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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第二〇〇話 淵源の戒刀《前編》

総合的な性能で言えば魔剣の中でもトップである黒の魔剣にまつわるお話。

「黒の魔剣、淵源(えんげん)戒刀(かいとう)……キノスに近い、おどろおどろろしい名前だけど、それに(たが)わない逸話があるのか」

『形状が日輪の国(アマテラス)の物に近似していると思ってはいたが、予想通りではあったな』

「そこは……まあ、後で補足してやろう。いま知りたいのは奴の詳細じゃろう?」

『そうですね、どういうお話があるんですか?』


 リブラスが続きを促し、湯呑みに入った茶を啜ってから。

 ツクモは水鏡(みかがみ)を空中に投影し、見覚えの無い景色を映す。多種多様な人物が列を成し、先頭を歩く者は“始源ノ円輪”を携えて悠然としていた。


日輪の国(アマテラス)いう大国として確立する前にヒバリヂ、アラハエ、シナトヤ、イナサギは四地域独自の勢力を持っておった。今で言うところの四季家、その起こりとも呼べる存在じゃ。奴らの長に対し視察を兼ねた巡礼を初代国王が実施。己が王であると示し、日輪の国(アマテラス)を未来へと繋ぐ発展の一助となるべく手を貸してほしい、と触れて回ったんじゃ」


 ツクモは語りながら、歴史を感じさせる一幕を切り抜いた水鏡(みかがみ)を手繰る。

 教科書で見た参勤交代の絵面に似てるな、と思いつつも、当時の情勢を鑑みれば必要不可欠な行為であると理解した。

 その上で、ここから話し始めるということは……黒の魔剣は日輪の国(アマテラス)の起源に関わるナニカを起こした、って感じか。


「なるほど。既にこの時はキノスを王家に譲渡して、いわゆる戴冠を済ませた後。直前に異能を行使して、四地域の対立争いを止めた光景を目の当たりにしているはずだから……」

『不可思議な現象であっても、実際に止められた事実に変わりはない。羨望と畏怖を一身に受けたのは間違いないな』

『事実、オレと家臣を引き連れての行軍となったが、神の権能を譲り受けた高貴なる人として崇められていた記憶がある。連れ立つ人数も増え、ヒバリヂに戻る頃にはかなりの人数になっていた』

『じゃあ意外と障害なく巡礼の旅は終わったんですかね?』

「そうなればよかったんじゃがのぉ……そこで関わってくるのが淵源(えんげん)戒刀(かいとう)じゃよ。アレに対処する為に現世へ降りようかとも考えたほどだ」

『……現人神(あらひとがみ)と呼ばれる貴女ですらそうせざるを得ない。そこまで思わせるほどの物ですか』


 ゴートの発言にツクモが溜め息を吐き、認めるように頷く。


「遺憾ながら……アレは只人の手に余り過ぎる。まさしく現世に存在してはならない一振りじゃよ」

「レオ達で麻痺してるけど、魔剣自体は危険な代物だしな。精神汚染して身体を乗っ取ったりも出来る……でも、そんなにか?」


 無言のままに、ツクモは水鏡(みかがみ)の内容を切り替える。

 かつての光景を映すそれは東の焔が噴く山を見上げる。野山を巡って北の壮大な海風を望む。山河を下って南の肥沃(ひよく)な大地を見渡す。

 初代国王の足取りが流れ、そして最後の地域。

 山岳に根付く強靭な人々の営みを知り、経験し、そしてイナサギの最奥に位置する地点。淵源(えんげん)戒刀(かいとう)が納められている地点にて──そこで水鏡(みかがみ)は止まった。


「かつてイナサギにて発掘された黒の魔剣は当時の部族たちから、漂う異様な空気と朽ちることなき見目(みめ)から神聖視されおった。現に“始源ノ円輪”と(まみ)えた部族の長は、同一の存在であると察したほどにはな」

「魔剣としての気配を感じ取ったのか……ということは、淵源(えんげん)戒刀(かいとう)とキノスは出会った事があるのか?」

『…………レオやゴート、リブラスと比べて記憶の劣化や損傷が少ない自負はあるが、覚えていない。そうだ、おかしいぞ……初代国王と行軍したことは分かるのに、何故そこだけが分からない……? ツクモが苦虫を潰したような表情をする程の記憶なら、オレが忘れるはずがない』

「無理もない。黒の魔剣は、強力過ぎる己の能力を制御できんかったのじゃ。適合者の有無に限らず、人だけでなく魔剣にも適応されるほどにな」


 能力、つまりは異能。直接的な攻撃は効かないが、間接的なものなら魔剣でも届く。

 そしてツクモの言い分を聞くに、適合者がいなくとも異能の影響が出ていたように聞こえる。となれば、出会う前のレオが該当する。保管されていた施設職員の精神を狂わせていたり、異能を抑えられない魔剣が他にいないとは限らない。

 仮に適合者がいたとしても、以前レオ達に気づかれないほど精密にリブラスの異能が行使されていたことがあった。その時と同じ、もしくは似た事象が初代国王たちに起きたのか。


「単純な攻撃性能ならレオは最優と言っても過言ではないが……黒の魔剣は、それより強いのか?」

「そちの大剣、能力は破壊であったな? 単純明快な力という概念ならば、そちらに軍配が上がろう。だが奴の能力は毛色が違う。表するとすれば、お主の魔眼と似通った性質を持つ」

「万縁の魔眼と……?」

「お主のように柔軟で万能とはいかんがな。対話が可能なら、譲歩も出来よう。互いに理解が進めば、共存も出来よう。しかし淵源(えんげん)戒刀(かいとう)は意思が希薄であった為か、常時能力を発動した状態になっていたんじゃよ」


 完全に同一ではなく、レオ達とも違うようだが、一体どんな異能なんだ?

 湧いた疑問をそのままに、少し温くなったお茶を口に含む。対するツクモは肩を竦め、目を閉じ、再び開く。


「──奴の能力は“剥離”。実体を持つ、持たないモノへも作用する力。一度触れれば爪や皮、肉に骨が剥がれる。そも近づけば精神に干渉され、自身へ向けられた感情、記憶を剥がし欠落させる。それらは二度と戻ることはなく、失ったままになるのじゃ」

「聞いてるだけでえげつないんですけど?」

黒の魔剣、剥離の異能について。

そして何が起きたかという大事な部分を語ります。

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