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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第一五三話 楽しい長期休暇の始まりだぁ!

日輪の国へ出発するまでの日常描写なお話。

 終業式から翌日。夏季休暇、一日目。

 特待生依頼として日輪の国(アマテラス)の地へ足を踏み入れる為に、俺たちはアカツキ荘総出で準備を進めていた。

 どれだけの期間が掛かるか不明だが、着替えに日用品、武具の手入れに必要な道具類、携帯錬金術セット……と必要そうな物をバックパックに詰めていく。


 ついでに親方やオルレスさん、エルノールさんにシュメルさんなど。知人にニルヴァーナをしばらく離れる(むね)をメッセージで伝えた。お土産、ちゃんと買ってこないとな。

 なお、メッセージの返信は大体が“怪我や病気に気を付けるように”と優しい始まり方だったが、最後の辺りで“問題を起こすなよ”と忠告するような文言に変わっていった。まるで俺をトラブル収集器みたいに言いやがる。


 失礼しちゃうぜ、と頬を膨らませながら魔道冷蔵庫の扉を開く。

 一応、アカツキ荘の様子は学園長とシエラさんが定期的に見てくれるそうだが、冷蔵庫の中身は出来るだけ軽くしておきたい。

 日輪の国(アマテラス)から帰ってきたら異臭を放っていたとか考えたくもないし、出立前の晩餐として豪勢にいこう。


 しかし一人でこの量は厳しいか……エリックとセリス、ユキは旅先で必要になりそうな消耗品を買いに行っていて、まだ帰ってきていない。

 朝から夕方まで大忙しだったし、皆には美味しい物を食べてもらいたいから、どうにか間に合わせたいが。

 顎に手を当てて悩んでいたら、事情を察してくれたカグヤが手伝うと進言してくれた。実に優しい。

 二人で早速、冷蔵庫の痛みやすそうな食材から調理していく。


「今回の宿の件なんだけど、提案してくれてありがとうね、カグヤ」

「いえ、お気になさらず。前々から皆さんの事は手紙にしたためていて、何度かお父さまから詳細を尋ねられていたのです。以前に帰省したのは春休みで……そこから三ヶ月ほどで新しい友人が増えたんだな、と。夏季休暇も合わさり、皆さんを紹介するには丁度良い機会だと思ったんですよ」

「だから円滑に話が進んだってことか。本当に、感謝してもし切れないな」


 カグヤと肩を並べて料理を作るという、いつもの流れで、国外遠征における彼女の恩恵に礼を伝える。


「クロトさんのお力になれたのなら嬉しいです。……貴方と出会って、色々なことがあって……なんだか、もう何年も共に過ごしたように感じます」

「濃密な生活環境だったからね、そう思うのも無理はないよ。故郷が懐かしく感じちゃったりしない?」


 食欲をそそる香りが充満し、腹の虫を刺激。

 ヨダレを呑み込んで、次々と出来上がる料理の山をテーブルに運びながら雑談を続ける。


「なんらかの騒動を終えた後は、特に実感しますね。その(たび)に自分の糧となり、成長を感じられるので苦となるような事態には至りませんが」

「それならいいんだけど、大変なことに巻き込んでるのは変わらないからね。改めて日輪の国(アマテラス)でも、力を貸してくれるとありがたい」

「もちろんです。クロトさんの為にも頑張りますよ!」


 意気込んで頷くカグヤに笑みを返せば、玄関の方が騒がしいことに気づく。

 二人してリビングから顔を出すと、膨らんだ紙袋を抱えたエリック達が立っていた。今にもバランスを崩して倒れそうだ。

 急いで駆け寄って荷物を受け取り、リビングに運んでいく。しかし消耗品とはいえこんなに沢山買い込む必要あったか……?


「お前、向こうでカグヤの親父さんの世話になるんだからお土産は必要だろ」

「……やっべぇ、忘れてた! ありがとう、三人とも!」

「おうよ。何がいいか選んでる内にとんでもねぇ量になっちまったがな。いうて、旅先で食う為のお菓子とかも入ってっからさ」

「いっぱいあるから、好きなの選んで!」

「ありがとう、ユキ。お父さまが好みそうな物……他国の風情を(かも)し出したような、そういった物だといいかもしれません」

「ニルヴァーナっぽい何か…………迷宮野菜の乾物(かんぶつ)とか?」

「珍しいっちゃ珍しいけどよぉ」


 あーでもないこーでもないと議論を交わしながらバックパックに詰めていく。

 選び終えた頃合いでシルフィ先生と学園長が帰宅。夕食を囲み、思い思いに語り合いながら夜は更けていった。

 そうしてお風呂に入り、歯を磨き、就寝の準備を始める皆を見送って地下工房へ足を向ける。結晶灯を点けて、錬金術の設備に近づく。

 ついに明日、日輪の国(アマテラス)へ向けた魔導列車の旅が始まるのだ。そう、列車……つまりは乗り物。

 自分で操縦したり運転する分には酔わないのに、乗り物酔いが酷い俺にとっては苦しい時間となるだろう。だが、せっかくの移動時間を無駄にはしたくない。

 今こそ、以前は失敗した対策を用意する時。時間経過によって効能が霧散した安定認識薬を正しく精製するのだ!


