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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第二〇五話 一国の王として

今後の展開の為に一芝居考えたクロト。

それに打ちのめされるミカドのお話。

 ──アカツキ・クロトが快復したこと、書面にてご報告させていただきます。


 影の者を経由してミカドの元へ届けられたオキナの(ふみ)は、彼にとてつもない安堵と漠然とした不安をもたらした。

 先刻の裁判で(いたずら)に尊厳を(おとし)め、痛めつけ、利用した負い目。

 クロト本人が暴走した結果も付随し、言い過ぎた自覚こそあれど筋が通っていないのは事実。彼が口にした主張もまた、傍聴席にいた者達からずれば納得しかない。


 そんな負の連鎖が止められず、日輪の国(アマテラス)の国内情勢には暗雲が立ち込めている。

 ニルヴァーナ側のフレンからも“彼の扱いに不満はあれど、ひとまず続報を待て”という、要約した声明を出したが……焼け石に水。

 そんな中、ミカドの元へやってきた吉報だ。


 見舞いに向かおうとも周囲の反発がシノノメ家、ひいてはクロトにどんな影響を与えるか予想できない。出来れば裁判の時点で配慮すべき思考であり、それに見合った行動を取るべきだが。

 しかし(ふみ)に隠された暗号によって、クロトが面会を望んでいる、と。

 オキナ、フレンも同席する形で協議したい話がある……そのように要求されてしまっては応える他ない。

 当日の予定を全て変更したミカドは信頼できる臣下を連れて、急ぎシノノメ家の屋敷を目指した。


「なんだ、これは……」


 そうしてやってきたシノノメ家の門前で、彼らは立ち尽くしていた。

 何故ならば眼前の屋敷が凄まじい怨念のような、得も言われぬ雰囲気を(ただよ)わせていたからだ。

 裁判以降、四季家およびシノノメ家との連絡は途絶えていたが、これほどまでに空気が変質していたとは思わなかった。

 その要因となったミカドが言えた義理でなくとも、足が竦むのは仕方がない。


「お待たせしました。皆様、こちらへ」


 全員が立ち尽くし、訪問の返答を待ち、重苦しい門が開かれる。

 本来ならば当主であるオキナ自らが足を運ぶべきだ。だが、出迎えたのは女中であり、されど敵意や害意などといった感情は無い。そも興味すら喪失した、事務的で無機質な抑揚のない歓迎の言葉。

 促すように手を向けられ、ミカド達は玄関に上がる。

 普段であれば鍛錬に精を出し、辺りから騒がしい掛け声が響いてくる屋敷内は不気味なほどに静かで。

 木張りの廊下が鳴らす軋みと擦れる音が、妙に神経を削っていた。


「こちらの応接間で当主オキナ様、ニルヴァーナ学園代表者フレン様、そしてクロト様がお待ちです」

「あ、ああ。ありがとう……っ」


 屋敷の雰囲気に呑まれかけ、ハッとした彼の礼を聞くまでもなく、女中の姿が一瞬で掻き消えた。シノノメ家に回した影の者が女中に扮していたのだ。

 いつもであればミカドが察することは出来たはずなのに、分からなかった。

 それだけ彼が精神的に追い詰められ、疲弊している証左。臣下たちですら礼を欠いている、不当な扱いだと指摘する余裕も無い。

 自身が起こした事態とはいえ、その影響は根強い。その解消に此度(こたび)の会談が一助となれば良いのだが……

 願望を込めて(ふすま)を開き、意を決して踏み込む。


「失礼する、お二人方。先の(ふみ)をオキナより頂き、このミカド、参上した」


 室内に入って早々、広大な空間の最奥。

 床の間の手前、上座から下りた位置に座るオキナ、フレンの元へ歩み寄る。


「裁判ぶりだな、ミカド。本日明朝に起きた出来事ゆえ、急な(しら)せとなったにもかかわらず、頼みを聞き入れてくれて助かった」

「いいや、むしろこちらとしても嬉しい報告だった。王家として我らが憂慮(ゆうりょ)すべき事案を受け入れ、成し遂げてくれたシノノメ家には頭が上がらない。……して、当人であるアカツキ・クロトはどちらに……?」


 前置きなど要らないだろうと判断。

 さっと挨拶を交わし、事前に用意された座布団にミカド達は腰を下ろす。彼の目前には、空いた座布団が二つ置かれている。きっとそこへクロトが来るのだろう、と。

 案外、早く本題に入ったことだ……感心したように片方の眉をわずかに上げ、フレンは手を叩く。

 すると彼女の背後から足音が響く。ゆっくりと不規則に、近づいてきたそれはピタリと止み、一息に(ふすま)が開かれる。


「──」


 そこに立っていたのは左腕と右脚に分厚く、視界を遮るように包帯が巻かれたクロト。誰がどう見ても痛々しい様相の彼を支えるカグヤの二人だ。

 裁判の最後まで意識を保っていたのが奇跡としか言いようがないほどの負傷。迅速な治療が施されたとて後遺症は(まぬが)れない重傷。

 その現実をむざむざと見せつける状態に、ミカドは言葉を失った。

 筆舌に尽くしがたい感覚に(さいな)まれる彼らを気にせず、クロトとカグヤは座布団に座り、ほっと一息こぼした。


「専属の医師の判断では筋肉や血管、神経に骨といった肉体の中枢部が癒えておらず、固定しておくべきと言われた。生活を送る分には補助器具か人を活用すればよい、と」

「でも両目はダメね。魔力回路ごと神経や血管が傷ついたせいで、治癒された所で視力は戻らない。それでも日輪の国(アマテラス)の情勢を耳にして、解決する為に貴方達を呼び出してもらったってわけ」


 直前まで面会を円滑に進めるべく考案した、虚実の話。快復したと伝えておきながら満身創痍に変わりはない。

 シノノメ家お抱えの医師ですら悪ノリした、処置の話。本当なら誰の手を借りずとも動作に支障はない。

 しかし織り交ぜたそれらはミカド達の顔色を悪化させ、言葉を詰まらせた。


「二人とも、現状説明はそこまでにしましょう。これ以上、容態が良くなる訳でもないんだ。建設的な話題に移りましょう」

「建設的、というと」

「この国が抱えている問題の解決ですよ、王様」


 何を分かり切ったことを、とでも言いたげな口ぶりで。

 クロトは場の流れを掌握したと実感し、主導権を取って話し始めた。

なお、オキナとフレンが言っていたクロトの容態については全くの嘘っぱちであり、カグヤは笑わないように無言と無表情に徹していた。


次回、やるべき事と成し遂げるべき事を忘れてはならない、というお話。

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