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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第一七八話 開運招福、ただし匪躬

ついに出会った灰の魔剣と平常運転なクロトのお話。

 建国の礎たる現人神(あらひとがみ)が所有していた神器“始源(しげん)円輪(えんりん)”。

 (けん)やチャクラムといった武具の外見を持つが、その事態は出自不明、材質不明の未だ謎多き魔剣そのもの。発する明滅の色を見るに、灰の魔剣とでも言おうか。

 日輪の国(アマテラス)王家が長年に渡って保管し続けていた由緒正しき、歴史ある文化財の一つ。連綿と(つむ)がれてきた文献や口伝によって現代まで継承されてきた遺物。


 しかして神秘的かつ壮大な逸話を持つ魔性の気配に魅入られた者は多い。

 管理下に置いていた王家の中にも、灰の魔剣を手にし威光を知らしめんとする(やから)がいなかった訳ではないのだ。

 慢心や欺瞞に(そそのか)され、自分にこそ相応しい、と。

 歴代の子々孫々が幾度となく接触を(はか)り、現人神(あらひとがみ)の後継者とならん……そう考えた。


 だが、魔剣は適合者でなくては応えない。

 仮に適合者だったところで精神空間にて対話による相互共存の道をいくか。

 それとも強靭な精神性でどちらかが屈服させ、支配を(もっ)てして制御下に置くか──灰の魔剣は、苛烈なまでに後者の性質を持っていた。


 ただしクロトが初遭遇した紅の魔剣、レオのように精神を(むしば)み、肉体を乗っ取るという手段は取らない。

 何故ならば、灰の魔剣が主と認めているのは現人神(あらひとがみ)のみ。それ以外の適合者など塵芥(ちりあくた)でしかないからだ。


 事実、灰の魔剣は己に触れた適合者へ自身の異能を発動し、意識や思考を逸らして二度と触れさせないようにしていた。

 誰かに使われる気など毛頭ない。本来なら無礼には殺しで応えるが、足が付くため忘れてもらおう、と。

 強烈な拒絶の態度を取り続けて数百年、幾星霜が経過……外界が紛争、抗争、内乱、大神災(おかみのわざわい)による疫病など。

 様々な混乱で人々が右往左往している様を感知していながらも、我関せずと静観を貫いていた灰の魔剣の下へ、一人の男がやってきた。


「偉大なる始祖に次ぐ担い手を待つ者よ」


 彼の者は王家の中でも特に“始源(しげん)円輪(えんりん)”に対する信心が深い、現代の若き国王。

 神話と神器にまつわる逸話か意思があると仮定した上で、主従の如き態度を示す彼は、宝物庫で保管されている灰の魔剣に膝をつく。


「此度の大霊桜(だいれいおう)における祭事にて、貴方様の威光を、矮小なる我らに示していただきたく……許しを()う為に参りました」


 灰の魔剣は応えない。

 適合者でもない凡夫に応える気概も無ければ、口出ししたところで更なる面倒事をもたらすのみ。


「凄まじくも恐ろしい厄災を乗り越えた我らは、未だ光明の差さぬ道を進んでおります。不安に胸中を埋め尽くす国民が溢れている……王家の導きで明かりを(かざ)そうとも、弱き灯りでは照らし切れぬのです」