『夜中まで籠っているとエリックがやってくるぞ』

『うっさい、分かってらぁ! 同じ(てつ)は踏まぬ! 今度こそ正常な物を作ってやる!』

『あまり熱を上げ過ぎるな。程よい時間で私たちも休もう』

『時報とかいります?』


 騒がしいレオたちの声を作業用音楽にしながら素材を錬金釜に投入し、撹拌(かくはん)していく。

 順調に形となっていく安定認識薬に確かな手応えを抱きつつ、ポーションの瓶に流し込む。

 うーむ、透明感はあるのに紫に緑に青い。ファミレスのドリンクサーバーで調子こいて色々混ぜたヤツみたいだ。

 人が飲めるとは思えん色味の薬だが、しかし鑑定は確実な成功を示唆している。ちゃんと蓋も閉めているので揮発する心配は無い。これで安心して熟睡できるというもの。

 俺はホクホクとした心持ちで自室に戻り、布団に潜り込むのだった。


 ◆◇◆◇◆


 夏季休暇、二日目。国外遠征として出立する日。

 早まった日の出と変わらない時間帯に起きた俺たちは、人気(ひとけ)の無い大通り(メインストリート)を進み、日輪の国(アマテラス)方面の駅舎に向かう。


 同じように始発列車を利用する乗客の姿が見受けられる構内にて、駅員にチケットを提示。

 確認した駅員にハサミを入れられたチケットをポケットに仕舞い、指示に従い、魔導列車の貨物車両に嵩張(かさば)る荷物を搬入。

 荷物に付けた証明用の合わせ鍵と手持ちで問題ない荷物はそのままに客車へ。


 学園長が用意してくれた車両は家族向けの仕様らしい。高級な旅客列車のような内装をしていて、向かい合わせの座席は間隔が広く、大人が三人並んでも問題ない程度には長い。

 飲食可、と書かれた張り紙を横目に。チケットで指定された席の上部の棚に荷物を置いて、窓際の席に腰を下ろす。

 対面にはユキが座り、セリス、エリック。俺の隣にはシルフィ先生、カグヤと通路側に続く。決めていた訳ではないが、自然とそういう席順になった。


 俺達の他にも利用客が車内を横断していき、割り当てられた席のあちらこちらから談笑が響く。

 同時に香辛料で味付けされた何かの匂いが鼻腔をくすぐる。恐らく、肉。

 大通り(メインストリート)の露店で買ってきたのだろうか。空腹を刺激する香りに誰もが顔を見合わせて、荷物の中から弁当箱を取り出した。


 呑気に朝ご飯を食べる暇は無かったので、魔導列車の中で食べようと考えて昨夜の内に仕込んでいた物だ。容器は出先のゴミ箱へ捨てられるように、使い捨ての物を使用している。

 それぞれが重箱並みの──先生は少し小さい──弁当を、備え付けのテーブルに広げた。


 カグヤ謹製のだし巻き玉子、鶏のから揚げ、迷宮野菜の煮物にサラダ、つやっつやの白米。

 魔物肉のローストビーフにソーントマトのソース、スクランブルエッグを挟んだサンドイッチ。レムリアで採れた新鮮な果物のデザート。

 誰がどう見たってご機嫌な中身に無言で頷き、カトラリーを……おっとその前に。


 制服の上着に備えていた安定認識薬をテーブルに乗せると、セリス以外からドン引きの視線を向けられた。まあ、見た目は毒物だから仕方ない。

 セリスからは見たことある奴だっ! と指を差されつつも蓋を開けて一息に(あお)る。うーん、すっぱい。


『クロト、朝食を取っている今の内に日輪の国(アマテラス)について理解を深めないか?』

『確かに。教科書などの紙面か、偶にカグヤの口から語られる程度しか知らないな』

『準備で多忙だったのもあって話し合う機会とか無かったですし、カグヤさんに色々聞いてみません?』

『畳みかけてくるねぇ。けれど、言い分はよく分かる。うーむ……魔科の国(グリモワール)に行った時もエリックに教えてもらったし、雑談してみるかぁ』


 気を取り直して各々(おのおの)が弁当に手をつけて、舌鼓を打っていく中。

 脳内でレオ達に(うなが)され、カグヤへ詳しい話を聞いてみることにした。

話と話の繋ぎみたいな感じで、次話から日輪の国関連の情報を出していきます。


次回、日輪の国が誇る特徴的な部分を聞いていくお話。

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