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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【七ノ章】日輪が示す道の先に
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第一五二話 一学期の終わりから

新章を始める時のわちゃわちゃとしたイベントの雰囲気が楽しいです。

 燦々(さんさん)と輝く太陽の下、午前十二時を回った頃。

 魔科の国(グリモワール)日輪の国(アマテラス)、グランディアの三大国家から延長線上で結ばれた中心点。

 一攫千金を望める富、魔物と罠の危険が隣り合わせの迷宮。

 多国籍の文化と流通品が集まり、交易を通した繁栄が特徴。

 建国の条件として三大国家から交わされた盟約により、存在が確立されているニルヴァーナにも本格的な夏の厳しさが来訪していた。


 街中を歩けば半袖や軽装に身を包む住民がよく目に入る。

 各大通り(メインストリート)で展開される青空市場の出店、屋台は日差しに負けないほどの熱気を放ち、湯気を立ち昇らせていた。

 季節特有の変遷(へんせん)を目で、肌で感じながら、今日もニルヴァーナはお祭りのように賑やかだ。


 それはニルヴァーナ全体に限った話ではなく、学園にも変化があった。

 夏用の制服に衣替えした初等部、中等部、高等部と学園中の生徒と教職員がグラウンドに集まっている。

 教室順に並び、縦や横にと思い思いに雑談を交わす生徒たちの中。

 設置されている御立ち台に上がったフレン学園長が、拡声器の魔道具を口元に当てた。


『え―……まず初めに、こんな炎天下なのに集まってもらってありがとうね。ささっと終わらせて教室に戻れるようにするから、もうちょっとだけ我慢してちょうだい』


 親しみやすく言葉を崩した学園長の言葉。

 伝播(でんぱ)したそれに生徒たちのざわめきが少し強まったかと思えば、意外にも大人しく聞き入れた者が多いようだ。

 元気の良い返答を耳にして、学園長は遠目から見ても分かるほど満面の笑みを浮かべた。

 一応、教師陣が日光を弱める為、頭上に半透明な結界を展開してしているのでさほど暑さは感じないが……こういった集会を長引かせても仕方ないだろう。


『それじゃあ早速──ニルヴァーナ一学期の終業式を始めます!』


 力強い宣言の後、学園長は一学期の間に起きていた出来事をつらつらと述べていく。

 入学式から国外遠征、納涼祭など。普段の勉学、学生生活に交えた内容は冗長的なものではなく、実に簡素でまともな内容だ。

 加えて冒険者としての活動も例年と比べて盛況であり、近隣の農村や国家からの評価は徐々に高くなりつつある、と。

 知識と実力、経験を得て成長してきた生徒達を誇りに思うとすら言ってのけた。からかう訳でもなく、至極当然の結果と心の底から考えてそうな顔で。

 学園長という立場から学生冒険者を見た印象をちゃんと語っている……納涼祭の始まりを宣言した時とは比べ物にならないほど真面目だぁ。


『……そんな君達が、明日からの長期休暇で更なる成長を遂げて帰ってくることを祈り、終業式を終わりたいと思います。あっ、最後に……ちゃんと宿題は忘れずにやってくるように! 担任を困らせるんじゃないわよっ、いいわね!?』

『え~?』

『え~? じゃない。学生として、冒険者としての本分を忘れないように過ごしなさいってこと! それじゃあ解散! 教室に戻って各組ホームルームよ!』


 そうして締めるところは締めて、一学期終業式は無事に終わった。











『ああ、二年七組特待生アカツキ・クロト君はホームルーム後、学園長室に来るように。特待生依頼について伝えたい事があります』

「理由は分かったけど、全生徒が集まってる前で言うんじゃないっ! 目立つだろうがッ!!」


 ◆◇◆◇◆


「来たわね」

「来ちゃった」


 二年七組のホームルームを終えてから、学園の最高階にある学園長室にやってきた。

 調度品が飾ってある棚や観葉植物、来客用のソファにテーブルが置かれた部屋の奥。

 書類の山が並ぶ執務机の上で手を組みながら、俺の来訪を心から待っていたかのように頬を緩める、いやに上機嫌なフレンがいた。


「レムリアの一件から一週間が経ったわ。その間、君は問題を起こさず、アカツキ荘というクランでの活動に精を出し、迷宮探索に出向いていた。とても胃に優しい時間だったわ……」

