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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第一五八話 観光、のちに道場送り

異国の観光と新たな気づき、そして戦闘シーンへ続くお話。

「いやぁ、意図せず質の良い鉱石を手に入れてしまった。しかも純度の高い物ばかり……どこかで鍛冶場を借りれないかなぁ」

「出先でも何か作るつもりか? そういや錬金術が使える場所も確保しておきたいんだったな。さすがにシノノメ家に錬金術やら鍛冶の設備は無いよな?」

「残念ながら。有っても砥石や油拭きなどの細々とした物ぐらいでしょうか。炊事場で後片付けをしっかりしてもらえるなら、錬金術で物づくりしても問題ないと思います」

「鍛冶場ねぇ……その辺の鍛冶屋に殴り込んで場所を貸してくれ! って頼むとか?」

「殴り込む必要ある? 素直に頭を下げよう?」


「にぃに、地図のここ、きょうようの鍛冶場って書いてあるよ」

「きょうよう……あっ、共用の鍛冶場? ニルヴァーナにも学園の備品を作る場所があったけど、日輪の国(アマテラス)にもあるんだ……って規模がでけぇ!?」

「うわ、マジだ。学園のグラウンド並みにデカくね? 詳細も書いてあるな……申請書類さえ提出すれば誰でも使用可能で、冒険者ギルドで買い取られた素材が送られて武具の開発に使われたり、新人鍛冶師の育成として役立てられてる場所って訳か」

「観光名所でもあるってよ。円形の施設で中央に常に稼働し続ける大火釜の炉があって、火力を維持する為に大人数で踏む、巨大踏鞴(たたら)によって煌々と火が噴き出している。……壮観だとは思うが、暑そうじゃないかい?」

「アカツキ荘の地下工房ですら、換気をしっかりしてても汗だくになるからね」


「あまり馴染みの無い施設でしたから、つい記憶から抜け落ちていました。……ですが、鍛冶が出来る場所を知れてよかったですね」

「ふっふーん……これで時間が空いた時にでも、セリスのスペアになる武器が作れるぞぉ!」

「おっ、マジで? じゃあさ、さっきの店で見た十字架みてぇなのを頼むぜ。穂先が三つに割れてるヤツ。アレなら御旗(みはた)槍斧(そうふ)と違って、(から)め手を組み込んで振り回せそうだ」

「十字槍だね? わかった」

「槍で搦め手ってなんだ……? 俺の想像力が足りてないだけか?」


「にぃに、ユキもお願いしていい?」

「あら珍しい。どんなのがいいの?」

「あのね、パンチだけじゃなくてキックもやりたいんだけど、ぐそく? みたいなので足を守りたい! かっこいいの、作れる?」

「なるほど、エンハンスグラブはあくまで手元の範囲を硬質化させてるだけだからね。それ以外の部分はユキの肉体強度に依存してるし、ズボンの(すそ)から毒が回っていつの間にか……って事例もある。制服だけじゃ保護しきれない部分もカバーできるし、ブーツかグリーヴ、脛当(すねあ)てとかなら用意できると思うよ。期待してて」

「ほんと!? やったーっ!」


「カグヤはどうする? 何か不足気味な部分とかある?」

「私もですか?」

「この際、皆の要望を聞いておこうかなって」

「ふぅむ、悩みますね…………でしたら服の袖で隠せる籠手のような物を頂けますか? 今まであまり気に掛けることは無かったのですが、不測の事態は起こり得るもの。“菊姫”を万全な状態で振るう為に前腕部だけでも保護したいのです」

「そっか。カグヤの場合、負傷してると自分のスキルで傷口を悪化させる恐れがあるもんね。ポーションで治すくらいなら、そうならないように対策した方が確実か。鎖帷子(くさりかたびら)みたいな感じで、柔軟かつ軽量化した物なら良い具合かな?」

