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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第一六三話 詳しい話は昼餉の時に

データが飛んで泣く泣く一から書き直したお話。

 コクウ家の二人によって、穏便な話し合いが出来る場ではなくなった、と。暗に口に出さずとも、そう言いたげなオキナさんの一声で四季家会合は解散となった。

 文句でも言いたいのか。マチさんを背負いながらも横目で流し見てきたシュカさんを睨み返して。

 彼は苛つきを隠さず、舌打ちをこぼして時季(じき)御殿(ごてん)を出ていった。はあぁぁ一切反省の色が見られないですねぇ……中指立てたっていいんだぞぉ。


 対して他の三家からは好感を得られたらしく、ムナビ家のシモツさんによくやったと肩を叩かれた。

 普段の会合でもコクウ家の者はあの調子で、他の四季家はおろかシノノメ家、果てには王家から何度言及されても直さないので辟易(へきえき)していた、と。

 一度痛い目を見るべきだと思っていたが、その役目を俺が取ってしまったようだ。


 豪快に笑いながら去っていくムナビ家に続き、クレシ家のビワさんがキリさんを(ともな)い頭を下げてきた。

 試すような物言いと見下していた態度を謝罪され、そして弓の名手であることを見抜いた慧眼に感服したそうだ。

 他の四季家と違って打ち合いを本分とする武具でない為、どこか負い目を感じていた。クレシ家自体、女所帯であることも災いして、修練は欠かさずとも下に見られるという事例は少なくない。

 その上でまっすぐに事実を評価した俺を見直してくれたようだ。


 今回はフヅキ家に譲るが、何かあれば力になれるかもしれない。その時はクレシ家を訪問しろ、とありがたいお言葉を残してクレシ家の二人も退散した。

 無作法の極みでしかないと思っていたが、コクウ家以外からは好感触を得られたんだな。それぞれの格を落とさない言い回しと擁護に気を使った甲斐があったかもしれない。

 何はともあれ……預かってもらっている身分でとんでもないことを仕出かした誠意を見せなくては。


「オキナさん、勝手なことを言って会合の場を荒らしてすみませんでした……!」


 座布団を片付け、近づいてきた彼に。

 人が少なくなった時季(じき)御殿(ごてん)で土下座を披露するのだった。


 ◆◇◆◇◆


「いやはや、会合の場で見せたアカツキ荘の大立ち回り! 良きものを見させてもらった!」

「オキナ氏が賞賛する観察眼に、仲間との言葉少なに意思を(かよ)わせた連携っ。クロト自身も凄まじく練達した武術の腕前を持つと察せられる気配……四季家の者として、未だ力不足であると痛感させられたっ。願わくば手合わせ願いたいものだっ」


 快活、熱血、ハキハキと。四季家会合での出来事を振り返るフヅキ家の二人に連れられて、オキナさん、アカツキ荘の皆でやってきたのは日輪の国(アマテラス)ヒバリヂの東側。

 フヅキ家の領地であるここは霊桜(れいおう)を用いた工芸品や、近隣の迷宮から産出される珪砂(けいしゃ)を使った硝子(がらす)細工が特産品として有名らしく、街中がとても(いろど)り豊か。


 中でも日和切子(ひよりきりこ)と呼ばれる特殊な硝子製品は、周囲や触れた物の温度、角度によって都度色味が変化するという品で、その特性と珍しさから土産物の中でも特に人気と聞いた。

 親方への土産に和酒(わしゅ)日和切子(ひよりきりこ)の組み合わせはアリか……?

 道すがら立ち寄らせてもらった土産物屋さんで、徳利とお猪口のセット品を手に持ち、眺めて、金額が書かれた名札を見て…………そっと元の位置に戻した。


「どうした?」

「……」


 訪ねてきたセリスに無言で名札を指差す。彼女もまた、俺と同じように絶句して、一緒に近くの商品棚から距離を取った。

 五十万はちょっと手が出せない。一般流通している物は価格が抑えられているようだが難しいです……


 神妙な面持ちのまま店を出て、歩くこと数分。

 辿り着いた先はフヅキ家領地で有名だという食事処“宵宮(よいみや)”。

 ホフミさんとフミヒラさんが愛用している大衆食堂で、地元の特徴的な料理を楽しみながら大霊桜(だいれいおう)の祭りと神器展覧会について話し合おう、と提案された場所でもある。


 既に大繁盛しているようで、店内からの騒がしい声が外まで響いてきていた。ホフミさんはいつもの手癖か、店名が書かれた暖簾をどけて引き戸を開ける。

 ぞろぞろと中に入るのは、なんだか忍びないが……嗅覚を刺激する油と覚えのある香りにハッとし、フミヒラさん、オキナさんに続いて店内へ。


 事前に通達していたのか、従業員から席の案内を受けるホフミさんを横目に、食事中の方々を凝視。

 彼らが食べている物は、間違いない……お、お好み焼きだ……!


