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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第二〇一話 世界の核心《解明》

少しのコメディ。

そして神域に近づいた古代が終わりを迎えるお話。

『コウト、クロナ? どこかで聞いた覚えが……』

「俺の両親ですぅ……」

『えっ』

「事実じゃ。クロトの両親は世界を救った英雄なんじゃよ。もっとも、お主の様子を見るに詳細は伝えられていなかったようじゃがな」

「この世界へ来る直前にイレーネから大まかな話は教えられましたぁ……」


 思わず驚愕の声を上げたリブラスにツクモが補足し、身体を丸めながらもクロトの言葉が続く。


「世界の因子がどうのこうのでイレーネに連れてこられた。そこは別に何とも思ってないし納得してる。けど、両親が魔剣みたいな異能持ちとはまるで分らなかった……」

「日常生活を送る上で全く必要ないからのぅ、知らせるつもりなど毛頭なかったのじゃろ。そも素の身体能力が上澄み中の上澄みなこともあり、異能者としても秘密裏に活動して稼いでおったようじゃし」

『犯罪者予備軍のような言い方だな』

「安心せい、ちゃんと合法……らしい」

『グレーゾーンに踏み込んでいるのは否定しないのか』


 育てられた恩こそあれど、素直に受け取りにくい真実を重ねられ、ますます身を縮めてしまった。


「もうホシハミとかどうでもいいくらい衝撃的だ……どのタイミングで再召喚されたんだ……不在の時期が多過ぎて見当がつかない」

「いうて地球とこちらの世界は()()()()()()()()()()()からのぅ。儂もイレーネから又聞きで耳にしただけじゃから、詳しくは知らん」

「くそっ、星の存続を掛けた重大な情報にノイズが入りやがって……!」

『記憶を見るに尊敬はしているが悪態も吐きたい間柄、という感じだからな』

『一家揃って凄まじい運命を辿っている事は理解した』


 フォローとも言いがたい仲間たちの声を聞いて、重たい身体を持ち上げるようにクロトは顔を上げた。

 流れ続ける水鏡(みかがみ)の映像は、突如として現れたイレーネとコウト、クロナに集約されている。唖然としている古代人たちを前に臆さず躊躇わず、コウトとクロナは身体を止めようとするホシハミへ殴りかかっていた。

 異能者である為かホシハミの餌食にならず、星を呑む巨体を(へこ)ませている。クロトにとって見覚えのある武術によって、徐々に時空断層へと押し込まれていた。


「ダメだ、一旦あの二人の事は忘れよう。頭がおかしくなりそうだ。今はとにかくホシハミ、もとい魔剣に関してもっと見識を深めないと……」

「真面目な話を語り過ぎた為、冗句混じりの話題で和ませようと思ったのじゃが、悪手であったか」

「塩素系の洗剤に酸性の溶剤を混ぜるようなもんだよ、それ」

『ご両親、有毒ガス扱いなんです?』


 リアル系のロボット設定にスーパー系が入り込んではいけないのだ、と。

 中学時代の親友が熱中していたアニメへのツッコミを思い出し、その気持ちを今更ながらに理解し、リブラスの言葉に頷く。


「イレーネが自分の身を(かえり)みないで父さんと母さんを召喚した……それは分かった。で、その後は?」

「いきなりの助っ人に守護者たちは呆気に取られていたようじゃが、三人で簡潔に味方であると示した後にすぐ適応した。この好機を逃す手はないと判断し、ホシハミを時空断層に押し込んだ。星を賭けた一世一代の大勝負はいとも容易く、想定通りに決着がついたという訳じゃ」

『守護者に女神、規格外の二人が追加されれば、そうもなろう』


 星を呑む巨体が門を越え、各所の魔剣が回される事で閉じられた。

 訪れた静寂の中。幾つもの世界、幾代もの世紀を越えた宿願は果たされたのだ。


「……裏を返せば、盤上にそれだけの要素が揃っていながら封印処理しか出来なかった事になる。討伐に切り替えるのは無理だったのか?」

「星を喰らい続けたのは伊達で済まされる話じゃあない。英雄が二人増えたところで殺し切るには途方も無い時間が掛かる上、限度はある。ならば確実に仕留められる方向に突っ走るしかなかったんじゃ」

