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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第一八八話 埋もれた灰の昇華

大変長らくお待たせしました。

果樹園の手伝いだったり、大地の舞手やってたり、十四代目葛葉の使命を果たしていたり。

別作品の更新に熱中していましたが、本日から更新を再開していきます!

『──証人喚問という形でオレを召喚する、だと?』

「ありとあらゆる要素で敵まみれな現状で、アカツキ荘の皆にオキナさんも頑張ってくれるとは思う。でも、決定的に状況を覆すなら、この国の神器たるお前の力が必要だ」

『信仰の対象でもある現人神の権威を存分に振るってもらう、ということか』

『既に盤石の地位にある存在から告げられる証言ならば、信じざるを得ない。たかが一人の悪辣な欺瞞の言葉など容易く粉砕できるだろうな』


『でも、いきなり神器が喋り出すなんておかしな現象、受け入れられます?』

「今回に限って言えば、信じなきゃいけないんだよ。神器自身から意思が宿っている事を知らしめた上で、なおかつ被害者としての目線から証言させる。これが虚偽だというのなら、呪符が反応するはずだからな」

『……そうか。言論統制の呪符が作用するのはあくまで文言に関する部分のみであり、逆に言えば確実性がある。灰の魔剣という存在について自身が言及し、反応しないのであれば……』

『灰の魔剣の発言は真実として認知される』

「そういうことだ」


『正直な所、常軌を疑う提案だ。成功と失敗を問われずとも、白い目で見られるのは確実。残された手段が少ないとはいえ、このような……』

()()()()()()()()()()()()()()。決定的に見逃せず、必ず追求し、事実を知れ渡らせる為に必要なんだ」

『呼び水、というと?』

「これは俺の予想でしかないんだけど……たぶん、裁判当日に王家の人間は姿を現さない。こんなふざけた裁判を押し通らせる理由があって、その為に裏で動いている。そんな気がするんだ」

『でなければ、国外の人間といえど学生身分の汝を放置する訳が無い、と』

『冷静に考えれば外聞が悪くなるな』


「オキナさんが言う限り聡明で先見の明がある現国王なら、あり得る話だろ? そんな人に見せつけてやるのさ。てめぇらの(ぬる)い考えのせいで人が死ぬぞ、ってね」

『うえぇ!? まさか、暗に王家の権力を恫喝して呼び出すつもりですか!?』

「当たり前だろ。民衆の感情を味方につけ、シュカを社会的に抹殺し、現政権の対応に疑念を抱かせて……場を混乱の渦に巻き込んだ上で無罪を勝ち取る」

『その為の第一歩がオレ、か。まったく、とんでもない適合者だな……』

「俺たちの勢力についた以上、出来る限りのことはしてもらう。そうでなきゃ生き残れないしな。だから頼んだよ、灰の魔剣──いや」


 ◆◇◆◇◆


「キノス……」


 震え、しかし確かに芯のある声音で。

 クロトは灰の魔剣……かつてオススメされた絵本の登場人物から取り、付けた名前をぼやいた。

 想定していたシナリオに近づき、機を見て姿を晒したキノスは、息も絶え絶えな状態で耐えている彼を見やる。

 身体の感覚を接続しないようにと判断された上で、精神世界から状態を確認してはいた。しかし改めて見ると、なんと酷い惨状か。

 血で染まっていない箇所が無いほど全身が赤く、かろうじて開かれた両目は赤黒く滲み、まともに機能していない。

 もはや一刻の猶予も無い。早急に裁判を終わらせ、治療しなくてはならない。


『さて、既に自己紹介を済ませた上、こんな茶番を続けさせるつもりはない。弁護側の証言を補強し()く判決を良い渡せるように、神器としてオレも便宜を図ろう。かつての友、現人神(あらひとがみ)に誓ってな』

「…………わかり、ました。国宝“始源(しげん)円輪(えんりん)”改め、神器窃盗容疑における被害者の発言を認めます」


 畳みかけるように、日輪の国(アマテラス)における至上の宣誓である現人神(あらひとがみ)への約定を口に。

 妄言だ戯れ言だ幻覚だと言いたげなシュカを黙らせ、青ざめさせて。

 唐突に現れたキノスに対し冷や汗をそのままに、汗で濡れた手も拭わず。

 裁判長は己の想像を遥かに超えた事象を前に生唾を呑み、語りだすキノスを正面に捉えて想起する。


『──かの少年に対する刑罰は無く、裁判自体が意味の無いもの。実態は四季家の一つであるコクウ家当主のシュカ、並びに従属する者たちの捕縛が目的、ですか』

『先日の暴動事件。輝かしい節目の祭事に起きてしまったことは痛ましくもある。しかし四季家の幾人、そして外部から参入した新進気鋭の学生冒険者クラン“アカツキ荘”の活躍によって解決……流れの全ては既に把握済みだ』