 作ろうと思えばアカツキ荘でも作れたが、肝心なお好み焼き用のソースが錬金術でも作成できず。アカツキ荘の皆に内緒で作った時にコレジャナイ、と嘆き悲しんだ。

 いつも口にしていたのは企業努力の塊だったんだな、と感じたのは記憶に新しい。

 だが、確かに鼻腔を刺激する香りは、ソースだ。あるのか、日輪の国(アマテラス)にはソースが!


 ソワソワしてきた身体の震えを抑えつつ“宵宮(よいみや)”の奥にある、大人数用の座敷へ。

 途中、通りがかった顔見知りなお客さん達に、フヅキ家の二人は挨拶を交わしていきながら。座敷の上座にフヅキ家とシノノメ家、下座にアカツキ荘と腰を下ろす。

 横に長いテーブルに囲われたように、中央に設置された大きな鉄板へ期待を膨らませて。


「では、料理の準備が出来るまでの間に! 大霊桜(だいれいおう)・神器展覧会の祭事について! 語らせてもらおう!」


 すっかり忘れかけていた本題をホフミさんが提起してくれた。


 ◆◇◆◇◆


「まず第一に! 今回の祭事の起点はコクウ家の領地から始まっていく! フヅキ家、ムナビ家、クレシ家の順番だな! 大神災(おおかみのわざわい)から十年が経った節目の年である為、原点回帰も込めての春夏秋冬の並びで実施する手筈となった!」

「例年通りであればフヅキ家が一番手だったのだが特にこだわりは無いっ。だが、今年は神器の展覧が祭事に含まれるということでコクウ家は酷く緊張している……その心労、想像に(かた)くないっ」

「故に! 時季(じき)御殿(ごてん)での彼らの振る舞いは、不慮の要素を持ち込まんとする防衛反応だと思ってほしい! 決して正当化されるものでは無いが、再三に渡ってご了承いただきたい!」

「いえ、そんなお気になさらず……」


 真面目に腹を割って話そうという気概をヒシヒシと感じるフヅキ家の謝罪を受け取る。


「しかし、君の慧眼には何度も驚かされるな。各四季家の武具はともかく、出身地にまでアタリをつけているとは思わなかったぞ。地域の特色は、ギルドの資料館で調べたのか?」


 こういった二人の言動は通常運行らしく、オキナさんはまるで気にせず、会話を繋いだ。


日輪の国(アマテラス)行きの魔導列車の中で、大まかな概要をカグヤに教えてもらっていたんです。そこから衣服だったり人間性の特徴だったりを示し合わせて、大体こうかな? と」

「お前、よく覚えてたなぁ。アタシ、四地域の名前ぐらいしか記憶にねぇぞ」

「それはさすがにどうかと思うぜ……」


 ポヤンとした表情のセリスにエリックが苦言を漏らす。

 覚えた先から古い記憶をゴミ箱に投げ捨ててそうだしな……


「君の考察していた通り! コクウ家は実力主義な風潮を(たっと)ぶイナサギから、シナトヤ側の手引きでヒバリヂに居を構えた家系だ! 外部の人間に厳しい態度なのも、そこが由来だ!」

「だが彼らもヒバリヂ、ひいては四地域に馴染もうと努力してきたっ。イナサギの狩猟民族が用いる剛弓から長物へと獲物を変え、修練を積み、今日に至るまで護国繁栄に勤しんできた由緒正しき血筋っ」

「ただし遠慮の無い言い分と強硬な態度が民衆に不安を与える恐れがあるのも事実! そうなる前に四季家会合を解散させたのは、ひとえにシノノメ家のオキナが誇る判断力の妙といえよう!」

「あまり持ち上げるな。こそばゆいし、いかにシュカといえど事情を伝えれば理解してくれると、タカを(くく)っていた私の落ち度でもある。むしろクロトにあれだけの事を言わせた事実に反省したいところだ」


 オキナさんにしては親しげな口調で恥ずかしがり、ホフミさんを手で制す。


「それで、大霊桜(だいれいおう)・神器展覧会の件について……本当によろしいのですか? 依頼という形で警備を任せてもらうのは、こちらとしても大変ありがたいのですが」


 シルフィ先生が改めて、本題について口を出した。

 国外遠征、及び特待生依頼として他国での実績づくり。

 暫定魔剣候補な建国者の神器が本当に魔剣かを確認する。

 どっちもやらなくちゃいけないのがツラいところだが、二つの目的が叶うかもしれない、一挙両得な嬉しい申し出だ。断る理由などこちらにはない。

 先生の不安げな物言いにホフミさんは景気よく頷いた。


「もちろんだ! 大霊桜(だいれいおう)と神器を置く寺社はコクウ家で人員を固める予定! だが、近隣施設への対応や危険物の見回り、巡回警備には護心組(ごしんぐみ)の他、各四季家から子息、息女と数十名の門下生を派遣する! そしてコクウ家の者が不安がる事態を考慮し、此度(こたび)アカツキ荘には我が息子フミヒラと行動を共にしていただきたい!」

