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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第十五話》

頭の良い奴と技量の高い奴と特殊能力がある奴が合わさった結果のお話。

 荷車とレインちゃん達を引き連れてニルヴァーナの大通り(メインストリート)を南進。

 レムリアに帰還すると、単独で哨戒に当たっていたフェネスがこちらを視認し、一気に駆け出してきた。恐らく、レインちゃんとミュウちゃんの顔を覚えていたから挨拶に来たのだろう。


 彼女達も直感的に理解したのか、大きなヒヨコ状態にもかかわらずフェネスだと認識。

 身体を擦り寄せてくるフェネスは二人といくつか言葉を交わして、乗ってもらうように背中を向けた。二人はミュウちゃんの母親、俺の方へと視線を流してから感謝を告げて背に乗り、中心地に運ばれていく。


 何日か前にニルヴァーナを騒がせた俺の召喚獣であり、二人とは顔なじみなのだと。

 関係性を聞いて母親も安堵したように息を吐き、俺達も後に続く。帰りを待っていながらもレムリアの運営相談をしていたシエラさん、シュメルさん、親方と合流。

 少しばかりの世間話をしてから今後について説明するべく、シエラさんがフェネスの傍に寄った。


「ミュウさんとお母さんに関して、私が責任を持ってレムリアを案内しますね」

「儂もついていこう。レインも気になっとるようじゃからの……クロト、後は任せてよいか?」

「問題ありません。荷物は農園エリアの一部に置いておきますから、三人をよろしくお願いします、シエラさん、親方。レムリアには色々あるから、ぜひ楽しんできて」

「うんっ!」

「ありがとうございます!」

「行ってきます、お兄さん!」


 レムリアの中心地から離れていった五人と一羽を見送り、アカツキ荘、シュメルさんと顔を見合わせる。


「それで、あの子たちを迎えに行った時、何か分かった?」

「はい。皆を混乱させないように、レムリアに着いてから話そうと思ってたんです」

「一人で行動してたから、なんとなーくそんな気はしてたが……よく気づけたな?」

「詳細を知れたのはゴートのおかげだよ。──個人所有している畑を荒らしていたのは男性五人組。片手剣、双剣、長物、魔法攻撃・補助担当の二人で連携を重視して動いていた……恐らくは、普段からパーティを組んで行動してる連中だ」

