第二〇一話 世界の核心《古代》
超文明の匂わせとか滅亡した理由を考えてる時が一番楽しい。
「お主らに見せているのは星の記憶より抽出した過去の情景。儂もこの目で見た訳ではないが、遥か昔はこのように栄えておったのじゃ」
『すごい……! 建物が全部煌びやかで、現代とは比べ物になりませんよ!』
「古代人が編み出した秘奥の技術ってやつかな。……この星に神話があっても、神代はなく古代があった……? 神域ごと喰らうホシハミに触れないように、神の謳歌していた時代は飛んだのか」
『水鏡の映像を見るに現代の水準を凌駕してるのは目に見えて分かる。封印なんて手段で、ホシハミに対抗できたのも頷けるな』
『星の生まれに関与する情報が、我らを語る上で外せない事柄であったのは重々理解したが……』
現代では古代文明のアーティファクト、と。
集めてきた魔剣は著しくもデザインに統一性を感じたり、と。
鉢合わせた魔剣同士は否応にも殺し合い、一堂に会する事はない、など。怒涛の展開と話に困惑はもちろんあれど、自らの誕生について知る。
細かな記憶にすら残っていない過去を他者の語りとはいえ把握できるのは、心につっかえたモヤを払うことと同義だ。
『一体、どんな手段を講じたのか。それを話してもらえるのか?』
「無論。というのも、ここに至るまで星の起源やホシハミについて語ったのは、古代人が自らの力でそれらに気づいたから。その大前提たる詳細を知ってこそ、お主らは彼らと同じ位置に立てる。そして今、その権利を得た」
興味津々な様子で問いかけたゴートに応え、ツクモは水鏡の映像を切り替える。
建物の中なのか。薄暗い室内で幾人かの研究者らしき者達が集い、会議をしている様子だった。
円形のテーブルに座り、その中心地には見覚えのある虹彩を纏った物体がいた。それはホログラムのような実体を持たない虚像に表示されている。しかし、煮え滾る地熱の赤に眠るそれは間違いなくホシハミだった。
何らかの手段によって古代人はホシハミの存在を知覚し、観測したのだとクロトは映像を見て理解する。
「古代人は当時の超技術を用いて、星という天体を解明せんとした。そこで星の内側で根付くホシハミという強大な生命体に気づき、調査する内に脅威を知った。星を喰い続けたことで凄まじい熱量を蓄えていることにもな。迂闊に手を出せばホシハミは反応し、容易くこの星は破壊し尽くされるとまで判明させておった」
「そうか、眠りながら捕食してるようなものだから、下手に接触すると余計に動いて面倒になるのか。ホシハミのエネルギーをどうにか利用できないかと考えたところで、自滅するのは明らか……だから封印に舵を切ったんだ」
『寝返りで星が壊滅する恐れがあった訳だ。聞けば聞くほど厄介だな』
言い換えたキノスの言葉にクロトが首肯し、水鏡の映像が変わる。
会議を終えた研究者達は摩天楼に掛かる空中回廊を移動。その光景は、魔科の国で見上げた街中を思わせる。
魔科の国は古代文明の遺産が多く残り、解析された建築技術によって建造物が乱立。一部は整備され、そのまま活用されているのだ。
既視感のある情景に、時代の名残りを感じたクロトは深く息を吐く。
「現代で掘り起こされ、研究がされておる数々のアーティファクト。あれらはホシハミへの対抗策を練るべく設計されたものがほとんどじゃ。奴を対処するにはどうするべきか、その試行錯誤の過程と叡智が残存しておったんじゃ」
「古代文字の解明でいくつか判明した部分もあるけど、謎は未だ多い。……デバイスも確か、昔に使われた情報媒体を再現した物だったか」
「現代において最も古代の異物に近づいた、あるいは超えた物と言えよう。わずかなサイズでありながら、部分的に各個人の魂へ働きかける道具じゃからな」
話がちょいと逸れたな、と呟いて、ツクモの右手が虚空を撫でる。
拡大された映像が俯瞰視点で進み、研究者達は新たな場所へ辿り着く。
わずかな光源で照らされた怪しげな空間には、手動で操作するパネルを挟むように両脇へ位置する培養槽じみた装置があった。
何本ものケーブルが繋がれた空の容器の中には何もない。されど二つの容器には取っ手があり、中に何かを入れる、あるいは取り出せるようになっていた。
「古代人の技術は異次元はおろか過去を覗き、未来を予測することさえ可能としていた。制度は未熟じゃったようだがな。そういった技術の中で特筆すべきは概念的分野、とりわけ精神体──魂を知覚し、取り扱いにまで手を広めていた」
『魂、だと?』
「そうだ。人の身でありながら、神の領域にまで至っておったんじゃ」
キノスの困惑にツクモは言葉を続ける。
「人を構成する肉体と霊魂を切り離し、双方に改造を施す。当時は倫理を無視して自身に存在しない才能・知識・技術を直接刻み、不老と延命を目的として手を加えていたようだ。しかしホシハミには無意味でしかなく、ならばどうすべきかと協議を交わした」
幾度も、何度も。
ホシハミを知ったその日から、彼らは考えた。
直接的な対応を取れば何を仕出かすか分からない。君子危うきに近寄らず。間接的に手を下さねば星の死滅へカウントダウンが始まる。
思考し、熟考し、黙考し──そして狂気的な決断を下した。
「古代人は世界を形成する概念要素を肉体、魂より出力する転換装置を作成」
水鏡の中で、ある一人の男性が空の容器の片割れに入る。
吊り上がった目つきに体格の良い男性だ。彼は外部から蓋を閉められ、中で静かに目を閉じた。
パネルを操作され、容器の内部に煙が立ち込める。不気味な色味の煙は充満し、男性の姿は完全に隠された。
「破壊を、幻惑を、誘導を、調律を、再生を。ありとあらゆる権能を司る……異能を道具に押し込めた」
男性の入った容器から紫電が散り、そしてもう一つの容器へ流れていく。
激しい明滅を繰り返し、眩い閃光が迸る。次第に男性の入っていた容器は跡形もなく空となり、対して煙の流れていた容器に影が生まれた。
「機能を確実に行使する為に意思を残し、制限を設ける為に適合者を選ぶ。超文明が築き上げてきた技術の全てを注ぎ込んだ至高の鍵」
それは、刀剣の形だ。
大きく、分厚く、機械的でありながらも有機的な印象を抱かせる。
そしてクロトにとって馴染みがある紅の明滅と、煙が晴れた容器の中にある──紅の大剣を見間違えるはずもなく。
まさしくレオと名付けた魔剣の一振りが、容器の中に立て掛けられていた。
『あれは……我、か……?』
「そうだ。古代文明が生み出した、ホシハミへ対抗する最古にして最高の封印器具。それが、魔剣じゃ」
ついに明かされる魔剣の正体。薄々と察していた人はいるかもしれませんね。
次回、魔剣の詳細とホシハミへの対処について。