「はい。ですが急ぎではありませんので、無理はなさらぬようにお願いします」


「もちろん。ってか、色々と見て回ってたらもう四時半じゃん」

「こっからカグヤの家に帰るまで結構距離あるし、今日はやめとくか」

「続きはまたこんど、だね!」

「では帰りましょうか」


「…………え? 俺の要望は聞かねぇの?」

「スキルの影響で生身でもクソ頑丈な上に《スクレップ》と《イグニート・ディバイン》だってあるのに、これ以上何を望むというのかね」

「聞く気ねぇのかよ!? いや、何も困っちゃいねぇけどよ!」

「少なくとも現段階でエリックの性能に追従できる新しい装備は製作できないよ。原案はあるけど素材が無いからね」

「ええ、マジかよ……」

「悪いね、気長に待ってて」

「はあ……まあ、事情があんならしょうがねぇか。せめて《スクレップ》のルーン文字付与(エンチャント)の刻み直しは頼むぜ。有るのと無いのとじゃ、まるで性能が違うからな」

「任せてよ」


 ◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドから土地勘を鍛えるべく、実施していた散策観光を終えて。

 夕焼けに染まりだした空の下。日中、辺りから響いてきた金槌の音も鳴りを潜め、帰路につく住民とすれ違いながらも四季家通りを歩く。

 昼から巻物で調べ物して、ギルドに協賛している商会の店やら素材類の確認をしていたら、すっかりこんな時間だ。

 地図で見る以上に日輪の国(アマテラス)、というかヒバリヂは主要施設間の間隔が開いてて移動時間が長くなっちゃうなぁ……


「今度からニルヴァーナみたいに屋根上を跳んで移動すれば、目的地到着まで時間を短縮できるかな」

「お前、自警団にすら誰かにマネされて怪我したら困るから、出来ればやめてくれって言われてんのに他所(よそ)でも同じことするつもりか? 警備組織に捕まっても言い逃れできねぇぞ」

「大人しく整備された道を歩きます」

「変なのに目ぇつけられたくねぇしなぁ……そういや今更だが、ここのは自警団なんて言わねぇよな? なんて言うんだい?」

「四季家や他の名家、一般人からも起用と多岐に渡る人員で構成されている、日輪の国(アマテラス)行政機関の一つ──名を護心組(ごしんぐみ)と呼びます」

「ごしんぐみ? 自警団とはちがうの?」

「大体の業務内容は変わりませんね。ただ、普段は“焔山(ほむらやま)”の警護を請け負っていて、大霊桜(だいれいおう)の奉納演舞や他の行事では人員を結集し警備に当たることもあります。それでも人手が足りない時は、ギルドで臨時の人員を募集しているそうですよ。もちろん、審査は厳しいようですが」

「自警団より厳格っぽいね……」


 住民との距離が近いエルノールさんたちとは勝手が違いそうだ。セリスが言っていた通り、目を付けられないようにしないとな。

 そうこうしている内にシノノメ家の正面へ繋がる階段に到達。石造りの灯篭は内に保管されている結晶灯の淡い光で、階段脇に咲く花々と足下を照らし始めている。


『……うーん、シノノメ家に近づいてきたら、また視線を感じるようになってきた。ほんとになんなんだろう?』

『このまま無視し続けても埒が明かない。いっそのことカグヤに聞いてみてはどうだ? 何か分かるかもしれないぞ』

『その方が手っ取り早いかぁ』

「クロトさん? どうかしました?」


 ゴートとの会話に集中していて、階段の途中で立ち止まっていたらカグヤに心配された。

 既にエリック達は観光中に購入した荷物を持って楼門(ろうもん)まで登り切っている。取り残されないように待っていてくれたのだろう。


「午前中、初めて来た時にも感じてたんだけど、何人かに見られてるような気がするんだ。場所はいまいち特定できないんだけど、漠然と感じる……心当たりない?」

「視線、複数人…………なるほど、お父さまは意地が悪い。いえ、心配していたんですね」


 あれ? 言われるまで気づいてなかったみたいだけど、何やら訳知りな雰囲気。というか、俺の勘違いではなかったんだ、

 一安心していたのも束の間、カグヤは周囲をぐるりと見渡してから──パンッ、と。風で揺れる竹林のざわめきを上回る柏手(かしわで)が響き渡った。

 唐突に、しかし何か合図のようなものだったのか。柏手(かしわで)の後に、突き刺さるような視線が一斉に途切れた。


「申し訳ありません、恐らくお父さま直属の影の者でしょう。始めは私の帰還を察知して行動を起こし、それからクロトさん達を見守るようお父さまから指示され、不慣れな所があれば補助できるように潜んでいたのかと」