「五人組、ですか。迷宮攻略におけるパーティの適正人数ではありますが、候補が多いですね」

「使ってる武器の種類までクロトが見抜けるほど熟達してるってこたぁ、かなり上位のパーティか?」

「うーん、そういう部分じゃあアタシは力になれないねぇ」

「ユキも分かんないや……」


 肩を落とす二人に笑いかけて、ポケットから手帳を取り出す。


「そして五人組の共通点として蛇を掴んだ大鷲(おおわし)の意匠が施された、メダルのような物を身に着けていました」

「メダル……エンブレムということかしら? なんだか、坊やが初めて歓楽街に訪れた時を思い出すわね」

「既視感ありますよね。えっと、具体的に描くと…………こんな感じです」


 正面を向いた雄々(おお)しく大鷲が翼を広げ、足の爪でとぐろを巻きつつある蛇を掴む。

 記憶したままのデザインをささっと手帳に書いて、皆にも見えるよう提示(ていじ)した。


「見れば見るほど、貴族のメダリオンと雰囲気が似てるわね。とはいえ、私が交流してきた貴族の中にこの意匠を持つ者はいない……別組織を象徴する物でしょうね」

「んー……待てよぉ? どっかで見た覚えがあんだよなぁ」

「奇遇ですね、私もです」

「兄ちゃんとねぇねは知ってるの?」

「冒険者ギルドでお話した訳ではないはずですが、確かにこの意匠を(たずさ)えた方がいたと思います。かなり前に…………そうだ、迷宮(ダンジョン)です!」


 手帳からハッと顔を上げたカグヤは、同意を求めてエリックへ語りかけた。


「一部の迷宮でギルドの規定に背いた討伐方法を取って問題視されていたクランがいたの、覚えてませんか? ユニークや迷宮主を違法に討伐していた……」

「……あ、ああっ、蛇に大鷲のクラン! “アヴァニエ”の連中か!?」

「アヴァニエ?」


 お心当たりがありそうな二人へ問い掛ける。


「二年ほど前に、グランディアから流れてきた実力派の小規模クランです。高名な貴族や危険度の高い魔物の討伐を幾度となくこなしてきたという猛者の集まりでしたが……」

「その実体はギルドの依頼を通さず素材単価の高い魔物や迷宮主ばかりを狙い、その為なら同業すら脅し、手に掛けたなんて噂もある。ワイプアウターとは別の意味で、悪徳なクランだ」

「……ああ、フレンが愚痴っていたかも? 迷宮を私物化する上に、かなり強いから手の出しようも無い連中が来たって」

「そいつらが花畑を荒らしたってのかい? なんつーか、こっすい手を使うねぇ」

「けれど、もし本当なら……ミュウちゃん達が無事では済まなかったかもしれない。早めに行動して正解だったな」


 そんな危険な連中が依頼を受けて、レムリアの妨害に動いている……ぞっとするな。


「でも、おかしいぜ? アヴァニエは同じ迷宮を攻略中の冒険者に叩き潰されて捕まったはずだ。クラン自体も解体されて、構成員の全員が南方の鉱山に送られた……ニルヴァーナにいる訳がねぇ」

「脱走してきたか、保釈金を払われて身柄を誰かに買い取られたか……可能性としては後者かな」

「ええ。犯罪者の流刑地の一つである鉱山は入り組んでいる上、地表露出型の迷宮でもあります。人の足だけで脱出するのはほぼ不可能です」

「するってぇと……アタシらが追ってる黒幕の子飼い、だと思えばいいのかい?」

「そんな都合の良い話、あるわけない……なんて片付けられないわね。私、アヴァニエについて思い出したことがあるの」

「どういうものですか?」


 まじまじと、俺が書いたエンブレムを見つめるユキから視線を外し、シュメルさんへ向ける。


「貴族のメダリオンのことよ。蛇を掴んだ大鷲(おおわし)そのものを家紋としている貴族に覚えはないけど、グランディアで活動していたクランをとある貴族が私的に雇い入れたという話を耳にしたわ。“セギラン家”……上級貴族への進出を狙っていた野心家の下級貴族であり、翼を広げた大鷲(おおわし)(かたど)った家紋が特徴的だったの」

「……そういや貴族と契約を交わしたクランは配下であると周りに示す為、デザインに取り入れるのが慣習だったか」

「となると、アヴァニエはグランディア方面の貴族と関係が深いクラン……ギルドに出向しているセギラン家がいて、その方が手回しを?」

「点と点が結ばれてきたな。ここまで来たら、シエラさんに聞けば確実になるかも」

「なら、(たず)ねてみるかい? ちょうど戻ってきたみたいだし」


 セリスに(うなが)された方を見れば、農地を見に行った親方たちと分かれてシエラさんがやってきた。

 つい先ほどまで話し合っていた内容を伝えると、彼女は顎に手を当て考え始める。


「セギラン家、ですか。ギルドの上役にその名前が並んでいたのを覚えています。今の私と同じ、専属仲介人でありながら役員としても働いていたかと」

「当たりね。アヴァニエとセギラン家の繋がり、支援を受けているのは確定と見ていいでしょう」

「私もそう思います。しかし、当時アヴァニエの悪辣な行為が露見された時、同様に罰せられたはず……その後は謝罪と賠償をおこない、真面目に働いていたのに。なぜ今になってこんなことを……?」

「単純に俺達が気に入らないか、出た杭を打とうとしているか。色々と考えられますが、どちらにせよ悪徳クランを使役してロクでもないことをやらかす連中、見過ごす訳にはいきません」