『なるほど。つまり封印処理とは名ばかりの終身刑……餓死に近い方法で自滅させる為の孤独な空間か』

『寿命も計り知れない生命体。しかしてその巨体ゆえ、維持にも莫大なエネルギーを伴う……決して開かない、集まらない鍵で締め出されてしまっては打つ手なし。考えたものだ』


 歓喜に湧くのも束の間。

 仕事は終えたと言わんばかりに、イレーネ達の姿が掻き消えていく。

 不可思議な事象の連続ではあるものの、明確に味方として動いてくれた立役者たちへの礼も言えないまま、イレーネ達は決戦の場から立ち去った。

 守護者たちは釈然としなくともそれぞれの思いを抱えて、星の中心点より地上を目指す。


「しかし、ホシハミも馬鹿ではなかった。奴は封印される直前、最後の悪足掻きとして種を撒いた」

「種……?」

「精神干渉、あるいは長期に渡って人心に根付く悪意。ホシハミを解放せんと働く都合の良い尖兵を、迷宮や魔物からでなく人類から生じるようにした……まさしく、呪い。イレーネの想定を越えた、不可視の罠だ」


 此度(こたび)の負けは確定している。もはや時空断層から逃れる術はない。

 なれば、と。元々の誕生理由がホシハミの餌の質を高める為の迷宮や魔物。

 それとは別の手段を講じて、奴は己の利となる者を生み出す事に。その影響を間近で受けていた……受けてしまったのが、他でもない守護者たちだった。


「なぜ現代よりも発展していた古代文明が滅亡したか、直接的な理由はそこにある。守護者たちは地表に戻り、人知れない偉業をひけらかすでもなく、魔剣をしかるべき施設へ保管し日常を過ごしていた。しかし植え付けられた悪意は徐々に芽を出し──人類への離反を考え出すようになった」

『離反? 随分と穏やかでないな』

「いわゆる虚無主義、破滅主義と呼ばれる思想に染まったんじゃよ。周囲を信じられず、自身に価値が無いと思い込み絶望する。背中合わせの認識に苛まれ、正気でありながら狂気に呑まれた」


 水鏡(みかがみ)の映像が加速する。

 次第に速度が緩み、挙動のおかしい守護者の一人が映った。男性だ。

 彼は一面モニターだらけの一室に入り込む。息は荒く、所在なさげに視線は揺れて、苦しげに頭を抑えている。


「傍目からは多少、気が触れた程度で済んでおったのやもしれぬが、限界は唐突に来た」


 抗うかのような動作で何度も、何度も何度も額を壁に打ち付ける。

 血が出ても構うことなく、何かに取り憑かれたかのように。

 やがて諦めたかのように背を逸らし、天を仰ぎ見た彼は、怪しげな首の動きでモニターを見据える。

 古代都市の各所を映す監視カメラ。人々の営みを垂れ流すそれを恨めしげに睨み、モニター下部に存在していた大きなボタンを叩いた。


「故に……対ホシハミ用に設計していた超兵器を発射してしまったんじゃ」


 直後に流れ出すアラート音。

 連動し、都市の各地からせりだす尖塔。

 先端が開かれ、姿を現すのはミサイルのような物体。

 程なくして噴煙を撒き散らし、遥か上空を目指して飛んでいく飛翔体は、およそ三桁にも及んだ。


 誰かが空を見る。誰かが指を差す。誰かが声を上げる。

 空へ線を引く白煙。平穏を切り裂く正体を知る者は困惑、焦りの表情を浮かべ、即座に駆け出す。

 しかし、間に合わない。世界の終わりを告げる号砲は止められない。


 一瞬の閃光と収縮。

 直後に広がる暗黒の爆発は大気を、建物を、地面を、人を巻き込む。文明が菓子を砕くように壊れ、呑まれていく。

 安穏は無い。安全地帯は無い。もはや光すら逃れられない。

 地表を破壊し尽くす爆発は取り込んだエネルギーを(もっ)てして留まらず、都市を越えて地表全土を覆い尽くした。


「対消滅エネルギー吸収弾頭。製作段階で既に破壊力が高く、制御が困難。使用後の被害は想定できないが、少なくとも人類は滅亡するとされ、死蔵された兵器。不運にも設計に携わった最高責任者がホシハミの甘言に惑い、ただ一人、たった一人の凶行によって……古代文明は破滅した」

魔科の国編の反省を踏まえて簡略的に説明回を挟みましたが、総合的に文字数は変わってないように思えますね。なんでやろ……


次回、カラミティの真意に気づき、改めて決意するお話。

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