「オキナさんに挨拶した時、何かと目線だけ動かしてたのはそういうことか。影の者……忍者、シノビみたいな?」


 再び階段を上り始める最中、カグヤに問い掛ける。


「クロトさんの地元にも過去に似たような役職があったんでしたね、その認識で間違っていませんよ。ですが主目的は住民の目に触れることなく、日輪の国(アマテラス)の障害となる物・人・事象に対し、調査及び排除を執行する機関です」

「ははぁ……さては表立って動くのが護心組(ごしんぐみ)で、裏側で活動するのが影の者ってことか」

「その性質上、隠密や隠蔽能力に長けており、腕が錆びぬように訓練を積んでいるのですが……よく気づきましたね?」

「昔からの癖で慣れちゃってるんだ。……なんかダメだったかな?」

「大丈夫ですよ。むしろ興味を持たれるかもしれませんね。お父さま直属の者たちは誰もが熟練なので、誰にも気取られることなく任務を遂行できることだって可能です。そんな者たちの気配を探り、あえて踊らせていたのですから」


 そんな意図があった訳ではないが、カグヤは面白そうに言ってのける。口振りから察するに、影の者たちとシノノメ家は相互関係にあるらしい。

 彼女か、もしくはオキナさんの口利きがあれば、重要目標である日輪の国(アマテラス)の魔剣に繋がる情報が得られるかも……?

 でも、影の者が忍者道具を駆使するのかは分からないし、その起源を易々と教えるはずがないし……難しいか。

 考え込んでいる内に楼門から玄関に入る。夕食の準備をしている為か出迎えは無く、屋敷内が少々騒がしい。その様子を見ていたエリック達が俺とカグヤの方に振り返る。


「おっ、来たか。さっき使用人さんから言伝(ことづて)を貰ってな、夕食の用意が出来たら呼びに行くから、部屋で待っててほしいってよ」

「既に先生も帰ってきて部屋で書類整理してるらしい。荷物整理もしなきゃいけねぇし、ちょっと休ませてもらおうぜ」

「それじゃあ夕食の時間にまた会うってことで」


 予定が決まったのでカグヤ達と別れて男子部屋に向かう。一度通っただけだが、意外にも迷うことなく辿り着けた。

 武器を置いて、購入した鉱石や素材をバックパックに詰めてから、観光中に考案していた武具の図形をエリックと相談。

 技術と技量、想像を元に形作られていく図案を書き込んでいると軽く(ふすま)を叩かれた。

 夕食の時間かな? と思い応えたら、開かれた(ふすま)の前に居たのは屈強な肉体に道着を纏う門下生の一人だった。


「お休みのところすみません。ご当主がクロト様をお呼びです。ご同行願えますか?」

「あれま、俺だけ?」

「なんかやらかしたか?」

「開口一番で疑いの目を向けるんじゃあないっ、何もしとらんわ! まあ、とりあえず行ってみるよ」

「では、こちらに」


 促すように廊下の先へ手を差し伸べられ、部屋を出てついていく。

 無言のまま歩き続ける廊下は結晶灯が点灯し、昼間と変わらない明るさを維持している。


『……うーん、気のせいであればいいんだけど』

『む? 何か懸念があるのか?』

『いや、目の前を歩いてる人が昼間に見たことが無い人だっていうのは、まあ納得できるんだ。門下生の数は多そうだし、挨拶の場に居たのが全員とも限らないから。でも、この人──足音が全くしないんだよね』

