えてみれば随分と手間の掛かる真似をしてるねぇ……だけど、あれほど高性能な魔銃を生産できる企業も少ないだろう? ちょいと調べればすぐにでも見つかるんじゃないかい?」
「難しい、と思うよ。企業だって一枚岩じゃないから、小規模企業に全てを擦り付けて切り捨てる貴族だっているし」
「せめて強盗団から話を聞ければ何か分かるかもしれませんが……」
各々が話す中、カグヤがポツリと呟く。
ふむ、一理ある。でも連れてくるとしてもブン屋が邪魔なんだよな……。
顎に手を当てて考える。その拍子に、サイネが抱えていたトレントに目が付いた。
そうだ、こいつに持ってきてもらおう。
サイネに断りを入れてからトレントを渡してもらい、目線を合わせて“指示”を出す。
“指示”を聞いたトレントは小さな手でビシッと敬礼し、意気揚々と出口に向かった。
数秒後。簀巻きにされ猿轡を噛まされ唸るルガーを持ち上げて連れてきた。
無事に一仕事を終えて褒めてほしいのか、トレントが身体を左右に揺らしながら歩いてきたので撫でてあげる。
その際、ルガーは雑に投げられた。かわいそうに。
ひとしきり撫でた後、皆にトレントの相手を任せて俺は転がっているルガーの猿轡を外す。
すると途端に青筋を立てて、唾を飛ばしながら激昂した。
「……っんのクソ野郎! あのちっこいのはなんなんだ!? こっちは目が覚めたら拘束されてて周りを見れば全員捕まってやがるし、混乱してるってのにちっこいのに抱えられて運ばれてる時の写真を撮られちまっただろうが! あんなんで新聞の一面を飾っちまったら一生の恥じゃねぇか!!」
つい先ほどまでズタボロだったのによく口が回るな。
「開口一番でそんなこと言われてもどうしようもないっていうか、むしろ襲撃なんてしなければこんな目に合わずに済んだと思うんですが」
「うるせぇ! イケるはずだったんだよ! あの人から受け取った最新の魔銃さえあれば誰にも負けないと思って──」
「その魔銃について聞きたい事がある。お前達が持ってたアレはどこの企業に渡された物なんだ?」
無駄な情報は聞くだけ損だ。
相手のペースに乗せられる前に間髪入れず話題を切り込む。
「ハッ、そんな事ペラペラと口にする訳ねぇだろ。てめぇが何を考えてるかは知らねぇが、薄汚いストリートチルドレンの俺達に施しを与えてくれた恩人の情報だ。そう易々と聞き出せるなんて思ってんじゃねぇぞ」
当然と言えば当然の返しだ。
しかしニヤリと頬を吊り上げた笑みで隠そうとしていても、瞳の奥に渦巻く恐怖の感情を抑えきれていない。
それは目の前の俺を対象にしたものではなかった。もっと別の、この場に居ない不可視の存在に怯えているように見える。
なぜ恐怖を抱いているのか。何が彼に恐怖を抱かせたのか。
予想は出来るとしても、明確に話してくれなければ確定する事は出来ない。
……一つ、仕掛けてみるか。
歪んだ頬に一粒の汗が垂れると同時にしゃがみ、目線を合わせ、誰にも聞こえないように小声で話す。
「──“他言無用、話せば殺す”と脅されたか」
「!? て、てめぇ……!」
「待て、落ち着け。図星だとしても反応するな、納得しなくてもいいが理解しろ。いいか? これは言葉遊びみたいなものだ。お前に忠告したヤツが誰にも話すなと言ったなら、言葉にしなければいいのさ」
自分の口元に指を当てる。その仕草を見たルガーは口を噤み、黙り込む。
「今からお前に質問をする。自分がどういう状況に立たされているかを理解した上でお前は何も言わず、正しいなら縦に、違うなら横へ正直に首を振れ──いいな?」
首を縦に振る。肯定だ。
「まず一つ目。魔銃を渡してきたのは企業か? それとも別の組織、あるいは個人か?」
横に振り、否定した。
その次に縦に振った。今度は肯定だ。
これで魔銃を渡した相手が企業並みの技術力を保有した組織、または個人である事が分かった。
「二つ目。人質はいるか?」
縦に振る。そして静かに目線を出口に向けた。
ルガーの手下達が人質にされていると伝えたいらしい。
どういった手段を用いているかは分からないが命の危機に晒されているのは間違いないだろう。
魔銃に加工を施した術師ほどの実力であれば遠隔発動のルーンで殺害することも可能だ。
もしくは特定の言葉を発した瞬間に発動するか……確認しなければ分からないが、有り得るとしたら後者の可能性の方が高い。
「三つ目。……その個人、あるいは組織の名前を知っているか?」
目が大きく見開かれた。
決して口を開かないように唇を噛み、少しの逡巡の後。
静かに、首を縦に振った──。
再度ルガーに猿轡を噛ませ、トレントに運ばせる。
