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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第十二話》

今後の展開に繋がるネタとクロトの事情を知り、味方となった親方のお話。

 ──妖刀とは。

 異国、日輪の国(アマテラス)にて存在が確認されている刀剣の類である。

 いかなる存在をも断ち切る一振りを求めた、刀工の執着と狂気が生み出した呪いの刃。

 あらゆる者を魅了し、斬らば命を、血を吸い、持ち主の精神を歪めていく。中には常軌を逸した能力を持つ物すらあったと言われている。


 さすれば魔剣とも似通った特徴を持つが、最大の相違点として破壊可能であることが挙げられるだろう。

 過去に妖刀が引き起こした惨劇や事件は、持ち主ごと刀剣を断ち切って終息したとされている事象がほとんどだ。現に、調査の為にと保存されている妖刀以外は破壊され、存在していないらしい。


 しかしどのような条件で妖刀と化すかは未だに解明されておらず、日輪の国(アマテラス)では隠匿、または所持していると厳罰に処されてしまう。

 一時期は“刀狩り”と称して取り締まりを密にするようにまでなったそうだ。加えて“刀狩り”以降、刀工や鍛冶師には刀剣を製作する際、役所への申請が義務となり、製作を認可されても派遣された監視員の見張りが付く。


 そうまでして手を回さなければ国としての治安を維持できないほど、妖刀による影響は大きい。

 噂によれば妖刀を何としても製作できないか、もしくは手に入れることが出来ないかを模索する者たちが潜んでいるとか。

 つまり妖刀とは災いの種であり、良からぬ者を寄せつける篝火(かがりび)でもある。


 変哲もない一振りの刀が知らずの内に、心当たりも無く、いつの間にか、そう成ってしまったとしても。

 ただの善意から製作し、受け渡した渾身の一振りが妖刀と化した……その事実は、鍛冶師にとって受け入れがたいもの。しかもいつ何時、持ち主に異変が生じるかも分からないのだ。

 それが愛弟子の身に起きるかもしれない。その懸念がある以上、妖刀の疑い、あるいは兆候が現れたのならば(しか)るべき処置をとらねばならない。


 心を鬼にして、ドレッドノートの力を(たずさ)えし“シラサイ”を奪わんと。

 必死の形相で逃げる愛弟子を師匠が追うのは、当然の帰結と言えよう。


 ◆◇◆◇◆


「シラサイで舞踊剣術が使えなかった? それは不思議な話だな。武器としては普通に機能してる以上、スキルの影響は受けるはずだけど……」

「親方さんの魔装具が特別性である可能性は否めませんが、正確無比な評価を下せる慧眼を持つ、質実剛健な方とお見受けします。シラサイを不安定な代物(しろもの)にして譲渡するとは思えません」

「うーん、親方の腕なら誰が使っても問題ないように仕上げるだろうしなぁ。となると、心髄を引き出した影響か?」


「相違点としては妥当に思えますね。普段使いとは別に特別な事などしましたか?」

「あの時は重傷を負ってて意識があやふやだったから、無我夢中で振り回してて正確には……」

『お困りかつ取り込み中に割り込んで済まない。私に一つ仮説が有るのだが、聞いてはもらえないか?』

「ゴート? 何か知ってるの?」


『うむ。当時クロトはキュクロプスの攻撃によって全身を痛めつけられ、魔力も少なく血液魔法で止血できないほど流血していた。しかし(したた)る血は確かにシラサイにも流れ、その瞬間に光芒を纏い、結合破壊の斬撃へと繋がった。恐らくだが……』

「俺の魔力を含んだ血に反応して心髄が引き出された? だからカグヤが剣術を使おうとしても発動しなかった……?」

『いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「どういうことです?」


『疑似的にとはいえ、ドレッドノートはクロトの完全同調(フルシンクロ)と同じ状態にあった。粒子として憑依させる、魔剣そのものを肉体に取り込む……手段と過程は違えど結果は変わらん。そして()()()()()とでも言えばいいか……シラサイの原料はそれに当てられたドレッドノートの角だ。これらが意味する事は──』

「……シラサイが適合者である俺の血に反応し、疑似的な魔剣として存在することになってしまった?」

『根拠が薄く、憶測と推測の域を出ないがありえないとも言えんだろう。結合破壊の斬撃という常識外れな心髄も、よくよく考えれば異能に近しい性能を誇っていたのだからな』

「…………なるほど! それなら私の方でも補強できるかもしません」

「補強って?」


「薄々と勘づいてはいましたが、血に反応する常識外の力を持つ刀剣……これは日輪の国(アマテラス)で言うところの“妖刀”に該当します」

「えっ。親方が毛嫌いしてる物なんだけど」

『だが、納得できる要素はある。奇妙で綱渡りなまま実在しているのは確実だが、されど魔剣ほどの異質さは無い。通常の武具との違い……検証しなければいけないな』

「はい。もし本当にシラサイが妖刀と化しているのなら、血で反応するというのも、クロトさんの物か無差別な相手でもよいのか。最低限でもそれくらいは把握しないと、クロトさんが無事では済みません。妖刀として分類される刀剣を所有することは日輪の国(アマテラス)だと重罪ですし、そもそも危険ですからね」

