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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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幕間 奇々怪々

様々な組織、立場、思惑に踊らされながらも。

状況は刻一刻と真実へ近づいていくお話。

 コクウ家の領地から遠く離れた、寂れた地区。

 隠れ家としている家屋に到着したカラミティの幹部、ナナシは背負っていた灰の魔剣を降ろし、一息つこうとしたところで。

 突如として燐光のような物を噴出させ、泡沫の如く姿を掻き消していく灰の魔剣を目撃する。一瞬、呆気に取られてしまうものの、それが自身以外の適合者がよく行使する魔剣の召喚現象であると気づいた。


 ──なるほど、首尾よく事を進めていたのは奴の方だったか。


 ナナシは己が灰の魔剣を奪取するよりも早く、クロトが魔剣に接触していた事実を目の当たりにし、ため息を吐いた。

 カラミティの首領であるジンが推測していた通り、クロトには複数の魔剣を所有できる、多重適合者としての適性があると見て間違いない。そう確信を得た。


 ──カラミティが所有していた緑、紫。二振りの魔剣も既に手中に納めていると思っておいた方がいいだろう。


 隠れ家から再びコクウ家の寺社へ戻るには手間も時間も掛かる。

 機を狙って再度奪い返すとしても人目に付き過ぎるか……ともナナシは考えたが、当のクロトが誤認逮捕で牢屋へ繋がれている真っ最中。そして(くだん)の灰の魔剣はシュカによって回収され、迅速に王家の宝物庫へ搬送されている。

 そんな事をナナシは露とも知らないが、これ以上の行動は蛇足だと自身を(いまし)めた。


 しかし迂闊が招いた結果とはいえ、イレギュラーな要素で構成されているクロトを甘く見ていたことに一杯食わされた、と。

 空間へ溶け込むように掻き消えた灰の魔剣を見送り、ナナシは屋内の壁に寄りかかり、腰を下ろした。

 編み笠は外さず、黒の魔剣を腰に()いたまま。

 カグヤから奪い取った簪、少彦(すくなひこ)鈴留(すずど)めを見下ろす。


「……これを、あの女が持っていた……」


 長い年月をかけて使い込まれたと見られる簪に感傷の混じった声音を落とし、ナナシはゆっくりと鈴を鳴らす。

 ちりん、ちりん、と。

 幾度となく(もてあそ)ばれ耳朶に転がる心地良い音色は、過去を想起させ、とある結論に至らせる。


「なれば、あの女は……あの子は──」


 編み笠から覗く瞳は細められ、やがて閉じられる。

 荒くれ、ささくれ立とうとした心を凪ぐように。

 絶えず揺らされた鈴の音は、沈みゆく夜の(とばり)に染み出していった。


 ◆◇◆◇◆


 轟音を鳴らす大滝、霧が掛かる桜並木、静粛な池、整えられた庭園。

 怪しくも神秘的で、現実味も無ければ人気も無い。(かすみ)の上から降り注ぐ陽光に照らされた巨大な大社。

 その奥、御殿とも言うべき場所で大きな(すだれ)の向こうに影が映った。それは優雅に横たわり、肘をついた女性らしい形を帯びている。

 その影が、眼前に置いた複数の水鏡(みかがみ)を指でなぞった。


 空中に浮かぶ遠見の御業。

 埒外の現象が(さら)すのは現世の些事。

 日輪の国(アマテラス)の各所を投影した鏡の一部には、凄まじい形相でシュカを睨みながらも、護心組(ごしんぐみ)に連行されていくクロトが映っていた。


「なかなか、滑稽な流れになったのぅ……」


 女性は気づいていたのだ。

 大霊桜(だいれいおう)・神器展覧会で起きていた騒動も。

 事態が起きるであろう事実も、裏で動いていたカラミティの暗躍も。

 否、それだけではない。日輪の国(アマテラス)に関するありとあらゆる事象、歴史、人心の変遷を彼女は見てきた。


 しかし口は出さず、手も出さず、ただ傍観していた。

 何故ならば彼女が関与してしまえば、俗世への過干渉となってしまうからだ。故に動かず、指摘せず、時の定めに全てを託す。

 だが、今回はそうもいかなかった。


「やれやれ……儂の元へ辿り着くよりも先に、人の法で裁かれかねんか。よもやそこまで愚かな民はおらぬ、と言いたいが……悪い実例がいるからなぁ?」


 彼女は水鏡の一つを引き寄せ、そこに映るシュカを見つめる。

 自身が覚えている限り、ここまで自己保身に強く走り、自分勝手な思いと浅ましい考えを披露する人間は珍しい。

 平民としての立場であるならばまだしも、シュカは四季家の当主。護国筆頭の名家の一員である以上、その発言力は無視できない。


 大神災(おおかみのわざわい)の二の舞を防いだ、まさしく救国の英雄と呼んでも差し支えないクロトへ、強行手段を取って出る可能性など嫌というほど考えられる。

 直接的な手出しは難しくとも、助け舟を出す必要があるだろう。


「国が滅びゆく運命を破綻させた特異点……素質は十分にある。あやつの頼みもあるからな……なれば、彼奴がこの地へ足を踏み入れられるように舵を切るか──のう? ミカドの王」

「それが貴方様の意思であれば、私は応えるのみです──現人神(あらひとがみ)、ツクモ様」


 現人神(あらひとがみ)として建国の礎を作り出して以来、俗世と表裏の位置にある空間……神域にて。

 ツクモは(すだれ)越しに(ひざまず)き、面を下げていた日輪の国(アマテラス)国王、ミカドに笑いかけた。

 様々な組織、思惑、因縁の渦に揉まれながら。

 クロトを取り巻く環境は大きく変化していくのだった。

さすがにちょっと変えたけど、幕間をこのタイトルにした時から脳裏にセンター長がチラつきます。

全人類とは言わないが皆もやろう、都市伝説解体センター。


次回、日輪の国中編を始めるに当たっての導入に当たるお話です。

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