「オキナ氏による意見を取り入れて、アカツキ荘の全員をばらけさせるのではなく、まとめておくことにしたっ。不慣れな君達を支援する役目として、(つつし)んで拝命させてもらうっ」

『ありがとうございます!』


 話と決断の早いフヅキ家のおかげで、目的は達成できそうだ。

 アカツキ荘の皆で礼を言うが、フミヒラさんは気にしていないようだ。


「いや、君達と祭事へ関われるのが実に楽しみだっ。何事も起きなければ御の字だが、不測の事態を考えないで行動するなど見積もりが甘いからなっ。オキナ氏が認めた実力を存分に発揮してくれっ!」

「高く買ってもらってるなぁ……ちなみに、祭事はいつから始まるんですか?」

「五日後だ!」

「結構直近だな。そりゃあコクウ家もピリピリする訳だ」

「そんな所にシノノメ家公認とはいえ、訳分からん連中が来たら……予定が狂うし、嫌だろうねぇ」

「だからってユキに武器を向けたのは許さないよ。即座に仕返ししてもらったけど」

「問答無用で指示を出してましたね……刃の部分を掴んでましたが、怪我してませんよね? ユキ」

「うん! 全然だいじょうぶ! 切れてないよ!」

「うーん、相変わらずクロトさんに似て肉体強度が高い……」


 カグヤとユキ、先生の会話で密かに人外扱いされてる気がする。

 さすがに俺でも素手で刃物を握ったら切れるよ。切れないようには掴めるけど。

 そうこうしている内に“宵宮(よいみや)”の従業員たちが座敷の(ふすま)を開き、料理を運んできた。

 正確に言えば、お盆に載せられてやってきたのは漆塗りの器にいくつかの具材が投入されている物。

 続々とテーブルに並ぶ器、薄く切られた肉類、海鮮、黒くトロッとした水気のある液体……お好み焼きのセットが用意される。

 最後にテーブルの端にあるつまみを弄ってから、従業員たちは去っていった。間もなくして、鉄板から熱が発せられる。


「少しばかり早いが、昼食としようか!」

「我が領地発祥とされる鉄板焼きっ。ぜひご賞味いただきたいっ」

「作り方は分かるか? 器の具材を混ぜ合わせ、油を伸ばした鉄板の上に流し、火が通ったら裏返す。それを何度か繰り返して、最後にオタフクの液体をかけて食べるんだ」

「んぶっふ」


 説明してくれたオキナさんには悪いが、思わず吹き出してしまった。


「だいじょうぶ? にぃに」

「なんでもない、なんでもないんだ。ただちょっと、美味しそうだなと思って」


 あと、単純にそのまますぎる名前が出てきて驚いた。


「自分で調理して食えんのか。こりゃおもしれぇな! アタシでも出来る気がする!」

「小麦粉を出汁かなんかで溶かしてあるんだな……良い匂いがする」

「もしかして、先にお肉を焼いてから、その上に乗せるという方法でもよろしいのでしょうか?」

「うむっ。というより、鉄板焼きは各々が用意した具材を好きな形で食べられるよう広まった食文化とされるっ。組み合わせは自由自在っ。奇抜な具材でもない限り、美味しく頂けるだろうっ」

「面白そう……! ひっくり返すの、ユキがやる!」

「いいよ。何事も挑戦だ」

「頑張ってくださいね、ユキ」


 やる気満々なユキの為に器の中身を混ぜ合わせ、鉄板の上に。

 小気味よい油の跳ねる音を聞き流しながら、回してもらった鉄ベラで成形。

 裏面に火が通ってきたのを確認してからユキに鉄ベラを手渡す。慎重に差し込んで、くるりっ、と。宙を一回転してから再び鉄板に落ちる。

 得意げに鼻を鳴らすユキを(なら)って、全員がどんどん鉄板焼きを作っていく。

 切り分けられた鉄板焼きを各々の皿に乗せて、オタフクを掛けたら……完成だ! うーん、いい匂い!


「それじゃ、いただきます!」

『いただきます!』


 音頭を取るつもりは微塵もなかったが、待ちきれずに出た俺の声に続いて。

 “宵宮(よいみや)”の座敷に居た全員が箸を手に取り、一斉に鉄板焼きへかぶりついた。

ようやく日輪の国の前半部中盤に差し掛かってきました。ここから、色々と伏線張っていきます。


次回、フヅキ家の領地にある大霊桜を観賞しに行き、大神災で何が起きたかを知るお話。

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