「わ……わァ、ぁ……大変だぁ」


「私たちが気づけてよかった……余計な疑いを持たれる前に、親方さんにも伝えておくべきですね」

『同感だ。様々な要因が重なったが故の事態だが、下手に隠し立てをするくらいなら、いっそ私たちの存在を打ち明けてでも理解してもらうしかない』

「ええっ!? そんな大事(おおごと)になるぅ!?」

『既にシラサイは君の攻守の一部として組み込まれているだろう? 穏便に守り通したいのなら、リスクは背負わなくてはならないぞ』

「それにクロトさん……お師匠たる親方さんに黙ってまでシラサイを振りたいとお考えですか? 事実が判明している以上、隠し続けて、何かの致命的な場面で知られたら……親方さんは酷く悲しみ、後悔し、苦しんでしまうのでは?」

「やめてよね、良心をストレートで殴りかかってくるの。……くぅ、分かったよ。遠からず親方に、ゴート達とシラサイのこと伝えるよ」


 ◆◇◆◇◆


「待ってください、親方。俺の、俺の話をゆっくりと聞いて欲しいです」

「おうなんじゃ、言うてみぃ」


 レムリア中を駆け回り、奇異の視線を向けられること十数分。シラサイの心髄で整地した農地の前に戻ってきて。

 怒りとも嘆きとも言えない表情を浮かべて、じりじりとにじり寄ってくる親方からシラサイを背中に隠しつつ。

 今回の妖刀化疑惑については情状酌量の余地がある、とカグヤ、ゴートと相談した考えを口にする。


「考えてみてください。妖刀化の条件やメカニズムは謎が多く、解明されていない部分が多いです。シラサイに起きた現象だって、見方を変えれば俺に対してだけ制限が解除されていると見れます」

「それはお主の感想じゃろ。客観的には妖刀そのものだ」

「じ、実際にカグヤとエリックに血液を貰って試しました! でも、心髄は発動しなかったんです! つまるところシラサイという魔装具は俺限定の武具と化した訳です!」

「それがお主の意思で導かれた答えとは思わん。その妖刀に操られているのではあるまいな?」

「んごご……!」


 まだまだ言いたいことは沢山あるが、これ以上の納得を得るには情報の欠片が足りないっ!


『やはり明かすしか、ないのか……魔剣のことを』

『致し方あるまい。どの道、いつまでも隠し通せる問題ではないのだからな』

『親方殿の意見が功を奏する可能性もある。実物である私たちを目にすれば、おのずと理解が追いついてくるだろう』

『アカツキ荘の皆さんへプレゼンを考えてる最中、こんなことになってたなんて……ううっ、自分のせいですみません……』

『気にしないでいいよ、リブラス。俺も腹を括るさ』


 脳内会議で出た結論に従い、深く息を吸う。


「……これ以上、問答を重ねても平行線です。アカツキ荘の皆とも相談して打ち明ける覚悟はできてますから、俺の秘密を明かそうと思います」

「いきなりなん……秘密じゃと?」


 怪訝そうな親方から目を離し、周囲を確認。

 コムギ先生は楽しそうに収穫し終えた野菜に支柱を立てており、エリック達とシエラさんはその手伝いを続けている。

 それ以外に人影はない、魔剣を見せるなら今がチャンス。シラサイを隠したまま親方に近づき、右手を振って緑の魔剣を召喚。


 突如として明滅する刀身が姿を現し、親方は一瞬だけ目を見開く。

 即座に警戒態勢に入ろうとしたのを制して。

 俺はこれまで集積した魔剣の情報とシラサイに関して、洗いざらいぶちまけるのだった。


 ◆◇◆◇◆


「国外遠征で初めて顔を合わせ、先刻の納涼祭で起きた問題も適合者・魔剣絡みであった、と。加えて収集を目的とする暗部組織に狙われている為、身近な人物以外には口外せんようにしている。……そして、シラサイが妖刀じみた状態になったのは魔剣が根幹の原因である、か」


 道の脇に腰を下ろし、話を続ける最中(さなか)

 深刻な事情があるのだと察してくれたおかげで、親方への説明は実にスムーズに終わった。


「そういうことです。すみません、ずっと黙っていて……」

『我ら魔剣を代表して謝罪を。汝の弟子であるクロトを騒乱と戦いに巻き込んでいたこと、明かせずにいてすまなかった』


 レオの声を聞き、シラサイと緑の魔剣──紅の魔剣だと大きすぎて目立つため出さないでおいた──を眼下に、親方は深く息を吐いた。


「いや……まあ……うむ、そうじゃな。受け取っておこう」


 とても言葉を選んでいるような、含みのある声音だった。

 いきなり超常の存在と関係があって、なんならそれを集める目的で動こうとしているなど。聞いたところで易々と理解を得られるような話題じゃない。心中、お察しする。


「突拍子でもないことばかり起こして、巻き込まれるクロトに思うことはあれど、むしろ安心したわい。持ち主の精神を危ぶむような存在といえど、実際に目の当たりにした上で何の影響も及ぼしていない。お主でなく魔剣の意思側から言われてしまっては納得せざるを得ないじゃろ……というか、なぜ平気なんじゃ?」

