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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第二〇一話 世界の核心《真相》

過去に起きた決戦とクロトにとって知りたくなかった件のお話。

「世界の構成、要素……転換、封印装置……鍵?」

「立て続けに情報を叩き込まれて混乱しておるだろうが、どうか受け止めてくれ。もちろん、お主らもじゃ」

『……素直に呑み込めたとは言えん。だが、腑に落ちた点もいくつかある』


 自身が元人間、それも古代人である、と。

 衝撃の真実を突きつけられたことに戸惑いながらも、レオは納得したように声を上げた。


『我らはいわゆる、人身御供(ひとみごくう)というべき存在であった。人身を排して星を守るべく、超技術によって魔剣という型に収まった』

『途方にも無い時間もの間、朽ちず、壊れず、保持される物体。由来が古代文明の技術であるなら頷けるな』

『意思は消えずとも古代は相当昔の時代のようですし、記憶が無いのは仕方がないと思えちゃいますね』

『むしろ、そうである事がホシハミの封印に必要な工程だったのやもしれんな。過去の有無にかかわらず、意志の力というものは馬鹿にならん。古代人の真意は分からんが、オレであれば力を阻害するかのような要素は無くしておくに限る』

「お主ら理解するの早くないかえ?」

「…………つまり、俺はずっと人の脚とか腕を掴んで散々ブン回してたとんでもないクズ野郎ってことに? なんなら粒子化させて同化とか、えげつないマネを……」

「いやまあ、事実ではあるが不可抗力というものじゃろうて」


 続々と告げられた事実を自身の解釈に落とし込むクロトと魔剣たちへ、ツクモは呆れたようにため息を吐いた。


「兎にも角にも、古代人は転換装置に適性のある人材を魔剣としていった。世界を定義づける要素。基本となる星に並列させ、切り離した断層を安定化させる遠隔装置としてな」

「……あれか、板を二枚重ねたような状態にしたかったのか。そこにありながら、決して触れられない位置に隔離する為に」

『風船の中に泡を入れるような難題だな』

「おおむね、そのような認識で構わん。封印装置の鍵であり、支柱として機能させ、ホシハミを時空断層へ放逐。餌も無く、他者もおらず、ただただ孤独なままで死なせる空間ヘ送り込む……それが古代人たちの考えだった」


 続々と、転換装置へ入った古代人が見覚えのある刀剣の形へ変化していく。

 時に女性が、時に子どもが、時に老人が。

 大小問わず、ともすれば刀剣という形にあらず、されど星の脅威を封じる最大の手段が造られていく。


「キノスが言った通り、肉体と魂の変性を経ても意識を残したのは出力を高める目論見があったからじゃ。ある種の安全弁として暴走や不備を防ぐ為にも。加えて彼らは強力過ぎる魔剣に対し、再び集うことの無いように、悪用されんように。互いを反発させ、散逸するように仕向けた」

『自分達が出会う度に争い合うのは……』

「呪詛の如く、そういった概念付与を外付けされていたからじゃな。残存した意志が拾得者の精神を乗っ取り、食い潰してまで引き合わせんようにも加工していた」

『なるほどな。古代文明の滅亡から幾星霜が経った今でも、魔剣が一ヶ所に集結したという事態が起きなかったのはそれが理由か』

「推理はしてたけど、始めから設計思想の通りではあったんだな」

『さすがは古代の超技術が成せる(わざ)、ということか』


 レオの発言の後、並べられた十二の魔剣が円卓に並ぶ。

 大剣、直剣、双剣。

 短剣、短刀、戒刀。

 円輪、大槌、戦斧。

 剛弓、重盾、錫杖。

 多種多様な見目であり、一概に魔剣と言われると困惑が先に生じる。しかし独特な統一性と映像越しに伝わってくる威圧は、紛れもない特異性を感じさせた。


「また、当時は魔剣を扱う資格保有者を守護者と呼んでいた。これが現代で言うところの適合者に当たる」

「星の命運を賭けた一大事の関係者だし、大仰な呼び名とは思わないな」

『うむ。しかし、いかに古代文明の技術力といえど、これだけでホシハミを封じられたとは思えん。他にも何か手を打ってはいなかったのか?』

「言ったじゃろう、最高の封印器具とな。むしろ、これ以上の手段は無かったんじゃよ。ホシハミは神や神域すら食い潰す怪物。対抗できるとすれば概念的な干渉を可能とするモノのみ。凡俗な身で神域ほどの領域に到達した何某(なにがし)にしか不可能なんじゃ」

