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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第一九八話 休息と謝辞

受け取るべき謝罪と待ちに待った休みのお話。

 ギュウキごと建物をぶった切り、頭と胸部に左腕以外を消失するという凄まじい状態になった彼を、致し方なく生命魔法で治療。

 黒鬼爛絶(こっきらんぜつ)の範囲内に居ながら、命からがらに生き延びたゴズの平謝りと治療の感謝を聞き流す。

 当人の再生能力もあってか。無事に回復し終え、全裸で気絶するギュウキの局部にガレキを乗せて遊んでいたら、慌ただしい足音が聞こえてきた。


 社殿の続く道に煙を上げつつ爆速で駆けてきて、見えてきたのは誰もが目を引く妖艶な女性。

 頭頂部から先が鋭く尖る大きな耳と根元から幾本も生えた、ふわりとした尾。

 切れ味のある吊り上がった目と桃色がかった赤い瞳が特徴的……総じて、狐をイメージする人が現れた。

 彼女が纏う雰囲気はイレーネに近く、それだけで現人神(あらひとがみ)本人だと理解する。複数人いるなら前提は変わるが、キノスの話を思い出すにそういう感じではないらしいし。


 しかして端正で綺麗なはずの顔は病的に青白く、目を合わせるや否や、真っ先にツクモと名乗った彼女は返答を待つでもなく俺達を掴み、踵を返して疾走。

 巡り変わる視界に、首根っこと脚を取られて引きずられるゴズとギュウキ。

 俺は手を取られたものの、あまりに早過ぎて身体が浮くほどの速度で。大人三人分の重量を物ともせず、崩壊した社殿を後にした。


「まことに、すまなかった……!!」


 そうして辿り着いた、現人神(あらひとがみ)が寝食を過ごす最奥でツクモは頭を下げる。たっぷりと数十秒、彼女は非情に申し訳なさそうに土下座した。

 次いで顔を上げ、横で転がるギュウキ──衣服代わりに縄で簀巻きにされた──を睨みつけ、更に横で肩を竦めるゴズへ移す。


「従者の選定を見誤り、悪戯(いたずら)に煽り、闘争のきっかけを与えた。加えて治療まで任せてしまう始末、客人への無作法と重ねて何度謝ろうとも足りない……!」


 方や暴力に走り、片や暴走を抑えられなかった。

 経緯を見聞きし、噛み砕いた今、非難を受けるべき両者の行動はツクモの品格を(おとし)めることに繋がる。

 こと現在に至っては俺に非が一切なく、向けられた害意に全力で応えただけ。

 既に罰は与えたも同然だが、納得は出来ないし自身を許せないのだろう。


「まあ終わった事だし、レオ達との連携もつつがなく出来たし……誤算とはいえ新しい境地に気づけたのは嬉しいからいいよ。それに、ソラやフェネスを召喚して一緒に攻撃しなかっただけ温情だと思ってくれ。黒鬼爛絶(こっきらんぜつ)に生命魔法と生命の炎を上乗せ。再生と破壊を繰り返す斬撃をソラの《風陣》で切り返し、二重の攻撃に昇華することも可能だったからな」