「まあ、そうですね」


 フレンが言った内容とは別にレムリアの整備で使った爆薬や道具、技術を盗用されないように(しか)るべき機関へ申請書類を出したり。

 レムリアを運営しているファタル商会の商品開発を手伝ったり。

 商会を通してアカツキ荘の地下工房で死蔵していた生成物を売り払って莫大な資金を得たり。

 ニルヴァーナの北にある三大国家の一つ、グランディアの南方辺境を領地として治めるヴィヴラス家から、贈った迷宮野菜の感謝として手紙を貰ったり。

 他にも学園生活、鍛冶、裁縫、錬金術と……中々に充実した日々を送れた。


「おかげでキオやヨムル、子ども達の入学金を返済し切れたんで。胸のつっかえが取れた気分ですよ」

「レムリアの整備完遂の依頼だけじゃなく、君の発明品によるロイヤリティでかなり儲けてたものね。国外遠征以降、ずっとしこりのように残っていた問題が片付いたのだから感慨深いわよね」


 そう。念願が叶い、俺やエリックの頭をしばらく悩ませてきた借金を、つい先日返済し終えたのだ。

 利子も期限も無い緩いものであったが、どうしてもマイナスな印象にうなされる夜もあった。この世界に来た直後に降りかかった借金のせいで、若干トラウマになっていた節もある。

 そんな長らく頭の隅に根付いていた問題が解決したのだ。浮かれるのも無理は無いだろう。

 子ども達を招いて、アカツキ荘にてレムリア産の野菜と魔物肉でパーティを開いたのは記憶に新しい。


「私の懐に自由なお金が帰ってきたし、君は迷惑を掛けたお礼として高価なお酒をくれた……とても嬉しい出来事だったわ」

「色々と便宜を(はか)ってもらってるのは事実だからね。じゃあ、世間話も済んだから俺は教室に戻るよ」

「待ちなさい。本題から逃げるのは許さないわ」


 だらしのない表情のフレンから視線を外し、(きびす)を返そうとして肩を掴まれた。ぐうっ、力が強い!


「やだーっ、聞きたくないー! どうせ曖昧(あいまい)でふわっとしてるくせにとんでもない難題を押し付けるつもりだろぉ!? 皆にはすんごい普通に流されたけど“霊峰”でも大怪我したんだからな!」

「フェネスの生命の炎で治療されたんだから問題ないでしょ」

「痛いもんは痛いんだよ!」


 感覚が麻痺してるだろ。偶然の出会いによってマイナスがゼロになっただけの事象を良いように捉えないでほしい。

 シルフィ先生を襲ったとある出来事の前例がある以上、特待生依頼がどんな内容であっても、一定の警戒ラインを敷いた上で学園長室に(おとず)れているのだから。

 だが、特待生として必要な実績を積む為に必要だと理解していても、受け入れられないものはある……!


『諦めろ、クロト。汝の身の上であれば必須事項なのだ』

『それに不明瞭な特待生依頼は納涼祭の時ぐらいなものだろう? その前後では内容がしっかりしているじゃあないか』

『でも、不確定なトラブル自体は発生してるんですよね。自分、クロトさんの記憶を見てると呪われてるんじゃないかと思っちゃいます』


 まるで他人事のように──実際、他人事ではある──のたまう三人の声が室内に響く。

 順にレオ、ゴート、リブラスは魔剣と呼ばれ、個別の能力である“異能”を備えるなど、超常の要素で構成された物体に宿る意思だ。

 学園行事の国外遠征先、魔科の国(グリモワール)で出会い、魔剣を自在に扱える存在“適合者”となってから、実在系イマジナリーフレンドは増えるばかり。

 現在は刀身を粒子化させているので実体は(さら)さず、俺の五感を共有している為、見聞きした内容を把握可能なのだ。


『それに此度(こたび)の依頼は少々事情が異なってくる。何せ、我らの他に現存する魔剣の所在を探らねばならぬのだからな』


 (なだ)めるような口振りのレオが言う通り。

 魔科の国(グリモワール)で初遭遇し、協力関係を結んだこともある闇組織“カラミティ”に魔剣を狙われてる以上、奴らより早く他の魔剣を入手しなくてはならないのだ。魔剣を全て揃えた真なる価値とやらを発揮させない為にも。