『足音がしない? え、幽霊ですか……?』

『もしそうだったら俺はもう気絶してるよ』

『現実的に考えるべきだ。木張りの廊下であれば体重が掛かると(きし)むか、板同士が(こす)れるはずでは?』

(うぐいす)張りに近いのか、音が鳴る設計だとは思う。実際、俺も鳴らしてるから……だけど、たとえ()り足でも限度はある。この人は……きっと、影の者の一人だ』


 思い至った考えをレオ達と共有。

 同行者と二人で夕陽に照らされた庭を望める縁側から、目的地であろう別邸のような建物へ繋がる渡り廊下を通っている。

 当然、先導者の足音はせず無言である。怖い。


『影の者、か。カグヤが監視を止めたことで何か不手際が生じ、苦言を(てい)すためにクロトを呼び出したか?』

『正直、憶測と予想でしかないから何とも言えないよ』

『カグヤの言葉を信じるなら、シノノメ家と影の者を統括する機関は協力関係にあるのだろう? その客人に手荒な真似はしないと思うが』

『どの道、本当にご当主であるオキナさんからの呼び出しか、そうでなくとも待っている相手に真意は問えるのでは?』

『何が起きるか定かでないにしろ、覚悟しておくかぁ』


 そうして会話している内に辿り着いた目的地の前で、暫定影の者たる門下生が(ふすま)を開く。

 横にも縦にも長い空間だ。しかし室内は等間隔の結晶灯に、格子の付いた窓から日差しが差し込んでいて暗くは無い。

 だが、両側に掛けられた多様な木製の武具が何より目を惹く。槍や弓、木剣に木刀……ここはシノノメ家の門下性が技を鍛える道場のようだ。


 次いで中心部に座して待つオキナさんに視線が移る。呼び出しは事実だったんだな……と、案内してくれた門下生に礼を伝えようとしたが、いつの間にやら影も形も残っていなかった。怖い。

 仕方なく(ふすま)を閉じて近づく。すると、手元に置いていた二本の木刀を持って、オキナさんは立ち上がった。


「急な呼び立てで申し訳ない。カグヤの総評と、影の者たちから聞いた内容に相違が無いか、やはり自分の目で確かめねば気が済まなくてな」

「あー、やっぱり報告が届いて……というか監視されてたんですね」

「悪いとは思っている。だが、シノノメ家の者として害ある可能性があるならば疑わねばならない。たとえそれが娘のご学友だとしても、娘の不興を買ったとしても、だ」

「気持ちは分かりますよ。むしろ誰彼構わず受け入れては、されるがままに国の不利益に直結するかもしれない。表面上はともかく、まずは疑って掛からないと国として成り立ちませんからね。外交手段の一環だと思っておきます」

「……やはり君は(さと)いな。潜伏していた影の者たちが賞賛していたのも頷ける」


 だが、と──持っていた木刀の一振り、その柄を差し出される。


「その見識、思考、実力。どのようにして身に着けたのか、私に見せてはくれないか」

「刃を交わして、ですか?」

「若く才のあるカグヤほどとは言わんが、これでもシノノメ家の現当主。互いに得られるモノがあり、無意味な仕合(しあい)にはならないと保証しよう」

「……それでオキナさんが納得できるなら、応えますよ。出来れば夕飯まで間に合うようにやりましょうか。仲間も、特にカグヤが心配するかもしれませんし」

「ははっ! 了承した。では、速やかに始めるとしよう」


 快活そうな笑みを浮かべたオキナさんと距離を空ける。五メートルほど離れた位置で向き合い、それぞれ木刀を構えた。

 ……皆まで言わなくても理解できる。口では謙遜しているが、オキナさんは確実に、この家で最も強いのだと。

 カグヤにも言えることだが舞踊剣術の本家、その筆頭だ。

 舐めて掛かればやられるのは必定。全力で対応しなくては無作法というもの。


「シノノメ流舞踊剣術師範、シノノメ・オキナ」

「暁流練武術、アカツキ・クロト」


 示し合わせ、流れるように名乗りを上げて。


「「──参るッ!」」


 力強く踏み込み、振り切った木刀が鈍い音を鳴らした。

ずっと地域説明ばかりでは飽きが来てしまうということで、戦闘描写を挟むことにします。


次回、シノノメ家当主との仕合、激闘、カグヤにバレて説教に繋がるお話。

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