第二〇六話 示威を履き違えてはならない
誠意とは何をすべきか、というお話。
脅すような、淡々とした口ぶりのオキナさんとフレン。
凄まじい重傷者と演出する為にお茶目な医師によって、再び包帯で各部をグルグル巻きになった俺。
こういう悪巧みを楽しむ性質であり、笑いを堪えるのに必死で肩をわずかに震わせるカグヤ。
すっかり委縮してしまったのか、言葉少ないミカドと引き連れている臣下。
それぞれが反応を見せる応接間の空気は非常に重苦しい。しかし、ここで止まる訳にはいかないのだ。せっかく時間を取ってもらってるからね。
「俺が眠ってる間の詳細は聞きました。起きがけにしては、中々大変で複雑でしたけどね」
瓦版や民衆の噂は、人が何も言えないのをいいことに好き勝手な解釈で喧伝している。王家や四季家は火消しに従事しているが根本的な解決には至らない。
募った不信は確かな火種となって燻り続け、風を送れば一気に燃え上がる。
マガツヒのような潜在的な悪意が扇動している部分もあるのだろう。報道、広報側としても読者の関心や共感を得られる話題の方が盛り上げやすい。
しかし、このまま放置しては典型的な破綻の始まりとなる。俺はそんなのを望んじゃいないし、ミカドだって同じなはずだ。
そこで、事前に話し合って決めたやり方を押し通すべく、発言を続けよう。
「最優先で片付けるべきは民衆に広まった不満や不安、悪感情の払拭。これをどうにかしない限り、現状打破は難しいでしょう」
「し、しかしだな、こう言ってはなんだが君の行動に民は感化されているのだ。その影響はヒバリヂのみならず、他の地域にも広まっている。もはや完全に拭い去ることなど……」
「出来る訳が無いでしょう。何度も蒸し返しますけど、王家の独断でコクウ家の捕縛を目的として裁判を利用した。この流れはあまりにも筋が通っていない」
ミカドが連れてきた臣下の、おずおずとした発言を切り捨てる。
ようは、ミカド達の内輪でしか情報が共有されていなかったのが全ての原因。その裏付けは四季家およびオキナさんからも伝えられている。
曲がりなりにも一国の王が考案した策だ。護国を、領地を任された彼らには周知させておくべきだった。……捕縛の旨がシュカに伝わらないように、規制したかったとしても。
「突如として現れ、言いように弁舌を述べ、目的を果たそうとした。そんな姿勢に不審を抱かない者がいるとお思いで? いかに現人神より授かった地位の権威をひけらかしても、一手の間違いでことごとく崩れ落ちる」
各四季家、ニルヴァーナ学園長より声明を頂こうとも民衆は納得しない。
「──示威を履き違えてはならない。この認識は、この場にいる誰もが理解しているはずだ。違うか?」
「……そうだ。我らは手段を間違えた、手札を誤った、事の終わりを甘く見た。行動した時には既に遅かった……」
ミカドの苦しそうな声がこぼれた。
女中さんに変装してもらった影の者から彼の状態は耳にしていて、事前に決めていたカグヤの手の触れ方で現状を把握している。
かなり憔悴し、気づけることにも気づけない。視野が狭まり、後手に後手にと事態が改善しない。
最高、最善でなくとも、最良に近しい結果をもたらす。根本からひっくり返す方法に思い至らないのだ。
これまでの話題、ツクモとの会話で賢王だとは分かっている。時に言葉を交わすツクモはミカドの政策や作案の聞き手として徹しているだけで、発想自体は彼のモノ。
で、あるならば……こちらの提案に光明を見出すことが出来るはずだ。
恥も外聞も呑み込んで、非を認め、それでも進む意志があるのなら。
「もはや賠償や責任問題として解決するには重い問題と化してしまった。だからと言って、このまま民衆の意を野放しに出来ない。お互いに遺恨を残さない為に、後悔と悲嘆に暮れても労力を費やしているのは、見えなくとも分かる」
「っ、それは……」
「だからこその提案をこちらから出したいってわけ」
「というのも、重要となるのは人間の私達ではないがな」
「……? どういう……」
学園長、オキナさんの援護射撃に続いて。
当然の困惑を口にするミカドに対し、キノスを召喚する。
神器“始源ノ円輪”として馴染み深い姿が現れ、周囲の空気が変わったと実感した。
『此度の件、最も重要となるのはオレだ。現人神に関する唯一の立ち位置として、誠に遺憾だが利用しろ』
「り、利用…………まさか!?」
「お察しの通り。彼を現人神様の代弁者と見立て、ケジメを付けるんだ」
手早く日輪の国に蔓延する空気を解決して次の展開に持っていきたいので、早足で進めていきます。
次回、クロト達が考えたケジメと覚悟を決めるミカドのお話。