第一八三話 馬鹿に付ける薬なし
間をあまり置かずに中編、スタートになります。
物語全体の核心に触れていくお話なので楽しみです。
日輪の国を騒がせたマガツヒの騒動から三日が経過。
無差別に大勢の命を脅かし、後に克至の動乱と名付けられた事件。
それを収めた中心人物として各組織、機関を先導していたフヅキ家とコクウ家の子息、息女が矢面に立てられ賞賛を受けていた。
しかし、二人は“真に賛美を受けるべき者たちは別にいる”と。
向けられる羨望の眼差しは的外れだと言い捨て、その目線は冒険者クラン、アカツキ荘に注がれていた。
実際に動乱の最中、克至病の特効薬精製、マガツヒの制圧、首魁であるシラビの鎮圧など数多くの活躍を見せている。
民衆もまたフェネスが放つ生命の炎、ユキに騎乗した姉弟の特効薬散布によって救われた記憶が根付いていた。
動乱の中心地となっていたコクウ家の寺社へ猛進しながら、周囲を助けて回っていたクロトとカグヤ、両名の姿も焼き付いている。
日輪の国を絶望から掬い上げた希望の光。
彼らも四季家の子息女と同様に、動乱を鎮めた一員だと。
人間、アヤカシ族問わず、大勢の注目を集める結果となったのだ。
『先日の動乱に乗じて神器の強奪を謀った大罪人、アカツキ・クロト』
『アカツキ荘のクランリーダーでありながら、シノノメ家に取り入った姑息な犯罪者に対して』
『コクウ家当主シュカは国家転覆罪の疑いアリと判断。よって──彼の者の身柄を捕らえ、起訴し、最高裁判への出廷を命じた!』
──故に許せなかった。
お前は何を言っているんだ? と誰もが言いたくなるほど、あまりにも無理のある裁判を引き起こそうとしているシュカを。
自身の愚行を瓦版にて堂々と曝け出して。
事態の全容を知る者はおろか、又聞きで情報を知った者でさえも。
反感を抱いた者たちが列を成し、コクウ家の屋敷に大挙して押し寄せていた。
◆◇◆◇◆
「……のう。儂、あやつを解放する目論見で舵を切るように伝えたはずじゃろ。その為に、まあ便宜を図るつもりである分、ある程度の試練か障害を用意しろとは言うたが……このままだと罰せられんか?」
「ツクモ様の懸念はもっともです。しかし、彼は追い込まれるほどに自身の爆発力や人間関係、周囲の環境を利用して状況を打破する才能の持ち主と見ています。王家としてもコクウ家、というよりシュカのやり方には頭を悩ませていましたので……そこを、利用させていただくだけです」
「ハッ、歳の割に老獪な為政者らしくなってきたではないか」
「貴方様の御心を害するつもりはありません。これも一つの試練……彼が乗り越えるべき壁ですので、そう遠くない未来にこの地を来訪することになりましょう。知人の関係者といえど、貴方様がそうまでして気を揉む客人です。無下には致しません」
「ふーむ……まっ、いいか。これも天運。俗世に流れる者としての足掻きを見させてもらうとするかの──」
◆◇◆◇◆
そして、日輪の国の駅構内にて。
「なんじゃあこりゃあ。あの子、この国で何やってんの……!?」
積み重なった業務を終えて降り立った、フレン学園長が。
号外の新聞に載る、見覚えのある顔を見て肩を震わせる。
「……ええい、せっかくの遠出で遊び回りたかったのに! こうなったら直接乗り込んだ方が早いわね!」
新聞を握り潰し、肩から提げたカバンを背負い直す。
件のクロトが出廷している最高裁判。それが執りおこなわれている日輪の国の王城。
その眼下にある、大衆に大罪人の姿を晒すことを目的とした展覧型の施設へ向けて、彼女は小走りに駆け出した。
核心に触れる前に冤罪を晴らさなくちゃいけません。なんでこんなことに……
次回、キレるクロト、怖がるレオ達、気圧される裁判官、冷や汗を流すシュカのお話。