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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第十八話》

いかに実力を持つ人間だとしても、アカツキ荘の敵ではないというお話。

 時刻は深夜一時を回ろうかといった頃合い。

 月明かりに照らされて寝静まったニルヴァーナを、不審な影が五つ、駆けていく。

 急ぎにしては妙に着込んだ様子の影は貴族向けの住宅街から大通り(メインストリート)を横切り、南西地区へ続く路地に入る。


 その影の正体は、セギラン家のクルガによって自由の身となり、彼の依頼を遂行せんと行動する悪徳クラン──アヴァニエ。

 男性五人で構成された極めて小規模なクランであるアヴァニエは身を(かが)め、物陰に潜み、闇に紛れて進む。


 目指す先は区画整備中のレムリア。廃墟と廃棄された迷宮(ダンジョン)群から変遷しつつある、ニルヴァーナにとって新たな利潤を生みだす資源の宝庫。

 クロトの手によって迷宮も、迷宮化する恐れも無くクリーンで、それでいて豊かな土地は何物にもなれる白地のキャンパス。


 権力者であれば是が非でも手に入れたい代物だ。事実、クルガもシュメルへの復讐が第一という考えこそあったが、併せてレムリアを手中に納められないかと打算を込めて躍起になっていた。

 故にギルド役員の権力で一週間の納期でレムリアを稼働させろ、出来なければ権利を明け渡せ、と無理難題を押し付けたのだ。


 しかし、実際はどうだ?


 南西区画長として君臨する歓楽街の女王、シュメルの手腕。

 彼女と提携を結んでいるアカツキ荘のインチキ発明品、豊富な人脈。

 あらゆる要素が関与し、化学反応を起こした結果。通常ではありえない速度で施設、設備施工が済んだレムリアは、細かな部分を残してほぼ完成していると言っても過言ではない。


 当然、クルガは焦った。


 こうなれば、なりふり構っていられない。学生で構成されたお遊びの弱小クランから潰す。

 そんな思いでセギラン家別荘に匿っていたアヴァニエを自由に動かし、調べ尽くした交友関係先に妨害行為を働いた。

 個人の所有物である花畑を荒らし、公共施設である図書館などを破損させ、ゆくゆくは同級生を傷つけようと考えていたのだ。

 ──自身ならばともかく他者に手を上げる愚者に容赦はしない、クロトの逆鱗に触れているなどと微塵も思わずに。


 クルガは知らない。

 アヴァニエを用いて完全犯罪をおこなっているつもりでも、その正体が掴まれていることを。

 クルガは知らない。

 既に自警団の長とも談合し、レムリアの周囲には数十名の自警団員が配備されていることを。

 クルガは知らない。

 辺境伯が愛娘の願いを嬉々として受け入れた為、破滅への道が丁寧に舗装されていることを。


 クルガは知らない。

 レムリアに到達したアヴァニエが施設への破壊行為を仕掛ける直前、宿舎エリアから飛び出してきたアカツキ荘によって蹴り飛ばされたことを。

 起こさずとも良い虎の尾を踏んだとも知らず。呑気なままにベッドで横になり、眠り続ける彼は知る(よし)も無かった。


 ◆◇◆◇◆


 ──う、ぐっ……凄まじい痛みだ。


 腹部に響く鈍痛に(うめ)きながら、アヴァニエのリーダーはおもむろに立ち上がる。

 レムリアへの侵入を果たし、構成員たちが持つ破砕目的の爆薬や道具を用いて、建築物を破壊せんと立ち並ぶ掘っ立て小屋の一つに近づいた。

 だが、その寸前で小屋の内部から凄まじい勢いで扉が開け放たれたのだ。

 建付けが悪く勝手に開いたのか、しかしそれにしては……と疑問が脳をよぎるよりも早く、飛び出してきた影に衝突され、無様に吹き飛ぶ結果となった。

 他の構成員たちも同じような現象に遭い、不意を打たれて地面に転がっている。


 ──いったい、何が起きた……?