 全部で十二本ある内、紅、緑、紫の三本はこちらに。

 白は学園最強たる生徒会長ノエル・ハーヴェイが所有。

 カラミティが蒼の他に三本、合計で四本所持している。判明していない魔剣は四本だ。

 そしてカラミティ側の詳細を知る訳ではないが……魔剣の形状には盾や弓、果てには錫杖といった武器とも思えない物まであるという。


 それらはリブラスの記憶によって判明したことだが、中でも特徴的な物として(けん)、あるいはチャクラム。俺の記憶を参照すれば、()()()に最も近い形をしていたらしい。

 正直、そんなことあるか? と疑いたい気持ちはあった。けれどもレオやゴートとは違い、朽ちていないリブラスの記憶は重要な情報源。頼るべきだ。


 故に、何かしら手がかりがあるかもしれない地域──日本的文化の特徴が見られる日輪の国(アマテラス)方面への手配をしてもらえるように。

 長期休暇に入っても特待生依頼、またはクランとしてのアカツキ荘で活動できるように、フレンへ頼み込んでいたのだ。


「まあ、警戒するのも無理は無いわ。私だって当初の想定からかけ離れた結果を持ち帰ってくる君に悩まされることがあるんだもの。当事者からしたら、やってられないわよね」

「でしょ!? そう思うでしょ!?」

「でも、それはそれ、これはこれ。仕事はきっちりやってもらうから」

「きぃいいいいいいいッ!」


 無慈悲な宣告と共に顔面へ紙を叩きつけられた。

 はらりと落ちたそれを拾い上げれば、学園行事の年間予定表が書かれていた。終業式以降は一月分、夏季休暇の部分が赤く塗られている。


「いつも見せてくれる奴じゃん。これがどうかしたの?」

「問題です。国外遠征は何ヶ月周期でおこなう行事でしたか?」

「突然なんぞ? そんなの二ヶ月おきに…………あっ」


 クイズ出題者みたいな口振りに促され、予定表を凝視すれば、見えづらいが確かに夏季休暇の始まりに国外遠征の文字があった。


「そういえばホームルームで先生が言ってたな……夏季休暇中に個人で遠方へ出向いて、ギルドの依頼を規定数、完遂するようにって。夏休みの宿題程度に考えてたけど、冒険者としての自主性を高める為の課題的な遠征ってことか」

「意図を理解してもらえて助かるわ。今回の特待生依頼は国外遠征に合わせて、日輪の国(アマテラス)の分校側と冒険者ギルドから要請された依頼をいくつか(こな)してもらうわよ。内容は準備中みたいだけどね」

『そして依頼遂行の空き時間を利用し、現地にて魔剣の情報収集をおこなう、と』

『特待生、クラン、魔剣に関わる作業を円滑に進められそうだな』

『一石二鳥というものですね! あいや、今回のだと一石三鳥?』

「依頼がどんなものかにもよるけどね……うーん、となると準備はさっさと終わらせた方がいいか。旅行用のカバンに着替え、錬金術セット、魔導剣にシラサイ……ああ、エリック達にも伝えないと」

「安心して。君がごねてる間にアカツキ荘の皆にはメッセージで連絡しておいたわ。シルフィには分校側での仕事を任せたいから、引率の教師としてついてってもらうし」

「手が早ぁい」

「後、もうちょっと準備時間が必要かと思って、二日後の早朝始発に出る日輪の国(アマテラス)行き魔導列車のチケットを用意してるから」

「本当に手が早ぁい」


 フレンは得意げに、机の引き出しからアカツキ荘のメンバー分のチケットを取り出し、手札のように見えびらかしてきた。

 しかし準備が出来る時間を貰えたのはありがたい。備えはあるが、不測の事態を想定して爆薬とポーションは量産しておきたいからな。


 それに引率も。アカツキ荘の専属仲介人になったシエラさんは、レムリアの調整と学園の仕事でニルヴァーナを離れられないから、シルフィ先生がついてきてくれるのは非常に助かる。