『私も、知り得てはいます。祭事に参加していた妻と子も、彼らに救われましたから。ですが……シュカのふざけた言い分を押し通らせ、かの少年の名誉を傷つけ、あまつさえ利用するなど……』

『国を治める者として不義理であると理解している。だがシュカの行動は以前から目に余り過ぎる。これ以上自由にさせては取り返しのつかない事態となってしまうのは明白だ。たとえ強引にでも、この機に処分を(くだ)さねばならん。(個人)(国家)、どちらを選ぶと問われたのなら、私は全を選ばなくてはいけないのだ』

『……下手を打てば国はおろかミカド様、貴方の選択を、策を、案を非難する者たちで蔓延するでしょう。その責を、少しでも背負えるように。彼の少年の心情を損なわぬように、尽力させていただきます』

『助かる。其方(そなた)の協力に感謝を』


 司法に身を置く者として早十数年。

 ミカドとの為政者という立場から交わしたやり取りが脳裏をよぎり──同時にもっと時間を置き、クロトの動向や思考を(おもんばか)るようにしていれば、と。

 自身とミカドの甘い判断が招いた事態に歯噛みした上で、神器を相手に公判を続けるなど常人には考えられない状況。


 これまでの公判内容を聞き及んでいるが故に、饒舌な口ぶりで証言していくキノスの得も言われぬ威圧感も相まって。

 かろうじて平静を保ったように見せかけてはいるものの、混迷を極めた裁判場の空気に裁判長は息苦しさを感じていた。


『──故に、被告席に立つ少年は身を呈してオレを取り戻してくれただけであり、不運が重なった結果、要らぬ誤解を受けてしまったのだ。真に罪を問われるべきは日輪の国(アマテラス)の象徴たる大霊桜(だいれいおう)を損傷し、弁護席の者たちを負傷させ、あの場から逃走を図った男にある。決して、この少年に責は無い!』


 必要な証拠も証言も出揃って、それでも尚。


『なぜ判決を下さない? 既に勝敗は決しているだろうに、何を迷っている?』

「それ、は」

『当ててみせようか。大方、この機に乗じて策略した案を実行するべく、暗中飛躍の内にいるミカドの為に時間稼ぎをしているのだろう? ならば王家の御膝元たる裁判場に姿を現さないのも納得だ』

「っ、いかに神器たる貴方の言葉であっても、推測で法廷の者たちを混乱させるような発言は控えて」

『オレを舐めるなよ……まさか知らないとでも? 秘密の会談にと宝物庫で話していた貴様らの油断だ』

「!?」


 裁判長は驚きを隠せなかった。先刻のミカドとの会話を聞かれていた事実。こうして言の葉を交わせるほどに意識がある以上、再保管されていたキノスが知っているのは当然であった。

 目に見えて分かりやすい動揺によって傍聴席がざわめき始める。

 検察、弁護側もキノスの発言が真実であると裏付ける反応に顔を見合わせ、この裁判自体が意味の無いものだと勘づき始めた。同時に、裏でミカドが何をしているかも。


『さあ、さっさと判決を言い渡してもらおうか』

「……ッ、ぐ」


 ボタンを掛け違えたように、全ての歯車が狂っていった。

 誰の想定からも外れた裁判の行く末は、もはやどこへ到達するかも分からない。

 自身の不利を理解し、しかして有罪を諦めないシュカも。

 信を置いていたミカドへ不義理と不条理を抱いてきたオキナも。

 ただ独りで戦い続け、傷つき、命をこぼし、されど気丈に立つクロトも。

 血塗れの裁判を終わらせる一手を、誰もが待っていた。

 そして。


「──すまない、待たせたようだな」


 渇いた足音を立てて、次いで裁判場に声が響いた。

 厳格な雰囲気を纏う複数人を引き連れてやってきたのは、格式高い日輪の国(アマテラス)の伝統的衣装に身を包んだ男。

 オキナにも劣らない偉丈夫。染み渡る声音に誰もが肩を竦め、息を止める。王家を示す外套。和風にアレンジされたそれを着こなす男こそ、国王ミカドであった。

 第一声から既に裁判場で引き起こされていた事の流れと、キノスの追及に対する答えを持ち合わせていると。

 察しの良い者であれば勘付く言葉と共に現れたミカドは、一瞬だけクロトを一瞥し、僅かに歯を噛み締めてから。


「此度の不可解な一件への回答と正しき判決を下す為、遅れながらも参じた。ただ今をもってこの場の進行は私が預からせてもらおう」


 ふざけた茶番劇の終焉をもたらすべく。

 また、この期に及んで自身に味方してくれると、ありえざる勝利を確信しているシュカに引導を引き渡すべく。

 全ての疑問へ答えを合わせる時が来たのだ。

混乱の極みだった裁判編も後二話くらいで終わると思います。

ここまで長くなるとは思わなんだ……


次回、余裕ぶったシュカの顔面が歪み、明かされる罪状によって裁かれるお話。

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