 時代に揉まれ、されど流されることなく。


「どうか、なにとぞ……貴方様の御身を(もっ)てして、日輪の国(アマテラス)を再び太平の灯火で照らしていただきたい」


 畏敬、尊敬、崇拝を浴びているだけの灰の魔剣はされるがままに。

 コクウ家の寺社、(まつ)られた大霊桜(だいれいおう)の膝元に置かれ、国民のみならず多くの参列者から羨望の眼差しを受ける──はずだった。


 マガツヒの構成員、及び首魁であるシラビが引き起こした克至病(こくしびょう)の騒動は、祭事を満喫せんとする者たちを恐怖と騒乱の渦に陥れることに。

 爆心地たるコクウ家の寺社も例に(たが)わず。

 姿を変えて暴れ回るシラビと対処に当たる四季家当たち、オキナの戦闘を、灰の魔剣は眺めていた。


 受けるべきだった賛美は恐慌に呑まれ、誰もが“始源(しげん)円輪(えんりん)”を気に掛ける余裕などない。

 世界に穴でも空いてしまったかのように、忘れられてしまった。

 所詮、人の世など容易く壊れてしまうモノ。付随する自身も同じことか……嘆きや諦めに似た思いを抱く中、突如として現れた人間がいた。


 クロトだ。彼は寺社に到着してからというものの、たびたび灰の魔剣を視界に入れていた。

 そもそもクロト、引いてはアカツキ荘の目的はカラミティより先んじて魔剣の所在を調査、もしくは接触すること。少し歩けば届きそうな距離に、本懐を達成できる対象がいるのだ。


 気もそぞろになるのは仕方ないとはいえ、シラビとの戦闘中でありながらも意識が分散してしまい、思考の隙間を突かれてしまう結果に。

 善戦虚しく、程なくして展示されている祭壇に叩き込まれる羽目になったのだ。

 ……怪我の功名ともいえるが、偶然の出会いである前兆の高揚を、灰の魔剣に宿る意思は考えずにいられなかった。


 ◆◇◆◇◆


 魔剣特有の幾何学模様が広がる精神空間。

 名は体を表すかの如く、黒でもなければ白でもない、文字の各所が灰色で(ふち)取られた世界が地平の彼方まで続いている。


『フハハハッ……よくぞここまで参られた。貴様がオレを幾度となく視界に入れていたことには気づいていたぞ』


 灰の魔剣は、背後に感じる闖入者(ちんにゅうしゃ)のクロトへ語り掛ける。


『オレの領域に踏み入るなんて、アイツ以来いなかった……普段なら無礼打ちの手を下すところだが、今日のオレは気分が良い。許してやる』


 荘厳な口調とは裏腹に幼子を思わせる声音で、喜色満面そうな声が響く。


『興味があるんだろう? 建国の礎……現人神(あらひとがみ)が所持していた神器。俗物の手には余る貴重な品だ。事故とはいえ、こうして精神空間に入り込んできた辺り魔剣であることも知っていたか?』


 灰の魔剣に委縮しているのか、クロトは身動き出来ずにいるようだ。

 威厳を保つ為にか、灰の魔剣は後ろを見ずに口を開く。


『面白い道化と、児戯にも等しい技巧を見せてくれた礼に一つだけ、願いを聞いてやらんこともない。……オレの力を求めるか? それで日輪の国(アマテラス)に広がる疫病の被害を食い止めるか? もしくは暴徒と化したマガツヒの連中を根切りにでもするか? 気に食わん返答なら切り捨て、貴様に対する興味も失ってしまうかもしれんが、どうする?』


 クロトは熟考しているのか何も口にせず、代わりに金属音が響いてきた。

 何やら動いているようだが、灰の魔剣はあえて気づかないフリをして、余裕を持っているように見せていた。


『さあ、さっさと答えを言え。オレの機嫌が変わらん内にはや──』


 その行動が、(あだ)となった。


「ごめん! メンヘラ構ってちゃんみたいな言動しか出来ないお前の相手をしてる場合じゃないから、また今度な!」

『は?』


 失礼極まりない言動だが、平常運転でもある言葉の後に。

 思わず振り向いた先で背中に緑の魔剣、紫の魔剣を浮かばせた上で。

 紅の魔剣、レオを大きく振り被ったクロトの姿を目視して……直後に全身を襲う、超質量の鉄塊に叩き伏せられることになった。

という訳で、クロトが祭壇にぶち込まれた後、どさくさにまぎれて何をしていたかについてでした。


次回、切り札とは常に一手、二手、三手と講じておくべきなカグヤとの連携戦闘のお話。

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