『我らにも分からん……と言ってしまうのは無責任だが、ひとえにクロトの強靭な精神が故に、と考えてほしい』

『そも三本の魔剣を内に秘めているにもかかわらず、クロトに思想や思考、精神に揺らぎが無いからな』

『自分が覚えている限り、そんな適合者はクロトさんしかいませんよ!』

「さらっと人をおかしな人間扱いするのやめて?」


 レオ達との会話にも適応した親方は、立て続けに押し込まれた情報の洪水に頭痛を覚えたのか。

 痛みを抑えるように自身のこめかみを擦ってから、シラサイを手に取り、俺の方に向ける。


「妖刀の懸念があったシラサイは、あくまでも疑似的な魔剣として昇華されたに過ぎない。心髄を引き出すのにクロトの血液が必要となっただけで、魅了や精神汚染などの危うい兆候がある訳でも無し。儂が直に確認しても異常があるようには見えん……偶然とはいえ、お主専用の安全弁が付いた魔装具に成ったのじゃ。お主が持つべき武具を返そう」

「ありがとうございます、親方」


 熟練の目利きを持つ親方のお墨付きもあり、改めてシラサイが手元に戻ってきた。


「しかし、結合破壊の斬撃も含めたシラサイの心髄は多用せん方がよかろう。どうにも魔力を糧に幾分か自力で修復しとるようだが、シラサイ自身の耐久性を著しく損なうようじゃ。使うにしても期間を空けて、連続の行使は控えなさい」

「なるほど……まあ、想像の元であるドレッドノートが強力過ぎたから、埒外の力を発揮してるんだろうし。普段は普通の刀として使いますよ」

「その懸念もあるが、一番の理由としては第三者に“お前の武器、妖刀ではないか?”と余計な疑いを持たれない為じゃ」

『確かに。今回の件のごとく、親方殿のような考えを持つ方が他にいないとも限らないか』

『咄嗟の状況を打開する切り札として使うべき、か。ワイルドカードばかり増えるな、クロト』

「俺の手札ジョーカーばっかりじゃん」


 魔剣、異能、完全同調(フルシンクロ)超越駆動(エクシード)、シラサイの心髄。

 どれもこれも人前では目立つモノばかり。俺に寄り添ってくれるのは朱鉄(あかがね)の魔導剣だけだ……


「それにしても、我ながら情けないものだ。弟子が凄まじい重荷を背負っているというのに、感じ取ることすらできんとはな」


 アカツキ荘の自室に置いてきた魔導剣を思い出し、感傷に(ひた)っていると。

 親方は緑の魔剣を眼前に掲げ、自嘲気味に言い放ち、次いで口端を吊り上げた。


「されど知った以上、儂も協力は惜しまんぞ。無茶無謀を重ねる弟子の言い分に付き合うのも師の務めじゃ。伊達に長生きしとらん頭と鍛冶師としての縁を辿り、魔剣と思しき情報を調べてみよう。リブラスでも分からん詳細な部分を把握できるやもしれん」

「本当ですか!? 助かります 親方!」

「うむ。……だが、魔剣か……こうして触れてはいるものの、製作者の思想というのが感じられんな」

『私のような意思が滞在しているせいか?』


 話すたびに明滅する緑の魔剣、ゴートの言葉に親方は首を横に振る。


「大剣や短剣、双剣に片手剣、はたまた手裏剣と錫杖じみた剣などがあると言ったじゃろ? 疑う訳ではないが、事実にしろ統一性があまりにも無さ過ぎる上に用途が察せられんのじゃ。特徴の一つでもある“折れず、曲がらず、砕けない”性質も、何故そうなっているか見当もつかん」

「親方の目利きでも難しいかぁ……」

「この辺りは、やはり実際に集めて調査していくしかなかろう」


 一通り観察を終え、差し出された緑の魔剣を受け取り粒子化させる。

 何はともあれ、抱えている事態を共有したことで親方という心強い味方を得られたのだ。これは僥倖(ぎょうこう)とも言えよう。

 納涼祭が終わってから明確な味方が増えて、精神的な安定感が出てきたように思える。流れが、来てる……ビッグウェーブが……!

 内心で再度やる気を(みなぎ)らせていたら、親方が立ち上がり背伸びをした。


「さて、向かうべき大勢(たいせい)は把握できたことじゃが……まずは目先のやるべき仕事をこなすか。老骨に鞭を打って、張り切るとしようかの」

「ですね。納期五日のレムリア整備、頑張りましょう!」

「何度言われてもトチ狂っとるとしか思えん工数じゃのう……」

色々と話を詰め込んだ影響で次回予告詐欺になってしまいました。申し訳ないです。

次はちゃんと二日目の報告書から始まり、そしてダイジェストに近い形式になります。


次回、常軌を逸した進捗報告書と、急速に進むレムリア整備のお話です。

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