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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第十一話》

弟子の頼みを聞く親方と新たな相棒たるシラサイに起きた奇妙なお話。

「言っていることがあまりにも不可解で思わず来てしまったわい……」

「ご足労いただいてありがとうございます、親方」

「悪いわね」


 急造仕立てなレムリアの門をくぐり、やってきた親方をシュメルさんと出迎える。

 鍛冶屋として、己が手掛けた武器の調子がおかしいと言われ、居ても立ってもいられなかったのだろう。

 仕事道具一式を携え、肩で息をするほど大急ぎで来てくれた親方に水筒を手渡す。


「おお、すまんの。……して、シラサイの様子が妙じゃという話じゃったが、本当か?」

「事実と嘘で半分ずつって感じですかね」

「先に私の要件から伝えてもいいかしら? 元々こちらが本題だし、騙すようなマネをして呼び出した上、不義理を重ねる訳にはいかないもの」

「おおよその見当はつくがのぉ……全く、もう少し老骨を(いた)わってもよかろうて。師を良いように使う弟子など見聞きしたことすらないわ」

「頼りになりそうな人で真っ先に思い浮かんだのが親方だったんで……」


 歓談しながら石畳の道を歩き、農地で収穫作業に勤しむアカツキ荘の皆の姿。

 切り株だらけの妙な場所に親方は首を傾げながらも、隣り合わせである倉庫エリアと作業エリアの中間に到着。

 資材の荷下ろし作業を指揮しているロベルトさんの姿を横目に、シュメルさんと共に事情を説明する。


「ははぁ……残り五日の納期で整備を終える為に、並行作業で戸や窓の金具、それらに類する建具の調整を儂に頼みたい、と」

「俺も一通りできますけど一人じゃ限界がありますし、親方の手を借りられたらいいなと思いまして」

「突発的な依頼になるけれど、どうか承諾してもらえないかしら? もちろん報酬は出すし、他に仕事を抱えているのならそっちを優先してもらっていい。空いた隙間の時間にでも手伝ってくれるだけでも助かるわ」