『つまりは魔剣みたいな物体でないと喰われるだけ、ってことですか』

『前提条件が凄まじく厳しいな……』


 それぞれの魔剣に対応した守護者が一列に並び、構えた魔剣を一斉に粒子化。

 クロトが使う完全同調(フルシンクロ)に似た事象が守護者の身に起こり──彼らもまた、その身を光の粒へと変えた。

 呆気に取られたクロトの視線の先で彼らは粒子化したまま建造物を飛び出る。

 はるか下の彼方。星の中心点へ向かって建物、地層や岩盤といった、ありとあらゆる物理的障害を(くぐ)り抜けていく。


「えっ、そんなこと出来るの……?」

「波であり、粒子である魔力に関する研究も、当時は現代より進んでいたようじゃからのぅ。お主より扱いは(ひい)でておったのじゃ、この程度は朝飯前だろうて」

「所詮、井の中の蛙、ってコト……!?」

『誰もやろうとしなかった魔剣の複数所持を実行している時点で、守護者の事を言えた義理は無いぞ』


 冷静なゴートのツッコミを聞き流して、クロトは映像を眺める。

 守護者たちは長い時間をかけて星の中心点、決戦の舞台へ到達。虹彩のヴェールに包まれ、捕食用の触手を張り巡らせたホシハミと対峙する。


「まあ、魔剣との同化は攻勢に出る目的でなく、あくまで過酷な環境下における守護者を保護する為のモノ。同化さえすれば人身では辿り着けないホシハミの眠る地、そして奴への干渉が可能となる訳じゃからな」

「……そっか、不壊(ふえ)の性質! 魔力の無限供給にばっかり目が行くけど、アレも中々に強いよな!」

『我らの完全同調(フルシンクロ)と同等の性能ならば太刀打ちできよう』


 ホシハミを囲うように散開した守護者たちは魔剣を顕現させ、自らの頭上に高く掲げる。

 そして鍵穴を回すように捻り、門を開く。重苦しい扉を開くかの如く、広がっていくのは星のような光も無い、暗闇が広がる空間。

 ツクモが言う、世界に近くとも離れた次元にある、時空断層。

 星の寄生虫たる外宇宙の脅威を閉じ込める、贅沢な檻。誰にも見られず、誰にも触れられず、ただそこに在るだけの無意味な()()()()()だ。


『だからとて、自身の身の丈よりも大きな魔物を相手に肉弾戦を挑むのは狂気の沙汰だぞ』

「出来るんだからいいじゃん、別に。でも、それならホシハミに喰われることはない……が、あまり順調そうに見えないな」


 星の中心点から空虚な闇へ、ホシハミは吸い込まれていく。

 しかしさすがに自身の身に起きた異常を察知したのだろう。不気味に蠢き、胎動したホシハミは触手を門の縁へ伸ばし、自身の身体を留めようとする。

 そして新たな触手を生やし、周囲に漂う守護者へ向かわせた。目にも止まらぬ速度で振るわれる、しなやかで致死性を孕んだ殴打。

 暴れ回る質量兵器の嵐は守護者を弾き飛ばし、魔剣を奪取し、門を閉ざさんとした。ゆっくりと、縮んでいく。


「無理もない。いかに古代文明の粋を集結させ、各種の異能を用いたところで、個人の集まりで星そのものを相手取るなど無謀の極み。古代人たちの形勢は徐々に劣勢へ傾き始めていた」


 されど。


「神が数億年単位で積み重ねてきた全ての負債を人に被せる……それを良しとしない一柱がおった。イレーネじゃ」

「なん……え、何をしようと?」

「あやつは直前まで、この星の基幹となる世界を担当していたのじゃが、継続して任された世界の危機を放っておく事など出来んかった。故に自身へ何が起きようと構わず、過干渉の誓約を破ってまで決戦の場に手を出した」


 俯き、諦めかけた古代人たちの元に、見覚えのある姿が現れる。

 それはセラス教で(まつ)られている肉体美をそのままにした、イレーネの面影を纏う女性。直感的に、クロトは本人だと確信した。


 集まる視線、人智を越えた存在。ホシハミが気づかない訳もなく、即座に彼女へ多数の触手が伸び、食い散らかさんと殺到した。

 誰かが手を伸ばし、声を上げ、歯を噛み締める。

 その触手が彼女に触れる直前──自壊するように、崩壊した。時が止まったかのように、触手の全てが崩れ落ちる。


 呆気に取られたのも束の間。

 ガラス片のように落ちた触手は不気味に、刺胞動物に似た動きで直っていく。そうした触手は巻き戻されるように、虹彩のヴェールごとホシハミを締め上げ、拘束する。


『なんだ、何が起こって……』

「イレーネは以前の世界でホシハミに近しい脅威を打倒すべく、別世界から人間を召喚した事があった。その者たちは世界を助け、星を救い、英雄と認められた存在」


 イレーネの背後。

 何もない空間から、腕が伸びる。

 女性らしい細身の手と、がっしりとした男性の手。


「一人は破壊を司り、一人は再生を司る。対極に位置する概念の力を(たずさ)えし二人は、人の身でありながらイレーネの友人であった。召喚元の世界へ戻った後も“困った事があれば力を貸す”と言うほどに、高潔な精神を持つ人間であった」

「…………」


 クロトは、嫌な予感がした。

 おもむろに両手を顔に当て、天を仰ぎ見る。

 不審に思ったレオ達が、その様子を追求する前に。


「──星の英雄たるコウトとクロナの再召喚。それがイレーネの切り札じゃった」


 己の父と母の名を耳にし、どことなく湧いた羞恥の感情を隠したくて、クロトは身体を丸めて倒れ込んだ。

ようやくクロトの両親が過去に何をしていたかを描写できます。

元々、コウトとクロナのダブル主人公体制のつもりだった名残が炸裂します。


次回、人の身で偉業を成し遂げる、成し遂げてきた英雄のお話。

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