『おぞましい連撃を考えつくな。たとえ鬼であろうと精神崩壊するぞ』

『殺意を呑み込んだ理外の剣……無限に焼かれ、直る技にもなるか』

『ここまで直球なのも、クロトさんにしては珍しいですねぇ』

『そうされるだけの所業を重ねたのだ、自業自得と言えよう』


 背後に控えるレオ達の反応を聞き流し、用意してもらった茶菓子を口に含む。

 四天練陣(してんれんじん)は、武の極致とも言える無念夢想とは真逆の性質を持つ。

 膨大な情報量から選択し、感情の発露が如く、猛々しい力を発揮する剛剣の元型。放った側が言うのもなんだが、常軌を逸した火力を秘めていた。

 いわゆる、秘剣の類……まさしく、必殺技。

 実行できたからこそ、分かる。アレはおいそれと行使して良いものではない。

 殺意が描く想定通りの結果とはなったが、手加減がまるで利かなかった。現実世界では制限を掛けるべきだろう。


「ただ、現世でギュウキに戦闘を仕掛けられたら、こうはならなかったという確信がある。あくまで肉体という枷の無い状態だからこそ成せた業だよ」

『ある程度、魂の成熟に肉体が引き上げられるとしても、実際に四天練陣(してんれんじん)を熟せるかは不明、と?』

「不完全な状態になってたかもね。加えて、ギュウキが曲がりなりにも武力を見初められ、誇りに思っていたのは事実だ。やりあって身に染みたよ。過程はどうあれ、現実でなら相打ちで共倒れぐらいには運べたかもしれないが……今回は運が悪かったな」

「よもや儂と同等の格を有する魂とは思わなんだ。干渉の難しさに違和感を抱いていれば、自ら足を運んで迎えに行ったのだが」

「我もこの目で見るまでは不信が胸中に湧いておりました。愚弟が愚かな発言をし出した際に、溢れんばかりの闘気に気圧されてしまい……時すでに遅し。社の隅で、震えていることしか」

「過ぎた事だ、もういいさ。でも反省はして?」

「「はい……」」


 委縮する二人を視界に、練り切りやきんとん、大福と食していく。

 正直、他者の精神空間で用意された食材だ。何に作用するか分からない以上、警戒するべきなのだろう。だが、ここまできて毒やら何かを盛っていたら、もはや利敵行為に他ならない。

 だから気にしなかった。仮に盛られてると判明した途端、俺も怒りで瞬時に沸騰すると思うが、たぶん味覚を共有しているレオ達が先にキレるな。


 後はツクモお手製の菓子と聞いてメシマズの可能性が脳裏をよぎり、簡素に用意したいう割に手間の掛かる物が多かった。

 見た目も良く、身構えはしたものの……うん、ほっこりする甘さに安心する。淹れてもらったお茶も渋さと苦みの中に、確かな柔らかさを感じた。

 ふと耳を済ませば、どこからともなく流れる瀑布の水音。

 そよ風は涼しさを含み、肌を撫で、どこからともなく清涼な緑と花が香り、気持ちを安らかにしてくれる。


「精神空間でありながら、これほどのお手前……ゆるりとした時間がささくれ立った心を癒していく。これでいいんだよ、これで」

『なんだかんだ、しばらくぶりの食事ではあるからな。野菜や肉でなく甘味で、しかも精神体だがマシというものだ』

『ゴートさんの言う通りです! しっかり味わってください、自分もちゃんと楽しみたいので!』

『今更だが、容易に魔剣と感覚を繋ぐというのは危険なのでは……』

『本当に今更だな、既に存じている通りだろうが。クロトに我らの精神汚染とも呼ぶべき干渉なんぞが通用するものか』


 相変わらず人を怪物のように言いおる。


「……んで、紆余曲折あった訳だが、今回の騒動に関する質問してもいいか? 正直なところ、レオ達と推察した考えに沿って行動しただけだから擦り合わせがしたいんだ。裁判の終盤は死にかけてたせいで、まともな状態じゃなかったし」

「そうだな。お主は知るべきじゃろう……長くなるが、構わんか?」

「どうせ現世の身体が治るまで暇なんだ、有効活用したい」

「あいわかった。なれば語らせてもらおう」

「茶を淹れ直そう。そのくらいはさせてくれ、罪滅ぼしとして……」

『もはや貴様も巻き込まれ事故のようなものだろうに』

『難儀ですねぇ……』


 各々、思うところはあるが置いといて。

 不明な点の多い事態の詳細を知るべく、互いに話し合うとしよう。

ひとまずの状況説明と意見合わせ。

こういう時こそ慎重に動くのがクロトの良い点だと思います。キレたら手がつけられないけど。


次回、違和感の解消と視界の変遷。

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