「ふぅむ……クロトが儂を呼び出した理由も、レムリアが抱える難題も理解したが……」


 親方は両腕を組み、考え込む。急に呼び出した挙句、都合の良いことばかり要求してるからな。

 今日は暇だったみたいだけど、親方だって鍛冶屋の仕事があるはずだし。それにレインちゃんを一人で家に置くことにもなってしまう。

 そもそも親方は極力、家族との時間を大切にしたいと考えて行動することが多い。レインちゃんも知った上で納得し、学園を休んでお店の手伝いに協力している時もあるのだ。

 たかが数日間とはいえ、こちらの事情で振り回し続けるのは酷というもの……やはり俺が頑張るしかないか。


 悩み続ける親方と返答を待つシュメルさんから視線を外し、カグヤとユキが作業エリアに運んできてくれた丸太の山を見上げる。

 枝葉を切除され、切り口もある程度整えられた丸太の置き場が四ヶ所。石畳の道、その脇に置かれた手前側の丸太に近づく。

 急成長した弊害など全く見受けられない綺麗な年輪を前に、取り出した“刻筆”の先を向ける。


 切り倒したばかりの生木は水分が多く加工に向かない。歪みが生じやすく、強度は弱く、腐食や変色の被害に遭いやすく、構造物には適さないからだ。

 含水率というものを可能な限り無くすことで、晴れて木材としての機能を発揮できる。が、問題はどれくらいまで乾燥させて良いのか分からないことだ。

 高校の課外授業で習った気がするけど……水分含有量を二割までだっけ? 家具か建材かによって程度が違ったはず……


『──とりあえずイイ感じにしとくか』

『さすがに聞き流せんぞ、クロト。汝の記憶を探ってみたところ十五から二〇パーセントまでが適性のようだ』

『なるほど、ニアミスしてたか』


 脳内で語りかけてきたレオのおかげで目安が分かった。となれば、そうなるように状態を付与していけばいいだけだ。

 なんだかんだ公用語の練習を経たことでルーン文字にも活用できて、ルーン操術師としての成長に繋がった気がするし、いけるいける。


 ひとまず今日中に使うのは難しいから……トレントの強靭な性質も含めて、とりあえず“水分急速蒸発”“指定割合維持”“状態保持”と。

 続々とルーン文字を刻まれたトレントの丸太が一人でに身震いしたかと思えば、夏場にも関わらず大量の湯気を立ち昇らせる。


 丸太の中で暴れ回る水の分子が、行き場を求めて大気に放出されていくのだ。水分が持つ細菌、雑菌も熱消毒されるだろう。

 蒸気で周囲の温度が上がったようにも見えて、実際にそうなのだと頬を垂れる汗に気づき、拭う。とにかく、これで時間が経てば建材として加工可能な木材になるはずだ。


 しかし、コムギ先生は本当にすごいな。植物系魔物(モンスター)が作らないはずの種子を生成し、意のままに成長させたり操れるなんて。

 以前魔科の国(グリモワール)で、事前に貰ったトレントの種を用いて襲撃犯を捕縛したことがあった。あれは育てた者の指示に応える護身用の物だと聞いていたが、もしやトレントの果実を成らせる種もあるのだろうか?


 シルフィ先生の好きな物だし、調理にも錬金術にも使える万能食材なんだよな。整備が終わったら、レムリアでの栽培をお願いしてみようか。

 ……大事が終わっていないのに小事へ意識が割かれるのは、俺の悪い癖だな。


「……先ほどからお主は何をしとる?」


 自省の気持ちに(さいな)まれて唸っていると、親方に(いぶか)しげな声音で問い掛けられた。


「建材として使うので乾燥させてます。明日になれば加工できますよ」

「さも当然、平然とルーン文字を刻んどるが、お主いつの間に時間差発動と保存維持の合わせ技が出来るようになったんじゃ?」

「それ、付与術の中でも難度の高い技術じゃなかったかしら?」

「……そういえば、出来るようになってる。これが、成長……っ!」

「自覚がないのか。お主を放置してたら、次々にとんでもないもん仕掛けそうで怖いのぅ……分かった。建具調整の件、(うけたまわ)るとしよう」

「レムリアの整備というより、坊やのお目付け役が目的になってるわね。けれど、手を貸してくれるのはありがたいわ」

「うむ。万全を尽くさせてもらおう」

「上手く事が運んだようで何よりです。じゃ、俺は他の丸太にも同じ作業をしてくるんで」

「その言い草、理由の大半がお主にあると分かっとらんじゃろ?」


 ◆◇◆◇◆


「そういえばお主、儂が来た時、シラサイに関して事実と嘘が半分どうのと言っとらんかったか?」


 シュメルさんと共に倉庫エリアで使う建具と金具の相談を終え、調整の詳細を記した書類を持って。

 作業エリアの丸太置き場に戻ってきた親方から、開口一番にそう言われた。

 丸太のルーン文字を全て書き終えた影響で一帯がサウナ状態な為、汗だくな顔を拭きながら親方の下へ。


「色々あって言い忘れてましたけど、実はそうなんですよ。試しにシラサイ持ってきたんで、実演も兼ねて見せますね」

「実演……? そもそもレムリアの整備に武器など必要ないだろうに、なぜ持参してきたのじゃ」

「き、昨日は不届き者の成敗に役立ったんで。今日も襲撃者が来たら大変かなって」

「はあ、お主は……」


 何か言いたげな視線をひしひしと背中に感じながらも、切り株だらけの農地に親方を置いて。

 未だ終わらない収穫作業に勤しむアカツキ荘の皆を横目に、荷物置き場からシラサイを取ってきた。


「親方は霊峰にある一部の山が崩落したっていう新聞の記事を見ました?」

「なんじゃ急に……あれじゃろ? 何日か前、話題になっとったやつじゃ。質の良いミスリルやら迷宮資源が採れるようになった場所で、天変地異じみた現象が起きたとか」

「あれやったの俺です。正確に言うと シラサイの心髄を引き出して放った斬撃が招いた事象なんです」

「……ぁあっ!? なんじゃとぉ!? お主、護衛依頼で霊峰に向かっ、いや心髄っ、はぁ!?」


 聞き流せない情報を耳にした親方が凄まじい剣幕を浮かべ、襟首を掴んできた。

 容赦なく揺さぶられて思考が、思考が取っ散らかる……!