質問中はずっと気が気でなかったようで脂汗を浮かべていたが、終わった後は嘘だろ、信じられねぇなどと驚いていた。
とりあえず役目は終わったので警察に突き出しておこう。どうにかなるでしょ、きっと。
「クロトさん、何か聞けましたか?」
「ああ。アイツが言うには……」
トレントと戯れていた四人に聞き出した情報を伝える。
その中にあった組織という言葉にカグヤは首を傾げていたが、サイネ達が反応した。
「組織なら心当たりがある……ね。名前も一応、知ってる」
「そう言ってる割に歯切れが悪いな。何かあるのか?」
「い、言いにくい事ではあるよ。君達は知らないだろうけど、グリモワールに住む人達にとって彼らは恐怖の象徴みたいな物だし」
「企業、貴族からしてみれば天敵だろうからねぇ。あいつらは様々な企業に網を張って裏の仕事を請け負ってる連中だ。金さえ払われれば強奪や殺しだってやるって話を聞くよ」
世界が変わってもイカれた連中ってのはいるんだね。
昔、助けてくれたとある特殊な職種の人は、その手の連中にしては珍しく情に厚い漢達だったから、“カタギの連中にも手ぇ出す訳にはいかねぇだろうよ”って言ってたけど。
当然、そうじゃない人だっているよな。
「……恐ろしい話ですが、納得できます。企業との関わりがあるのなら強盗団が所有していた魔銃についても説明が付きますから」
「だな。……それで、その組織の名前はなんて言うんだ?」
「えっと──」
サイネが迷ったように瞳を伏せた瞬間。
プルルルッ……。
デバイスの通話音が鳴った。カグヤの物だ。
どこから掛かってきたのか確認した所、相手はエリックだという。
そういえば、アーティファクト組は通信機を渡されたらしいが俺達は何も渡されなかった。デバイスを毎回取り出して連絡を行うので中々不便だが、軍の上層部からの意向らしい。
報・連・相はしっかりしなくちゃいけない部分なのに軍がそれを滞らせるとかバカじゃないの?
一番面倒に思ってるのは班長のカグヤかもしれないけど。
会話が途切れてしまったが、わざわざ通話を掛けてきたのだから出ない訳にもいかないだろう。
もしかしたら、もうアーティファクトを運び終わって暇になったから連絡を寄越したのかもしれない。
結構簡単な依頼だったんだなぁ……と思いながら組体操をしているトレント達を眺めていると、何やらデバイスの向こう側が騒がしい事に気づいた。
『つな……カグ……そっち……か!?』
「エリックさん? すみません、よく聞こえないのですが……」
確かに通話の相手はエリックのようだが、ノイズが走っていて聞き取りづらい。
『くっ……妨害……たの……聞こえ……救援を……!』
「妨害? 救援? えっと、一体何が」
『襲撃……され……本部に……!』
何かの爆発音を最後に通話が途絶えた。
通話が切れたデバイスを呆然と見つめるカグヤ達。
俺はすぐに自分のデバイスから本部──軍の作戦室に通話を掛ける。
何度目かのコール音が響き、オペレーターを担当しているタロスに繋がった。
『──クロト様ですか? 申し訳ありません。通信が立て込んでおりまして対応が遅れてしまいました。ご用件は……』
「タロス、さっきエリックから連絡があった。何者かに襲撃を受けているらしい。そっちに詳しい情報は来てないか?」
事務的な口調で話すタロスに言葉を捲し立てる。
少し悩んだような息遣いの後、タロスは口を開いた。
『現在、ハレヴィ様率いる以下四名は謎の勢力にトラックを襲撃され、応戦しています。ですが、各員のデバイスから確認した生命表示によれば状況は最悪だと判断できます。ラティア様とルーザー様が重傷、他三人は軽傷ではありますが、そう長くは持たないと思われます』
「かなりヤバいな……襲撃犯の情報は分からないか?」
『申し訳ありません。襲撃地周辺に高い魔力波が発生しておりデバイス以外の機器による偵察が不可能となっています。その影響によりデバイスの各機能も著しく低下、あと数分で機能不全に陥ります。このままだとハレヴィ様方と連絡が取れなくなる恐れが……』
「救援部隊は出動してないのか? そこまで分かってるなら早く向かった方が」
『……救援は、出せません』
…………何だって?
頭の中が真っ白になる。
デバイス越しに伝わるタロスの声を聞いたその場の全員が、目を見開く。
そして。
『軍の上層部からの命令です。“アーティファクト護衛の任に就いた者への様々な干渉を認めない”──私たちは彼らを助ける事も、手を貸す事も許可されていません』
この国の闇の一端を、俺は知る事になった。
ようやく話が進むぞー!