 夜目に慣れた視界で辺りを見渡そうとした瞬間。

 指を鳴らすような音がしたかと思えば、暴力的なまでに(まばゆ)い閃光が目を焼いた。急激な明暗差に(さら)され、辺りから苦悶の声が上がる。


 閃光の正体はアカツキ荘が宿舎エリアへ独自に設営した結晶灯だ。耐用年数を削る代わりに点灯時、即座に光量を最大まで高める改造品であり、仕掛けた罠の一つである。

 まんまと罠に掛かり、発光に染まり、瞼を閉じかけたアヴァニエのリーダーは。

 直前に、こちらを見下ろす五つの影に気づく。大小問わず、しかし確かに人型のシルエットだ。


「なんだ、お前らは……!?」


 なぜ真夜中のレムリアに人がいる? 夜間警備中の自警団か? まさか待ち伏せされていた? こちらの情報がどこかから漏れていたのか?

 身体に残る痛みと視覚を奪われた衝撃。予測していなかった事象の連続で混乱と前後不覚に陥りながらも、口を()いて出た言葉を止められなかった。


「それをアンタらが知る必要は無い」


 返ってきたのは、冷徹なまでに低い声と武器を抜く音。

 交戦の始まりを示唆する空気の変化に負けじと、腐っても実力派クランとして名を馳せていた意地か。朦朧とした認識の最中(さなか)、アヴァニエも武器を手に取った。


「へっへっへ。目が利かねぇなんざなんてこたぁねぇ!」

「匂いと気配を辿れば済む話だろうがよ!」


 獣人特有の優れた感覚を駆使して居場所を特定し、自身の得物である双剣、槍を構えた構成員が近場にいた人間に襲い掛かる。

 並大抵の冒険者、自警団であれば度肝を抜かれ、狼狽するだろう。だが、相手はいくつものトンチキとふざけた発想に付き合い、適応してきた者たちだ。

 たかが悪あがきの特攻に動揺などする訳が無い。


「こんな夜更けにご足労頂いて悪いが、再起不能になってもらうぜ」

「ドーモ、不審者サン。水責めって興味あるかい?」


 刃の無い分厚い刀身を持ち、ルーン文字の付与によって極限まで強化された大剣、スクレップ。

 (いや)(みず)御旗(みはた)を展開せず、ハルバードに巻き付け強度を高めた御旗(みはた)槍斧(そうふ)

 エリックとセリスはそれぞれを掲げ、激しい金属音を鳴らして打ち合い始めた。


「レムリアさえぶっ壊しちまえば仕事は終わりだ。さっさとやるぞ!」

「ありったけの爆薬と魔法をバラ撒いてやるッ!」


 早々に視界を取り戻した二人の構成員は、携帯可能な魔法杖を取り出す。

 目にも止まらぬ早業で魔法陣を展開。風を操り、持ち込んできた爆薬を乗せて振り撒く。魔力に反応した爆薬は往々にして膨張し、落下に合わせて炸裂するだろう。

 その補助をするかのように火や雷、引火を誘発しやすい属性の魔法が辺り一面に広がる。手を出さなければ甚大な被害が及ぶのは想像に(かた)くない。ただ、相手が悪すぎた。


「ユキ、やり方は教えた通りに」

「もちろんだよ、ねぇね!」


 気の知れたやり取りを交わして駆け出したカグヤは軽快に跳び、空中で身を(ひるがえ)して。


「シノノメ流舞踊剣術初伝──《杜若(かきつばた)》」


 身体の捻りを加えた状態でスキルを発動。刀身に纏った風の刃で自信の周囲をまとめあげ、魔法・爆薬含めた全てを割断。

 クロトによって早熟ながらも身に着けた、()()()()()()()()()()()()()