「こちとら真面目に働いてるだけだっつーのに、いちゃもんつけられたら(たま)んないからねぇ。向こうの事情なんざ知ったこっちゃないよ」

「壊す覚悟があるなら、壊される覚悟もあってしかるべきでしょう」

「打ち首にするの? 頑張るよ」

「待て待てお前ら、冷静になれ。特にユキ、どこでんなもん覚えた?」


 並々ならぬ殺意を漲らせる俺たちに、エリックが冷や水を掛けてきた。


「確かにこれ以上、好き勝手される訳にはいかねぇ。かと言って無闇に行動して、向こうに察知されたら本末転倒だぜ? 作戦を練るぞ」

「うーむ、一理ある。俺の交友関係先を狙ってる訳だし、人質を取られたらマズい……」

「クロトさんだけでなく、私たちも気をつけるべきでしょう。七組の同級生やナラタに刺客を向けられる可能性があります」

「とはいえ、全員レムリアで保護するとかは無理だしなぁ。やっぱりこっちから出向いてアヴァニエの連中を捕まえる……てか、待てよ?」


 セリスは腕を組み、首を傾げて。


「そもそも連中は犯罪者だろ? 仮に釈放されたとしても表を堂々と歩けるような経歴じゃねぇ。人目が少ねぇ夜の間に行動してた理由もそこにあるんだ……なら、日中はどこにいるんだい?」

「身を隠せる場所なんて探せばニルヴァーナ中にあるけど、貴族の支援を受けてるなら変装して街中に紛れてる、とか?」

「──貴族の別荘が集中している高級住宅区」


 疑問に答えるように、シュメルさんがぼやいた。


「商会や宝石商はともかく、一般人が用も無く近寄ることはなく、人目に付かない。個人所有している大きめの物件なら人を(かくま)うのは容易いんじゃないかしら。シエラ、どう?」

「……セギラン家が保有している別荘、心当たりあります! 現在もそこから通勤しているので……北西の居住区にあるはずです」

「よし、乗り込むか」

「行こうぜ、待ちきれねぇよ」

「だから落ち着けって。確信が無いのに攻め入るのかよ?」


 手帳をポケットに仕舞い、セリスと共に踵を返し、走り出そうとして。

 エリックに肩を掴まれ止められた。


「でもよぉ、エリック。クロトには特別な捜査方法があるんだぜ? 実際に現場へ行って調査して、例の五人組が出入りしてることを確認できたら即突入してもいいだろ」

「私的財産を損壊させたとか不法侵入とか、有ること無いこと言われてアカツキ荘が訴えられたら面倒だぞ? 金が掛かる」

「分かった、落ち着こう」

「諦めるの早っ。だけど、早めに動かないと次に何をしでかすか分かんないし……」

「推測ですが、アヴァニエはきっと今夜も妨害工作を働きますよね? その現場を抑えるのはどうですか?」

「そっか、今の内に出入りしてる事実だけでも掴めれば、近くで待機して尾行すればいいのか」

「妨害行為に及ぶ直前で捕まえれば、被害は抑えられます。不当な扱いにもなりませんよ」

「いいねカグヤ、それでいこう! そうと決まれば、早速調べてこようかな。大人数で行ってバレたら面倒だし本番は夜だから……俺一人で行ってくるよ。その間、皆はレムリアで困ってる事が無いか聞いて手伝ってあげて」

「大丈夫なの? にぃに」

「任せろぉ。こう見えて変装技術に関しては良い腕してるんだぞぉ?」


 不安そうなユキの頭を撫でつけ、笑みを浮かべる。


「シエラさん、セギラン家別荘の住所を教えてください」

「分かりました。アカツキ荘の専属仲介人として、レムリア整備の妨害を目的とする犯罪集団の調査遂行を要請します」


 シエラさんはしかるべき手続きを口に出し、自身のメモ帳に住所を書き記して手渡してきた。感謝を述べてからレムリアを立ち去る。

 向こうに顔が割れてるのは確実として……一旦アカツキ荘で服を着替えて帽子を被って、変装していくか。

判明した黒幕の名と組織については、次回詳しく描写します。


次回、ワンマンアーミー兼諜報員として優秀過ぎるクロトのお話。

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