「わわ悪気は無いんですよ! お、俺だって昨日カグヤに言われて初めて気づいたんで! そ、そこでちょっと意図してない事態が発生してたから、親方の意見が聞きたいんですっ!」

「ぬっ、ぐっ……はーっ、ふーっ……よし、血圧が下がった気がする。さあ申せ! 次はどんな珍妙な厄介ごとを持ってきた!?」


 手を放してもらい、互いに少し距離を取ってから。


「とりあえず検証したいんで、シラサイに触れて魔力を流してみてください」

「霊峰を破壊した魔装具にか? 儂が鍛えた武器に対して言うのもなんだが、怖いんじゃが?」

「いえ、ウチの仲間の言葉が確かなら、親方の想像通りにはならないはずです」

「むぅ……まあ、物は試しか」


 差し出したシラサイを受け取り、抜刀。抜き身の白い刀身を誰にも向けないように構え、親方の魔力回路が励起する。

 視覚化された魔力の流れが心臓から腕、手、指と伝達していき、シラサイにまで到達しようとした瞬間──静電気のような音が鳴り、魔力が霧散した。


「なんじゃと!?」

「やっぱり弾かれたか……ドレッドノートを想像し切れていない可能性はありえるが、カグヤも舞踊剣術が使えなかったみたいなんで」

「つまりシラサイ自体が魔力を受け付けない、と? 見たところ特に異常があるようには見えんが……お主は扱えるのか?」

「はい。ただ、一つ問題があって……」


 シラサイを返してもらい、魔力回路に光芒が煌めく。

 親方と同じように魔力をシラサイに流せば、弾かれることなく魔装具特有の発光現象を見せる。


「しっかり機能しているように見えるの。これだけならば、クロト個人に適応した魔装具として使えばよかろうて。むしろ無闇に危険を振り撒かずに済む、安全な機能ではないか?」

「じゃあ、次に必要な工程を見せますね」


 不安を煽る物言いとは裏腹に、拍子抜けだとでも思ったのか。

 胸を撫で下ろす親方へよく見えるように、シラサイで左の手の平を切って……()()()()()()()()

 するとどうだろう? 霊峰でキュクロプスを仕留める直前に感じた微細な振動と、先程とは比べ物にならない光芒がシラサイより発せられる。


 そして切り株だらけの農地で本来やりたかったこと。

 (すなわ)ち、切り株の撤去と整地をおこなう為に、シラサイの切っ先を農地に突き刺してイメージを浮かべる。

 素材の元となったドレッドノートの心髄。大地を揺らし、いかなる障害をも崩れ、塵となっていく力を強固なものとして想起し放出する。


「──踏み鳴らせ、“シラサイ”」


 シラサイから生じる振動が農地を伝播し、切り株に干渉。朽ちていくように裂けて、木片となって散らばり、地面に還元されていく。

 地表の枝葉も、地中に埋まっていた根も掘り返され、砕け、農地の新たな養分へとなっていくのだ。

 音も無く、わずか二分足らずで、切り株だらけだった農地はまっさらな状態に早戻り。魔装具としての機能を発揮したシラサイは光芒が静まり、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 シラサイを納刀し、一部始終を目撃していた親方の方へ振り返る。(うつむ)いていて顔は見えないが、肩を細かに震わせていた。


「……えー、このようにですね、俺の血を垂らさないとシラサイの心髄が引き出せなくなりました。カグヤにも色々と聞きましたが、その、俺の認識違いでなければ……」

()()になっとるじゃろうがぁーーーッ!」

「ですよねぇーーーっ!?」


 日輪の国(アマテラス)でも存在が認知されている妖刀。

 親方が常日頃から危険視し、魔導剣を製作する際にも口を酸っぱくして気を付けろと言われたにもかかわらず。

 意図していなかったとはいえ、変容してしまったシラサイを抱えて。

 俺は怒り心頭な親方に追いかけ回されるのだった。

血を吸って能力を発動する妖刀と化したシラサイのお話でした。

なお二人のやり取り、農地の整地をアカツキ荘の全員が目撃していましたが“またクロトか”とスルーしています。心がつえぇ奴らです。


次回、情状酌量の余地があると訴えるクロト、そしてレムリア整備二日目の報告書提出のお話。

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