 それを自前の剣術に組み込み流用することで、カグヤもまたスキル限定とはいえ、魔を断つ刃を習得したのだ。


 そんな馬鹿な、とでも言いたげな様子で目を見開く構成員の下へユキが迫る。接近に気づく間もなく懐に潜り込まれ、二人ともアッパーカットで打ち上げられた。

 少女体型から繰り出される大人顔負けの膂力は、彼らを数メートルほどの空中へ浮遊させる。辛うじて意識を保ったまま、彼らは次いで冷気を肌で感じた。


 夜とはいえ夏場だ。季節違いの冷えをもたらす原因はなんだ? と首を回し、辺りを見渡そうとして。

 目前に現れた巨大な氷の(てのひら)に言葉を失った。

 ユキの右腕から先。まるで挙手でもするかの如く延長して出来上がった氷の鉄槌。

 その中心にはカグヤが切り捨てた不安定な爆薬が、いつの間にか収められている。少しの衝撃で破裂してもおかしくない状態だ。


「これ、返すね!」

「「え、ちょっ」」


 次々と目撃する異常な光景に反応する間もなく、カグヤの着地と共に。

 巨大な氷の(てのひら)は容赦なく振り下ろされ、構成員もろとも叩き落とす──そして収められていた爆薬が炸裂。

 悲鳴すら掻き消す、くぐもった轟音と共に氷が砕け、意識を失った哀れな二人の構成員が姿を現した。


「なっ……!」

「どこ見てんの?」


 あまりにも一瞬な出来事にアヴァニエのリーダーは口をあんぐりと開き、その隙を逃さないクロトが肉薄。

 魔導剣の柄頭で顎を殴り、顔面を跳ね上げさせ、無防備な脇腹を蹴り抜いた。

 ボールのように転がっていくアヴァニエのリーダーへ集結するように、先陣を切っていた獣人族の構成員も吹き飛ばされていく。

 連携で優勢を取るつもりではあったが、長年の関係性による深みが違う姉弟(きょうだい)のコンビネーションには及ばなかったのだ。


 そうしてもつれた三人の下で、埋蔵していた爆薬が作動。

 事前にクロトと姉弟が打ち合わせをして、追い込んだ箇所から催涙成分がふんだんに練り込まれた粉塵が巻き起こる。仕掛けていた二つ目の罠である。

 ほとんどの五感を奪われるという、最悪の連続を喰らったアヴァニエは身動きが取れずにいた。


 まとまった三人を見据え、クロトはトライアルマギアにアブソーブボトルを装填。

 グリップを二度、回転させれば駆動音を鳴らして、朱鉄(あかがね)の刀身に異なる二種の属性が回路のように(ほとばし)る。

 火と闇。禍々しい輝きを放つ、赤黒く魔力付与(エンチャント)された魔導剣を構えたクロトに。

 アヴァニエのリーダーは見えずとも空気を感じ、涙声混じりに声を張り上げる。


「ま、待てッ! いきなりレムリアに入ったのは謝る! 最近、街中で話題になっていた場所だから気になって、つい魔が差して……!」

「今さら()(つくろ)ったところで何になる? アンタのお仲間はレムリアを破壊しに来た、と……そう言ってたじゃあないか」


 まあ、どちらにせよ。


「言い訳したところで、不法侵入の犯罪者であることに変わりはない」


 情けを求めようとするアヴァニエの面子を眼下に、クロトは魔導剣のレバーを引き、振り下ろす。

 放たれた黒い炎は地面に柱を立てて突き進み、直撃した三人の身体が揺らめく闇の檻に収監。拘束に加えて、逃げ出そうとすれば檻から炎が噴き出すという凶悪なシフトドライブだ。

 悲鳴を上げる三人を見やり、クロトは再びアブソーブボトルを交換。闇を光に変え、グリップを一回転。


 火と光。神聖にも見える魔力回路の光芒を(たずさ)えて走り出した。

 闇の檻と交差するように、すれ違いざまに振るったシフトドライブは相反する属性同士によって爆縮し、炸裂。

 衝撃と爆音が尾を引くように。吹き飛んだ三人は地面に突っ伏し、ピクリとも動かなくなった。


 ◆◇◆◇◆


 レムリアの一部を照らした結晶灯の閃光を合図に、待機していた自警団が動き出す。

 エルノールの指示によって派遣され、アカツキ荘と協力してアヴァニエを捕縛する為に。

 続々と引き起こされる異常現象を目の当たりにし、その(みなもと)へ足を進める彼らの視界に飛び込んできたのは──











「おらおらおらおら、気絶してないでとっとと起きろぉ!」

「ポーションも魔法もスキルも最低限かけてやったんだから充分だろぉ?」

「目ぇ開けてさっさと吐くもん吐けやぁ!」

「ユキ、眠いなら寝てていいんですよ? 私が運びますからね」

「ありがとう、ねぇね……」


 チンピラ過ぎる言動で、簀巻きにされたアヴァニエの連中を責め立てるクロト、エリック、セリス。

 一仕事を終えて眠気が(まさ)ったユキを背負うカグヤ。

 あまりにも対照的な面子が繰り広げるやり取りに、集まった自警団の誰もが眉間を揉み、現実を逃避しようとしていた。

あらゆる情報を抜かれた上に罠を万全に仕込んでいたので完勝になります。


次回、胃痛が激しくなった学園長とシルフィ、破滅に追い込まれていくクルガのお話。

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