 子ども達は初等部の行事があってニルヴァーナで夏季休暇を過ごす予定だし、安心して遠征に(おもむ)けるというもの。


「残りの不安要素と言えば、現地の宿泊先なんだけど……カグヤから進展は聞いてる?」

「ああ。前に実家の方へ近況報告を兼ねた手紙を出した時、夏季休暇で帰省する際に俺達の宿として使わせてくれないか、頼んでくれたやつね」


 日輪の国(アマテラス)方面への調査に乗り出すのはいいが、拠点とする場所は必要不可欠、

 魔科の国(グリモワール)ではホテルに宿泊していたが、夏季休暇を設定しているのは何も学園だけじゃない。商会やら他の学術機関、何より家族サービスで旅行する観光客は多い。

 そして日輪の国(アマテラス)は大陸を割るように海域を挟んだ部分すら含めて、広大な領地を誇っている。興味を惹く多様な文化とおおらかな受容性を持ち、避暑地や観光地としても有名だ。

 夏真っ盛り、観光シーズン真っ只中の中心部に押しかけようとしているのだから、宿の予約は競争率が高い。

 そこでカグヤが提案してくれたのだ。帰省するついでに学園の友達を招待したいと言えば、お父様は(こころよ)く迎え入れてくれる、と。


「献身的よねぇ……で、返答は?」

「もちろん構わない、娘の学友を無得には扱わないってさ」

「なら、大丈夫そうね。切符は渡しておくから、忘れないように」

「ありがとう。チケット代は後で請求してもらえれば……」

「気にしなくていいわ。君のおかげで懐は潤ったし、六人分のチケットぐらいなんてことない」


 机の上で枚数を数え、揃えてから差し出されたチケットを受け取る。

 場所にもよるけど、魔導列車のチケットって大体の相場が五~八万メルほどなんですが? 最低でも三〇万メルだぞ。

 俺もちょっと小金持ちになった気でいたけど、フレン並みの思い切りの良さは無いなぁ。今でも高額な買い物とかすると胃が縮むように感じる。こう、キュッと。


「何はともあれ学生としても良い経験になると思うし、異国の雰囲気を楽しみながら行動するといいわ」

「不安はあるけど、他国の風情を現地で感じられるなんて贅沢だもんね。……ってか、フレンは夏季休暇中どうするの?」

「貴方はまだ実感することはないでしょうけど、大人に長期休暇なんて許されないのよ。特に私みたいな役職に就いているとね……二学期で大々的に実施する行事の調整をしなくちゃいけないから、方々(ほうぼう)のお偉いさん方と頭を付き合わせて会議したり、ニルヴァーナで発生した問題なんかも放置は出来なくて取り組まないといけないし、シルフィがいなくなるから業務量が爆増して独りで対処するからもぉぉぉおおお大変なのよねぇえええええ……」

「お、おう……」

『そこはかとない闇を感じる』

『大人の悲哀というものだな』

『むごたらしい……』


 これからの激務を予想して、フレンは早口になるほど畳みかけてきた。お(いたわ)しや……


「まあ、他国の来賓とも打ち合わせする議題があるから、ニルヴァーナで出来ることが済んだらクロト君たちと合流するわ。その直前ぐらいになったら連絡する」

「分かった。……来た時、良い報告が出来るように頑張るよ」

「期待しておくわ。それじゃ、また夜に」

「ご飯作っておくからねー」


 特待生依頼の話を程々にして学園長室を出る。

 ホームルーム後も七組の教室で待っていてくれたエリック達と情報共有。

 事前に学園長が連絡してくれていたおかげでとんとん拍子に話は進み、早速準備を始めてしまおう、という話になりアカツキ荘への帰路につく。

 納涼祭を経て、冒険者ランク昇格の為に護衛依頼を(こな)し、クランとしての初仕事も終えて。

 ようやく日輪の国(アマテラス)で魔剣捜索だ。カラミティに先手を取られないように頑張るぞ!

ささっと日輪の国の情報を出す為に、準備中の描写はパパッと終わらせます。


次回、日輪の国へ向かう魔導列車内で異国について学ぶお話です。

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